第4話 彼女らの冒険
5万PV突破しました。何か記念に番外編でも執筆した方が良いですかね?
北風の森を抜けた先に海が広がっていることを発見したオレとトワは、風の街に戻った後にそのことを掲示板で公開した。
崖の上から撮ったSSも公開しておいたので、信憑性は高いはずだ。それに、他のプレイヤーたちもだんだんと実力を上げている。彼らなら、やがて自らの足でもこのことを確認に向かうことだろう。
街中のカフェで暫し休憩を挟み、オレは森で手に入れた戦利品をオリヒメのところに納品しに行くことにした。トワもついてくるというので、共にカフェの席を立ち、オリヒメとキンバリーが営む“妖精の紡ぎ車”へと向かう。
「ベルゼ、あなたオリヒメさんやキンバリーさんと知り合いだったの?」
どこへ向かうのかと尋ねてきたトワに妖精の紡ぎ車だと答えると、そんな反応が返ってきた。
(彼女たちは今、他とは一線を画す優れた装備品を扱うトップ生産職として大人気らしいね)
なるほど、確かに今オレが着ている青銅猿の毛皮のコートもかなりいい出来だ。使った素材が良いというのももちろんあるが、これを作り上げた技能、センスも素晴らしいものだ。オリヒメがトップ生産職というのも頷けるな。
(苦手なのはわかるけど、キンバリーさんのことも気にしてあげて?)
あの間延びした口調を辞めるなら考えてやるさ。
それより、キンバリーにからかわれるかもしれないことのほうが心配だ。トワと一緒にいることで、変な勘ぐりをしないでくれると助かるのだが。
(そんなこと言いつつ、嬉しいくせに。ニヤニヤ)
ええい、ニヤニヤするな!
そんな心配も虚しく、店に近付いてきたオレとトワを見つけたキンバリーは、案の定変な勘ぐりを入れてきたのだった。
「あれ~? ベルゼったら~、そちらの方はどなた~? もしかして、彼女なのかしら~?」
「違う。変な勘違いをするな。トワにも迷惑だろう」
トワの女性らしい体つきとサバサバした性格は非常に好感が持てるが、ならば好きかと言われるとそうでもないと考える。
北風の森でちょっといい雰囲気になったからと言って、オレが彼女を好きだということにはならないし、彼女もまたそうだろうと考えての発言だった。
「……え、ええ。違うのよ、キンバリーさん」
心なしか間が開いたが、彼女の間延びした口調に驚いたのだろうと当たりをつける。
「ふ~ん? まあ、あなたがそれでいいなら~、そういうことに~、しておいてあげるわ~」
そう言われたトワは苦笑を表情に滲ませていたが、それ以上何かを言うことはなかった。
と、そんな微妙な空気になったタイミングで、他の客の相手をしていたオリヒメが接客を終えてやってくる。
「いらっしゃいませ、ベルゼさん。そちらの方は……、お友達ですか?」
「ああ、トワという。リアルの知り合いだ」
目敏くオレの隣りにいるトワに気付き声をかけてくるオリヒメだが、「リアルの知り合い」と言った辺りで表情が固まった。
「へ、へえ? あ、申し遅れました。私はオリヒメ、仕立て屋をしています」
しかしそれも一瞬のこと。すぐに接客用の笑顔を浮かべ、トワに向き直って挨拶した。なんだったんだ?
「トワです。よろしくお願いします。……はあ、ホントにベルゼったらお二人と知り合いなのね……」
「なんだ、疑ってたのか?」
トワが漏らした感嘆に、思わずそう聞き返す。
「本音を言えば、少し。だって現時点のトップ生産職なのよ?」
「あ、改めて人から言われると照れますね、トップ生産職なんて……。私なんて、まだまだなのに」
トワの手放しの賞賛を聞いたオリヒメが顔を赤くして謙遜する。彼女は「私なんて」と言うが、オレはそうは思わない。
「オリヒメちゃんは~、もっと自信を持っても~、いいと思うのよ~。ここにある服と防具~、ぜ~んぶ、オリヒメちゃんの作品なんだから~」
少し大袈裟なくらいに腕を広げて、キンバリーがオリヒメを褒め称える。
キンバリーの示したように、ここにある衣服、防具の類は全てオリヒメが作製したものだ。衣服に対して造詣の浅いオレでも、それらには一定の品質とセンスの良さを感じる。
他のプレイヤーが出す露天を回っても、これほどの良品にはなかなか巡り会えない。オリヒメはそれを、「リアルで勉強していることですから」と軽く言うが、その裏には生半可ではない努力があるのだろうとオレは考えている。
事実、オリヒメの作る衣服、防具はこの街で扱っているどれよりも品質が高い。十分に誇っていいものだと思う。
「それを言うなら、キンバリーさんもですよ。腕のいい鍛冶職人だって、NPCの間でも噂されているくらいなんですから」
キンバリーに褒められて照れたオリヒメは、対抗するように彼女に向かってそんなことを言い始めた。
この街の鍛冶職人は、武器を作ることに長けている訳ではない。
それは偏に、この街が辺鄙な場所にあり、出現するモンスターがそれほど強くないということに帰結する。数打ちの鈍らであろうと、ある程度戦えるならそれで対処できてしまうからだ。
もちろんより良い武器を作ろうとする鍛冶職人もいるだろうが、そういう者は鍛冶で有名な火の街や、国内でも富裕層が住まう王都に行ってしまう。前者はより高い技術を求めて。後者は自分の技術を売り富を築くため。
だから、高い技術にも、富や栄誉にも縁遠いこの街は、武器の質が低い。キンバリーのような駆け出しの鍛冶職人でさえ、「腕がいい」と評されてしまうほどに。
「ま~ね~、この街の鍛冶職人たちは~、今の現状に~、既に満足しているみたいだから~」
あるいは、今の現状を揺るがしかねない出来事が起これば、彼らの目も覚めるのだろうか。
話が逸れたが、オレとトワがオリヒメとキンバリーを訪ねたのは、北風の森で得たドロップアイテムを彼女らに売ることが目的だ。
トワから先に素材を売り払うよう促し、オレは今日の戦利品だけでなく昨日の戦利品も含めて彼女らに渡した。
「どうすれば一日でこれだけの量を持ってこれるんですか」
オレの見せたモンスター素材の数に、頭を抱えるようにして言ったオリヒメは心底呆れているようであった。
トワが離れて衣服を見繕っているのを確認しつつ、オレは声を潜めて返答する。
「新しい杖を手に入れて、つい試してみたくなってな。自重せずに魔法を行使していたらこうなった」
深い溜め息を吐かれたことは、言うまでもない。
さておき、オリヒメとキンバリーには可能な範囲で素材を買い取って貰った。オリヒメには主に毛皮やアクセサリーに使える素材を、キンバリーには牙などの武器に使える素材を。
量は多かったが、北風の森由来のモンスター素材はやはりそれ以外の場所で取れる素材と比較して頭一つ抜けているらしく、オリヒメもキンバリーも文句を言いこそすれ拒否はしないのであった。
そして、話題はこの後の予定に切り替わる。
「ベルゼさんも、水の街へ行っちゃうんですか?」
「そうだな。Sクエストをクリアしたんだ、次の街へ行けるなら、行くのが当然というものだろう」
名残惜しそうに言ったのは、もちろんオリヒメだ。
浩輝のリアルでの用事とトワとの予定が入ったため先送りになったが、本来であれば今頃は水の街へと向かっているところだったのだ。急ぐ理由はないとは言え、予定をこれ以上延期する理由もまた存在しない。
いや、はっきり言おう。オレ自身が、早く次の街へと行きたがっている。まだ見ぬ冒険をと、心躍らせているのだ。
だから、明朝には出発する。これは決定事項なのであった。
「私達の方は、全然クリアの目処が立っていないんですよね……」
つい、といった様子でそう零したのはオリヒメだ。キンバリーも同じ考えなのか、二人して顔を見合わせ、共に溜息を吐いていた。
彼女らは生産職。戦闘職と比べると、やはりその戦力差はかなり大きい。その辺りの雑魚モンスター(ワイルドドッグやウィードピジョンあたり)なら遅れを取ることはないにしても、北風の森のモンスター相手には些か分が悪いという。
オリヒメとキンバリーの普段の戦い方を知っている訳ではないから確かなことは言えないが、北風の森のモンスターを相手にできないのでは、クエストボスであるステップホークとやり合うことはできないと思われる。
ネタバレは避けつつ、ボスモンスターとの戦闘が必須であることを二人に告げると、傍で話を聞いていたトワが思いついたようにこう言った。
「Sクエストってパーティで受けられないんですかね?」
なるほど、トワの疑問も尤もだ。一人では難しくても、パーティでならいくらかマシになるだろう。更にそこに一人でも戦闘職がいれば、戦力はぐっと増すと考えられる。
パーティでのクエスト受注が可能であれば、二人にもSクエストをクリアできるだけの余地が生まれるはずだ。
「結論から言うと~、パーティでも受けられるみたい~。でもでも~、依頼されるモンスターの数とか~、収集アイテムの個数が~、パーティ人数に比例して増加するらしいわ~?」
ウィンドウを弄っていたキンバリーが、あの間延びした口調でトワの疑問に答えた。
よく見れば彼女が開いていたのは掲示板で、トワが言い出す前からパーティでのクエスト受注について調べていたらしい。あいつ、口調はのんびりでも動作はそこまでのんびりでもないよな。
「そうなんですね。なら、折角だしあたしたちで受けてみます?」
トワがそう言って残る二人の顔を見回した。
けれど、その二人の顔はあまり浮かんではいなかった。どちらかと言うと困惑しているような、遠慮しているような、そんな微妙な表情だ。
「トワちゃんのこと~、信用しない訳ではないんだけど~。欲を言えば~、もう一人くらい~、戦闘職が欲しいわね~」
「ええ。ベルゼさんに付いて行ける実力があるなら、トワさんのことに関しては問題ありません。だけど、私達の方に問題がありすぎるというか……」
オリヒメは、言外に自分たちは戦力外だと言っているのだ。多少なら戦うことも可能ではあるが、圧倒的に戦闘能力に欠けていると自覚しているからこその発言だろう。
それは彼女たちが持つ魔法道具を見ても明らかだ。オレたち戦闘職とは違い、彼女らが持つのは基本的に本タイプの魔法道具である。共にチュートリアルで貰ったものであるため性能に違いはないが、魔法の発現に至るまでのプロセスが異なり、それは戦闘にも顕著に現れるものだ。
杖タイプは魔力を注ぎ魔法を使う意思を込めて魔法名を宣言するだけで発現するのに対し、本タイプは魔法式が記載されたページを開く必要がある。その動作は相手によっては致命的な隙となり、余程慣れていなければパーティの足を引っ張るのは確実と言えた。
「心当たりが~、ないことも無いんだけど~」
妙案はないものかと思案していた様子のキンバリーが、そんなことを呟いた。
オレを含む3人の視線がキンバリーに向く。けれど、彼女の様子は若干不服そうに見える。何か、誰かが機嫌を損ねるようなことをしただろうか?
「あんまり~、気が進まないのよね~。あの子を誘うのは~……」
ああ、なるほど。オレたちに対して不平を漏らしていたのではなく、誘おうとしている相手に問題があるらしい。
「どんな方なんですか?」
「ええっと~、一応彼女も生産職らしいわ~? でも~、自称『戦う薬師』で~、他の人からは『自爆薬師』って呼ばれているのよね~」
……それは、いったいどんなプレイヤーなんだろうか。そこはかとなく危険な匂いがするのだが。
「根はいい子なのよ~? 調薬の腕も確かだし~。ただね~、やる気が少し~空回りしがちなのが玉に瑕なのよね~」
ともあれ、まずは話してみると言ったキンバリーに、他の妙案が浮かばない残りの二人も「お願いします」と頭を下げたのだった。
(静観してないで、手伝ってあげればいいのに)
何を言う。お願いされた訳でもないのに、手を貸そうか、なんて言えないだろう。まして、これは彼女らの冒険なのだから。
(……ああ、そうか。そうだね、確かに、無粋だった)
ふん。わかっているなら、それでいいさ。
読んでいただきありがとうございます。
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