第10話 Cクエストの報酬
新しい杖と魔法マシマシでお送りします。
「それより、オレに何か用があるんじゃなかったか?」
オレが今日ここに来たのは、Cクエストを達成するための他に、ルー婆さんがオレを呼んでいると聞いたからだ。昨日ここに見舞いに来たときには、そんなことは言っていなかったのだが。
「なに、あんたに礼をしたいと思ってね」
「礼ならさっき言って貰ったばかりだが?」
「言葉よりも、貰って欲しいものがあるのさ。なんたって、あんたは私の命の恩人だからね」
そう言われると、こちらも断り辛い。
「貰ってください。私の気持ちも、少しだけ入っていますから。私もおばあちゃんが元気になって、嬉しいんです」
マイヤ嬢にまでこう言われては、流石に断れない。
何にせよ、これ以上問答を続けるのも礼を失するだろう。オレは「わかった」と二人に頷いてみせた。
「あんたに貰って欲しいものってのは、コイツさ」
ルー婆さんに促されてマイヤ嬢が持ってきたのは、魔法の杖。それも、一目で高級品とわかるほどの業物だ。
「これは?」
「『魔杖・夜雀』。私の作品さ」
マイヤ嬢が差し出したそれを受け取り、改めて詳細を確認する。
程よい太さの黒い杖芯は黒壇製だ。杖頭部に設えられているのは紅みがかった黒の宝石……いや、これは魔石か? その魔石を黒い羽根をモチーフとした飾りがぐるりと囲んで固定されている。
どちらかといえば禍々しい見た目であるが、何故だろう、凄く心が惹かれた。一言で言えば、「カッコイイ」と思ったのだ。
「気に入ったかい? そいつは5種類の魔法式を入力しておくことができるよ。また、頭の魔石は発現させようとしている魔法の効果を増幅させる機能を持ってる。ま、僅かばかりだがね」
「それは凄いな。だが、いいのか? これは売ればかなりいい金額になるぞ」
魔法の効果を増幅させる機能は、高価な杖ならば必ずついてくるものだ。逆に言えば、その機能がない杖は杖の中でも比較的安価な部類になる。
増幅の強さは魔石の大きさによって変動し、『夜雀』くらいの大きさの魔石ならルー婆さんが言う通り本当に僅かだ。
それでも、この機能を持つ杖を買おうと思えば最低でも7桁もの金額が必要となるため、一般庶民はまず手が出せない。
「言ったろう、これはあんたへの礼だ。私の命を救ってくれたんだ、これでも足りないくらいさ」
オレがルー婆さんを救ったのは、完全に成り行きだった。が、こうして喜んでくれるなら、やってよかったと思う。
「本当に、ありがとう。あんたのお蔭で、もう少し長く生きられそうだよ」
そう言って、ルー婆さんはまた深々と頭を下げる。
それがなんともくすぐったくて、オレはぶっきらぼうに「どういたしまして」と返すのだった。
貰った杖をインベントリにしまって、今後の予定を二人に話した。
「え? この街から出ていかれるんですか?」
この街から出ていくことを伝えた際にこう言ったのは、マイヤ嬢だ。
まるでこの街にずっといて欲しいと言っているように聞こえて、少し嬉しくなる。美人なマイヤ嬢に慕われて、嬉しくないはずがない。
だがオレはゲームのプレイヤーだ。ゲームを進めるため、各地の街を巡らなければならない。目的のない旅ではあるものの、この街はまだ最初の街。まだ行っていない街は、他にもたくさんあるのだ。
自由に生きると決めた以上、まずはこの国の色んな街に赴いてみたいと考えていた。
「ああ、残念だが」
「そうですか……。まだ、ベルゼさんに受けて頂きたい依頼が山のようにあるのですが」
「……そ、そうか」
どうやら残念なのはオレの頭の方だったようだ。
シュンとした表情をするものだから寂しいのかと思ったら、依頼が消化できなくなって困るからだなんて、哀しめばいいのか呆れればいいのかわからないな。
「そのうちこの街に戻ることもあるだろう。その時に、また依頼を受けるから」
「絶対ですよ!」
必死な様子が可愛らしいが、その理由が仕事のためとは……、この娘の将来は大丈夫だろうか?
まあ、オレが心配することでもないか。
「またいつでも訪ねて来な。大したもてなしはできないが、歓迎するよ」
孫に向けるような目をしたルー婆さんにそう言われ、胸が暖かくなる。
ガイストの英雄譚のように人助けができて、オレも嬉しいのかもしれない。
「ああ、その時は世話になろう」
そんな挨拶を交わし、二人に暇を告げる。
旅立つのは明日の予定とは言え、まだまだやることはいっぱいだ。まずは、新しい杖の性能を確認しておこうか。
ルー婆さんの家を後にしたオレは、貰った杖の性能を確認するべく北風の森に来ていた。
もちろん、人目のないところで《転移》を使用したので、所要時間はごく僅かだ。
今オレがいる場所は、ヨウマ草が群生していた泉の近く。あのブロンズエイプと戦った場所でもあった。
杖にはすでに5種類の魔法式を入力してある。戦闘準備を整え、オレは獲物を求めて歩き出した。
ゴブリンでもカッパーエイプでも、魔法の的になればなんでもいい――そんなことを考えていると、やがてオレの【気配感知】がモンスターの気配を捉えた。
警戒しつつその方向に近付いていく。気配は複数あり、一箇所に集まって何かしているようだった。
気配の正体はおそらくゴブリンだろう。集まっているのは、作戦会議か獲物の分配のためと予想できる。
離れた茂みから彼等の様子を伺うと、5匹のゴブリンがモンスターの残骸を取り囲んで食事に耽っているところだった。
(うげ、ゴブリンたちが貪っているのって、ファンガスだよね? グロ耐性ないからやめてほしいんだけど)
あれも自然の摂理だ。見たくないなら目を閉じていろ。
(ディアと視界を共有してるから無理なんだよ!)
ああ、「自分は目を閉じている」と思えば目を閉じられるはずだぞ。
(えっ、ホントに!?)
……嘘だ。
(うおい!)
冗談はさておき、数が5匹なのは丁度良い。魔法式を少し変えて、一撃確殺の魔法5種類にしよう。
5種類の魔法を連続で発現させて、反撃する暇を与えず制圧すれば、さぞ気持ちいいだろうからな。
パパッとエディタを弄り、魔法式を改変する。威力向上に加え、命中精度も上昇させた。代わりに必要魔力が増加したが、オレの全魔力量からすれば誤差みたいなものだ。
改変が終わったら、ゴブリンたちに気付かれないよう慎重に杖に魔力を注ぐ。
滅多にいないが、魔力感知に長けたモンスターは杖に注いだ魔力を感じ取って危険だと判断するとその場から逃げ出すらしい。
あのゴブリンたちの中にそういう能力を持つ者がいる確率は低いが、万全を期して損はないだろう。
5種類の魔法を連続使用できるだけの魔力を注いだら行動開始だ。
『魔杖・夜雀』の先端を最も近くにいるゴブリンに向ける。だいたい20メートル程離れているが、これくらいならば問題なく魔法の射程圏内だ。
最後にもう一度奇襲の手順を確認して、オレは意思を込めて魔法を発現させた。
「《火炎槍》」
最初に使用したのは【火魔法】の《火炎槍》。
これは高温の炎を操って槍を形成し、対象に向けて放つ魔法だ。放たれる速度は同じ【火魔法】の《火の矢》ほどではないものの、ゴブリン程度なら容易く葬る威力を秘めている。
「げぎゃ!?」
何より、この魔法は貫通力が高い。ゴブリンの頭部に命中した炎の槍は、その爆炎を周囲に撒き散らしながら頭蓋を貫通して地面に突き立った。
頭蓋を貫かれたゴブリンには、何が起きたのかすらわからなかったことだろう。そのまますぐに、光となって霧散した。
「続けて……《風圧鎚》」
仲間の一匹が突然出現した炎の槍にやられ、他のゴブリンはパニックになっているようだった。
そこに追い討ちをかけるように、圧縮された空気の鎚が振り下ろされる。
「ごぎゃっ!」
【風魔法】の《風圧鎚》は、おおよそ10キロLもの空気を瞬時に圧縮して放ち、鋼鉄板をも軽く凹ませる程の威力を持つ。
振り下ろされた空気の鎚の下にいたゴブリンは、全身の骨ごと粉々に砕かれ、数瞬後には光の粒子に変わっていった。
「《放電雲》」
どこからともなく現れる強力な魔法に恐怖を抱き、残る3匹のゴブリンはいてもたってもいられず逃げ出した。
だがすぐに、逃げ道はないとばかりに次の魔法が彼らを襲う。
【雷魔法】の《放電雲》は、見た目は小さな黒雲だ。だが見た目で侮ることなかれ。その内に蓄えられた雷は、黒雲に触れた相手の身体を内側から焼き焦がす。
「ぎ、ぎゃー!」
帯電した小さな黒雲が、逃げ出すゴブリンの一匹に追い縋る。その黒雲にゴブリンが触れた途端、激しい稲妻が黒雲の内側から迸った。
高圧の電撃にその身を晒したゴブリンは、数秒後には焼死体となって森の中に消えていった。
「《重力球》」
3匹目のゴブリンを倒す間にも、オレは次の魔法を発現させていく。
4つ目の魔法は【重力魔法】の《重力球》だ。見た目はただの黒いボールであり、大きさも精々が赤ん坊の頭程度しかない。
けれどそれを逃げるゴブリンに放った瞬間、すぐに異常が現れた。
そのボールの進路上にあった木の枝や草が、まるで人の手で毟り取られたかのように歪に抉られていたのだ。
あの黒いボールは超重力の塊であり、それに触れたものを球体の内側に取り込み圧縮してしまう。
「ご、が……?」
結果、周囲を抉りながらもなお勢いを失わないそれに当たったゴブリンは、直後、そのボールと同じ大きさの風穴を身体に穿たれて死亡した。
「《空断裂》」
最早最後の一匹となったゴブリンだが、彼が逃げ出した方向は3匹の中で一番運が悪かったと言える。なにせ、オレのいる方向に向かって来たのだから。
あるいは、この奇襲を仕掛けた魔法使いに一矢報いようとしていたのかも知れないが、生憎オレはそこまで愚図じゃない。
【空間魔法】の《空断裂》は、指定した空間に断裂を作る魔法だ。物理、魔法を問わず、作られた断裂はあらゆる事象を引き裂く。
その断裂に巻き込まれたゴブリンも例外ではなく、その身を縦にスッパリと引き裂かれて、悲鳴を上げることなく息絶えた。
ふむ、やはりゴブリン程度だとこんなものか。
(というか放つ魔法がどれも強力過ぎるんだよ。特に最後の魔法なんか、どうやって防げっていうのさ)
そんなの簡単だ。予め使われるのがわかっているなら、断裂を作られないように空間を固定してしまえばいい。あるいは防げないと割り切って回避に専念してもいいぞ。
初見で見抜くためには対空間魔法知識と相応の経験が必要だが、それもそこまで難しい問題じゃないさ。ウィゼットたち高位の魔法使いや、戦い慣れた魔法使いなら、余裕で躱して反撃までしてくるだろうな。
そんなことより、次に行くぞ。魔法を入れ替えて、この杖の扱いに慣れないとな。
(うん、そうだね)
それからしばらく、様々な魔法式を杖に入力してはモンスター相手に試してを繰り返した。
【水魔法】の《氷飛針》は、細長く形成した氷の針を連続で飛ばす魔法だ。一発一発にはそれ程威力は望めないが、圧倒的な連射を相手に叩き込む。
この魔法を使ったのは、複数のブラックバットに襲撃された時。飛びかかってくるブラックバットたちに対して氷の針を掃射して、片っ端から撃ち落としてやった。
【土魔法】の《陥没穴》もなかなかに面白い魔法だ。いわゆる落とし穴を瞬時に作成する魔法であり、特性上範囲魔法に分類される。
穴の深さは約30メートルに達し、空を飛べない限りは二度と上がって来られない。まあ、穴の底に叩き付けられて再起不能になるのが先だろうが。
【光魔法】の《陽光雨》は、さながら頭上から降り注ぐ光の雨だ。その一滴一滴が凄まじいエネルギーを持っており、枯れた大木を貫いた時などオレでさえ驚いた。
森に潜む大多数のモンスターは隠密技能を持っている。熟練度が低いオレの【気配感知】に引っかからずイライラしたため、この魔法で周囲一帯を一掃してやった。
他にも【闇魔法】の《影縛手》や、【自然魔法】の《棘蔓鞭》、【音魔法】の《轟震音》など、癖はあるが強い魔法を試したりもした。
森のモンスターを狩り尽くす勢いで進んでいたため、後続のプレイヤーに迷惑をかけていないか心配だ。そのときは、そっと《転移》を使って脱出しようと心に決めた。
森のモンスターに由来する素材も数多く集まっている。一部のプレイヤーが森のモンスターのドロップアイテムを市場に卸しているためそこまで珍しくはないが、この量を一度に卸すと流石に目を引くだろう。
オレの実力を知っているオリヒメやキンバリーになら卸しても良さそうだが、相場通りの価格だとオリヒメたちの方が破産しかねない。
結局、問題ない数を市場に卸した後は二束三文でNPC売りするしか無さそうだ。金には困っていないから、別に構わないと言えば構わないのだが。
その後、昼を跨ぐ頃には狩りを終えて、オレは街に戻ったのだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回の更新は08/20(日)の予定です。
『魔杖・夜雀』はルー婆さんの作品なのでユニークアイテムです。
ユニークアイテムは世界に一つだけのアイテムですが、だからといって別段優れた能力があるわけではありません。
“同じものは他に一つとして存在しない”程度のものと考えてください。
※2017/08/14(月) 一部の表現を修正しました。




