第7話 魔法の先生
やっとヒロイン登場です。
彼女の魅力をどれだけ読者の皆様に伝えられるか、不安ではありますが、どうぞよろしくお願いします。
魔法使いギルドで衰魔病の特効薬についての情報を話した後、それに対する報酬と、魔法使いギルドの登録証の更新を行った。
これにより、オレは100万ユルドという大金を得て、全属性適性者であることを隠すことが可能となった。
ギルドマスターの婆さん――ウィゼットに感謝を伝え、オレは魔法使いギルドを出る。
さて、意図せず大金が手に入った訳だが、これからどうする?
(元々ここには、金策のためにクエストを受けに来たんだよね? でも、特効薬の情報提供でまとまったお金が手に入った。だからクエストを受ける必要はもうないんだけど……)
けど?
(ディアは、気にならない? 魔法使いギルドが出しているクエストが、どんなものか)
む? 魔法使いギルドで扱っている依頼というのは、大抵が町人の困り事だぞ。対して面白みがあるものではないが……。
(でもさ、それって魔法を使うことを前提とした依頼でしょ? 街中で受けられる依頼と違って、魔法なしでもなんとかなるものじゃないよね)
それはそうだ。
(ならやっぱり僕は気になるな。どんな依頼があるのか。それに対して、ディアや他の魔法使いがどんな解決を見せてくれるのか)
……ふむ、いいだろう。
ならとんぼ返りして、依頼の受注だな。
◆ ◆ ◆
それから、4日が経った。
オレは街中で受けられるクエストと、魔法使いギルドで受けられるクエストを片っ端から消化した。
この4日の間の出来事について、説明しようと思う。
まず、ルー婆さんの容態が回復した。
動けなかった期間が長かったため、まだリハビリが必要ではあるが、衰魔病の影響はほぼなくなったと言える。
毎日見舞いに行って様子を見ていたし、完全に元気になるのも時間の問題だろう。
Cクエストを完了させるためには、あと1回ルー婆さんに会う必要があるので、明日最後の見舞いに向かうつもりだ。
その後のことは、実は近所住まいらしいマイヤ嬢に任せよう。
次に、この街でやるべきことがなくなったため、明日にでもオレはこの街を発とうと思っている。だがそのためには、とある条件をクリアしなければならない。
オレは知らなかったのだが、この街から他の街に行こうとすると途中で検問があり追い返されていたらしい。
この街から行けるのは水の街か火の街だが、その両方共が検問を通過しないと行けないと言うのだ。
なんでも、魔法も満足に使えないような魔法使いを、危険なモンスターが出る街道には出してやることはできない、だそうだ。
検問を通る条件について掲示板上でいろいろな議論が交わされていたのだが、つい先日、やっと条件が判明した。
それは、この街のSクエストをクリアしていること、らしい。
Sクエストのクリア条件の中には、魔法式を作成して使用しないと次に進めないものがあるそうだ。
だが、先日までプレイヤーたちは誰も魔法式を作れなかったため、目的となる魔法を使えず、次に進めないでいた。
ところが、先日オレがオリヒメと協力して魔法式に関する講義を行った結果、ちらほらとSクエストをクリアする者が出始めたそうなのだ。
そのSクエストをクリアした1人のプレイヤーが水の街へ向かう途中の検問を訪れた結果、通ってよしと言われたため、判明に至ったのだとか。
同じように火の街に向かう方の検問にも行ったらしいが、そちらは通過許可が降りなかったと聞いている。まだ何かの条件を満たしていないのだろう。
というわけで、オレもこの街のSクエストをクリアし、次の街……水の街ヴィタレントを目指すことになったというわけだ。
ああ、それと、オリヒメに頼んでいた青銅猿の毛皮を使った防具を受け取ったことも説明しておかないとな。
今オレが身を包んでいる防具は、有り余る金と1ランク上のボス級モンスター、ブロンズエイプのドロップである青銅猿の毛皮を使って作製されたものだ。
青銅猿の毛皮で作られたのは、深い緑色の革のコート。この街で手に入る防具のどれよりも高い防御性能を誇る。無論、金属鎧も含めて、だ。
その下には、オリヒメから購入したユルドフェルシル風の黒いシャツを着込んでいる。ズボンの方も暗めの紺色にして、全体的に暗色系で揃えた。どうにも明るい色はオレの好みではない。
浩輝は逆に暖色系の方が好きなようだが、アバターであるベルゼにはこの方が似合うと太鼓判を押してくれた。
そしてそれらを着た今のオレのステータスは、以下のようになっている。
■ステータス
体力:3000
魔力:8700
攻撃力:2100(+200)
防御力:1800(+1500)
移動力:2100(+300)
演算力:8000
抵抗力:5500(+500)
※カッコ内の数値が武器、防具の補正値。
特筆すべきはその防御力か。コートだけで+900の補正値を叩き出しているので、そのハイスペックさが浮き彫りになっている。
ちなみに、アビリティはこんな感じだ。
■アビリティ
【体力】:30(4↑)
【魔力】:87
【筋力】:21(3↑)
【強靭】:18(2↑)
【敏捷】:21(4↑)
【知力】:80
【精神】:55
【無属性魔法】:61
【火魔法】:72
【水魔法】:74
【風魔法】:75
【土魔法】:71
【光魔法】:73
【闇魔法】:63
【雷魔法】:62
【音魔法】:60
【重力魔法】:65
【付与魔法】:58
【身体魔法】:54
【創成魔法】:67
【精神魔法】:69
【空間魔法】:70
【合成魔法】:56
【自然魔法】:61
【治癒魔法】:59
【呪霊魔法】:47
【剣】:12(4↑)
【杖】:45(1↑)
【服】:24(3↑)
【軽鎧】:29
【耐毒】:14
【耐沈黙】:41
【火耐性】:45
【水耐性】:51
【風耐性】:49
【土耐性】:44
【光耐性】:53
【闇耐性】:52
【雷耐性】:42
【音耐性】:39
【言語解読】
【魔力感知】:60
【気配感知】:15(3↑)
【鑑定】:18(4↑)
【収納】:16(4↑)
また、【剣】のアビリティが10になった時に、新たなスキルとして〈弐の型・胴薙ぎ〉を習得した。
〈弐の型・胴薙ぎ〉は、剣を構えた状態から一息で横一文字に斬撃を放つ小範囲攻撃だ。前方のみだが、魔法以外の範囲攻撃が手に入ったことで戦闘の幅が広がった。
これなら、モンスターに囲まれても多少は大丈夫だろう。
さて、この4日間の出来事はこれくらいか。
他にもいろいろ些事はあったが、概ね問題らしい問題はなかったように思う。
あとはCクエストの完了と、この街のSクエストのクリアを残すだけだ。
その日、事件は唐突に起きた。
「見つけたわ!」
「うん?」
ルー婆さんに会いに行こうと街中を歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
直後、こちらに近付いてくる気配が一つ。
足を止めて振り返ると、どこかで見たことのある少女が目の前にいた。
陽光を受けて輝く白銀の髪。忘れることはできない程に整った顔立ち。やや童顔ながらも、その可憐さは見間違えるなどあり得ない。
暗闇の中で見たときよりも、彼女の衣服は際立って見える。なにせ、明らかに浮いているのだ。悪い意味でなく、良い意味で。
華奢な身体を包む白を基調とした衣装に、スカートからスラリと伸びる細い足は白磁のよう。それでいて、歳相応の女性らしさを感じさせる上半身は、至って柔らかそうな膨らみを有している。
周囲のプレイヤーたちも、何か始まるのかと足を止めたり、彼女の美貌に息を止めて立ち止まったりしている。
思わずじっと見つめてしまう程には、彼女の容姿は優れていた。
(確か、あの時の……)
浩輝も覚えているだろう? ゲーム開始初日、北風の森から帰って来た際に出会った少女だ。まさか、オレのことを覚えていたのか?
(というか、さっき『見つけた』って言ってなかった? ベルゼを探してたってことじゃない?)
む? 確かに言ってた気がするな。
だが、オレを探す理由が不明だな。あの時、オレは彼女に何かしただろうか?
「あなたのことね!? 掲示板で噂されている、『魔法先生』とやらは!!」
「……は?」
この娘、いきなり何を言い出すのか。
ほら見ろ、周りがざわつき出してしまったぞ。
「『魔法先生』って……あいつが?」
「人違いじゃない? だって『魔法先生』って運営の人でしょ?」
「だよな? ゲーム内にいるはずないもんな」
「なんだ、あの子の勘違いか」
……周りは彼女の言葉を真実とは受け取っていないようだ。
実際、不本意だが『魔法先生』とはオレのハンドルネームのことで合っているんだがな。
オリヒメとキンバリーに、このように付けさせられたのだ。
(『魔法先生』……うん、風魔法で女生徒の服を木っ端微塵にしそうな名前だ)
おいやめろ。
オレはそんなことはしない!
(でもやろうと思えばできるんですよね?)
……それより、今はこの銀髪少女のことだ。
(誤魔化したよね? まあいいけどさ)
「いや、違うが……」
「そうね、この場ではあなたはそう言う他ない。だから」
その銀髪少女は、ワナワナと震えるように片腕を持ち上げ、その指先をオレに指し向ける。
「勝負よ!」
ただ一言紡がれたその言葉が、未だ周囲に残っていた他のプレイヤーたちを色めき立たせる。
こと勝負と言えば数あれど、このゲーム内で現在実行可能な勝負と言えば一つしかない。
「決闘だ! 決闘が始まるぞ!」
つまりは、PvP。
魔法と魔法が交差する、一つのエンターテインメントだ。
「どうしてこうなった……」
ここは風の街の南門を抜けてすぐそこのだだっ広い平原だ。名をストラウト平原という。
今、この平原には二十とも三十とも言える数の野次馬が集まり、これから行われるエンターテインメントを心待ちにしていた。
ざわざわと騒々しい周囲を視界に捉えつつ、オレは目の前の元凶に視線を向ける。
オレに対峙するのは、綺麗な銀髪を持つ可憐な少女だ。
年の頃はわからないが、二十歳にもなっていないように思う。
彼女はその手に木製の杖を携え、不敵な笑みを浮かべてオレに向き直った。
「まずは自己紹介するわ。私はサフィアよ。『魔法先生』の名はなんというのかしら?」
「オレはベルゼだ。その『魔法先生』というのをやめてもらえないか。何の証拠があってオレをそう呼ぶ?」
「何? 惚ける気なの? まあいいわ、教えてあげる」
自信満々に宣言しているところ申し訳ないが、例え十分な証拠があったとしても、認めてやるわけにはいかないのだが。
わざわざ匿名でやっているのだから、『魔法先生』が身バレを避けたいと思っていることは察しがつきそうなものだ。
その正体を暴こうとする心理は理解できなくもないが、その前に横たわる問題が1つある。
他のプレイヤーが言っていたように、あれだけ詳細な魔法式の解説ができるならば、普通プレイヤーだとは思わずこのゲームの運営側の人間だと思うはずなのだ。
何せ、誰も今まで、満足に魔法を使えなかったのだから。
「『魔法先生』はプレイヤーである。私がこう思った理由は簡単よ。それは、運営側の人間が、わざわざ掲示板を利用するメリットがないから、よ」
「どうしてメリットがないと言い切れる?」
「だって、運営側ならあの程度の情報はいくらでも発信可能なのよ? 公式サイトに載せるでもいいし、チュートリアルを追加で実装してもいい。むしろなぜ公式サイトに載せていないのか、疑問ですらあるわ」
確かに、このゲームの運営には不明な点が多くある。今このサフィアという少女が言ったように、このゲームの根幹とも言える魔法式の作り方を公開していないことが最たるものだ。
これを聞いた周りのプレイヤーも、納得したような表情を浮かべている。同時に、頭に浮かんだ疑問をさらに他のプレイヤーと共有しようとしているようだ。
「……掲示板は、所詮掲示板でしかないわ。そこに書かれた情報は、正しいとは呼べない紛い物。いくら真実の情報を多分に含んでいたとしても、ね」
(公式サイトに載ってない情報以外は信じない、って言う人も世の中にはいるもんね)
「君がそう思った理由はわかった。なら、そのプレイヤーがどうしてオレだと思ったんだ?」
「自分が『魔法先生』だって、認める気になったの?」
「いや、話は最後まで聞いてから判断したいと思ってね」
「ふ~ん? いいわよ。私が『魔法先生』があなただと思った理由……それはね」
サフィアという少女はそこまで言って、 ズビシッ! と音がしそうな勢いで、オレに向けて指先を伸ばす。好きなんだろうか、そのポーズ。
よほどその理由に自信があるのか、顔には不敵な笑みを浮かべて、彼女は高らかに宣言した。
「他のプレイヤーが持っていない珍しい装備を持っているから、よ!」
ざわついていた周囲が、静まり返った。
(……もしこれがマンガだったなら、『し~ん……』とか背景に効果音が書かれるんだろうなあ……)
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回の更新は2週間後の07/23(日)の予定です。




