第7話 ウィゼットの手紙
おっとり系巨乳お姉さん(NPC)と秘密の会談
※10/08追記
前話の前書きで隔週と言いつつ、1週間後の昨日(10/07)に第7話を予約投稿していたことに今日、気付きました。今から消すのも微妙なのでこのままにします。連載再開記念ということで。
水の街へと向かう途中の検問所で、オレは魔法使いギルドのギルドマスター、ウィゼットからの手紙があることを告げられた。十中八九厄介事だと思われるが、無視するわけにもいかず、オレは仕方なく兵士に導かれるまま手紙を預かっているという検問所の所長の許を訪れた。
……ちなみに、サフィアにはメッセージ機能を使ってしばらく待つように連絡してある。返事がないのが若干不安だが、置いて行かれたらその時はその時だ。
検問所の奥にある所長室と思しき一つの部屋の前で兵士が立ち止まり、扉をノックした。
「失礼します。例の魔法使いを連れてきました。入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
所長というからには部屋の中で書類仕事でもしているのだろう。
部屋の中から聞こえてきたのは、鈴の音のような、美しい声だった。きっと、容姿もその声音に相応しい美人に違いない。
「失礼する」
そう言って中に入ると、想像していた通りの見目麗しい美人がそこにいた。
「ベルゼ様、ですね? わたくしはヒルダ・リーシュ・ノルティアと申します。グリンベル卿からあなたの話を聞いて、是非お会いしたいと思っておりました。お会いできて光栄です」
執務机の傍に立ち、こちらに会釈をした女性がこの声の主だ。その背には漆黒の翼が存在し、彼女が魔人族――有翼人であることを表している。有翼人は翼があること以外は人間族と変わらない。その翼で空を飛ぶことは、魔法を使わない限りは不可能だと聞いている。
彼女の髪はその翼と同じく、日本語でいうところの鴉の濡羽色だ。艶のある質感は彼女の魅力を十二分に引き出している。
スラリとした長身であるが、胸に豊かな膨らみをも兼ね備えており、失礼だとわかっていても彼女から目を離せない。
人並外れた美貌という表現がこれほど当て嵌まる人物もそうそういないだろう。有翼人であるということを脇に置いても、サフィアとはまた違うベクトルの完成された美しさがそこにあった。
「あら、有翼人を見るのは初めてでしょうか?」
オレが彼女の容姿に見惚れていると、彼女からそんな言葉をかけられる。
入室したなり黙り込んでいては彼女に失礼だと思い、オレも彼女に返答した。
「それもあるが、それよりも貴女の美貌に見惚れていた。すまない」
「まあ、うふふ。見かけによらずお上手ですのね」
入室前にも思ったが、その声音はまさに鈴の音のようだ。扉を隔てていた先程と違い、直に聞くそれはオレの耳朶に心地良く響き、一種の安らぎを与えてくれる。
オレをここまで導いてくれた兵士が、用は済んだとばかりに部屋から退室していった。
それを見送るとヒルダが着席を促してきたので、勧められるままに応接用のソファに腰掛ける。
「……ウィゼットから話を聞いているということは、オレの適性のことも知っているのか?」
「ええ、存じ上げています。全属性適性者なのですよね?」
やはりか。なら、彼女からの手紙の内容にも大方想像がつく。
「ああ、そうだ。このことを知っているのは、ここでは貴女だけか?」
「ええ、もちろんです。ベルゼ様のことは、所用でグリンベル卿の許を訪れた折に、世間話としてお聞きしました」
「なるほどな。じゃあ、早速で悪いが貴女の用件を聞こうか」
ヒルダの顔が驚きに染まる。まずは手紙を、と考えていたのに、その過程を飛ばして自分の目的を告げられたからだろう。
「……グリンベル卿の手紙はよろしいのですか?」
それでも、すぐにそう尋ねてきたのは評価に値する。あるいは、まだオレを試そうとしているのかもしれないが。
「ふん。ウィゼットのことだ。その手紙には、貴女のことを手伝ってやってくれ、みたいなことが書いてあるんだろう」
「どうしてそうお思いに?」
「理由は二つある。一つは、風の街に関係のある内容なら、わざわざ手紙になどせず使者か何かで呼び出せばいいからだ」
出向いてくれた使者をむざむざ帰させるほど、オレは傍若無人ではない。それに、この国における魔法使いギルドの立ち位置はかなり高いので、恩を売っておけばいずれ何かの助けになるだろう。つまり、魔法使いギルドからの、それもギルドマスター直々の依頼を断る理由はオレにはない。
「なるほど。もう一つの理由は?」
「それは、貴女が一番わかっているんじゃないか? この検問所には、魔法使いが少ない。いや、あるいは一人もいないようにさえ思える。無論、貴女を含めてだ」
魔力を持たない人間は居ずとも、魔法を使えない人間はたくさんいる。知識として魔法式のことを知らなければ、使いようもないからな。あとは、高価な魔道具(ここでは杖や本など)を手に入れられないため、といった理由もあるか。
オレがこの検問所に魔法使いがいないということに気付いたのは、【魔力感知】アビリティのお蔭だ。魔法使い特有の大きな魔力反応を、この検問所の人間からは感じなかった。それはつまり、魔法使いがいないということを意味している。
「……流石はグリンベル卿が見込まれただけありますね。仰る通り、この検問所には魔法使いがいません」
「そんなことで警備は大丈夫なのか?」
「皆、多少の魔力は持っているので警備は問題ないのです。ただ、魔法式を扱う必要のあるものや、魔力を多量に要求する魔道具などには手が出せないのが現状です」
魔法使いが魔法使い足り得るのは、魔法式を扱う術を心得ているからだ。だが、魔法式を使えずとも、完成された魔道具なら扱えるという人は珍しくない。魔力を魔道具に注ぐことができればいいだけなのだから、魔法使いと比較してその敷居はかなり低めだ。
(携帯電話を使うことはできても作ることはできない、みたいなことなのかな?)
そうだな、概ねそのような理解で良いだろう。
「少し前までは専任の魔法使いの方が詰めていてくださったのですが、病に倒れ、未だ復帰の目処が立っておりません。わたくしたちも困り果てていたところで、グリンベル卿からベルゼ様のことを聞かされたのです」
「ウィゼットはなんと?」
「曰く、未だ他に類を見ない全属性適性者。桁外れの魔力と魔法に対する深い知識を持ち、若人ながら無謀さがなく、慎重かつ大胆な行動力を備える者」
「おいおい、それは買い被り過ぎだろう」
前半はまだいいが、後半はなぜあの邂逅でそんな評価になるのか理解できない。
それでも、なんとなく信頼はされているのだろうと思われる。
「そんなことはありません。先の問答で、わたくしも正当な評価だと感じました」
「周りの評価などどうでもいい。オレは、オレのやりたいことをやるだけだ。オレの願いは、オレ自身しか叶えられないのだからな」
オレの願いは、この世界をオレ自身が堪能すること。他人からの評価如きでオレの今後の行動を縛ることなどさせはしない。
「さて、問答はもういいだろう。ウィゼットからの手紙を寄越せ。一応確認する」
ヒルダが差し出した手紙をその場で開いて内容を確認。予想通り、主な用件はヒルダの手伝いをしてくれという内容だった。
そしてまるでついでのように、水の街の魔法使いギルドに行ったらギルドマスターに会ってくれということも書いてある。
どうせ水の街でもクエストを探す予定なのだ。紹介状も添付されていることだし、ギルドマスターに会うくらいは構わないだろう。
それよりも今は、前半部分の用件について話をしないとな。
「やはり、貴女の手伝いをしなければならないようだ。差し支えなければ、依頼内容を聞こう」
「えっと、今お尋ねすることではないのかもしれませんが……、わたくしの依頼を断ろうとは、思われないのでしょうか?」
ヒルダはまるで恐縮しきった役人のように腰が低い。検問所の所長に任命されるくらいだからかなり優秀なはずなのだが。
「困っていることがあるんだろう? なら、躊躇う必要はない。オレの魔法使いとしての矜持を賭けて、解決してみせよう」
「……わかりました。では、依頼内容をお話しましょう」
ヒルダの話を要約すると、この検問所の左右に伸びる柵の魔力が切れかかっているとのことだ。あの柵は内部に魔力を溜め込む性質を持つ魔結晶があるお蔭で【空間魔法】の《境界》を維持していられるのだが、その魔結晶に蓄えられた魔力が少なくなっているために検問所としての役割を全うできなくなる恐れがあるらしい。
これを解決するためには、その魔結晶に魔力を補充するか、代替手段として魔力を必要としないか、あるいは、少ない魔力で検問を運用可能な方策を打ち出す必要がある。
「仮に魔力を最大まで補充したとして、どの程度魔法を維持できるんだ?」
「おおよそ二月ほどです。前回の魔力補充が6、7週間前なので、あと1、2週間もすれば魔道具に蓄えられた魔力が底を尽きるはずです」
なるほど、前回の魔力補充の後にここの専任魔法使いは倒れたのか。魔力を補充する前に倒れられていたら、今頃ここの検問は開いていなかったのかもな。運が良かったのか、悪かったのか。
「病に倒れた魔法使いの、代理は見つからないのか?」
探していないということはまずありえないが、念のため確認する。
「ええ。ここのような辺境まで来て下さる魔法使いの方は滅多に見つかるものではないので」
「それもそうか」
そう言って頷き、考え込むように腕を組んで所長室の天井を仰ぎ見た。
状況を整理すると、以下の2つの要件を満たすことができれば、この問題は解決可能だ。
①柵の魔力を補充するために使用する道具や方法が、魔法使いでなくとも使用可能であること。
②その道具や方法を、長期的に継続して使用可能であること。
極端な話、使用済の魔結晶を全て魔力補充済みの魔結晶と総取り替えすればよいということである。取り替えの手間と、魔力補充済みの魔結晶を購入するだけのコストはかかるが、①②の両方の条件を満たしているため、可能か不可能かだけで言えば可能だ。
だがそんな手段を提示されたとして、ヒルダやここの兵士たちが頷くはずがない。その魔結晶は誰が用意、購入するのか? 魔道具の中にある魔結晶の取り替えは誰がやるのか? など、数多の問題を孕む方法であるからな。
コストのことはヒルダから何も明言されていないが、少なければ少ないほど良いはずだ。この検問所の機能を優先するあまり、自分たちの給与を減らされてはたまらないのだから。
ここまで考えたところで、オレは最後にもう一つ、ヒルダに質問することにした。もしこの質問の答えが予想通りであれば、今頭に浮かんでいる構想が現実味を帯びるはずだ。
「魔力の補充方法について教えてくれ。柵の魔力補充は、一つ一つに対して行うのか?」
「……いいえ、それでは何百と存在する柵の全てに一々魔力を補充しなければなりませんから、非常に手間とコストがかかります。なので、全ての柵は魔力の貯蓄器のようなものに繋がっており、その貯蓄器から魔力を取り出すことでその機能を発現する仕組みになっています」
(電池と導線で繋がった豆電球、みたいな感じかな)
まあ、大凡そんなイメージで問題ない。
つまり、「電池の残量が少ないため、豆電球が光らなくなりそうだが、電池に電力を補充できる人材がいない。どうにかならないか」ということだな。
「ふむ。それならば、やりようはあるだろう」
「それは、どんな……?」
「なに、簡単なことだ。魔法使いが一人で魔力を補充しようとするから無理が出るのだ。他の魔法使いにも協力を仰げば良いではないか」
「いえ、ですから、ここに専任として来て下さるような魔法使いの方は見つからないと……」
一人が無理なら二人で、二人でも無理ならもっとたくさんの魔法使いが協力すればよい。彼女がその方法に思い至るには、あとほんの少しだけ柔軟な思考が必要だ。
「だが、専任でなくとも、魔法使いならばほとんど毎日、ここを訪れるだろう?」
「……あ!」
専任としてではなく、この検問所を訪れる魔法使い。それはすなわち、オレたちプレイヤーのことだ。
今検問で行っていることは、通行可否の審査と通行税の支払いだ。これに加えて、貯蓄器への魔力補充を義務付ければ、この問題は解決するだろう。
日中にどれだけのプレイヤーがここを訪れるかは知らないが、ゼロということはあるまい。仮にゼロだとして、それまでに蓄えた魔力があれば数日は保つはずなので、問題はない。
「なるほど、それは盲点でした。流石の慧眼ですね、お見逸れ致しました」
「だが、その方法はまた少なくない問題を孕む。よく考え、最善の方策を検討するべきだろう」
「承知しました」
ヒルダが頷き、頭を下げる。
それを見て、オレはやっとここから出られるな、と思うのだった。
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