第12話 ストーリークエスト(2)
この世界の住人は、等しく高度な人工知能を持つAIが動かしています。ですが、だからと言ってまるでコンピュータに命令するかのようには接しないでください。彼らにも彼らなりの人生というものがあり、そこで暮らしているからです。ましてや、あなたの物語には欠かせない重要な人物なのですから。中には悪いことに手を染めてしまった住人もいますが……。
――MGO ゲーム説明書 第4章『キャラクター』より
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Sクエストを進めるためストラウト平原に出たオレは、モンスター討伐用の魔法式を作成していた。
今装備している『魔杖・夜雀』には5つの魔法を入力しておくことができるが、オレは3つの魔法を固定枠、残る2つを自由枠として運用する方針としている。
この2つの自由枠に遠距離用追尾機能付き魔法、近距離用迎撃魔法を入力し、相手によって使う魔法を切り替えて戦うことにした。
入力した魔法は、《魔法の矢》と《炎剣》だ。
《魔法の矢》は【無属性魔法】に該当し、魔力でできた矢を飛ばす魔法。オレが設定した対象に向かって飛ぶように魔法式を調整しており、例えこれを敵が避けたとしても、自ら飛ぶ方向を変えて追いかける追尾機能を付加した。
ただし、何かに当たるとダメージを与えて自壊するため、基本的には見通しが良く遮蔽物のない場所でしか使えない。一応、最大5本まで同時に発現させることができるが、この辺りの雑魚モンスター相手なら急所を狙い撃ちするだけで十分だと考えている。
次は【火魔法】の《炎剣》についてだが、これは主にマンドラゴラ対策だ。奴は奇声を上げて飛びかかってくるだけのモンスターであり、攻撃手段をほとんど持っていない。精々が飛び出した勢いを利用して体当たりするくらいであり、不意を突かれると多少びっくりはするがほとんど無害と言えるだろう。
《炎剣》は、炎で象った剣を操る魔法だが、今回はこれに自動迎撃機能を追加しておいた。これを侍らせるように常時発現させておき、マンドラゴラや他のモンスターが近付くと自動で振り下ろしや薙ぎ払いなどを放ち迎撃する。
単発の魔法であり、一度迎撃するとその成否に関わらず消滅するため、再度発現し直さなければならないが、マンドラゴラは火に弱い植物型モンスターであるため一撃で十分倒せるだろうと踏んでいる。もしも《炎剣》による迎撃に失敗したときは、腰の短剣で迎え撃てばいい。
入力を終えて、オレは獲物を求めて歩き出した。
空は晴れており、穏やかな風が流れている。気温は然程高くはなく、ぽかぽかと温かい。
実は2日前、この辺りでは雨が降っていた。ゲームの世界なのに雨が降るのは面白いと浩輝が言っていたが、オレにはよくわからない。
現実でも雨は降るし、何なら雪だって降るだろう。ゲームの世界……オレにとっては元いた世界に瓜二つのこの世界で、天気が変わらない方が余程不自然なのだが。
雨が降っている間、モンスターの遭遇率は低いように感じた。浩輝によると、場所によっては出現するモンスターも変わる可能性があるとか。まだまだ推測の域を出ないが、天候が実装されていることに何かしらの意味があるならそういうこともありえると思う。
軽いピクニック気分で平原を歩き、獲物を見つけては魔法で瞬殺を繰り返す。
追尾機能を持つ《魔法の矢》、迎撃機能を持つ《炎剣》の組み合わせは強力だ。
ワイルドドッグは頭蓋を撃ち抜かれ即死。ウィードピジョンも喉を射抜かれ即死。マンドラゴラは飛び出てきたところを焼かれて即死。まさにイージーモード。
ある程度の数を狩り終えた時、ふと視線を感じて辺りを見回すと、何人かのプレイヤーが遠巻きにオレを見ていることに気が付いた。
だが、その多くはオレを見ているばかりで声をかけてくる様子もない。何だ?
(あー、使ってる魔法が珍しいから、教えて貰いたいんじゃないかな?)
ふむ……確かに今使用している魔法式は掲示板で公開している魔法式とは一線を画すが、それでもある程度の試行錯誤を繰り返せば辿り着けない領域ではない。
両方共、20項から30項程度の魔法であるため工夫は必要だが、逆に言えばそれだけわかれば簡単だ。ならば、安易に教えるべきではないだろう。
(こっちも慈善事業じゃないんだ。教える代わりに同等の魔法式を要求すれば、引き下がると思うけどね)
その後、何人かのプレイヤーがやはりオレの使う魔法のことを尋ねにやってきた。
意外だったのは、魔法式そのものを教えてくれと言うプレイヤーが少なかったことか。
「すまない、ちょっといいだろうか。君が魔法を使うところを近くで見せてもらいたいんだが、構わないか? 邪魔はしないから」
大抵のプレイヤーは、こういった「近くで見たい」「観察させてもらいたい」といった内容で近付いて来る。
オレが「魔法式は見たくないのか」と訊くと、「タダで教えてくれるつもりがあるなら是非」と、苦笑交じりで返された。これにはオレも苦笑するしかなかった。
もっとも、彼らは言わば善良なプレイヤーだ。オンラインゲームというものに慣れており、情報は武器であるということを知っている。他人のものを欲しがるのであれば、同等の対価を支払わなければならないとわかっているのだ。
「おい、そこのお前! 今使った魔法をオレにも教えろ!」
話しかけてきたプレイヤーの中には、もちろんこんな高圧的で傲慢なプレイヤーもいる。
そういう輩には「オレに勝てたら教えてやるよ」と言ってPvPを挑み、返り討ちにしてやった。
「あなたの杖、私が持っているのと違いますよね? どこで手に入れたんですか?」
中にはこんなことを尋ねてくるプレイヤーもいたが、これにはオレもどう返すべきかしばし悩んだ。
『魔杖・夜雀』はクエスト報酬アイテムである。同じクエストを進めることができれば同じアイテムを入手できるかもしれないが、必ず同じアイテムを入手できる保証もない。
結局、予め同じ報酬が得られるかはわからないと断った上で、魔法使いギルドの場所を教えた。彼らの運が良ければ、『魔杖・夜雀』そのものか、それに匹敵する武器を手に入れられるだろう。
そんなこんなで約3時間が経過する頃、オレは対象のモンスターを指定数討伐し終えた。
<S1:ストラウト平原に現れる通常モンスターを討伐せよ(3/3)>
風の街に戻ってくると、オレはすぐにクルルの元に向かった。
そもそもの依頼内容は、彼女の母親が仕入れから戻って来る際にモンスターに襲われないよう数を減らすことだ。60匹ものモンスターを討伐したのだから、襲われる可能性はかなり低くなるだろう。
その予想に違わず、脇道に入った途端母親を連れたクルルに出くわした。
「あ、旅の魔法使いさんなのです!」
「よう、無事に母親に会えたみたいだな」
クルルの母親は彼女と同じ獣人族で、ふさふさの犬耳をつけた美人さんだ。栗毛の犬耳は母親の方が若干凛々しいが、顔立ちはよく似通っており親子であることが十分に理解できた。
栗毛の犬尻尾をぶんぶん振り回しながら、クルルが母親の手を引き近付いてくる。
にへーと笑う彼女の頭を大雑把に撫でながら、母親の方に挨拶する。
「ベルゼという。この子の言う通り旅の魔法使いをしている。この子からモンスターの討伐依頼を受けて、先程完遂してきたところだ」
「あらあら、まあまあ。どうもありがとうございます。ご迷惑じゃなかったかしら」
「いや、困っている人を助けるのは魔法使いとして当然だ。気にすることはない」
のほほんと笑うクルルの母親の、マイペースな様子を見て苦笑する。こんな穏やかな性格の母親に育てられて、どうしてあんな個性的な言葉遣いになってしまったのか。容姿は母親似、性格は父親似なのだろうか?
「そうだ、これ、報酬なのです! 少ないかもですが受け取りやがれですぅ!」
クエスト情報に出ていた通り、クルルの手から傷薬が10本手渡される。
感謝を伝えて、再び彼女の頭を撫でてやると、今度は母親から声をかけられた。
「あの、もしよろしかったら、私からの依頼も受けて頂けないでしょうか」
「ん? ああ、構わないぞ。何をすればいいんだ?」
クルルの母親――名をリリィというらしい――が言うには、商品の仕入れ数を一部間違えてしまったらしく、近辺で集めて来てもらえないかとのこと。
その商品とは、アマナ草とマンドラゴラの根。アマナ草は30個、マンドラゴラの根は5個集めて欲しいそうだ。
「わかった。納品は、直接雑貨屋の方へ持っていけばいいか?」
「ええ、そうですね。それでお願い致します」
<S2:アマナ草とマンドラゴラの根を集めて雑貨屋ライカンズに納品せよ(0/2)>
雑貨屋ライカンズというのが、彼女と彼女の夫が営む店であるようだ。名前に聞き覚えがあると思ったら、オレもよく利用する雑貨屋だった。
場所もわかるし、オレは早速親子に断って街の外へ向かうことにした。
とは言え、実は集めるべきアイテムの個数自体はそれほど多くない。
先程の討伐依頼で倒したマンドラゴラは、通常ドロップでアマナ草を落とす。マンドラゴラの根も、実際はマンドラゴラのレアドロップでしか出現しないと思われる。少なくとも、その辺の雑草に紛れて生えている類のものではない。
現在所持しているアマナ草は16個、マンドラゴラの根は4個だ。フィールドに生えているアマナ草を採取しながらマンドラゴラを探して討伐すれば、すぐに必要数は集まるだろう。
魔法式は特に変更せず、そのままストラウト平原に出る。
早速、《炎剣》の魔法を発現させて傍に侍らせた。ワイルドドッグやウィードピジョンなどは襲って来ない限り極力無視して、マンドラゴラに狙いを絞って倒していく。
地面に生える草を見つける度に〈識別〉をかけて、それがアマナ草であれば採取してインベントリにしまう。
約半時の内に、効率厨も真っ青な速度ですべての納品アイテムが集まってしまった。
「……戻るか」
あっけなく達成してしまったクリア条件に、思わず独り言を呟いてしまう。
踵を返し、街の門を目指して歩き出す。今いる場所はそれほど門から離れてはいない。他のプレイヤーから見られる可能性を考慮すれば、《転移》の使用は控えたほうがいいだろう。
街の門を越え、雑貨屋ライカンズに向けてメインストリートを歩く。
相変わらず人通りが多く様々な姿のプレイヤーたちを見かけるが、なんとなくサービス開始初日に比べて人数は少ないように感じた。
(Sクエストをクリアして次の街に向かったからじゃないかな?)
ここ風の街のSクエストをクリアすると、水の街ヴィタレントへの検問を通過することができると聞いている。
なるほど、ある程度の実力を持つプレイヤーは、早速次の街へと繰り出している訳だ。
それでもまだ全員ではないのは、最近始めたばかりのプレイヤーや、ログイン時間が短く十分にアビリティや装備を整えられていないプレイヤーなのだろう。
そう考えると、自分はどうしてまだこの街にいるのだろうかと首を捻り、ややあって金策に走っていたり街を散歩したりルー婆さんの面倒を見ていたりしたからだと思い至った。
(マイペースでいいと思うよ、僕は。こうして『夜雀』っていう新しい武器をノーコストで入手できたんだし)
確かに、これほどの業物をほぼノーコストで手に入れられたのは大きな収穫だ。
本来であれば、もう少し大きな街の魔道具屋にしか置いていないくらいの逸品である。急がず慌てず自分なりに冒険を進めたお陰だと思うと喜びも一入だ。
やがて雑貨屋ライカンズに到着したので、扉を開けて中に入る。
「らっしゃい」
よくよく見れば店主も獣人族だ。紺色の犬耳を生やした体格のいい男で、店のカウンターに座っているため尻尾は見えない。
店主に近付き、用件を告げる。すると店の奥からクルルの母親、リリィが現れた。
「あらあら、もう依頼の品を集め終わったのかしら」
「うむ、元々手持ちが少しあったからな。納めてくれ」
依頼されていたアマナ草30個とマンドラゴラの根5個をリリィに渡す。
リリィが個数を確認している間に、こちらは店主に軽く経緯を説明した。
<S2:アマナ草とマンドラゴラの根を集めて雑貨屋ライカンズに納品せよ(2/2)>
「確かに受け取りました。どうもありがとうございます。少ないですが、こちらが報酬です」
報酬として提示されたのは5000ユルド。「どういたしまして」と返しつつそれを受取り、オレの来訪に気付いて顔を出したクルルにも挨拶して頭を撫でてやった。
その様子を微笑ましく見ていたリリィが、「そういえば」と思い出したように店主の肩を叩いた。
「あなた、こちらのベルゼさんは旅の魔法使いだそうよ。あの魔道具を見て頂いたらどうかしら」
「ああ、アレか。ちょっと待ってろ」
何のことかわからず、首を傾げる。同じようにクルルも首を傾げる様は、ほっこりするほどかわいらしい。
店主が席を立って店の奥に消えたかと思うと、やがて一つの魔道具らしきものを手に持ち戻って来た。
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次回の更新は09/10(日)の予定です。
※2017/09/05(火) 誤記修正しました。




