第9話 それは一つのエンターテインメント(2)
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銀髪の美少女、サフィアから決闘を挑まれたオレは、三本勝負の一本目で、《暗闇》という闇属性魔法を使用して彼女の視界を奪い、杖による殴打で勝利を収めた。
それと同時に、周りのプレイヤーから歓声が沸き起こる。
「すげえ!」
「今、あいつは何をしたんだ?」
「《暗闇》って魔法を使ったっぽいけど、お前知ってるか?」
素直に賞賛する声、驚きを表す声、疑問を投げかける声。
様々な声が聞こえるが、まだオレとサフィアの勝負は続いている。
この決闘は三本勝負。負けるつもりは更々無いが、まだ完全には彼女の実力はわかっていない。油断は禁物だ。
オレは歓声に応えることなく、こちらを可愛い顔で睨みつけているサフィアに視線を返す。
「卑怯だ、とは言わないわ。これは勝負だもの、ルール違反でない限り、今のは私の負けよ」
「……どうも」
納得はしてないけど、とあからさまに顔に書いているんですがそれは。
その声音から、一本目を取られたことの悔しさが滲み出ている。
「でも、まだ一本取っただけよ。調子に乗らないほうがいいわ」
「そんなつもりはないんだが……」
おまけに負けず嫌いときた。
なんやかやと理由を付けて負けを認めないような輩でないことを祈る。元の世界の貴族にいたのだ、そういう面倒な者共が。
ともあれ、一本目はオレの勝ちだ。続く二本目も勝って、さっさとルー婆さんの家に行きたい。
「最初は小手調べの予定だったけど。あなたは私の予想よりも強い。だから次は全力でやるわ」
「なら、オレはその更に上をいこう」
(負けず嫌いなのはお互い様じゃないのかなぁ……)
何か言ったか、浩輝?
(なんでもないよ。それより、次も《暗闇》で行く?)
まさか。あのサフィアという少女、ところどころ言動が残念なところはあるが、地頭は良さそうだぞ。
きっともう、《暗闇》への対抗策を練り上げているに違いない。
だから、次は別の魔法を使うつもりだ。
掲示板で紹介した各種基本魔法の中で、他と系統が異なる効果を生むものは闇属性以外にもいくつかある。そのうちの一つをオレは杖に入力して、再びサフィアと対峙した。
「いくぞ」
今度はこちらから決闘の申請を送る。申請はすぐに了承され、間もなくカウントダウンが始まった。
(彼女、今度はどんな魔法を使ってくるかな?)
それについては、ある程度予想はできている。
《暗闇》に対する魔法はあるにはあるが、それを選ぶことはないだろう。この決闘では決闘前に使う魔法を入れ替えるから、1つの魔法の対策のために1つしか使えない魔法の枠を潰すのはもったいない。
だが、完全にその可能性を捨てきることはできないため、彼女は魔法以外の手段で《暗闇》に対策してくるだろう。
《暗闇》は任意の位置に暗闇を発生させる魔法だ。常に動き回っていれば例え《暗闇》を使われても視界を奪われるのを回避できる。
ならば先程のオレのように近接攻撃に打って出るか、動きながらでも狙いを付けられる追尾系の魔法が順当だ。
(でも追尾系の魔法はまだ掲示板に載せてないよね? そうなると、自力で開発でもしていない限り、近接攻撃が狙いになるかな?)
その通りだ。
そろそろカウントダウンも終わる。一気に片付けるぞ。
3、2、1――
「ッ!」
カウントがゼロになり、動き出したのは同時だった。
サフィアはオレに近付くため、こちらに向かって来る。対してオレは彼女から距離を置くため、バックステップで後ろに下がった。
「逃げるな! 《強化》!!」
サフィアの凛とした声で魔法名が宣言される。
彼女が発現させたのは、【身体魔法】の《強化》だ。
自身の身体能力を微増させるこの魔法は、ブルブルに教えた《筋力増強》の下位互換となる。
けれど、《筋力増強》が自身の筋力のみを強化するのに対して、《強化》は筋力のみならず強靭さや敏捷性をも強化することが可能だ。
ちなみに、《筋力増強》の魔法式の一部を変更することで敏捷のみを強化する魔法式も作れるのだが、まだ他のプレイヤーは誰も気付いていないようだ。
(近接攻撃を与えるため、自身の移動力を強化してきたのか。ディアの予想通りってとこかな?)
輝く銀髪を翻して、サフィアが疾駆する。
風に靡いた銀髪が後ろに流れる様は、さながら銀の彗星を思わせた。
こんな場面でなければ、いくらでも彼女の容姿を眺めていたい。
見る見るうちに彼女との距離が詰まるが、オレは焦ることなく自分の魔法を発現させる機会を窺う。
チャンスはたったの一度。この魔法は特性上、ネタが割れてしまえば回避は容易い。
確実に勝つためには、彼女の隙を見逃すわけにはいかなかった。
「これで!」
サフィアが近付き、気迫に満ちた声を上げる。もう彼我の距離は杖一本分に届こうとしており、すぐそこに彼女の端正な顔が見えた。
彼女の狙いは近接攻撃。杖の一撃を当て、勝利することが目的だ。けれどそう易々と勝利をくれてやるわけにはいかない。
元魔王としては、魔法を覚えたてのヒヨっ子などに、三本勝負の一本足りとも負けるわけにはいかないのだ。
オレは魔力の充填を終えた杖を構え、彼女が杖を振り被ったタイミングで魔法を発現させた。
「《障壁》」
それは【空間魔法】に該当し、任意の空間に見えない壁を設置する。
通常は遠距離から放たれる魔法を防ぐために使用されるが、今この状況では別の効果を発揮する。
見えない壁が、その字面から正面にだけ現れるものと彼女が考えているならば、これの回避はできないはずだ。
オレの魔法の宣言を聞き、走りながらオレの正面に現れたであろう壁を回り込もうとしたサフィアだが――
「がっ!?」
突然腹に受けた衝撃に、身体をくの字に折れさせた。
《強化》を受けて増加した勢いは殺し切れず、身に纏った衣服を乱れさせながら転倒する。惜しい、もう少しでスカートの中が見えたのだが。
これだけでは一撃を与えたことにならないかもしれないと考えて彼女に近付こうとしたが、その前にオレの視界に「Winner!」の文字が表示される。
ま、あれだけ派手に倒れては、その判定もやむなし、といったところか。
オレのしたことを端的に表すならば、走り込んできたサフィアの腹の位置に小さな《障壁》を設置しただけだ。
自らその不可視の壁に勢いよく突っ込んだサフィアは、腹を殴られたような衝撃をその身に受けたに違いない。
《障壁》は基本的に防御時に使用する魔法だが、小回りの利く魔法でもある。
質量がある訳ではないのだが、魔法の力で空間を固定するため、魔法と物理の両方を通さない鉄壁となるのだ。もちろん、空間を固定する力を上回る力で衝撃を与えられると《障壁》は解けてしまうが、人一人を物理的に受け止めるくらいなら何も問題はない。
その効果を余すことなく把握して使いこなせば、こういった攻撃にも転用できるのだ。
「うおおー! 男の方が勝ちやがった!」
「二本先取だから、彼の勝ちだわ!」
「イケメンは爆ぜろ!」
「《障壁》にあんな使い方があったなんて……!」
一部意味不明な歓声もあるが、周りのプレイヤーの中にも、オレが何をしたかわかった奴がいるようだ。
オレは掲示板で基本的な魔法式の作り方を講義したが、それを鵜呑みにするだけでは真の魔法使いとは呼べない。
今のように、防御の魔法を攻撃に転用することすら可能なのだ。
全ての魔法は使い方次第。この決闘を見てオレの使った魔法を少しでも理解した奴は、今後もっともっと成長するだろう。
それこそ、オレが望む『オレが知り得ない魔法式』を生み出すことにも繋がる。
このサフィアという少女も、今は公開されている魔法式しか使っていないが、やがて自力で強力な魔法式を生み出すことだろう。その時には、オレが『魔法先生』だと教えてもいいかもしれないな。
当のサフィアは、オレに負けてからじっと動かないでいる。
流石に地面に倒れたままではないが、膝を折ってそこに顔を埋める様は、なんというか見ていて痛々しい。乱れた着衣もおざなりに直されたのみで、一部は彼女の白い肌が隠しきれていなかった。
負けたことが余程悔しいのか、よく耳をこらせば小さな嗚咽さえ聞こえる。
「お、おい……、大丈夫か?」
今声をかけなければ壊れてしまうのではと思うほどに、彼女の様子は哀れに見えた。
オレの声に反応してビクリと肩を震わせ、やがて細い声で返答する。
「ひぐっ……だ、いじょう、ぶよ。なんてこと、ずびっ、ないんだから……!」
そう言う割には、全然大丈夫に見えないのだが……。
かと思った瞬間、サフィアは突然立ち上がった。
泣き腫らした顔でこちらを睨み付け、片手の人差し指をこちらに向けた例のポーズで宣言する。やっぱりそのポーズ好きなんだな。
「ぐすっ……次は、負けないんだから! だから……フレンド申請は後で送るわ……」
それだけ言うと彼女は踵を返し、人混みをかき分けて(どちらかと言うと人垣の方が退いていたが)街の方に去って行った。
なんだかなぁ……。
やがて興味を失ったのか周囲のプレイヤーたちも各々の目的のために散っていき、オレはその場に取り残された。
まだ何人かその場に残っているが、もう彼らは仲間たちとの会話に夢中になっておりオレのことなど些かも気にしていない。もう少し何かあるのではと期待していた自分が馬鹿みたいだ。
(まあ、こんなものだよ。みんな、このゲームをプレイするためにここに来ているんだからね)
浩輝がそう言うなら、そうなんだろう。
さて、気を取り直して、ルー婆さんの所に行くか。
さっきの決闘騒ぎで、結構時間を食ってしまったからな。
街の中に戻ると、雑多な喧騒がオレを出迎えた。
それほど大きな街ではないのにこんなに賑やかな雰囲気となっているのは、ゲームのプレイヤーがなだれ込んできたからだろう。
様々な種族が街を闊歩し、至る所で彼らの会話が聞こえる。
4、5人が集まり膝を突き合わせているが、会話が一切聞こえてこない奴らもいた。彼らは傍目には何も話してないように見えるが、パーティチャットを使っているだけなんだとか。
オレはまだパーティを組んだことがないため、これは浩輝からの聞きかじりだ。いつかはオレも、他人とパーティを組んでゲーム攻略に乗り出すのだろうか。あんまりその様子が想像できないな。
街中の様子を観察しながら歩いていると、やがて通い慣れた魔道具職人の家が見えてきた。一人で住むには些か大きいが、木造建築の家屋はそれだけでいい味を出している。
勝手知ったるなんとやら、扉を開いて中に入ると、部屋の中から話し合う声が聞こえてきた。この声はルー婆さんとマイヤ嬢か?
二人を驚かせないように、部屋を開ける前にドアをノックする。
「おい、来たぞ」
「あ、ベルゼさんですね。はい、入ってもいいですよ」
中から元気なマイヤ嬢の声が聞こえたので、ゆっくりとドアを開けて入室する。
座って話していたようで、二人ともこちらを見上げるような形になっていた。
ルー婆さんの顔色は随分良くなったように思う。この分なら1、2週間もすれば元の生活が送れるようになるだろう。
「調子はどうだ? その顔色を見る限り、問題はなさそうに思うが」
「ああ、随分と体調は楽になったよ。寝てばかりだったからか、少し体力が落ちているけどね」
そう答えるルー婆さんは、やはりまだまだ本調子でないことが伺えるが、それでも最初にあった頃に比べれば雲泥の差だ。
最初は目を合わせて話すことさえ辛そうだったのに、今は目を合わせた上ではきはきと喋れてもいる。
その様子を、マイヤ嬢も目を細めて嬉しそうに眺めていた。
(元気になって、本当に良かった)
浩輝もなんだかんだと気にしていたみたいだったからな。もちろん、オレも知人を失うことにならなくて本当に良かったと思っている。
「あともうしばらくは栄養のある食事と、適度な運動をして過ごすことだ」
加えて、オレの見立てならば1、2週間で元の生活に戻れるだろうということも伝えておく。
それを聞いて、二人とも目を潤ませて礼を言ってきた。なんだかこういうのはくすぐったいな。
<C5:魔道具職人の病を癒せ(5/5)>
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回の更新は2週間後の08/13(日)の予定です。




