第5話 水の街のフリークエスト
私はお酒に強い方ではないので、普段は飲みません。(どうでもいい)
裏組織『アガレス・グラフ』との対談が終わった翌日。
結局、宴がお開きとなったのは夜も遅い時間で、オレは自身のステータスに“酩酊”という状態異常を抱えることになった。
……いや、冗談ではなく。
酒類のアルコール度数や個人の“強さ”にもよるが、オレの場合はあの場にいた面子より多少強いという程度と思われる。
“酩酊”の効果は、「効果時間中のステータスアップ、かつ、魔法やスキルの失敗確率アップ」となっていた。なるほど、酒に酔うことで得られる、ある種の高揚感を上手く表現した効果だと言える。
この“酩酊”という状態異常は、最初は末尾に“(弱)”と記載されていた。これが、酒を飲み進めるうちに“(弱)”が外れ“酩酊”となったことから、その内“酩酊(強)”とでもなるのだろう。そして、強くなるほどバフの上昇率や失敗率が上がると予想できる。
元の世界では酒の酩酊感を【治癒魔法】の《治療》で解消できたので、ここでも同じように解消することが可能だろう。
まあ、その酩酊状態も、一晩寝たお蔭ですっきり解消しているので、その魔法の出番はないのだが。
ともあれ、今日の予定としては15時に魔法使いギルドに向かうこと以外は特に決まっていない。
街の散策の続きをするもよし、水の街のFクエストを探して受けて回るもよしだ。
ただし、時間の都合上、昨日受けた選択の森の大型モンスター討伐に出るのは無理そうだ。あれはもう少し情報収集と、対象のモンスターを狩るための準備が必要だからな。
(じゃ、街の散策をしながら見つけたFクエストを受けて回ろうか)
確かに、どうせ街中を歩き回るなら、適当にFクエストを受けてもよいだろう。割に合わないクエストであれば、受けなければよいだけだしな。
そういうわけで、オレは宿を後にして街を歩く。
街中に川が流れているとはいえ、川に阻まれて行けない場所があるかというと、そうでもない。昨日はゴンドラを使ったが、今日はゴンドラを使わず歩いて街を巡るつもりだ。
ゴンドラから見える景色と異なり、徒歩では人と人の繋がりや賑やかな雰囲気を楽しむことができた。
母親に買ってもらった果実を受け取ってはしゃぐ子どもや、道端で世間話に花を咲かせる主婦風の女性、客引きの掛け声で呼び込みを続ける商店主など。彼らのこの街での生活の一端が垣間見えて、オレはわけもなく安堵を覚えていた。
そんな街人の中には、時折頭上に「!」マークを浮かべた人がいる。彼らは何かしらの困り事を抱えた、所謂クエストNPCだ。プレイヤーは彼らに話し掛けることでクエストを受けられ、また依頼内容を実行、報告することで報酬を得ることができる。
街を散策する傍らにクエストを受けて回っていると、いつのまにか昼を過ぎていた。
その間に受けたクエストは2つだ。
一つは、『羽飾りを作りたい』という船大工から受けたクエスト。これは、羽飾りに使用する『草原鷹の羽根』というアイテムを10本納品するという内容だ。『草原鷹の羽根』は風の街のSクエストのボスであったステップホークというモンスターのドロップアイテムである。ステップホークはこの水の街周辺にも生息しており、昨日も街に来る途中で出くわしたため討伐していた。
もう一つは、『害獣駆除のお手伝い』という行商人から受けたクエスト。その名の通り、水の街の周辺に生息するモンスターを20体討伐するだけの内容だ。ただし、討伐対象のモンスターが指定されているため、なんでも倒せばよいというわけではない。害獣というだけあって、獣系モンスターを倒せばよいだけだが。
インベントリを確認すると、『草原鷹の羽根』は元々持っていたものと合わせて5本あった。残り5本の『草原鷹の羽根』を集めるためと、指定されたモンスターを討伐するため、昼飯を食べたら街の西からストラウト平原に出て戦闘するつもりだ。
昼飯は街の住人が出している屋台を利用した。立ち寄ったのは串に刺して焼いた魚を提供する屋台だったが、新鮮な川魚を塩だけで味付けしたと思われるのに妙にうまい。風の街でよく利用した肉串を出す店と双璧を成すうまさだ。今後も遠慮なく利用させてもらうことにしよう。
水の街を出てすぐのストラウト平原にやってきた。
狩りを始める前に、現在のオレのステータスを確認しよう。
■ステータス
体力:3200(100↑)
魔力:8700
攻撃力:2300(100↑)
防御力:1900(100↑)
移動力:2400(200↑)
演算力:8000
抵抗力:5500
■アビリティ
【体力】:32(1↑)
【魔力】:87
【筋力】:23(1↑)
【強靭】:19(1↑)
【敏捷】:24(2↑)
【知力】:80
【精神】:55
【無属性魔法】:61
【火魔法】:72
【水魔法】:74
【風魔法】:75
【土魔法】:71
【光魔法】:73
【闇魔法】:63
【雷魔法】:62
【音魔法】:60
【重力魔法】:65
【付与魔法】:58
【身体魔法】:54
【創成魔法】:67
【精神魔法】:69
【空間魔法】:70
【合成魔法】:56
【自然魔法】:61
【治癒魔法】:59
【呪霊魔法】:47
【剣】:15(2↑)
【杖】:45
【服】:25(1↑)
【軽鎧】:29
【耐毒】:15(1↑)
【耐気絶】:2(New)
【耐沈黙】:41
【火耐性】:45
【水耐性】:51
【風耐性】:49
【土耐性】:44
【光耐性】:53
【闇耐性】:52
【雷耐性】:42
【音耐性】:39
【言語解読】
【魔力感知】:60
【気配感知】:18(1↑)
【隠形】:5(3↑)
【見切り】:4(2↑)
【鑑定】:19(1↑)
【収納】:18(1↑)
新しく【耐気絶】というアビリティが増えている。おそらく、昨日の酒に酔った所為で出現したのだろう。しかし、このアビリティの熟練度を上げ続けると、酒に酔えなくなるのだろうか。
魔法系アビリティに比べて貧弱だった他アビリティの熟練度も、ようやく見れるレベルになってきた。その魔法系アビリティの熟練度は、一向に上がる気配が見えないが。いったいあとどれだけの敵を葬れば、熟練度が上昇するのやら。
あとは、【剣】アビリティの熟練度が15になったことによって、新しいスキルが一つ使えるようになっている。それもこの後の戦闘で試してみようと思う。
獲物を探してストラウト平原を歩く。15時には魔法使いギルドに行く必要があるため、それほど時間はかけられない。
早速、オレの前にモンスターが出現した。
「シャー」
舌をチョロチョロと伸ばしたり引っ込めたりを繰り返す蛇型モンスター、ポイズンスネークである。その名が現すように、このモンスターは牙に仕込まれた毒腺から毒液を分泌し、噛んだ相手を弱らせて仕留める性質をもつ。
近接戦闘をするのならば、蛇特有のすばしっこい動きに注意しながら戦う必要があるためかなりやり辛い相手だが、魔法使いであるオレにかかればどうということのないモンスターだ。
魔杖・夜雀に入力しておいた魔法式を思い浮かべながら魔力を注ぎ、充填が終わると同時に近付くポイズンスネークを対象に魔法を解き放つ。
「《百創剣》」
ポイズンスネークに目掛けて、中空に出現した百本の剣が飛来する。降り注ぐ剣の雨を縫うように避けるポイズンスネークだったが、百の剣の全てを避けきることはできず、一本の剣がその身体に突き刺さると同時に動きを止め、続く剣の雨によりダメージを蓄積し、最後には断末魔を上げることなく消滅していった。
《百創剣》はオレの魔力を【創成魔法】により剣の形に具現化して降らせる魔法だ。剣の形は至ってシンプルな両刃の剣であるが、数が多いため防御は困難である。
降り注ぎ地面に突き立った剣は時間経過で消滅し、その剣先が鋭利であった痕跡を残す。使い方によっては範囲魔法にもなるこの魔法を、指定した対象を追尾するように発現させたのだ。
(また、えげつない魔法を使ったね)
なに、高々百本程度だろう。これの上位魔法なら、百と言わず千でも万でも武器を降らせられるぞ。剣だけでなく、槍や斧、あるいは鉄球などでもな。
【創成魔法】は創造物を事細かに魔法式で記述する必要があるため無駄に長文となりやすい。この魔法も初級魔法であるが、その項数は60を超える。今言った上級魔法であれば、およそ1000項は下らないだろう。
次に出てきたのは、先日も倒したホーンラビット。鋭い角を持ち、ぴょんぴょん飛び跳ねながら突進してくるウサギである。可愛らしい外見とは裏腹に、毎年何人もの旅人がこいつに怪我を負わされている。
意外と素早い動きをするので、【無属性魔法】の《魔力拘束》で拘束し、【剣】アビリティの新スキルを試し撃ちさせてもらった。
「〈参の型・袈裟斬り〉」
剣を右上段に構えてから左下に向けて振り下ろす攻撃は、見事にホーンラビットの身体にクリーンヒットした。
きゅう、と小さい声をあげて光の粒子となって消えていくウサギを見送りながらオレは考える。自分と比べて小さな相手はやはり剣が当て難い。今後は無理にスキルを使おうとせず、最善の手段で敵を倒そう。
今の2体を倒したことで周囲にいるモンスターはいなくなった。これ幸いと、オレはクエスト情報を確認する。
<Fクエスト:水の街周辺の害獣を討伐せよ(2/20)>
進捗が(2/20)になっているということは、先程のポイズンスネークとホーンラビットの討伐がカウントされたということだろう。
なら、このままこの平原で狩りを続ければクエストクリアできそうだな。
そうして暫くの間、オレは周辺のモンスターを狩る機械と化した。
14時半を過ぎる頃、オレは街に戻ってきた。
集めた10本の『草原鷹の羽根』を船大工に渡し、報酬として4000ユルドを受け取る。聞けば、この羽根で作られる羽飾りとはゴンドラの舳先に付けられるものだそうだ。
害獣駆除の方も、依頼主の行商人に報告済みである。報酬は8000ユルド。このクエストは今のように他のクエストと内容が重複しないので兼任できる。そう考えると効率の良いクエストだ。
魔法使いギルドに向かうため、またもやゴンドラを利用する。昨日のゴンドリエーレとはまた別の人物であるが、気さくな印象は変わらず親しげに話しかけてきたため、退屈はしなかった。そのゴンドリエーレに、「若いのに立派だねえ」と言われたときは答えに窮してしまったが。
だってそうだろう。確かに魔法使いは人々の依頼を受けることが仕事だが、オレはまだ、この街の人々の役に立つようなことはほとんどしていない。十分な報酬だって貰っているのだから、「立派だ」と言われる筋合いはないのだ。
(素直じゃないな、ディアは)
どういうことだ。
(彼らは何も、ディアが街の役に立っているから立派だなんて思っていない。若者が街の役に立とうと魔法使いをしていることに対し立派だと言っているんだ)
そうなんだろうか。
(そうさ。だから気にせず素直に、当たり前のように、どういたしまして、って答えればいい。日本人的な感覚で言うなら、それほどでも、って謙遜するところだろうけどね)
茶化すような浩輝の口調に、オレは思わず顔が綻んだ。幸いゴンドリエーレは前を向いていて見えてはいなかっただろうが、見えていたとしたら一人で笑う不審な奴とでも思ったかもしれない。
そうしているうちに、ゴンドラは魔法使いギルドのある区画に着く。ゴンドラから降りる際、普段礼を言う時よりも気持ちを込めて「ありがとう」と言ったら、ゴンドリエーレは一瞬ぽかんと呆けた後、「照れるじゃねーか」と言って笑った。
「今日はなんだか暑いなぁ」などと冗談を言いながら去っていくゴンドリエーレを見送り、オレも川岸の桟橋から上がる。
思いのほか心地よい気分を味わいながら、オレは魔法使いギルドへと赴くのだった。
読んでいただきありがとうございます。
評価、ブクマ等頂けると励みになります!
申し訳ないですが、また話のストックがなくなってきたので次回の更新は未定です。
年内には再開します!




