第6話 街道の検問所
大変長らくお待たせ致しました。
ちまちまと執筆を続け、気付けば1年が経とうとしている今日この頃、まずは隔週で更新を再開致します。
~簡単なあらすじ~
銀髪美少女のサフィアと共に次の街へ向かうことになった。
風の街を出る際に思いがけず出会ったサフィアと共に、水の街へと歩みを進めていく。
道中に出会うモンスターは、いつの間にか近い方が片付けるという暗黙の了解となっていた。
「《水の矢》」
サフィア側に出現したワイルドドッグが、彼女の放った魔法により瞬殺される。オレも人のことは言えないが、なかなかに威力が高い。きっと、【水魔法】や【知力】の熟練度が高いのだろう。
「見事だな」
「どうも。でも、あんなの雑魚よ。始めの頃はそれなりだったけれど、今となっては経験値の足しにもならないわ」
その手際を褒めたりもするが、返答は終始この調子だ。
楽しい会話などを期待している訳ではないが、それでも会話を続けたいとは思っている。けれどこの調子で返されると、オレはどう返答すればよいのだろう。
いや、こちらが出す話題に面白みがないというのもあるのかもしれないな。彼女だけを悪者にするのは良くないだろう。
「そういえば、オレと決闘した時も【水魔法】を使っていたな。得意な魔法は【水魔法】なのか?」
「それに答える義務が、私にあるのかしら?」
オレの何気ない問いかけに、彼女は苛立ち紛れにそう返す。
真意を確認するため、さらに問を重ねる。
「というと?」
「あなたと私は、今はこうして道を同じくしているけれど、それは単に目的が同じだからと言うだけ。次の街に着いたら、それぞれの目的を果たすために別れることになる。場合によっては、敵同士になるかもしれない。そんな相手に、私は軽々しく手の内を晒したくないわ」
「ふむ、なるほど。それは配慮が足りていなかった。すまん」
敵になるかどうかはさておくとしても、軽々しく手の内を明かすのは確かに危険だ。オレも人のことは言えず、晒したくない情報はそれこそ両手の指の数では足りないほどだ。
「……わかってくれたのなら、それでいいわ。あまり、他人のアビリティについては詮索しないことね」
「そうだな。今度からは気を付ける。ありがとう」
オレがそう返すと、不意に彼女の足が止まった。隣を歩くオレも、合わせて立ち止まる。
彼女が何故立ち止まったのかはわからないが、何かを言おうとしていることはなんとなく雰囲気から察せられた。
だが結局、彼女の口から出てきた言葉は。
「そう、それがいいわ」
という短い言葉だけだった。
それだけを口にして、サフィアはまた歩き出す。何を言いかけたのか気になる所ではあるが、今はそこに踏み込める空気ではない。
今はお互いを理解し合う段階だ、と自分に言い聞かせながら、オレは彼女の後を追うのだった。
風の街から伸びる街道を東に進むと、木製の柵を左右に伸ばした検問所らしき家屋が見えてきた。
そこに近付いていくと、数人のプレイヤーが検問所を通るために順番待ちをしているのが見える。
「あれが検問ね。でも、ここを通る度に毎回あれに並ばないといけないの?」
サフィアが順番待ちの様子を見てうんざりした声を出した。
「それはそうだろう。でなければ、検問の意味がないからな」
「そもそも、なんのための検問なのかしら」
「さてな。案外、オレたちのようなプレイヤーを無闇に野に放り出さないためのものかもな」
「なるほどね」
オレはそう言いつつ、これが正解だろうとも考えていた。
突然現れたプレイヤーたちは、オレを除けばそのほぼ全員が魔法使いの能力に成熟していないヒヨッコだ。
この先の水の街周辺には、風の街周辺よりも強いモンスターが出現する。未熟な魔法使いであるプレイヤーたちをみすみす殺させないためには、こうして検問を設置し、水の街周辺のモンスターを狩るに足る能力があるかを検分する必要があるのだ。
サフィアと共に行儀よく最後列に並ぶ。
オレたちの前にいたプレイヤーの一人が不意に振り返り、サフィアを目にした途端に慌てて前を向く様子が面白い。
彼女は口を開かない限りは、深窓の令嬢のようにお淑やかで、その上可憐だ。
「今、何か失礼なこと考えなかった?」
「いや、何も?」
こんな美少女の隣にオレがいて良いのかと思ったりするが、この役得感は風の街出発前に思い切って彼女を同行に誘ったオレの勇気の賜物だ。
だからそんなジト目でこちらを見ないで欲しい。本当に変なことは考えてないから。
「ご、ごほん。検問を通過する際に、話を聞いてみたらどうだ? これは何のための検問なんだ、と」
「……そうね、そうしましょう」
順番待ちの列は、ゆっくりとだがほとんど停滞せずに進んでいる。
列の中には検問の通過条件を知らなかったのか、追い返されるプレイヤーもいる。……いや、彼らは通過条件を知っていてここを通ろうとしていた。オレが彼らとすれ違う際に、小声で「どさくさ紛れにとはいかないか」と聞こえてきたから、間違いない。
人がたくさんいるから、一人くらい条件を満たしていなくてもバレないかも、と考えたのだろう。浅はかなり。
「それにしても、みんな行儀よく並ぶものね。あのくらいの木の柵なら、頑張れば乗り越えられそうなものなのに」
それを聞いて、「なら自分がそうすれば良かったのでは?」と思わないでもない。だがオレは木の柵の絡繰りを知っているため、それが無駄だとわかっている。
それを説明するのは容易いが、なぜそんなことを知っているのかと聞かれると答えに詰まる。オレがサフィアにどう言ったものかと思案していると、後ろに並んだプレイヤーの一人が話しかけてきた。
「あの木の柵は、一見ちゃちなように見えて、実は魔道具らしいのですよ」
その男を一言で表すなら、優男という表現が最も適切だろう。
くすんだ黄土色の髪に、身体は鈍色のプレートアーマーに覆われている。腰には一本の長剣を携え、背中にはバックラーを背負っていた。
目を開いているのかいないのわからない糸目がオレたち二人に向いている。値踏みするような、もしくは見定めるような、油断ならない目だ。
「【空間魔法】の《障壁》に似た魔法で、空間的にこちらと向こう側を隔てているようですね」
「なるほどね、どこかのプレイヤーが実際に試したのかしら」
「ええ、そうらしいです。無理もないですね、ここを通れないなら、柵を越えればいいと、私でも考えてしまいますよ」
男の言う通り、あの木の柵は魔道具で、【空間魔法】の《境界》が使われている。《境界》は、魔道具の周囲に空間的な隔壁を形成する魔法だ。その性質から、魔法使いの杖に入力して発現させても杖から離れた場所に隔壁を展開できないので、魔道具専用の魔法と言える。もっとも、離れた位置に空間的な壁を作るなら、《障壁》で事足りるがな。
外の木の柵は、《境界》の魔法を等間隔に並べることで連続した隔壁を作っているというわけだ。
サフィアも男の話を聞いて頷いている。だが完全には油断していないようで、隣にいるオレには若干の緊張が見て取れた。
「ところで、あんたは変わった格好をしているな」
「え? ああ、確かに戦士の格好はこのゲームでは奇異に映るかもしれませんね」
オレの不躾な発言に気にした様子もなく、男はそんな風に返答した。確かに戦士の格好は珍しいが、それでもそういうプレイヤーがいることはオレも知っている。オレが言いたいことは、それではない。
「いや、そうではなく。真新しい鎧に、使いもしない剣と盾を装備しているのは、変わっているな、と思ってな」
「……」
オレの指摘に、図星を突かれた男は黙り込む。それがただのハッタリで、オレの鎌掛けとも気付かず。
だが沈黙するということは、それが肯定だと言っているようなものだ。何を企んでいるのか、確認するべきだろうか。
「どういう意味?」
サフィアが聞いてきたので、オレが気付いたことを教えてやる。
「よく見ろ、この男の鎧には傷が一つもない。前衛を担当する戦士職の鎧が傷一つないなんてことがあるか?」
「まあ、確かに」
「それに、腰の長剣は留め具がされたままだ。あれではいざという時即座に引き抜けないだろう。背の盾にしてもそうだ。ここまでの道中で使っていたのなら、今背にあるのはおかしい」
サフィアはなるほど、と頷いているが、この言い分にもよく考えれば穴はいくつか存在する。たとえば、この男が几帳面な性格なら、戦闘が発生しえない場では剣の留め具をしたり盾を背にしたりということもありえるだろう。
それを咄嗟に気付けというとも無理な話なのかもしれないが。
「ま、半分は鎌を掛けただけだったんだが……」
「え」
サフィアがぽかんとした表情でオレを見るが、それに構わず言葉を続ける。すまんな。
「あんたの目的は何だ?」
この男、今は戦士の格好をしているが、本職はまた別の筈だ。それが魔法使いかどうかまではわからないが。
糸目な目元が歪み、男の顔には笑みが浮かんでいる。動揺したのは図星を突かれた先の一瞬だけだったようで、今はもう先程のような油断ならない目に戻ってしまっていた。
「いやいや、あなたはなかなか鋭い観察眼をお持ちのようだ。なに、私はただのスカウトマンですよ。我々の組織に入って頂ける、あなたのような素晴らしいプレイヤーを探しているだけです」
諸手を挙げて降参するような大仰なリアクションをしつつ、男はあっさりと目的を告げた。
「組織というのは?」
「グループ、クラン、ギルド……まあ、呼び方は何でもいいですがね、同じような目的を持った者たちの集まりのことです。まだ発足して間もなく、システム上の支援がある訳ではないですが。……興味がおありですか?」
「いや、興味はないな。オレは、オレだけの目的のためにこの世界をプレイしているからな」
いずれオレの目的のためにそういう組織に加わるとしても、少なくとも、この男のような怪しい人物がいる組織には加わりたくないな。
「そうですか。それは残念だ。あなたなら、幹部候補として好待遇を約束できましたのに」
男は悪びれもせず、いけしゃあしゃあと宣う。
そして隣のサフィアにも視線を向ける。
「そちらのお嬢さんも、彼と同じ考えですか?」
「完全に同じ、というわけではないけれど。概ね彼に同意ね」
問われたサフィアは、当然のことのようにそう返事をした。そして、何故かオレはそれに安心を覚える。
……この怪しい男に、フレンドが引っかからなくてよかった、と無意識に考えたのかもしれない。
「おやおや、嫌われましたかね」
男はそう言ってオレにも視線を向けてくるが、そんな反応をされても困るというものだ。話は終わりだというように、オレたちは男に背を向け、自分の番が回ってくるのを待つのだった。
検問所は、二人の人物に取り仕切られていた。その二人は共に軽鎧を身に着けているので、風の街か水の街の領軍に所属する兵士なのだろう。
今いるのは二人であるが、この検問を通るプレイヤーは昼夜を問わず来訪するため、おそらくは複数人による交代制でやっているのだろうと思われる。
列の後ろから観察したところ、検問を通る際には多少の通行税を取られるようだ。それ以外にも、何やら青白い箱のようなものに手を当てるよう促されていた。
「よし、通っていいぞ。……次、どうぞ」
「はい」
サフィアを先に行かせたのだが、彼女が兵士の前に立ち所定の通行税を差し出すと、彼の表情が変わった。その可憐な容姿に見惚れる気持ちは良くわかるが、さっさと通行許可を出せと言いたい。
その微妙な間をどう勘違いしたのか、質問の機会だと捉え、サフィアが口を開く。
「この検問は、なんのための検問なの?」
「は? ああ、この検問はな、あんたたちみたいな駆け出しの魔法使いが、この先の街道でも戦う能力があるかを見るためのものなんだ。ここにある特殊な魔道具であんたたちの能力を確認し、問題がないと判断されればここを通ることができるんだ」
「ふうん? その魔道具は、どれくらい正確に対象者の能力を確認できるの?」
「さあな。対象者がここを通るに足る能力があるかは魔道具が判断しているからな。実際にどれだけの能力があればここを通れるのかは、俺たちにはわからないんだ」
「……そう」
もし自分の能力をそういう魔道具で客観的に計ることができるなら、都度確認することで自分の成長度合いも計ることができるのでは、とサフィアは考えたのだろう。
今はアビリティの成長が頭打ちになっている状況だから、何か打開策を、と考えたのかもしれない。
「すまんな、何か期待を裏切ったみたいで。……ああ、あんたは通っていいぞ。次は、そっちの兄さんか?」
通ってよしと言われたサフィアはそのまま振り返ることなく検問所を出ていった。あまり待たせると、先に水の街に行ってしまうかもしれない。オレも早く検問所を出よう、と兵士の前に来たところで、彼は何かに気付いたような声を上げた。
「ん? なあ、あんたもしかして、ベルゼって名前だったりしないか?」
「ああ、そうだが……?」
「すまないが、魔法使いギルドの登録証を見せてくれないか。一応、本人確認もしておきたい」
特に躊躇う理由もなかったので、インベントリに入れておいた登録証を取り出し彼に見せる。すぐに本人だと確認できたようで、オレはまた登録証をインベントリにしまった。
「入れ違いにならなくてよかった。あんた宛に、風の街の魔法使いギルドから手紙を預かっているんだ。ここの所長が預かっているはずだから、受け取って行ってくれ」
「なんだって?」
ウィゼットめ、オレに何か厄介事を押し付ける気じゃないだろうな。
読んでいただきありがとうございます。
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次回の更新は10/07(日)の予定です。
※10/08追記
前書きで隔週と言いつつ、1週間後の昨日(10/07)に第7話を予約投稿していたことに今日、気付きました。今から消すのも微妙なのでこのままにします。




