第11話 強くなるためには
強敵ブロンズエイプとの戦いもクライマックス!
勘の良い読者の皆様には決着の方法にある程度予想がついている方も居るのでは?(笑)
※気付いたら1万PV達成してました。ありがとうございます!!!
ブロンズエイプの咆哮を聞きながら、オレは思案する。
《石の弾丸》を避けたはいいが、先程の腹部へのダメージが残っており上手く身体を動かせない。
今まで遠距離魔法に頼り過ぎていたため物理攻撃に対する耐性が低いのだ。それは今の残り体力に如実に反映されている。
この残り30%程しかない体力がゼロになってしまえば、オレは風の街に死に戻ることとなるだろう。
クエストの達成を前に死に戻ることのなんと情けないことか。それだけはなんとしても避けねばならない……!
ブロンズエイプは杖を構えるオレを睨みつけ、絶えず動き回っていた。
歩くような速さではあるが、ランダムに方向転換を織り交ぜているため狙いが付け辛い。無駄に体力を消費しているようにも思える行動だが、もしオレが先に魔法を発現させようものなら、即座に回避行動を取って仕掛けてくるだろう。
オレにしてみても、奴が魔法にしろ直接攻撃にしろ仕掛けてくる一瞬の隙をついて魔法を発現させるつもりなので、無闇に攻撃を放てない。
もはやこれは、どちらが先に痺れを切らして攻撃するか、という戦いになっている。
(先に攻撃を仕掛けたほうが負けるってやつだね)
まあ、そうなるな。
無理に攻撃を仕掛けてもカウンターを喰らうだけ。今は奴の動向を見つつ、カウンターに頼らないで倒す方法を考えなければ。
ここで一度、奴の攻撃手段について分析してみよう。
まずは【土魔法】の《石の弾丸》。連射性能の高い魔法攻撃だ。一発一発の威力は高くないが、降りしきる雨のような攻撃は十分に脅威足り得る。
そして【水魔法】の《氷の槍》。発射されるまでに数秒の溜めがあるものの、威力的には奴の最大攻撃手段だろう。もし直撃を受けたりすれば、一発でノックアウトだ。
最後に、奴自身の直接攻撃か。さっきは拳による殴打だったが、奴をカッパーエイプの亜種と考えるなら拳に加えて蹴りなども考えられる。オレは近接攻撃に慣れていないため、接近を許せば今度こそタコ殴りにされて退場は確実だろう。
反対に、オレの攻撃手段のなんと乏しいことか。
サブウェポンとして買った短剣はすでに耐久値が限界で、使用する場合は短剣の全損を覚悟しなければならない。
頼みの綱の魔法は《雷衝撃》が使えるのみ。それも、奴にはすでに何度も見せてしまっているため有効打にはなりにくい。何かしらの工夫がなければ、当てることはできないだろう。
(体術は? あのブロンズエイプみたいにパンチとかキックとかできないの?)
やろうと思えばできないこともないだろうが、威力については全く期待できないな。
約十年間、魔法の試射以外で禄に外に出ていない引き篭もりに何を期待している?
(あ、そう……。なんか、ごめん)
何故謝る……。ま、オレ自身は気にしていないからいいが。
総じて、戦力的にはかなり分が悪いと見ていいだろう。この状況を打破するだけの策など存在するのかと疑わしくなる。
けれども、オレは諦める訳にはいかないのだ。
たとえ分の悪い戦いだろうと、奴もあと一撃で倒れるということに変わりはない。これこそがオレの求めていた極限の戦い。冒険譚の一節にも相応しい。
現状を把握する。
――奴を倒せ。打倒し、圧倒しろ。
戦い方を考える。
――全身全霊を込めろ。死力を尽くせ。
方法を模索する。
――死ぬ気で戦え。だが最後まで生き残れ。
どれくらいそうしていただろうか。結局、足りないものは己の覚悟なのだと思った。
なんだかんだと方法を考えても、そのどれもが今の奴に有効とは思えない。
ならば真っ向から勝負するしかないではないか。どう足掻いたところで勝率を言えば五分五分なのだ。それで負けても後悔はない。
このゲームの世界に、ある意味“転生”した己を信じて、オレは最後の戦いに臨んだ。
構えた杖を降ろす。
ブロンズエイプの目に映るのは、無防備に隙を晒すオレの姿だ。
奴が怪訝な表情を浮かべる。だがすぐに元の表情へと戻し、オレを睨みつけてきた。
あからさまな罠だ。誰が見ても、オレが隙を晒しつつ何かを狙っていることは明白。
だがブロンズエイプにはその狙いがわからない。罠であることは確実だと思っても、その先までは読み切れないのだろう。
より一層警戒レベルを上げ、歩むスピードを僅かに速めた。
一歩、後退する。
相変わらず無防備なまま、オレは立ち位置を変えるために移動する。奴の動きを見つつも自分が有利になるための位置取りを続ける。
また、さらに一歩、今度は横へ。丁度泉の縁に来るような位置だ。
その時、ぐちゃり、と泥濘んだ地面が音を立てた。
ビクリとして、思わず足元を見てしまう。そして、敵対するブロンズエイプからも、視線を外してしまう。
その致命的な隙を、奴が見逃すはずがなかった。
ザッと音がして、自分がついブロンズエイプから目を離してしまったことに気付く。
「!!」
すぐに視線を戻すが、それは致命的過ぎた。どちらからだろうか、声にならない叫びが漏れる。
結局、奴は魔法を放たず近接攻撃を選んだようだ。すぐそこまで奴が迫っている。
その僅かな時間でできることはほとんどない。
回避は、流石に間に合わないだろう。動けたとして、たった半歩。それでは奴の体術は躱せない。
杖に魔力は溜めてあるので、魔法名を宣言することくらいはできるだろうが、魔法の出力先である杖の先端は下を向いている。奴に向ける時間はない。
――そう、杖の先端は下の地面を向いており、オレはたった半歩だが動くことができる。オレの目論見通りに。
「《雷衝撃》!」
勝負を決めるための最後の魔法が放たれる。
奴が派手に水飛沫を飛ばしてくれたお陰で、泉の周囲の土は泥と化していた。ぐちゃりと音を立てるほどに泉の水を吸って泥濘んでいる。
奴の身体も濡れている。泉に沈んでからまだそれほど時間が経っていないためだ。《暗視眼》のお陰で、オレにはそのことが手に取るようにわかっていた。
そして、水に電気はよく通る。泥濘んだ地面であろうと例外ではない。濡れてさえいれば、それを伝って電気は流れる。
最後に、くどいようだが、《雷衝撃》は【雷魔法】と【風魔法】の複合魔法だ。魔法式の構成は、先に雷撃で相手を麻痺させ、抵抗できなくしてから衝撃波を放つようになっている。
ここまで説明すれば、あとはわかるだろう。
杖の先端から放たれた青白い電撃が、地面に当たる。
最初にギリギリの立ち位置を確保していたため、オレはたった半歩ではあるものの、その効果範囲からは外れていた。
泥濘んだ地面に足をつけていたブロンズエイプに、地面を伝って電撃が直撃する!
「ゴガアア!!!」
【風魔法】による衝撃波こそ与えられないが、満身創痍だったブロンズエイプには十分すぎるダメージだ。全身を弛緩させてやがて動かなるまで、奴の最期の絶叫が森に響いていた。
奴はモンスターだが、森の主であるだけに流石に一筋縄ではいかなかった。
賢さを数値で表すことができれば、確実にこの森のゴブリンよりも上だろう。その証拠に、オレの身を挺した罠にはすぐ気付いたようだしな。
だが、その先まで至るための頭脳はなかったようだ。
もちろん、奴は自分が着水した時に泉の周囲に水が撒き散らされていたことなど知り得ないので、無理もないと言えばないのだろうが。
(でもさ、ブロンズエイプが近接攻撃を仕掛けてきてくれなかったら成り立たない策だよね、これって)
それはそうだが、勝算のある賭けだとは考えていた。
なぜなら、奴が泉に沈んで以降に使った魔法は《石の弾丸》だけだったからだ。
オレが腹を殴られた直後に使われたのが《氷の槍》でなかったのは、もう《氷の槍》を使うだけの魔力がなかったか、撃てて1発が限界だったから。
前者の場合、魔力がない状態なら近接攻撃に切り替えるのは当然だ。それ以外の方法ではオレを確実には倒せないのだからな。
後者の場合でも、確実性を期すなら《氷の槍》はなんとしても当てたかったはずだ。
《氷の槍》を放つには数秒の溜め時間を要する。動きを封じないまま放っても、回避される可能性があった。だから動きを封じるための接近は必須だった。
ま、そういう訳で、オレは泉から飛び出てきたブロンズエイプが《氷の槍》を撃たなかった段階で、奴の次の一手は近接攻撃しかないと予想できていた。
それを前提に、作戦を組み立てた、ということだ。
(なるほどね……)
<C3:森の主ブロンズエイプを倒せ(1/1)>
システムメッセージが流れ、ブロンズエイプを倒したことを知らせてくれる。
これでようやく風の街に戻ることができるな。
(でも、もう夜も遅い時間だから、ヨウマ草を届けるのは明日だね。今日は街に戻ってログアウトしようか)
そうだな、それがいいだろう。
(あ、でもちょっと待って。もう帰るだけなら、あと少しだけヨウマ草を集めていこうよ。まだインベントリに空きはあったはずだよね?)
浩輝に言われ、インベントリを確認する。
確かに空きはある。残りのクエストである『石拾い』の達成に必要な分を除いても、十分な量があった。
(あれ? 容量が増えてる?)
そうなのか?
(うん。最初の頃よりも増えてる。これは……【収納】アビリティの熟練度が上がったってことなのかな?)
なるほど、たしかに浩輝の言う通り、インベントリの枠が10個ほど増えている。
その裏付けのため、ステータスを開いて現在のオレのアビリティを表示させた。
■アビリティ
【体力】:26(1↑)
【魔力】:87
【筋力】:18(2↑)
【強靭】:16(2↑)
【敏捷】:17(2↑)
【知力】:80
【精神】:55
【無属性魔法】:61
【火魔法】:72
【水魔法】:74
【風魔法】:75
【土魔法】:71
【光魔法】:73
【闇魔法】:63
【雷魔法】:62
【音魔法】:60
【重力魔法】:65
【付与魔法】:58
【身体魔法】:54
【創成魔法】:67
【精神魔法】:69
【空間魔法】:70
【合成魔法】:56
【自然魔法】:61
【治癒魔法】:59
【呪霊魔法】:47
【剣】:8(4↑)
【杖】:44
【服】:21(1↑)
【軽鎧】:29
【耐毒】:14
【耐沈黙】:41
【火耐性】:45
【水耐性】:51
【風耐性】:49
【土耐性】:44
【光耐性】:53
【闇耐性】:52
【雷耐性】:42
【音耐性】:39
【言語解読】
【魔力感知】:60
【気配感知】:12(2↑)
【鑑定】:14(8↑)
【収納】:12(2↑)
【収納】の他にも、いくつかのステータス系アビリティなどの熟練値が上昇しているようだった。
熟練度は確か、己の行動によって上昇するんだったよな? 【収納】に関する行動とはなんだ? なぜこのタイミングで上昇したんだ?
(うーん……。もしかしたら、だけど、ブロンズエイプを倒したことで上がった、とかじゃないかな)
この疑問に対し、浩輝が答える。どういうことだ、と続きを促す。
(一般的なRPGでは、プレイヤーはモンスターを倒して経験値を稼ぎ、レベルアップして強くなる。ここまではいいよね?)
それは浩輝の記憶を見たことのあるオレにも理解できた。
ゲームのシナリオが進むに連れて強くなる敵性キャラクターに対し、プレイヤー操る主人公は所謂雑魚敵……自分と同等レベルの敵キャラクターを倒すことでレベルアップを図り、強くなった敵を倒すための算段をつけるのだ。
そういうものが浩輝の言う“一般的なRPG”ということだろう。
(でも、このゲームは他の“一般的なRPG”とは違ってレベルはない。その代わりに熟練度っていうシステムを採用していて、これを上昇させることが強くなることだと謳っている)
最初のチュートリアルで、ナビゲーションピクシーは熟練度の上げ方は一つじゃない、と言っていた。
【筋力】のアビリティを上げるために筋トレばかりをしていては物語を進められないからだ。どんな行動がアビリティを上げることに繋がっているかは明らかにされていないが、おおよそ人の想像できる範囲だということはなんとなく理解していた。
(でも、モンスターを倒すことが熟練度向上に繋がらないとは言ってない。今、僕たちはブロンズエイプっていう強敵を倒した訳だけど、その“強い敵を倒した”という経験――経験値と言い換えてもいい――はどこに還元されたんだろうね?)
ああ、なるほど、そういうことか。
つまり、ブロンズエイプを倒すことで得られた経験値は、すべてオレ――ベルゼのアビリティに還元された、と浩輝は考えているのだろう。確かに、ゲーム的に考えて、強敵を倒したのにその報酬が何もないでは不満が出る。それはクエストのイベントであっても、だ。
(そういうことだね。だから、モンスターを倒して経験値を稼ぐことが、従来と同じレベル上げ……ひいては強くなることに繋がる。もちろん雑魚モンスターばかり倒していても熟練度は上がらないだろうから、ある程度の強さをもったモンスターを倒す必要はあるだろうけどね)
ならば、これからも強敵と戦う機会は増えるということだな。
ここまでの極限の戦いはもうしばらく御免だが、それでも強い敵と戦えると聞いて気分が高揚する。次はどんな敵と戦うことができるんだろうか。
(……なんか、今後が心配になりそうな発言だけど、まあいいか。わくわくするのは僕も同じだし。……それより、インベントリの枠が増えた謎も解けたことだし、ヨウマ草の採取を続けよう。とっておいて損はない素材だろうからね)
浩輝の言葉に、そうだなと頷いて、オレはヨウマ草の採取を再開した。
ただ、クエスト『石拾い』に必要な分の枠を空けておく必要があるので、そこまで多くは採取できない。インベントリの容量が増えたとは言え、その数は微々たるものだ。結局、追加で採取したのは5、6束だった。
採取を終えたオレは、杖に【空間魔法】の《転移》を入力して発現させる。
どうか、転移した先に誰もいませんように。そう祈りながら。
<C4:魔道具職人にヨウマ草を届けよう(0/1)>
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回の更新は03/06(月)の予定です。
次回、ヒロイン登場!? 乞うご期待!!
※2017/02/26(日) 戦闘後、アビリティを確認する描写を追加しました。
あと、いろいろ考えた結果、ここで2章を区切ることにします。
……思ったより2章のエピローグ部分が長くなったとかそんな話はなかった。いいね?
このまま3月末までは更新を続け、4月は休載、GW頃から再開の流れにしようと思っています。
その間に書き溜めておくので、どうかご了承願います。




