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この世界に希望なんて言葉は存在しない。
小学校を卒業して初めて知ったのはそんな現実で、それを実感させられる【都心】と呼ばれるこの町が少年は大嫌いだった。
イメージを【希望の町】と掲げるこの町のどこに希望があるのか・・・・?
駅を背に見上げた空の狭さは、人間が生きるための知識を詰めこんで製造したビルのせい。
行き来する人の波からは希望なんて言葉は見えず、焦りの色だけ感じる。
地面に転がる数人に希望の色など見えるわけもなく。
政府が用意した国民の意見スペースは制限付きで機能していないも同然。
挙句は、きれい事だけを詰め込んだ選挙活動カーがうるさい騒音をまき散らす。
少年の前にある真実は、希望など1つも映すことはなく。現実と言う名の非条理さだけを映像として流し続けていた。
「現実と言うのは不条理で、対外が理不尽なものさ・・・・・」
どこかの爺さんに教わったその言葉を口にしても、都心への気持ちに変化はない。
ただ、そうでもしないと目的地にたどり着けないまませっかくの早起きを無駄にしてしまうことになるため心に折り合いをつけただけだ。
「・・・・・行くか」
ため息交じりの声と一緒に取り出したのはポケットに入れておいた少年専用の眼鏡。
見た目は普通だが、これは少年が都心を歩くには必須アイテム。本当は、仕事以外でこれをつけるのは嫌でいつもは外出時にコイツを持ち出すことはないのだが、今日は仕方なく忍ばせていた。
「・・・・・ん?」
少年が都心へ踏み出そうと眼鏡を目元へ運ぼうとした時だった。
急ぐ人々の間に余裕を持った足取りで進む者達がいた。
同じ制服であるところから、彼らは少年の通う学校の生徒であろう。確かに、ホームルームまでは時間があるため、急ぐ意味はない。
しかし、少年の目には彼らの姿が止まっていた。
少年の視線の先、そこには1人で楽しそうに会話をする学生カップルが数組。そして、彼らを避けながら進んでいく他の学生たちの姿があった。
何もないところ・・・・・誰もいないところで不自然な動きをしている人の群れ。
少し前なら、この光景を誰もが不信に思っただろう。
しかし、今ではそれが世界共通の常識になってしまっている。
ある人物の開発結果によって世界をそれほどまでに変えてしまった。
ため息と共にもう1度、眼鏡を目元まで運んでいく。
今度は、それを止めるものは何もなく、すんなりと定位置へと運ぶことができた。
『認証開始します』
眼鏡から聞こえてくるデジタルの音声。
それと共に虹彩認証で適正ユーザであることの確認が行われる。
『認証完了。ユーザ・・・・・・仮想開始します』
認証が終了したのとほぼ同時に目の前にあった町は色を変えるように変化した。
眼鏡によって足りていなかった情報が付け加えられる。
なにもなかったところに植物たちが・・・・・・
独り言を話していた人々の脇には本物と見間違えるほどの『人間』が・・・・・・
少年の目に映っていた現実が偽りの姿で現れる。
「また、そうやって人は傷から逃げていく・・・・」
結局、踏み出した一歩は、3度目のため息がきっかけとなってしまった。
早く今日が終わりますように・・・・・
願いをこめて進む道は、やっぱりどこか偽物で、それが少年にはどうしても好きになれないものだった。
仮想世界の実装を初めて行った町、【都心】。
そこは、人々の憧れで
楽園と呼ばれる町で
過去に少年が憧れて
少年が嫌いになった町