第14話 ストーリークエスト(4)
Sクエストもクライマックス。果たして主人公は難敵ステップホークを倒せるのか!?(棒読み)
ストラウト平原の東には、その先にある水の街へと続く街道が通っている。
もちろん、現代日本のようにきっちりとアスファルトで固められた道じゃない。人が通り踏み固められて、周りと比べ雑草も生えず歩きやすくなっているだけの道だ。
現在、そこに出没するモンスターが旅人や行商人を襲うという事態が発生しており、被害に遭った者や風の街の住人からその犯人――ステップホークの討伐が声高に叫ばれる状況となっていた。
Sクエストを進める過程で雑貨屋ライカンズの店主からそれを依頼されたオレは、街役場にて行商人マルスの協力を受けステップホーク討伐のための情報収集を行った。
無策のまま東に向かってもステップホークと会敵する確率は低いと考え、オレはマルスから低価格で譲り受けた水の街産の小麦粉を背に、行商人を装った囮捜査を敢行。その試みは成功し、まんまとステップホークを誘き寄せることができた。
オレの【気配感知】アビリティが、ステップホークと思われる2羽の影を捉える。
空を飛ぶその2羽は、狙いを定めるかのように高空を旋回していた。遠目にはただじゃれ合っているようにしか見えないが、それも彼らの作戦なのだろう。モンスターの癖に、小賢しい奴だ。
オレは視線を下げ、フードを被り直してまた歩き出した。
いつでも戦闘態勢に入れるよう、インベントリは開いたままにしている。【気配感知】が訴える感覚に意識を集中し、傍目には無警戒を装う。
ステップホークが飛ぶ真下に到着する。それでも彼らは襲って来ず、未だ旋回飛行を続けていた。
心臓がバクバクと高鳴る。ゆっくりとその足を進め、やがてステップホークが遠ざかりかける頃、接近する2羽の気配を感じ取った。
まずはインベントリから『魔杖・夜雀』を取り出し、とある魔法を放つための魔力を注ぐ。
背負った荷物を放り出し、マントを脱ぎ捨てながら振り向く。どうせ安物だ、汚れたって構わない。
迫るステップホークを視界に収め、すぐさま魔法を発現させる。
「《虚空界》」
振り向いた先数メートルの場所に虚空を生成する。同じ【空間魔法】である《障壁》のように、ステップホークの攻撃を阻む壁とするためだ。
虚空とは何もない空間のことを指す。通常は目に映らず、見えない壁となりモンスターを欺くことが可能なのだが、どういうわけかステップホークはそれを感じ取り急上昇にて激突を回避した。
「なんだ?」
もしかすると、あのステップホークは魔力を感じ取ることができるのかもしれない。
《虚空界》を維持しているのはオレの魔力だ。虚空に込められたオレの魔力に危機感を覚えたのかもしれない。
オレは魔力の供給を止めて虚空を一旦消す。急上昇して空に留まっていたステップホークもそれに気付いたのか、再び降下を開始した。
(やっぱり魔力を感じ取ってるみたいだね。どうしようか?)
それならそれで、やりようはあるさ。
壁一枚分の魔力を杖に溜める程度なら奴は逃げないとわかっている。少ない魔力で放てる魔法で戦えばいいのだ。
ステップホークの飛翔速度は、それほど速い訳ではない。ある程度目が慣れてしまえば、タイミングを合わせて回避することも容易いだろう。
最初こそ《虚空界》による防御を考えていたが、回避が可能なのであれば戦い方を変えるべきだ。
「《魔法の矢》」
小手調べとして、《魔法の矢》を5本発現させてみた。2羽いるうちの1羽に狙いを定め、勢いよく射出する。
狙われたステップホークは飛来する《魔法の矢》をひょいと避けてみせた。そのままオレに対して体当たりを仕掛けてくるが、ステップホークが矢を避けるであろうことは予想できていたので危なげなくそれを回避。もう1羽の攻撃も同じ要領で回避することに成功する。
対して、すぐに反転して追いかけてきた《魔法の矢》に気付かず、ステップホークは5本の矢をその身に受けてダメージを負う。
「クウェ!」
悲痛な叫びがステップホークから漏れたが、それでも奴を倒すまでには至らないようだ。墜落仕掛けた身体を持ち直し、バサバサと羽撃いて空へ舞い戻っていく。
寄り添うようにもう1羽が近付いて、何事かを鳴き合っている。そういや、あの2羽は番だったな。
「あなた、大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だ。あの野郎、なかなかやりやがるぜ」
「そうね。なら、私たちも本気を出さないといけないわね」
「そうだな、目に物見せてやるぜ」
みたいな会話が繰り広げられているのだろうか? 見た目からどちらがオスなのかはわからないので、あるいはダメージを受けた方がメスなのかもしれないが。
(バカな想像してないで、さっさと倒そう?)
高空に留まっていた2羽が旋回飛行を開始する。今その行動を取る意味はあるのかと疑問を持ちかけた時、オレの【魔力感知】アビリティが魔力の高まりを感じ取った。
「これは、まさか……!?」
旋回を止めて並んだ2羽が、こちらへ向けてその場で羽撃く。その行動の意味を察してすぐ、オレは魔法を発現させた。
「《虚空界》!」
次の瞬間、オレの前面へと展開した虚空の壁がステップホークから放たれた猛烈な風を遮る。キン、キン、とまるで金属を打ち鳴らしたような音が響き、オレの背筋をゾッとさせた。
やはりこれは魔法……! しかも、【風魔法】の《風刃》か!!
当たれば真二つ、と言うほどではないが、無数の切り傷を負っていたかもしれない。ステップホークが魔法を使うという話は聞いたことがなかったが、どういうことだ?
「キュエー!」
ステップホークの鳴き声が響き、彼らから放たれていた風が止んだ。彼らはそのまま再び空へと昇っていき、旋回を始める。また、《風刃》を放つつもりなのだろう。
オレも虚空の壁を取り払い、再び来るであろう魔法攻撃に備えるため杖に魔力を注ぐ。
彼らが魔法を放つまでの僅かな隙を狙って攻撃することは可能だが、もし間に合わなかったらと思うととてもじゃないが試す気にはなれない。
(ああやって回ってる間に攻撃しちゃダメなの?)
……はあ~。
(ええっ!? どうして溜息吐くの!?)
いいか浩輝。世の中にはやってもいいこととやってはいけないことがある。
(え? う、うん)
彼らが地上に降りている時。これは攻撃していい時だ。こっちが攻撃できるかどうかは別にしてな。
そして、彼らが空にいる時。これは攻撃してはいけない。こっちの攻撃は届かないからだ。本当に届かないかどうかは別にしてな。
(……つまりあいつらに届く攻撃があるってことだよね?)
あるにはある。《魔法の矢》は追尾機能を持つ魔法だから、オレが視認できるなら問題なく命中させられるだろう。
《雷風雨》でも構わない。この魔法は大雑把に言って雷雲を操る魔法だ。彼らが飛ぶ位置よりさらに高いところから、亜光速の雷撃を彼ら目掛けて放つため、回避は困難だろう。おそらくこの魔法を使えば決着がつく。
だが、それでいいのか? それは面白いのか? 目の前の困難をどう処理するか、それを考えて戦うからこそ面白いし、楽しいのではないのか? それがこのゲームというものではないのか?
(いいからさっさとやれ)
……最近浩輝が冷たくて泣きそうだ。
正直に言えば、相手がステップホークだとわかった時点でこうなることは選択肢の内に入っていた。
まさかステップホークが魔法を使うとは思わなかったが、それでも《虚空界》がある以上防御面に問題はない。
《魔法の矢》を連続で使用する方法でもいいが、幾つの魔法の矢を生み出せばいいか見当がつかないためこの戦法も保留だ。
【治癒魔法】の《再生》は攻撃力が皆無だし、【火魔法】の《炎剣》は近接攻撃魔法のためステップホークには届かない。《虚空界》もどちらかと言えば近接向きのため相性が悪く、使用は躊躇われた。
となると、残る選択肢としては範囲魔法である【雷魔法】の《雷風雨》しかない。故に結果は見えている。
つまるところ、初めから彼らに向けて《雷風雨》を放っていれば一瞬でケリが付いたということだ。
空を旋回しているステップホークは、自分たちのところまではオレの攻撃が届かないだろうと考えているのか、悠々と魔力を溜めている。
その隙を突く形になるが、オレは浩輝の指示には逆らえない。許せ。
(……なんだかなぁ)
追加の魔力を杖に注ぐ。
よし、こちらの準備はできたぞ。号令を頼む。
(……ま、いいか。撃ち方用意! ……発射ー!!)
「《雷風雨》!」
オレの宣言に伴い、雷雲が上空に立ち込める。まるで嵐の前触れのように黒雲が集まり、稲光を迸らせた。一拍遅れて、ゴロゴロと雷特有の重低音が轟く。
強大な魔力を頭上に感じ取ったのか、ステップホークが慌てて逃げ出すが、もう遅い。既に彼らは雷撃の射程圏内に入っている。
――ピシャァン!
「クエーッ!」
「クアーッ!」
派手な雷光と雷鳴を響かせて、黒雲からステップホークに目掛けて雷撃が放たれた。それは一撃で終わらず、幾筋もの稲妻を辺り一帯に放出する。
如何なステップホークと言えど亜光速の雷撃を避けること能わず。その2羽は過剰とも言えるほどの電圧に全身を晒し、オレの目の前で塵となって消えていった。
上空を覆っていた黒雲は、オレが魔力を雲散霧消させるとすぐに消えた。
流石に自然発生した雷雲を消すことはできないが、あれは魔力で形作っていた雲であるため、簡単に消すことができる。
一息ついてインベントリを開くと、ステップホークのドロップアイテムである『草原鷹の羽根』というものが手に入っていた。
ステップホークの羽根と思われるそれは、模様が美しくマニアの間で高額で取引されることもある代物だ。もちろん防具の素材としても優秀だと思われる。
(これくらいの品なら、オリヒメさんに渡してアクセサリーにしてもらってもいいかもね)
ああ、そうだな。
でもまあ、ひとまずは《転移》で街に戻ろう。もう夜になりかけているからな。
先程放り出して放置していた荷物とマントを回収する。インベントリから半ば《転移》専用となりつつある『初心者の杖』を取り出し、オレは街に帰還した。
転移先はいつも利用している宿屋の一室だ。そのまま部屋を出て、メインストリートに向かう。
クエストの報告先は雑貨屋ライカンズの店主。彼から依頼を受けたのだから、彼に報告するのが筋というものだ。
時間は午後6時を回り、太陽はもうほぼ沈んでいる。この時間だとリリィは晩御飯の用意をしているだろうし、クルルもその手伝いをしているだろう。既に別れは告げてある。彼女らに会う必要はないか。
メインストリートに出たらまっすぐに雑貨屋へと向かった。オレが入店したのを見て、店主が手を挙げ出迎える。
「よう、アイツは倒せたか?」
「ああ、問題ない。ほら、これはアイツが落とす羽根だ」
インベントリから『草原鷹の羽根』をひとつ取り出して見せてやる。おお、と店主から短い驚きの声が漏れた。
「流石、仕事が早いな」
「これで食っているからな、当然だ」
「違いねえ。がはは」
店主はひとしきり笑うとおもむろに話を切り出した。
「今回は依頼を受けてくれて助かったぜ。アイツにはリリィも襲われたことがあるんだ。幸い怪我はなかったが、仕入れた商品を駄目にされちまってな。いつもおっとりしてるから傍目にゃわかんねえが、あれでも随分気を落としてたんだぜ?」
店主が店の奥を見やる。その先にいるだろうリリィを気にかけてやってる様は、なるほど妻思いのいい男じゃないか。
「おっと、すまねえ。早速報酬の話でもしようや」
店主がそう言って取り出したのは、白く輝く綺麗な結晶だった。
オレの【魔力感知】が反応し、その結晶に魔力を感じ取る。
「まさか、魔結晶か?」
「流石にわかるか。こいつをあんたにやるぜ」
魔結晶とは、魔力を溜めたり放出したりする性質をもつ結晶のことだ。どういう理屈かはわからないが、魔力が結晶化したものだと言われている。先程店主からもらった水瓶の魔道具にも使われていた物だ。
これと封魔石を持って魔道具職人のところに行くと自分の望む魔道具の作成を依頼できる。もちろん、それ以外に加工費も取られるが。
「くれると言うなら受け取るが……いいのか?」
「構わねえ。俺が持ってても宝の持ち腐れだからな」
「なら、ありがたく受け取ろう」
「何言ってんだ。礼を言うのはこっちだ、バカ野郎」
がはは、と笑う店主から魔結晶を受け取る。それは妙に熱を帯びていた気がした。
<S4:ストラウト平原の東に出没するボスモンスターを討伐せよ(1/1)>
<Sクエスト『街の便利屋さん』を達成しました>
<おめでとうございます。報酬として『熟練度チケット』を贈呈致します>
読んでいただきありがとうございます。
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これにて第3章は終わりです。
次週はお休みをいただきまして、次回の更新は10/01(日)の予定です。
いよいよ第4章。新しいヒロインも登場させるのでお楽しみに。




