第1話 お誘い
新章開幕。初っ端から新ヒロイン登場。
ただし今回は久々の浩輝視点です。
※4万PV突破しました。3万PV突破から3週間、そのうち気付いたら桁が変わっているかもしれませんね。……変わってたら嬉しいなあ。
というわけでいつも応援ありがとうございます!!
本日モ晴天ナリ。
現在、僕は自分のバイト先であるコンビニで精を出して働いていた。
ことの起こりは昨晩遅く。バイトの仲間から、1本の電話がかかってきたのだ。
「あ、桐村さん、ゴホッ……ですか? ちょっとお願いが、ゴホゴホッ、あるんですが、聞いてくれません……ゴホ……か?」
この声を聞いた瞬間、彼が何を頼みたいのかピンときた。予想に違わず、彼からのお願いは風邪を引いてしまったからシフトを代わって欲しいというものだった。
病人を働かせて、ゲームを満喫できるほど僕の心は荒んでいない。軽い調子で「今度何か埋め合わせしてよ」と返し、彼の願いを快諾した。
(ふむ……ゲームをする時間が減るが、仕方ないな)
突然、僕の頭の中に響く声。この声の主は、なんと異世界から魔法を使ってこの世界へとやってきた魔王さま。名をディスキア・ベルゼ・ユルドフェル。僕は彼のことを“ディア”と呼称している。
こらそこ、僕のことを頭のおかしな人間だと思わないでくれ。
僕も最初は自分の頭がどうにかしてしまったのかと本気で考えたが、病院に行こうにもどこに行けばいいのかわからないし、今の状態を何と説明するべきかもわからない。
結果として彼のことは今僕がハマっている最新鋭のVRMMORPG、Magician in the Magician Online(通称MGO)を通してその存在を確信することができ、今では楽しくゲームをプレイする友人といった感覚になっていた。
……少々、ゲームのプレイに関して問題はあったが。
さて、魔王さまと言っても、彼が言うには魔族の王でも魔物の王でもなく、魔法使いの王なのだとか。
彼が元いた国は魔法国家ユルドフェルシルというらしく、何の偶然か(あるいは偶然ではないのかもしれないが)、MGOの舞台ともなっている。彼をして“瓜二つ”とまで言わしめるこの偶然の謎はわからないけれど、そんな些事は気にせずゲームそのものを楽しんでいた。
そんな訳で、ゲームをする時間が減って残念だと溢すディアを宥めつつ、僕も心の中では早く帰ってゲームがしたいと考えながら、バイトに勤しんでいる。
バイト自体は昼までの予定だ。風邪を引いた彼から店長にも連絡が行っていたらしく、僕がバイトに入ることに店長は納得してくれて、そっくりそのまま、彼が元々シフトを入れていた時間のみ僕が働けばいいことになっている。
コンビニは客商売だ。客が持ってくる品物をレジで精算して売ることが僕の仕事である。裏で惣菜なんかを調理したりもするが、今は他の人がやってくれていた。
この仕事にもやはり波というものはあって、客があまりおらず暇な時間帯、客が大勢押し寄せて来る忙しい時間帯がある。
今は丁度、昼前の客入りが少ない時間帯だった。
「ところで、桐村さんはアレ、どこまで行ったッスか?」
こんなことを言い出したのは、同じバイト仲間の浦井くん。僕のバイト先での後輩だ。やんちゃな見た目の彼だけど、バイト中は意外と真面目に働いてくれている。
今は客もほとんどいないようなものだし、多少雑談していても構わないと思ったんだろう。
彼が言うアレとは、おそらく彼もやっているMGOのことだ。
「そうだね、昨日やっと、風の街のSクエストをクリアしたところだよ」
「へえ! 流石桐村さん、速いッスね! ってことは、もう次の街に行ったんスか?」
「いや、まだだね。今日この後、向かうところさ」
独特の口調が売りの浦井くんは、聞けばバイト時間が長すぎてあんまりプレイできていないらしい。先日初心者装備を脱し、知り合いの生産職に派手な特攻服を作ってもらったと語った。
特攻服って……あれだよね、漫画とかで暴走族やヤンキーが着ている、マントみたいな長さの学生服モドキ。背中には『喧嘩上等』とかいろんなことを書いたりするらしい。
まあ、浦井くんの趣味なんだから、僕が口出しするものでもないんだけど。
「魔法に関してはサッパリッス。自分頭悪いんで、あの魔法式とかいう数式みたいなのは弄る気になれねーッスわ」
「あはは、確かに苦手な人は苦手かもね。慣れてくると、そこに奥深さとか工夫とか生まれてくるんだけど」
「お? ってことは、桐村さんはもう自分で新しい魔法とか開発しちゃってる感じッスか?」
自分で開発どころか、超優秀な先生がついてマンツーマンで教えてもらっているなんて、言えないよねえ。
しかも、現在主流の魔法式より一歩も二歩も先の魔法式を躊躇いなく湯水のように使い放題なんて、口が裂けても漏らせないだろう。
昨日平原で狩りをしていた時に使っていた魔法は、早くも模倣するプレイヤーが出始めているらしい。と言っても完成度は言うに及ばず、精々が【無属性魔法】で魔力を矢の形にして飛ばしたり(もちろん追尾機能なんて搭載されてない)、【火魔法】や【水魔法】で剣の形を作ったり(形を作るので精いっぱいで、操作できない)している程度だ。
やっぱり昨日ベルゼが使っていた魔法を見た誰かが開発したんだろうな。
ディアはそれを聞いて、ほくそ笑んだらしいけど。
「ね、今MGOの話してた?」
声をかけられたのは、僕がそんな思考をしている時だ。
気が付くと、目の前にOL風の女性が立っていて、僕らの方を見ていた。
見た目はかなり若いように見える。だいたい二十歳くらいの見た目で、化粧はそれほど濃くはない。会社勤めならそれも当然か。
濃いブラウンの髪は肩にかかる程度の長さで、白いブラウスを身体の内側から押し上げる膨らみが、女性らしさを強調させていた。僕らが立つレジの向こう側にいる所為で下半身は見えないが、スーツを着ていることだしおそらくパンツルックだろう。
背は僕よりも拳一つ分低いくらいで、モデル体型というよりはグラビアアイドルのような感じだ。当然ながら服を着ているので、その魅惑の谷間は見えやしないが。
手に持った買い物カゴには緑茶のペットボトルとおにぎり、インスタントのカップスープが入っており、昼ご飯を買いに来たのだと思われる。一緒に買い物カゴに入っている、チョコレートの駄菓子は気にしてはいけない。
「あ、えっと、すみません。お会計ですか?」
「うん、それもあるんだけどね。君たちがMGOの話をしてたみたいだから、気になっちゃって」
てへ、とはにかむ様がかわいらしい。スーツを着ているから年上っぽいと思ったけど、笑うと途端に幼く見える。女性って怖い。いい意味で。
「確かにMGOの話をしてたッスけど……。あ、もしかして、お姉さんもやってるクチッスか?」
「そうなの! あたしもそのゲームやってるんだけど、友達は『興味ない』とか言って一緒にやってくれないのよ。でも他の知らない人とパーティを組むのも何だか引けちゃって……」
ああ、なるほど。確かにその感覚は僕にも少しわかる。
知り合ってすぐだと、やっぱり何かと気を遣う。気心の知れた友人と組めればいいが、そうでもなければパーティを組むのは意外と敷居が高いんだ。
まあ、僕とディアが普段パーティを組まないのは、別の理由があるからだけど。だって『魔法先生』だってバレたらいろいろ面倒じゃないか。
「はあ……?」
「だからね、もしよかったら、あたしと一緒にプレイしてくれないかな?」
そう言って胸の前で手を合わせ、軽く首を傾げる仕草をするお姉さん。くっ、かわいい。
いつの間にか、手に持っていたはずの買い物カゴはレジのカウンターに置かれていた。
「知らない人と言うなら、あなたと僕はそれこそ初対面だと思うのですが」
せめてもの抵抗としてこんなことを言ってみる。
(内心では是非とも一緒にプレイしたいと考えている癖に。無理はするものじゃないぞ)
うるさいな。別にいいだろ。
「君はキリムラくんでしょ? で、そっちはウライくん」
「え? ああ、ネームプレート」
いきなり名前を呼ばれて面食らう。でもすぐに胸に付けたネームプレートの存在を思い出し、納得した。ここの店員はオールカタカナのネームプレートを胸に付ける決まりなのだ。
「フリーターなのか学生さんなのかは流石に知らないけど、コンビニ店員だっていうのはわかってる。ここには初めて来たわけじゃないから、多少は顔に覚えがあるし、客商売だってことを差し引いてもそれほど悪い性格はしてないと思ってる。ほら、初対面じゃないじゃない?」
「どう?」とドヤ顔で告げる彼女の剣幕に半ば圧倒されつつ、美人なお姉さんと知り合うチャンスだと思えば悪くない提案な気がする。彼女の人となりが気になるところだけど、第一印象は悪くない。
あとは、ディアに伺いを立てるくらい?
(オレは浩輝がいいのなら構わんぞ)
僕にも異存はないかな。じゃ、オーケーだね。
「わかりました。ならせめて自己紹介くらいはしません?」
「おっと、そうだったね。あたしの名前は星田茜。近くのIT会社で働いている、ゲーム好きなお姉さんだよ♪」
そんな冗談を言いながら笑う星田さんは大変魅力的でいいのだけど、そろそろお昼時で客も入り始めており、その自己紹介は店内の客全員に聞こえていたということは、彼女の名誉のためにも黙っていた方がいいのかなあ。
バイトの終わり際にもう一度やってきた星田さんと駅前で待ち合わせの約束をする。
昼ご飯は自分がさっきまで働いていたコンビニで買ったサンドウィッチで済ませた。
残念ながら浦井くんは今日この後もずっとバイトで、夜になるまでログインできないらしい。
「今度は自分も混ぜて欲しいッス!」
などという心の底からの叫びっぽいものを軽くスルーしつつ、彼を置いてコンビニを後にした。
「すいません、お待たせしてしまって」
開口一番、待ち合わせ場所の駅前で所在なさげにスマホを弄っていた彼女に詫びる。
「ああ、いいのよ、気にしないで。それより、早くゲームの話をしましょう?」
色っぽい会話もあったものじゃないけれど、僕と彼女はまだ知り合って数時間。一目惚れでもしていたなら少しは違ったかもしれないが、ひとまず彼女は僕が働く店のお客さんでもある。彼女が美人でかわいいお姉さんであることに違いはないんだけど、僕はそんなに緊張することなく彼女と会話を始めた。
多分、色恋の話をするよりもゲームの話をすることの方が今は重要だと、どちらも考えているからなんだろう。
「君……えっと、桐村浩輝くんね。改めて、星田茜です。ゲームでのアバター名は『トワ』でやってるわ」
「よろしくお願いします、星田さん。僕の方は、『ベルゼ』でやってます。『トワ』というのは……永遠のことですか?」
「あ、ううん、違うわ。あたしの名前、茜っていうでしょ。茜色って言うと夕暮れとか黄昏を連想するから、Twilightの『トワ』よ。トワイライトのままでもいいんだけど、ちょっと長いじゃない」
なるほど、面白いネーミングだ。僕の方はディアの本名から取っただけだからなあ。
「アバターの種族は? あたしは猫の獣人族でやってるわ」
星田さんが顔の横で猫の手を作る。招き猫のように手を丸める様子があざといくらいにかわいい。この人、素でコレやってるんだろうか。語尾に「にゃ」とか付け始めたら正気を疑わなければならない。
「僕は人間族ですね。ちょっとしたロールプレイもしてます」
ディアは誰に対しても傲岸不遜な態度だから、予防線を張っておかないと。
(おい!)
「で、桐村くんは今どこまで進んでいるの?」
ディアの抗議の声を無視しつつ、彼女の問いに答える。
「今はまだ風の街です。ただ、ストーリークエストはクリアしたので、今日にでも次の街へ向かおうと思ってました」
「あら、結構進んでいるのね。あたしなんて、やっと北風の森で普通に戦えるようになったところなのに」
「あはは、僕は星田さんみたいにちゃんとした会社で働いているわけじゃないですから。時間だけはたっぷりあったんですよ」
(ゲーム内でなら金もたっぷりあるがな)
それはそうだけど、なんの自慢にもならないからやめなさい。
「魔法式っていうのには、結構慣れたんだけどね。こう見えても一応、理系を専攻してたんだから」
魔法式は、その結果から生み出される現象とは裏腹に非常に論理的だ。他の人が苦手意識を持つのもわかるけど、僕はこの数式チックな魔法が気に入っている。
星田さんも苦手意識を持つまでには至らず、順調に理解を進めているようだ。
「じゃあ、ひとまず一緒に狩りでもしますか? 北風の森が丁度良いと思いますが」
「そうね。なら、街の東門で待ち合わせね。帰ってすぐログインするでしょう?」
「ええ、そのつもりです」
その後僕らは連絡先を交換し合い、帰途についた。彼女とは住んでいる地域が全く別らしい。電車に乗るという彼女を見送り、僕もさっさと自分の部屋に戻ったのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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