表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮想姫  作者: イサキ
プロローグ
2/13

『人を殺しちゃいけないよ』



 それがなぜなのか、考えたことがあるだろうか?



『犯罪者になってしまう』



 どんな答えになったとしても、行きつく先にはその現実が待っているだろう。

 しかし、もしそうだとしたら『大切な人を守るために殺す』のはどのような判断を下されてしまうのだろうか?



 正義か・・・・・・犯罪か・・・・・・



 仮に犯罪だとしたなら、バトルものの主人公たちは全員が犯罪者にされてしまうのではないか?

 だって、人を殺すのは犯罪で彼らは悪を正すためにたくさんの人を殺している。

 そう言ってしまえば、戦争なんて犯罪の塊だ。



『しかし、もしも戦わなかったら?』



『相手を殺さなかったらどうなってしまうのか?』



 もちろん、自分が殺されて終わりだ。

 なら、犯罪者にならないために素直に殺されますか?

 誰だってそんなのは嫌だろう。



『だいたい、誰が何の権限でそんなことを決めたのか?』



 きっと昔の人が考えて・・・・・・

 議論をすれば途方もない時間をかけることになるだろう事柄。それこそが【国民を縛るための教本】と化している決められた現実というものである。

 【殺す】と言うことにテーマを絞ったが、他を上げればきりがない。


 ・・・・・・穴だらけの世界


 そんな世界をしっかりと見せつけてくれるのがこの【都心】と呼ばれる町だと少年、夢乃深夜ゆめの しんやはそう思っていた。

 すれ違う人たちの笑顔がどこか嘘くさい。

 そう感じているのは、自分だけなのだと知ったのは、深夜が中学に入った頃だった。

 周りのみんなと少し考えが違う。

 そんな些細なことがきっかけであとは自然と理解していった。


 みんなはまだ、希望を描けている・・・・・・


 自分にはない感情に憧れではなく、呆れを覚えたのは今でも言えない深夜だけの秘密。別に彼らをバカにするつもりはない。

 もし、バカにしていたとしたならば目の前でこの言葉を彼らに伝えていたはずだ。

 深夜がそれをしなかったのは、彼にとって【その時間】が悪いものではなかった。中学時代の友たちとまた会ってあんな時間を過ごしたい。

 そう心から思っているからだ。

 そうでもなければ、この世の全員を敵回すことを恐れない人間だと理解している本人がそんな【クズのたまり場】を破壊せずに放置して置くなど考えられない。

 進む足が急に止まったのは、目の前の信号が赤に変わったからというわけではなく、せっかく青信号だというのに交差点に緊急車両が近づいていたからだった。

 当然のように、うるさいサイレンが近づいて来たかと思えば、遠くへと離れていく。

 それに呼応するかのように信号が青から赤へと変わった。

 あまりのタイミングの良さに思わず茶髪で覆われた頭をかきむしりそうになってやめる。

 怒りを覚えるより先に呆れの感情を抱く方がいいことを深夜は知っていた。

 なんだか、ミラクルと言う名の必然に弄ばれているようで面白い。そう考えれば、怒りなんて起こらない。少し前に学んだこの考え方にどれだけ救われたことか・・・・

 1度、この世界の人々が信仰している法律と警察様へお世話になりかけたことがあった。

 あれは、さすがにやばかった・・・・・・と自分でも思うくらいなのだから相当だったのだろう。あれ以来、大きな事件を起こしていないことがこの言葉の成果だと信じている。

 とは言えだ。深夜自身、全くイラつきがなくなったかと問われれば「そうです」とはっきり言える状態になっているはずもなく。


「今日は、もう帰ろうかな・・・・・・」


 なんて冗談を口にして


「ダメに決まってるでしょ!」


 と背後からポカッと頭を叩かれる。

 ここまでが登校時の彼の【いつも】だった。


「朝倉、いつからそこにいた?」


「朝倉じゃなくて唯でしょ」


 深夜の頭を軽く叩き、肩まである黒い髪を風になびかせる無駄美人は朝倉唯あさくら ゆい。小学校卒業までずっと隣の家だった、都心に住んでいたころの幼馴染。とある事情で深夜が都心を離れたため、今では会うことも少なくなったが登校日には必ず駅まで迎えに来てくれる元気だけが取り柄の女の子だ。



 そう元気だけが・・・・・・


「唯、いつからそこにいた?」


「深夜が駅に着いた時からずっといたよ」


 朝からテンションの高い幼馴染に対し、深夜の元気はどんどんなくなっていく。正確には、ごまかしていた体が真実を受け入れていくと言う方が正しいだろう。

 深夜は朝が弱い・・・・・・と聞けば察しのいい人は分かってくれると思う。

 元気じゃない人間のごまかしは本物に負ける。よりによって、諸事情で昨晩は遅くまで作業をしていたことがさらに体にダメージを与えている気がする。

 期待していないと思うがエロイことではない。

 諸事情だ。


「唯、悪いけどさ。少しテンション下げてくれないか?」


 頭に響くと言いかけたところで唯の右手が深夜の背中に達する。

 それはもう大きな音を立てて・・・・・・


「もう、朝から元気ないな。ほら元気が出るように気合入れてあげる!」


「・・・・・・おまえ」


 気合が入ると言うより止めを刺されたという方が正しいだろう。

 きれいな音が周囲に響く。


「元気出た?」


「・・・・・・あい」


 相変わらず指示を変えない信号を前に幸せそうに見える2人の学生の姿。周囲には『朝からイチャつく学生カップルがいる。死ねばいいのに・・・・・・』とか『リア充め・・・爆発しろ・・・』とか考えている人間は・・・・・・どうやらいないみたいだ。



 当たり前か・・・・・



 今の世界に限ってそんな感情を抱く人間なんて1人もいないはずだ。なんせ、もうこの世界に恋の傷なんてものは存在しない。深夜が小学生の頃にあんなによく聞いていた【リア充】と言う言葉が今では誰の口からも聞くことがない。



『人間と言う生物の考えを変えた罪は大きい。それを背負う覚悟が無ければいけない』



 もう少し早く知りたかったその言葉が強く胸に突き刺さる。


「あ、信号変わったよ!」


 いつの間にか青に変わっていた信号を視界にとらえ、前に進もうと踏みだした深夜の足が躊躇を覚えたのは彼がそんなことを考えていたせいで、あほらしいと割り切れたのはそんなことをいつも考えているせいだった。

 いつもは言い過ぎかもしれない。

 正確には、【世界が変わった】と感じるたびに・・・・・と過程できれば簡単なのだが、そうしてしまうといつもにということになってしまう。

 でも、それだと『言い過ぎ』と言う発言に対し矛盾になってしまうわけで・・・・・・

 とにかく、彼にとって『町・世界・人間、どれをとっても変化に対する罪は大きい』とそう感じているわけで、そう思っていないときっとこの世界にいる理由を無くしてしまう・・・・・・とそう本気で考えているのは隠せない事実だった。


「また、考え事しているね」


「わかるか?」


「わかるよ。しんくんは、すぐ顔に出るからね」


 口元に手を当ててバカにするような笑顔を見せる唯とそれに対してため息を吐く深夜。

 彼は知っていた。この笑顔を見せる時の唯はたいてい外れたことを予想していて、それがろくでもないことだということを・・・・・・


「恋だね!」


「違う」


 そうなると、長くなることを彼は知っていた。

 即答して足を速める深夜。

 それを予想していたかのように唯は彼の腕を掴んで対応する。



「ちょ・・・待ってよ~」


「待たない」


「恋でしょ? 恋なんでしょ!」


「違う!」


「隠さなくたっていいのに・・・・・・」


「なんで唯に隠す必要があるんだよ」


「恋をしてしまった。幼馴染のあいつに相談するべきか? でも、あいつは俺のことが好きだって・・・そんなやつに相談なんて・・・・みたいな?」


「おまえ、それ本気で言ってんのか?」


「本気だよ? わたし、しんくんのこと好きだし」


「お前の気持ちなど知らん」


 固いコンクリートの地面と高層ビルが立ち並ぶこの大都会。そこに吹くビル風と幼馴染のいらないおせっかいが見事な調和を見せて・・・・本当にうざい。


 おせっかいもやり過ぎると迷惑になるとはまさにこのことだ。


「唯、お前いい加減に・・・・・・」


「恥ずかしがらなくたっていいし、私のことを心配してくれなくたっていい。私はしんくんが幸せになってくれたらそれだけでいいの」


 ここまで進んだ距離、駅からおよそ数百メートル・・・・・


 本当かと目を疑いたくなるが、現実とはやはりそう言うものらしい。


「現実と言うのは不条理で、対外が理不尽なものさ・・・・・・」


 口にした名言が信じたくない事を認めるように促してくれる。

 唯の様子と時計を確認して、今日が始まって5回目のため息をつく。


 これは、遅刻確定だな・・・・・・


 腕を掴まれなければ達成していた【遅刻をしない】と言う現実はこんなにも簡単に砕け散るとは思ってもいなかった・・・・と言う考えの甘さに深夜は酷く後悔していた。

 早起きは三文の徳とは嘘だったらしい。




 その日、久しぶりに学校に登校した深夜は、せっかくの早起きを無駄にして・・・

 いつも通り遅刻した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ