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元魔王が異世界でMMOを極めます!?  作者: renren
第3章 クエスト
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第2話 取引

あの人たちが再登場

 ルー婆さんの家を後にしたオレは、オリヒメに連絡して今から行く旨を伝えた。

 オリヒメは丁寧な言葉で「昨日と同じ場所にいます」と返してくれたが、これがキンバリーだったなら、あの間延びした声で「わかったわ~」と答えるだけになっていただろう。

 オリヒメとキンバリーが営む妖精の紡ぎ車は、昨日一日で掲示板に情報が挙げられるほどの人気店になっていた。

 それもそのはず。彼女らにはオレが教えた《鋭利化(シャープライ)》と《頑丈化(タフライ)》の魔法がある。聞くところによるとこの街の武器屋の質は低いようなので、切れ味が鋭くなる《鋭利化(シャープライ)》や耐久力を向上させる《頑丈化(タフライ)》といった魔法はまさに打って付けというわけだ。

 そしてオレは、彼女らにそれらの魔法を教える対価に、彼女らの商品を常時2割引で購入できる特権を得ている。この特権を有効活用しない手はない。


 さて、彼女らの店に行く用件だが、まずはサブウェポンとして購入した鉄の短剣の修理依頼だ。

 この短剣は昨日買ったばかりなのだが、北風の森でカッパーエイプと戦闘した所為で耐久値が限界に達してしまった。

 その原因はひとえにオレの油断と接近戦の経験不足である。これを作ったキンバリーにはいろいろ文句を言われるかもしれないが、精々甘んじてそれを受け入れようと思う。

 そして、オリヒメにはブロンズエイプのドロップである『青銅猿の毛皮』を見せる予定である。これで新しい衣服を作ってもらえないか交渉するのだ。

 北風の森のモンスターは平原のモンスターよりも強いので、そのモンスターの素材から作られるものも相応の強さになるだろうと予想している。


(あ、そうだ。その『青銅猿の毛皮』だけど、いきなり目の前に出したらダメだよ)


 ん? それはなぜだ?


(多分、それはこのゲームで初めて出たレアアイテムだ。それを他に持っている人はいない、僕たちだけが持っているアイテム。その希少性から、欲しがる人はたくさんいるだろう。もしくは、それを入手した場所についてしつこく聞かれるかもしれない。そんなの面倒なだけだろう?)


 ふむ。確かに。


(あとは、そういうレアアイテムを持ってるって知られると、PKに狙われる可能性が高くなる。まだそんなことをしている人はいないと思うし、狙われたところでベルゼのステなら返り討ちにもできるだろうけど、なるべくなら狙われたくない。PKされはしなくても、アビリティか何かで盗まれてしまう可能性はあるからね)


 なるほど。PK……プレイヤー・キラーというんだったか? 厄介な人間もいるのだな。


(システム上そういう行為ができるかどうかはまだ明確にはわかっていないけど、もしできるとしたらそれができることを他人にバラしたりもしないだろう。普段から気を付けておくに越したことはないね。だからこれを見せる場合は、どこかの屋内でとか、他人の目が入らない場所がいいかな)


 浩輝の忠告は尤もだ。素直に頷いて、さてどういう文句で依頼を切り出そうかと考えるのだった。




「あ、ベルゼ~、いらっしゃ~い」


 間の抜けた声音がオレを歓迎すると同時、好奇の視線がオレに向けて放たれる。

 オリヒメとキンバリーの妖精の紡ぎ車は、オレと浩輝の想像通り、たくさんの人が押しかけていた。

 そんな中、押し寄せる人の波の中から目敏めざとくオレを見つけたキンバリーが発した声が、先程のそれだ。


「……お買上げありがとうございました。またお越しください。……ごめんなさい、ベルゼさん。もうしばらく待っていただけますか」


 それに対し、オリヒメのなんと丁寧なことか。

 オレが店に近付いてきているのを視界で捉えつつも、目の前の客への対応を中断せず、しっかり最後までお礼を言って頭まで下げていた。流石、接客業というものを良くわかっている。


「ああ、構わない」


 簡潔に答え、オレはその場を少し離れた。

 こちらも客ではあるが、どちらかと言えば友人に近い。別段急ぐ用事でもないし、彼女らの仕事が落ち着くまで待つことにする。

 周囲からは「なんだアイツ」とか「オリヒメちゃんに男の影!?」とか「爆ぜろイケメン」とかよくわからない言葉が聞こえているが、まるっと無視だ。一々相手にしていたらキリがないしな。

 というか今、「キンバリー様から名前で呼ばれるなんて!」とか聞こえたが女性の声だよな? キンバリー様って何だ?


 やがて客がけていくと、二人が店を畳んでいるのが見えた。一度店を閉めることにしたのか? そんなことまでする必要はなかったのだが。

 そして片付けを終えたのか、キンバリーがオレに近付いてくる。

 相変わらずスラってしていて美人だと思えるのだが、あの独特の口調を思い出すと途端に残念に見えてしまう。


「待たせてごめんね~? ちょっと~、時間を潰すだけのつもりだったのに~、次から次にお客さんが来ちゃって~、収まりがつかなかったのよ~」


 胸の前で手を合わせ、小首を傾げながら上目遣いでそんなことを言ってくる。

 キンバリーのような美人がやると確かに破壊力が高い仕草であるが、本性を知っているだけにそこまで魅力的には思えない。これがオリヒメなら、危なかったかもしれないが。


「繁盛しているようで何よりだ。昨日一日で随分な人気店になったものだな?」


 まあ、元々あの店は綺麗系のキンバリーと可愛い系のオリヒメがやっているだけあって人気は高かったはずなのだ。そこへ質の良い武器や防具を扱っているとなれば、繁盛しない理由がなかった。


「ベルゼさんの教えてくれた魔法のお蔭です。私達の作った品だけじゃ、あそこまでにはなりませんでした。ありがとうございました」


 気付けばオリヒメも近くにやってきていて、オレに対する礼を告げていた。

 オレとしては打算があって教えたようなものだったので、少し罪悪感がある。言葉にすることではないが、態度では表すべきだろう。


「礼には及ばないさ。あれは対等な商談だった。そちらは儲け話を、オレは融通の条件を、それぞれ納得する形で受け入れている。もしどうしても礼を、と言うのであれば、『良い儲け話をありがとうございます』と、それだけで言って貰えれば十分だ」


「……ええ、わかりました。それでは改めて、ありがとうございます、ベルゼさん。あなたのお蔭で、もの凄く稼ぐことができました。これからもうちの店をご贔屓にお願いします……ね?」


 まったく、おとなしそうに見えて、したたかな女性だ。ただ可愛いだけじゃない、しっかりとした強い意思さえ感じる。

 オレはもしかしたら、大変な女性を相手にしていたのかもしれない。


「それはそうと~、私達に用事があったんじゃないの~?」


「ん? ああ、そうだった。まずはキンバリーにだが、昨日買った短剣の修理を依頼したい。頼めるか?」


 腰に差していた短剣を留め金から外し、キンバリーに手渡す。

 キンバリーは「修理~?」と首を傾げていたが、短剣を受け取るなり目の色を変えて確認を始めた。


「耐久値がギリギリになっているわね~? これ、《頑丈化(タフライ)》の魔法も掛けていたでしょ~? いったいどういう使い方をしたらこんな短期間でこうなるの~?」


 問われ、一瞬答えに詰まる。オレとしては特に変な使い方をしたつもりはないのだが。


「いや、普通に斬ったり刺したり投げたりしただけなんだが……」


「投げる~? いったい~、どんな敵と戦ってきたのよ~?」


 キンバリーが言うには、この辺りで戦うとすればストラウト平原に出るモンスターしかいないらしく、強くても(パーティー)クエストのボスモンスターであるフォレストウルフということだった。

 そのフォレストウルフと戦ったとしても、投げた短剣がそう簡単に当たるとも思えない、とキンバリーは考えているようだ。


「少し北の森に用事があってな。そこで――」


「北の森に!?」


 オレが続きを話すのを遮ったのは、二人の驚きの声だ。そこまで驚くようなことか?


「ああ、そうだが。それがどうかしたのか?」


「あの、ベルゼさん? 今見つかっているクエストで、北の森に行かなければならないようなものはなかったと思うんですが……」


 恐る恐る、といった感じでオリヒメが疑問を口にする。

 見つかっているクエスト、というのはあの浩輝と見ていた掲示板のクエスト一覧のことだろう。


「確かに、見つかっているクエストにはないな。だが、掲示板に挙がった情報がすべてという訳ではないだろう?」


「それは~、そうだけど~。でも~、あそこの敵は~、平原とは比べ物にならないくらい強いって~もっぱらの噂よ~? とても~、ゲーム開始1日目で行けるようなところじゃないって~、掲示板に書かれていたけど~」


 ふむ? オレと浩輝が見ていた掲示板の他にも、そういう情報交換の場があるのか。


(そうだね、僕らはまだ見ていないけど、確かにそういう掲示板もあるよ。掲示板を見るよりゲームを進めたいから、後回しにしているけど)


 なるほどな。


「そう言われてもな。行った奴らが単純に戦い慣れていなかっただけじゃないのか? まあ、たしかに魔法が使えないと厳しいだろうが、それでも初級の攻撃魔法が使えれば十分相手はできるぞ?」


「初級の……って、《ファイア》とか《ウォータ》は効かなかったって言われているんですが……」


「ああ、あの何の工夫もされていないただの基本魔法式じゃ、確かに効き目は薄いだろうな」


 あれは最低限の魔法式を構成するための項を並べただけの酷く簡易なものだ。浩輝の世界で言う“算数”や“数学”に例えるなら、『1+1=2』という計算をするだけのものと言える。そこに何の工夫もないし、結果も単純だ。

 それに対し、例えばオレが最初に使った魔法である《火の矢(ファイアアロー)》は、三角関数を用いて角度を計算するようなものと言えるだろう。

 魔力変換だけでなく形状変化も使用し、さらに出力式にも魔力を使う工夫をした。結果、火が矢の形を伴って目では追えないほど高速で敵に向かって放たれるのだ。

 魔力変換しか使用していない魔法式とは結果が異なって当然といえる。


 二人はオレの言葉を聞いて呆然としていたが、やがてゆっくりとお互いに顔を向き合わせて話し始めた。


「ねえ~、オリヒメちゃん……? 私~、ちょっと思ったことがあるんだけど~」


「奇遇ですね、キンバリーさん。私も、今ちょっと考えたことがあるんです。立ち話もなんなので、移動しませんか?」


「賛成よ~。というわけで、ベルゼ~? 時間は大丈夫~? いえ、大丈夫よね~? お茶でもしながら、少~し、あっちでお話しましょうか~?」


 そこに何故か、有無を言わせない迫力を感じて、思わず一歩後退る。

 だが逃さないとばかりに両腕を二人から掴まれて、それ以上後退できなくなった。


「お、おい……?」


 二人に声をかけるが、振り返った二人の表情がどうしようもないほど見事な笑顔であることに戦慄する。


「黙って大人しく付いて来ていただけますか?」


 口調は丁寧だが、空恐ろしいほどの怒りに似た感情を伴って告げるオリヒメ。

 オレは、もう二人から完全に逃げられないことを、ここで悟るのだった。




 二人に連行されてやって来たのは、地味な見た目の大きな建物だった。

 生産職のために開放されている生産施設というやつで、単位時間あたりいくらかの金額を支払うことで、個室と中の生産設備を利用することができるらしい。

 複数人で使用することも可能のようで、施設のロビーで受付を済ませた後、案内された個室に入室した。

 この頃にはオレはもう逃げる気も失せていたため、二人を説得して両腕を開放してもらっていた。

 いや、正直に言えば腕にオリヒメの柔らかい胸が当たっていて惜しい気もしていたのだが、時間を経るごとに罪悪感が増してきて結局自分から言い出してしまった。

 ヘタレと笑うなら笑え。

 そうして生産施設の個室の中、三人で向き合い、オレは昨日二人と別れた後のことを話して聞かせた。


「……というわけだ。そしてこれが、そのブロンズエイプのドロップである『青銅猿の毛皮』だ」


 オレとしてもこの個室の利用は願ってもないものだった。

 先に浩輝と話していた通り、どこか人目のない場所で『青銅猿の毛皮』をオリヒメに見せたいと考えていたため、渡りに船だったのである。


「確かに、私の〈識別〉でもこれが『青銅猿の毛皮』であると確認できました。それはわかりましたが……」


 オリヒメはオレから視線を外し、隣のキンバリーと向き合ってこそこそと話し始めた。

 だがそれほど広くない部屋の中だ。二人の声はオレにも丸聞こえだった。


「結局~、ベルゼがあの魔法式の提供者だってことよね~?」


「ええ。私たちに教えてくれた《鋭利化(シャープライ)》や《頑丈化(タフライ)》のことも考えると、そうだとしか」


 二人が言う魔法式とは、おそらくブルブルに教えた《筋力増強(ストレングスアップ)》のことだろう。

 ブルブルには任意で広めて構わないと伝えておいたからな。あの後掲示板に投稿したのか。


「やっぱり~、ダメ元で頼んでみるしかないんじゃないかしら~?」


「情報の秘匿は自由ですが……現状を考えると、不満は溜まる一方ですもんね」


「アドバンテージを手放すのは惜しいけど~、良心の呵責かしゃくがね~」


「そうですね……」


 二人がなにかをオレに頼もうとしているのはわかったが、何を頼む気なのだろう?

 オレとしては、この青銅猿の毛皮をオリヒメに受け取ってもらい、服を仕立ててもらえるならば、大抵のお願いは聞き入れてもいいと考えているのだが。


「では、ベルゼさん」


「む、なんだ?」


 緊張した面持ちのオリヒメに若干気圧されつつも、普段と同じ態度で返答する。彼女が少しでも、用件を言い出しやすいように。


「……私達プレイヤーに、あなたの知識――魔法式について、講義して頂けないでしょうか?」


前回後書きに書いたように、4月は休載致します。

次回の更新はGW頃の予定ですので、どうかご了承願います。

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