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元魔王が異世界でMMOを極めます!?  作者: renren
第3章 クエスト
22/52

第1話 特効薬を作ろう

今回から第3章となります。やっと1日目が終わるよ!


※前話に戦闘終了時点のステータスを確認する描写を追加しました。話の流れに変更はありません。


 祈りとは、神に対し己の願望を伝えること。その願いが神に聞き届けられれば、それは叶うだろう。例え聞き届けられなかったとしても、それが神の意志だと尊重すること。神を信じて、己をいましめなさい。そうすれば、いつかその祈りは神に届くだろう――。


 これはオレの元いた世界での一般的な宗教家の考えであり、他にも懺悔ざんげのための祈りだとか感謝のための祈りだとか、祈りにはいくつも種類がある。

 けれど、オレ自身はそれほど神に対する信仰心は持ち合わせていない。

 元王族としては、一応シエラ教という宗教を信奉していることになっているが、熱心な信者ということもなく、年に数度ある儀式(儀礼的なもので、これによる副次的な政治活動が目的)に参加するくらいだった。

 そんなオレであるために、神――シエラ様に、オレの願いは聞き届けられなかったのだろうか。


 今の状況は、決して最悪という形でもないが、かと言ってまったく歓迎すべきものでもない、予期できていたけれどどうしようもない事態だと言えた。

 端的に言ってしまえば、《転移(テレポート)》した先に人がいた、ということだけなのだが。

 そこにいたのは、夜の闇の中でさえ輝きを放つほどの、綺麗な銀色の髪を持つ少女だ。その蒼玉サファイアを思わせる瞳は驚きに揺れ、口が開きっぱなしになっている。

 端正な顔立ちで、一目見れば誰もが美人だ可憐だと持てはやす容姿であるのに、突然現れたオレに驚き動揺しており、言っては失礼だが間抜けな様を晒してしまっていた。

 幸いなことに、この場に彼女以外の人物がいる気配はない。辺りを見回しても、そこには風の街の門と多少の積荷、そして銀髪少女がいるのみ。彼女以外に《転移(テレポート)》で現れるところを見られてはいないようなので、まずはこの銀髪少女をどうにかするのが先決かと考えた。

 声をかけようと口を開きかけ、いやしかしどう声をかければいいんだと思い直す。

 とりあえず掲げていた初心者の杖をインベントリにしまい、今更ではあるが身形みなりを整えた。


「……」


 沈黙が場を支配していた。

 オレとしては、一刻も早く目の前の門を潜って風の街に戻りたいのだが、目の前の銀髪少女がそれを邪魔している。

 邪魔している、とは言いつつも、彼女は彼女でただ突っ立っているだけなので、脇をすり抜けて行くことは可能だ。可能なのだが、どうにもこの雰囲気がそれを許してくれそうにない。

 結局、うまい言い訳を考えるか、ブルブルの時のように魔法式を教えて口止めを頼むしかないかと頭を悩ませているうちに、ついにくだんの銀髪少女が口を開いた。


「おーけー、理解したわ、私。このことは黙っててあげるから、さっさと行きなさい」


「……?」


 何を勘違いしたのか、銀髪少女は勝手に何かを理解して、オレに道を譲ってくれた。

 オレとしては願ったり叶ったりだが、どういう思考を辿ったのか全く理解できないため、次の行動に移せない。思わず首を傾げ、まじまじと彼女を見つめてしまう。

 やはり、彼女は眉目秀麗びもくしゅうれいと言って差し支えない容姿だ。

 トレードマークとも言える銀髪はストレートに後ろに流れており、肩を過ぎた辺りで切り揃えられている。アクセントの蒼い髪飾りが、より一層彼女の魅力を引き立てていた。

 その顔は今も固い表情のままだ。けれど、先程までの驚きに揺れた瞳ではなく、真っ直ぐこちらを見つめる瞳は確固たる信念を垣間見せている。

 スラリと細い肢体ではあるものの、その胸には見てわかるほどの膨らみが存在し、彼女の衣服を内側から押し上げていた。大変ご馳走様です。

 身に付けている衣服にしても、それは既に初期装備ではない。

 白を基調とした外套に、淡い水色のシャツ。可憐さと清楚さを併せ持つそれは、彼女のセンスの良さを感じさせた。

 下半身を覆うのは、やはり白のプリーツスカートのようだ。彼女の眩しさを覚えるほどに白く魅力的な太腿ふとももを惜しげもなく晒している。その脚を収めているブーツでさえ、彼女が履くと高級品に見えてしまう。

 全体的に白い衣服でまとめられてはいるものの、所々ワンポイント程度の刺繍や飾りがしつらえられており、彼女の魅力をより一層引き立てていた。


 だが容姿に見惚れているばかりにもいかない。本音を言えば、もう少しくらい眺めていたくはあったが。

 彼女の「黙っててあげる」という発言を信じていいのか、彼女の言う「このこと」が何を指しているのか考えているうち、さらに畳み掛けるように彼女が言葉を発する。


「どうしたのよ? さっさと行きなさいと言っているでしょう。この場を他の誰かに見られてもいいの?」


「……すまん、助かる」


 結局、彼女の言う通りこの場を他の誰かに見られるとさらにややこしくなると考えたオレは、それだけを告げて門をくぐった。

 お互いに名乗りもしなかったので、目の保養をしたオレはともかく、数日のうちに彼女はオレに会ったことなど忘れるだろう。

 いやもしかすると突然現れた変な人物がいたことだけは記憶に残るかもしれないが、オレだとバレなければそれでいい。《暗視眼(ノクトビジョン)》の効いているオレと違い、夜の闇の中でオレの顔など判別できなかったはずだしな。

 そんなことを考えながら、昼間にログインした場所で、昼間と同じようにオレはログアウトしていくのだった。




 浩輝に言わせれば、それはもう間違いなく“フラグ”という奴らしい。

 言葉の意味としては単に“旗”を表すだけであるが、旗という役割から目印や象徴という意味で使われることもある。

 昨今では、特定の条件を満たした場合の目印として“フラグ”という言葉を用いており、転じて、物語における『お約束』や『お決まりのパターン』という意味でも使用されるのだとか。

 オレと銀髪少女の間には、この“フラグ”という奴が立った状態にあるらしく、次に彼女と出会った時に何かしらのイベントが起こるだろう、というのが浩輝の予想だった。


 まったく、ゲーム脳もほどほどにしてほしい。

 オレはともかく、彼女はオレのことなど覚えているはずがないだろう。

 突然目の前に現れた不審者、というレッテル以外にこれといった特徴もないオレを、十把じっぱ一絡ひとからげにせず覚えている理由がない。

 オレの服装は未だ初期装備のままであり、そんな服を着ているのは風の街の中にごまんといる。出会った場所は暗く、彼女からオレの顔は見えなかったはずだ。

 これでオレのことを探し出せるというのなら、どんな魔法を使うのかと逆に聞きたくなる。


 ともあれ、一晩ぐっすり寝た翌日は、昨日よりも早めにログインした。待ちきれなかったとも言うが。

 浩輝と話して、今日の予定を確認する。

 まずは未完了のクエスト『石拾い』のためのアイテム収集。これは街の外で小石を20個ほど拾ってくればいいのですぐに終わるだろう。

 後は『石拾い』も含めた昨日受けたクエストの完了報告。『ワイルドドッグ討伐』は可能ならもう少しモンスターを倒しておきたいところだったが、まあ仕方ない。

 『ウィードピジョン狩り』については討伐数が多くても報酬は固定額なのでこれ以上狩る必要はないし、『アマナ草採取』は北風の森で採取した追加分があるのでボーナスには大いに期待できる。

 あと、『アマナ草採取』の報告先である薬師ギルドには、北風の森で採取した他の薬草類も納めてしまおうと考えている。クエストではないので報酬は微々たるものだと思うが、オレが持っていてもしかたないからな。

 『石拾い』はクエスト情報掲示板によればギャンブル性が高いクエストのようだが、最低でも1000ユルドは確実だ。資金の足しには十分だろう。

 最後に、(チェーン)クエストの達成だ。

 魔道具職人のルー婆さんが患っている衰魔すいま病は、著しく魔力が低下して魔法が使えなくなる病だ。患者にかけられたあらゆる魔法の効果を打ち消してしまうため、治癒魔法も効果がない。唯一、ヨウマ草という薬草だけがこの病を治すことができる。

 そのヨウマ草は、昨日オレが北風の森で採取してきた。必要十分な量があるので、あとはこれを毎日1回、煎じて飲むだけだ。こうすることで、徐々にではあるがヨウマ草の成分がルー婆さんの体内に巣食う衰魔すいま病の病原菌を退治してくれることだろう。

 その後の予定はまだ決まっていないが、また金策のためにクエストを受けることになるのだろうな。

 そうして今日の予定を話し終えたオレは、とりあえず空いた腹を満たすため、食べ物を求めて歩き出すのだった。




 少なくなっていた満腹度を、なけなしの所持金で買った串焼き肉で満たす。空腹状態になるとステータスが一気に下がるため、食事だけはケチるわけにはいかないのだ。

 この串焼き肉は値段の割にボリューム満点で、満腹度が一気に回復する優れものだ。簡単に塩で味付けしてあるだけだが、オレにとっては好みの味付けで、大変満足できた。

 実はこれは、どこかのグルメなプレイヤーが掲示板に挙げていたおすすめ回復アイテムなのだ。買う際に長蛇の列に並ぶ必要があったが、思いのほか回転率は高いようで、すぐにオレの番となり注文することができた。

 値段も味も効果も問題なしということで、これからもあの店には足繁く通うことになりそうだ。


(早い、安い、美味いの三拍子に加えて効果が高いとくれば、買わなきゃ損だよね。この情報を提供してくれたプレイヤーさんには感謝しなくちゃ)


 強いてデメリットを挙げるとすれば何の肉かわからない点だが、まあ美味ければなんでもいいか。


(……そうだね、それは多分、考えてはいけないことなんだろうね……)


 というわけで、腹を満たしたオレは街の外の平原に赴いて適当な石を拾い集めた。

 クエスト『石拾い』の達成に必要な石の個数は20個である。昨日の北風の森で収集した薬草類なども含めるとそれだけでインベントリがいっぱいになってしまった。

 ちなみに、今朝気付いたのだが、インベントリにはブロンズエイプのドロップと思われる『青銅猿の毛皮』という素材アイテムが入っていた。使い道は今のところないのだが、浩輝が新しい装備に使えるかも、みたいなことを言っていたので売らずに取っておいてある。

 北風の森のモンスターは平原のモンスターよりも強い。もしこれを防具に加工できるなら、素晴らしい装備になること請け合いだろう。

 そうだ、どうせならオリヒメに見せて服を仕立ててもらうのもいいかもしれないな。


(あ、そうか。オリヒメさんは仕立て屋だったね。ならちょうどいいかも!)


 キンバリーに鉄の短剣の修理も依頼したいし、クエストの報告が終わったら妖精の紡ぎ車に足を運ぶとしよう。


(そうだね!)


 そうして平原から街に戻ってきて、クエストの達成を各NPCに報告していく。

 まだまだ目標額には程遠いが、しばらくは生活に困らない程度のお金は手に入れた。この調子で何度かクエストをこなしていれば、いつか魔道具を買う金も貯まるだろう。それまでは、この初心者の杖で我慢するしかあるまい。

 ところで、掲示板では(フリー)クエストの「(フリー)」の意味が推測されていた。「1日に1度だけ受けられるクエスト」という意味だそうだ。日付が変わる瞬間……つまり毎日午前0時に回数がリセットされるようになっているらしい。

 しかしながら、オレはもう、今日は昨日と同じクエストを受けることはできない。なぜなら、「1日に1度だけ」というのはクエストの達成報告をカウントするからだ。

 オレは昨日受けたクエストを昨日のうちに報告せず、今日になってから報告している。そのため、今日の分のクエスト達成報告はすでに成されている状態となっており、昨日と同じクエストを受けようとする場合は明日を待たなければならないのだ。

 このことを掲示板で発見した時は、浩輝と揃って「やっちまった」的なため息を漏らしてしまった。

 もちろん、昨日受けていないクエストであれば受けることは可能だが、浩輝曰く、「食指が動かない」らしい。

 まあ確かに、掲示板に挙げられている(フリー)クエストはどれも旨味が少ないように思える。魔道具を買うには6桁に届かんばかりの金額が必要なので、もっと稼げるクエストが必要なのは確かだ。

 ならばやはり、魔法使いギルドで依頼を受けるしかないだろう。あそこならば、魔法の専門家でないとこなせないクエストが眠っているに違いない。


 そんな風にこの後の予定を考えつつ、最後のクエスト報告に訪れた場所は、魔道具職人のルー婆さんの家だった。

 相変わらず工房の中は薄暗いままだ。工房の主がいない空間は、深い寂寞せきばくを感じさせる。

 鍵のかかっていない扉を開け、勝手知ったる我が家のごとく奥へと進んでいく。

 やがてルー婆さんのいる居間に着くと、規則正しい寝息が聞こえてきた。どうやらルー婆さんは寝ているようだ。

 起こすのは忍びないが、家主の許可を得ずに台所を使うのは問題があるだろう。起こすしかないか。


(ここまで無断で入り込んでいる時点で今更だけどね)


 彼女の肩をそっと揺らしながら声をかける。


「おい、婆さん、起きろ」


「……ん……? ああ、あんたか」


 目をこすりながら起き上がろうとするのを押し留めて、「起き上がらなくていい」と告げる。

 布団を被り直したルー婆さんは胡乱な目をオレに向けてきた。


「……それで、今日はどうしたんだい? こんなババアの寝込みを襲うなんて、あんたも物好きだね」


「そんなわけあるか」


 軽口を叩くルー婆さんにオレは苦笑する。案外余裕がありそうだと、オレは安堵した。


衰魔すいま病の特効薬になる薬草を採ってきたんだ。台所を借りるが、いいな?」


 オレの言葉に、ルー婆さんが目を見開く。まさか、という顔をしているが、その驚きはもっともだろう。

 軽くヨウマ草について説明をすれば、「なるほど」などと言って頷いていた。

 「そんな得体の知れない物を飲ませようとするな」と言われてもおかしくないのだが、ルー婆さんはオレが用意したものならばと信頼してくれているようだった。

 何故こんな会って間もない男の言うことを信じられるんだと問えば――


「あんたが悪人なら、こんな回りくどいことをせずとっくに私を殺して私の財産を持ち逃げしているだろうからさ」


 などと言っていた。

 確かにその通りだと、オレも変に納得してしまった。


(チェーン)4:魔道具職人にヨウマ草を届けよう(1/1)>


 そんなわけで台所を使用する許可をもらえたオレは、台所に移動して衰魔すいま病の特効薬を作り始めた。

 鍋を拝借し、たっぷり水を入れる。コンロに火を付けて、その上に水の入った鍋を置いてしばらく待つ。


(ヨウマ草は、煎じて飲ませるだけでいいのかい?)


 ああ、特に加工する必要はなかったはずだ。多少苦いが、薬とはそういうものだろう。


(『良薬口に苦し』ともいうしね)


 インベントリからヨウマ草を取り出して軽く水洗いした後、鍋に気泡が浮いてきたタイミングで投入する。火を弱めてトロ火にし、30分程度煮出せば、衰魔すいま病に効く薬液の出来上がりだ。

 火を止めて熱を冷ました後、濾紙ろしを通して数本の薬瓶に移す。この濾紙ろしと薬瓶は、薬師ギルドでもらってきたものだ。安くない金額を支払わされたが、これもルー婆さんの病を治すためだと思えば気にならなかった。

 薬効成分を抽出し終えたヨウマ草は、もはやただの搾りカスだ。特に使い道もないため、水気を切った後はゴミ箱に放り込んでおいた。


 静かに薬ができるのを待っていたルー婆さんの身体をそっと起こして、特効薬の入った薬瓶を差し出す。


「これを飲めばいいのかい?」


「ああ、そうだ。この薬を瓶1本分毎朝飲んで、後は寝ているだけでいい。今日のところはこれを飲んで安静にしていることだ」


 もちろん、栄養のある食事をとれるとなおよいのだが、今のルー婆さんの衰弱しきった身体には酷だろう。

 無理のない範囲で適度に水と食事を取ること、と注意して、オレ自身は1日に1回様子を見に来るから、と告げてルー婆さんの家を後にした。


(チェーン)5:魔道具職人の病を癒せ(1/5)>


いつも読んでいただきありがとうございます。

次回の更新は03/20(月)の予定です。


次回更新後の予定ですが、4月は休載し、GW頃から更新を再開する予定です。

4月中に書き溜めておくので、どうかご了承願います。


※2017/03/21(火) 誤記修正しました。


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