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元魔王が異世界でMMOを極めます!?  作者: renren
第4章 水の街ヴィタレントへ
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第2話 猫獣人のトワ

またディア視点に戻ります。

今回は新ヒロイン、トワが活躍(?)します。

 浩輝が星田茜という人物と一緒にMGOをプレイする約束をした。オレもその光景を見ていたし、異存はなかったのだが、ゲームを始めてすぐ、問題が発覚する。

 おしゃれな服がないのだ。彼女と出かけられるような、センスのいい装備をオレは持っていないことに気が付いた。オリヒメに連絡して頼んでもいいが、如何いかんせん待ち合わせの時間までもう幾許いくばくもない。くっ、どうしたらいいんだ、浩輝!


(はいはい。装備はそのままでいいから。それより早く移動しようよ)


 ……はい。


 冗談はさておき、彼女のアバターは猫の獣人族セリアンスロープだと聞いている。

 聞く所によると、獣人族セリアンスロープはベースとなった動物特有の固有アビリティを持っているらしい。その代わり、特定の魔法アビリティが習得不可能なのだとか。

 猫の獣人族セリアンスロープの固有アビリティは【柔軟】。熟練度に応じて移動力に補正がかかるアビリティだ。

 はてさて、彼女の操るアバター『トワ』はどんな戦い方を見せてくれるのだろうか。




 待ち合わせ場所に選んだのは風の街の東門だ。ここから少し北に向かえば北風の森、まっすぐ東に向かえば水の街がある。南には南門から出た方が早いが、念のため言っておくと南に下ると火の街に着く。まあ、今はまだ検問を通れないらしいが。


 この後に使う魔法を杖に入力しながら彼女の到着を待つ。

 お互いのアバターの見た目は大雑把に伝えてあるので、来ればわかるはずだが。


 と、そんなことを考えている間に、事前に聞いていた見た目の人物がオレに近付いてきた。


 リアルと同じ濃いブラウンの髪から、柔らかそうな同色のネコミミが生えている。目鼻立ちは人間族ヒューマンのそれと変わらないが、やはり耳だけは特別のようで、今もフリフリと揺れ動いていた。

 動きやすそうなショートパンツとブーツを履いて魅惑の白い太腿ふとももを惜しげもなく晒し、上着には黒のジャケットを羽織っている。その豊かな胸はジャケット如きでは隠しきれておらず、ふるふると揺れて今も周囲の男たちの注目を集めていた。


「やっ、お待たせ。ベルゼくん、って呼べばいいのかな?」


 ほがらかに挨拶してきたこの人物こそ、オレの待ち人だろう。ゲームでのアバター名は『トワ』だったはず。

 よく見れば腰の後ろからは黒と茶色の縞模様しまもようの尻尾が生えており、ゆらゆらと楽しそうに揺れている。猫の尻尾はその時の感情を表すと言うが、今表している感情は喜怒哀楽で言う“楽”なのだろう。尻尾は口ほどに物を言う。


「ああ、オレもさっき着いたところだ。……ん? どうした?」


 オレが返事をした途端、トワはまるで変な物でも食べたかのようにいぶかしげな表情になった。気のせいか、尻尾の先端が折れ曲がり、器用に“?”(クエスチョン)マークを作っているようにも見える。芸達者な尻尾だな。


「いや、だって……リアルと全然雰囲気が違うからさ。君、ホントにベルゼくん?」


「そうだが。そういうあなたはトワでいいのか?」


「うわーホントなんだぁ……。あ、ごめんね。そうだよ。あたしのことは“トワ姉さん”とか“お姉様”って呼んでもいいよ?」


「そうか。よろしくな、“トワ姉さん”」


(うわっ、コイツ真顔で呼びやがった!)


「ちょっ! ホントに呼ぶかなあ!? 確かに呼んでって言ったのはあたしだけどさあ!」


 焦ったように恥ずかしがるトワは、お姉さんぶっていた感じが取れて微笑ましい。心なしか尻尾の毛は逆立って、先程よりも太くなっているように見えた。ふむ、恥ずかしがるとあんな風になるのか。

 くつくつと声を殺して笑い、赤い顔のトワが落ち着くまで待つこと数秒。


「あーもう。好きに呼んでいいわ。あたしも君のことは、ベルゼって呼ぶからね」


 ぷりぷりと怒りながらも落ち着いた様子のトワに、軽い調子で詫びを入れる。なるほど、彼女はなかなか愉快な性格をしているようだ。彼女の尻尾も、どう操っているのか知らないが感情が素直に表現されていて面白い。

 オレはますますこれからの狩りが楽しくなりそうだと思った。




 北風の森に向かう道すがら、パーティを組んでトワの普段の戦い方を聞いてみた。


「戦い方? あたしの場合は固有アビリティ【柔軟】のおかげで素早く動けるから、基本的には一撃離脱ヒットアンドアウェイよ。得物はこれね」


 彼女が取り出したのは湾曲した刀身を持つ変わった形の武器だ。彼女がその鞘から本体を抜くと、曲がった刀身の内側に刃がついていた。鈍色の輝きもさることながら、よく研がれており実によく斬れそうだ。


(おお、ククリ刀か。確かにこれは素早く動く戦士職が持っていそうな武器だね)


「この子を使ってるのはあたしの趣味だよ。本来なら両手に1本ずつ持って戦うんだけど、魔法も使いたいからさ」


 一応2本持ってるけどね、と付け足して、トワはククリ刀を軽く振ってみせた。

 すると、空気を裂くヒュッという音と共に、前方へと何かが飛んで行く。恐る恐るトワの手元を見てみると、そこにあったはずのククリ刀は彼女の華奢な手からすっぽ抜けてしまっていた。


「あ、待って待って!」


 慌ててトワが駆け出して、飛んで行ったククリ刀を追いかけた。大丈夫だろうか、いろいろと。


 ほどなくククリ刀を回収したトワとまた歩き出し、道中現れたウィードピジョンやワイルドドッグを狩っていく。

 流石に戦闘中は手元から武器がすっぽ抜けることはなく、トワの戦い方は実に安定した強さを見せていた。


 ククリ刀や彼女自身に攻撃力がないことは彼女も気付いており、それを補うため彼女はある魔法を使っている。

 ある魔法とはずばり《筋力増強(ストレングスアップ)》だ。猫の俊敏さと魔法によって強化された攻撃の組み合わせは強力で、出会った敵は次の瞬間にはトワの一刀の元に斬り伏せられてしまった。


(ただのドジなお姉さんじゃなかったんだね)


 偶に出る浩輝の毒舌が秀逸で、オレは苦笑を禁じ得ない。幸い、浩輝の言葉はオレ以外には聞こえないので問題はないが。


 もちろんオレも戦闘には参加している。

 オレが装備している杖は風の街で出会った魔道具職人の婆さんから譲り受けた品で、チュートリアルクエストを受ける時に貰える『初心者の杖』より遥かに優れた業物わざものだ。銘は『魔杖まつえ夜雀よすずめ』といい、最大で5つの魔法式を入力しておくことができる。

 黒檀こくたん製の杖芯じょうしんは手に馴染む程よい太さで、その杖頭部じょうとうぶには赤みがかった黒い魔石が取り付けられていた。この魔石には僅かに魔法の効果を高める機能があり、約1割程度の効果増大が見込める。

 最初にこれを取り出した時はトワにも驚かれ、どこで手に入れたのか問い詰められたが、無難に魔法使いギルドのことを教えて終わらせた。その際、彼女の豊満な胸部がオレの目の前に来てドギマギしたことはここだけの秘密として欲しい。


「《電撃(エレキショック)》」


 襲ってきたワイルドドッグに初級の【雷魔法】である《電撃(エレキショック)》を放つ。モロに魔法の直撃を受けたワイルドドッグは、その身体を痙攣けいれんさせて転倒した。運良く麻痺の付加効果が発動したようだ。

 そこにすかさず近寄って、腰に差していた短剣を抜き一閃。魔法のダメージと短剣の攻撃により体力を削られたワイルドドッグは、敢え無く光となって消えていった。


「ははあ、なかなか様になってるねえ。流石はもう風の街の(ストーリー)クエストをクリアしているだけはあるね」


 現在杖に入力している魔法式は固定枠の《再生(リストア)》、《雷風雨(サンダーストーム)》、《虚空界(ヴァリアブルスクリーン)》の3つと、自由枠として掲示板でも紹介した初級の魔法式が2つだ。

 トワに見せる魔法は、今入力してある魔法式を含む初級のもののみと決めている。

 その理由は、知り合いになったとは言え、いきなりオレが『魔法先生』だと明かすつもりはないからだ。

 魔法式はその項数が増すと比例して難易度も高くなる。オレの使う魔法が難易度の高い魔法式だと気付かれれば、自然とオレが『魔法先生』だと勘付かれるかもしれない。現時点では、それは避けたい事柄だった。

 このまま彼女といい関係が続き、明かしてもいいだろうと思えたなら、それもやぶさかではないのだが。


「まあな。それより、もうすぐ森に着くぞ。準備はいいか?」


 短剣を腰に戻しつつ彼女に返答する。

 目の前に見えてきた森は、かつてオレと激戦を繰り広げたボスモンスター、ブロンズエイプがいた場所だ。そのブロンズエイプが落とした素材アイテムは、今オレが着ている『青銅猿の毛皮のコート』に使用され、1ランク上の防御力を誇る装備となっている。

 あのときは(チェーン)クエストの途中だったから現れたものと考えているため、今回再び遭遇することはないだろう。


「いいわよ。ところで、今回の狩りの目的は? 何の目標もなく踏み込むよりは、何か目標がある方がいいと思うんだけど」


「そうだな……。ああ、そういえば知り合いの生産職のプレイヤーが銅猿の毛皮と銅猿の尾を欲しがっていたな。それを集めるのはどうだ?」


 知り合いの生産職のプレイヤーとは、もちろんオリヒメのことだ。

 オリヒメは風の街で仕立屋を営む女性プレイヤーで、鍛冶職人のキンバリーと一緒に“妖精の紡ぎ車”という露天を出している。

 彼女がそれらの素材を欲しがっていたという事実はないが、毛皮の素材は多くあっても困るものではない。売れば喜んで買い取ってくれるだろう。

 銅猿の毛皮、銅猿の尾は共にカッパーエイプという猿型モンスターがドロップするアイテムで、尾の方はレアドロップだ。レアなだけに高価であるが、アクセサリーを作るのに向いているらしい。1、2本仕入れてやれば、オリヒメとしても嬉しいはずだ。


(キンバリーさんには何か売らないの?)


 ……あいつには道中に襲ってきたゴブリンが落とす子鬼の棍棒でも渡せばいいだろう。武器の柄としてそこそこ使えるらしいからな。


(ああ、ディアはあの間延びした口調が苦手なんだったね)


「オーケー。じゃ、それで行きましょう。サポートは任せたわ」


 トワの承諾を得て森に踏み込む。

 森には入り口と呼べるようなものはないが、いくらか人が歩きやすい場所は存在する。オレたちは獣道とでも言うべき森の小道を歩いて、森の深部へ向かった。そこにいるであろう、カッパーエイプを求めて。




 数十分後。

 襲い掛かってきたブラックバットのうち1匹に向かって《水の矢(アクアアロー)》を射出する。狙い違わず、矢はブラックバットの身体を貫きその身を光の粒子に変じさせた。

 その光景を眺めることもせず、すぐに次の魔法を射出するため杖に魔力を注ぎ込む。その直後、オレの視界の端から現れた影が今まさにオレに襲いかかろうと牙を剥いていたブラックバットに湾曲した刀身の切っ先を突き立てた。

 ピギャッ、と小さな断末魔を残して、そのブラックバットは全ての体力を失い森の影へと消えていく。


「すまん、助かった」


 躍り出てきた影――トワに短く礼を言い、続けて襲い来るモンスターに杖の先端を差し向ける。


「あっちは殲滅したよ。あとはこっちだけど、体力は大丈夫?」


「ああ、問題ない。防具が優秀だからな。そっちは?」


 魔力の充填が完了した杖から再び《水の矢(アクアアロー)》を撃ち出しつつトワに返答し、オレも彼女の体力や魔力の心配をする。


「あたしはちょっとバテてきたかも。こうもひっきりなしだと、流石にね」


 こうして話しながらも、トワは突撃してきたファンガスをすれ違い様に斬り付ける。彼女も【気配感知】のアビリティを持っているのか、背後からの奇襲にも難なく対処していた。

 だがなるほど、確かにかれこれ二十分以上は戦闘が続いていれば、精神的にもこたえるか。


 ならばさっさと奴らを仕留めないとな。

 この状況を作り出したのは、他でもないカッパーエイプだ。だが運悪く奴らの群れに出くわしたらしく、奴らは猿声を出してモンスターを呼び寄せやがった。

 たかってくるモンスターをほふるのは容易いが、次から次に猿声でモンスターを呼ぶため辟易へきえきしてくる。いい加減、オレもうんざりしてきたところだった。

 オレはこの先にいるカッパーエイプたちに睨みつけるような視線を送り、奴らを打破するための作戦を考える。

 正直に言えば、ここを突破することは簡単だ。奴らのいる場所に《雷風雨(サンダーストーム)》を撃ち込めばそれだけで戦局はオレたちの方に傾く。……が、そうはしない。

 そんなことをすれば間違いなくトワがオレのことを疑うからな。

 だからやり方を考えなければならない。トワに疑われず、この戦闘を切り抜ける方法を。


読んでいただきありがとうございます。

評価、ブクマ等頂けると励みになります!


申し訳ありませんがリアル多忙のため、次回の更新は10/22(日)の予定です。


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