第10話 北風の森の主
初めての強敵との戦闘です。
戦闘描写が甘いところが多々ありますが、これが今の私の限界です。これからも精進しなければ……!
ヨウマ草を採取し終えたオレの前に、森の主ブロンズエイプが出現した。
奴は掌から石の礫を放ってオレを攻撃してきたが、奴を中心に円を描くように走ることでこれを回避。その時間稼ぎの間にオレは奴を打倒するための作戦を考え、今それを実行しようとしていた。
まずは走る速度を一段階引き上げる。ずっとじゃなくていい。ほんの数秒、追いかけてくる《石の弾丸》と距離を空けられればそれでいい。
空いた距離を活用し、円を描くような軌道から、ブロンズエイプ側へ向けて曲がる軌道へ。走る速度を元に戻して、徐々に奴に近付いていく。
けれど至近距離まで近付く必要はない。この杖に入力した魔法が有効活用できる距離まで詰められれば、作戦の第一段階は達成だ。
「キッ!?」
ブロンズエイプが驚きの声を上げた気がした。
自分の魔法を避け続けるだけでなく、近付いてくる者がいようとは想像していなかったのかもしれない。
しかし、すぐに表情を一変させて、こちらを睨むような目付きに変わる。警戒レベルを引き上げたようだ。
そろそろオレのスタミナも限界だ。杖に魔力を注ぎ、魔法を放つ準備を完了させる。
奴との距離が詰まり、約10メートルにまで近付いたその瞬間、オレは声を上げて魔法を発現させた。
「《雷衝撃》!」
杖の先端から青白い電撃が放たれ、ブロンズエイプ目掛けて迸る。
亜光速で放たれたそれを、目視してから避けることは理論上不可能だ。亜光速の攻撃を避ける手段は、その攻撃動作を察知し放たれる前に攻撃軌道から外れるしかないのだから。
青白い電撃が、あえなくブロンズエイプに直撃した。
この魔法は、強烈な電撃で敵を感電させると共に、衝撃波で吹き飛ばす効果をもつ。【雷魔法】と【風魔法】の複合魔法であり、魔法式の項数は40項を超える。
ただし、魔法の効果を十全に発揮するためには、敵に近付く必要がある。何故なら、敵との距離が開くに連れて魔法の効果が減衰してしまうからだ。
その分効果は抜群だ。耐性を持たない相手なら、衝撃に抵抗させず問答無用で吹き飛ばしてしまう。
その瞬間に起きたことを順番に述べるならば、次のようになるだろう。
まず、電撃を浴びたブロンズエイプは《石の弾丸》の射出を中断させられた。
次に、電撃の効果により感電。ブロンズエイプの身体が痙攣し、その後麻痺状態となり硬直する。
最後に、衝撃波の効果により後方へと吹き飛ぶ。身体機能が麻痺しているため、その衝撃に抗うことは【耐麻痺】などのアビリティを持たない限り不可能だ。
余程の衝撃だったのか、数メートル後方でバウンドしてもなお止まらず、最後には泉の広場の端で木にぶつかり停止した。
(うわーお……。これは死んだかな?)
浩輝が間の抜けた声を出しているが、オレはそうは思わない。
ダメージを与えられたと確信はしているが、倒しきれているかは自信がなかった。
それを裏付けるように、ピクリと反応し立ち上がるブロンズエイプ。
身体から白煙が出ているように見えるのは、電撃を浴びたせいだろう。高圧電流により身体の一部が焼けているのだ。
しかし、その闘志は些かも衰えている様子はない。むしろ先程よりも更に敵意を剥き出しにしている。獲物に対する目から、強敵に対する目に切り替わったようだった。
まずは作戦の第一段階は完了だ。いい具合に奴の怒りを引き出すことができた。
そして作戦は第二段階へ移行。奴が再び《石の弾丸》を放ってきたら、また移動するぞ。
けれど、何事にも想定外は付き物だ。
オレは再び奴が《石の弾丸》を放ってくると予想していたが、その予想は角砂糖のように激甘だったと言わざるを得ない。
ブロンズエイプが、腕を掲げる。先程、《石の弾丸》を放っていた腕とは、別の腕を。
「キッキキー!!」
その掌に魔力が集中する。
オレはそれを《石の弾丸》を放つ予備動作だと認識し、斜め後方へとバックステップで移動する。
次の瞬間、直前までいた場所にズドンと音を立てて突き刺さったそれを見て、オレは背筋が凍った。
そこに刺さっていたのは、どう見ても《石の弾丸》ではない、透明の巨大な物体だった。
僅かに青みがかって見えるそれは、強い冷気を放っている。オレの胴体程の太さを誇り、突き刺さっている様子から見てその先端は鋭利に尖っていることが想像できた。
それは巨杭。氷でできた極太の槍そのもの。込められた桁外れの魔力は、オレの《風大刀》にすら匹敵する可能性がある。
その魔法に名をつけるならば、《氷の槍》といったところか。
《石の弾丸》とは比べ物にならない、一撃の威力を極限まで高められたそれは、オレでさえ直撃すればただでは済まないだろう。下手をすれば、その場で死に戻りもあり得る。
自分の生唾を飲む音が、酷くはっきりと聞こえた気がした。
(ディア、しっかりして! もう一発来るよ!)
浩輝の声にはっとして、前方を認識するより先にその場を離れる。直後、再び突き刺さる氷の巨杭。
《石の弾丸》にさえ手を焼いていたのに、ここに来て新たな魔法。それも、連射はできないようだが一撃の威力はとんでもなく高いと来た。
数秒おきに飛来する氷の巨杭を避けるべく、再び逃走を開始する。今度は、後方へと向かって……。
――怖気付いたのか? ……違う。
逃げるオレをブロンズエイプが追いかけてくる。
《石の弾丸》と《氷の槍》を使い分け、オレが軌道を変える度に行く手を阻むように魔法を放ってくる。
――逃げ出すのか? 違う。
地面の出っ張りに躓いて転倒する。
《石の弾丸》が殺到し、オレの身体を打つ。その痛みに耐えながら起き上がり、再び逃げるように走り出す。
――諦めるのか? 違う!
ついには広場の端まで到達し、オレは行く手を塞がれた。
背後に《氷の槍》が迫る。紙一重でそれを躱すが、もう後がない。振り返り、追ってきたブロンズエイプと対峙する。
――死ぬのか? 違う!!
オレは、手に握った杖の先端をブロンズエイプに向ける。
そこから放たれる魔法を警戒してか、奴は立ち止まった。爛々と赤い瞳を輝かせ、魔法が放たれる瞬間を見逃すまいと瞬きすらせずこちらを睨みつけてくる。
(ここまで……か)
ああ、そうだな。
(あと一歩、足りなかった)
うむ。健闘した、と言えるだろう。
(ちょっと危ない場面もあったけど)
確かに。あの時は死ぬかと思った。
(だけど、これで終わりだね)
ああ、終わりだ――
作戦通り、オレの勝利で!!
「《雷衝撃》!」
その瞬間を、ブロンズエイプは見逃さなかった。
オレの宣言をその耳で捉え、放たれる魔法を躱すべく飛び退る。
先程述べたように、亜光速で放たれるこの魔法を躱すには、その攻撃動作を察知し放たれる前に攻撃軌道から外れるしかない。それを奴は、一度攻撃を喰らっただけで看破してみせた。
天晴、と素直に賞賛を贈ろう。
オレはニヤリと笑みを浮かべて、杖の直線上から飛び退いたブロンズエイプを見やった。
空撃ちされた魔法から必死に飛び退いたブロンズエイプを。何も出ていない杖を警戒して飛び上がり、空中を移動するブロンズエイプを。
傍目に見れば、凶い笑みを浮かべる某新世界の神のように見えたことだろう。
オレは改めて魔法を発現させる。空中にいて回避できない、ブロンズエイプに当てるために。
「《雷衝撃》!」
今度こそ、杖の先端から青白い電撃が迸る。亜光速で放たれたそれは、ブロンズエイプに直撃して奴を後方へと吹き飛ばす。
オレはそれを追いかける。奴に止めを刺すために。
オレの作戦は、大きく分けて3つの段階で構成されていた。
第一段階は、《石の弾丸》を避けながら接近し、《雷衝撃》を当てるまで。
ここで倒せるならそれでよし。倒せないまでも、ダメージを与えられることが確認できればそれでよかった。
実際に魔法が直撃した時、予想以上の威力で逆にオレが驚いたが、ブロンズエイプの様子からダメージを与えられたことを確信。次の段階に移行した。
第二段階は、ダメージを受けて怒ったブロンズエイプを引き付けるまで。
オレが逃げれば、《石の弾丸》を放ちながら追いかけてくると予想していたが、結果はあの通り。奴が2つの魔法を使うとは予想しておらず、氷の巨杭……《氷の槍》を放たれ動揺してしまった。
けれど、浩輝の掛け声で我に返り、瞬時に作戦に支障はないと判断。そのまま後方へと駆け出して、奴の油断を誘うためにわざと転んだり、《石の弾丸》を受けたりした。……まあ結局、奴を油断させることはできなかったが。
ともかく、奴を引きつけることには成功。作戦は次の段階に移行する。
第三段階は、奴を空中に縫い止め、確実に《雷衝撃》を当てるまで。
最初に《雷衝撃》を放つ際、わざと大きな声で魔法名を宣言。これにより、オレが魔法名を宣言すると魔法が放たれる、と印象付けた。
奴がその印象を持つかどうかは賭けだったが、オレが杖を構えた時に立ち止まり警戒した様子から印象付けが成功していると判断。魔法の空撃ちを行った。
実は、この空撃ちも賭けの一つだった。
元の世界では、魔法名の宣言に“魔法を放つ意思”を込めなければ魔法は発現しない。これが空撃ちというテクニックを成立させている。
だがここはゲームの世界。“魔法を放つ意思”をゲームシステムが感知できるのか? という問題があった。
予め魔力は杖に注いであったから、ともすれば最初の宣言で魔法を放ってしまっていたかもしれない。流石に《雷衝撃》の発現に必要な量の魔力を瞬時に杖に充填することは不可能なので、賭けに負けていればブロンズエイプに《雷衝撃》を当てることはできず、致命的な隙を晒してしまっていただろう。
ま、結果的には賭けには勝ったと言える。
杖の先端から放たれる《雷衝撃》を予感し、ブロンズエイプはまんまと空撃ちに引っかかった。
杖の先端の直線上から飛び退ることで、回避行動のとれない空中に縫い止められ、本命の《雷衝撃》が直撃。これを耐えたとして、すでに満身創痍であることは想像に難くない。
あとは再び《雷衝撃》を放ち、奴を倒すだけとなる。
……はずだった。
奴の後方には、泉があった。そう、魔水の泉だ。
衝撃で吹き飛んだブロンズエイプは、電撃のダメージで満身創痍になりながらその泉に着水する。派手な水飛沫が上がり、奴が沈んでいく。
背後の木に激突しなかった分、最初にこの魔法を当てた時よりもダメージは少ないだろうが、確実に倒せる一歩手前まで追い込んだ。
そのことを泉に沈んだまま浮かんで来ない様子で確信する。
杖に魔力を注いで、泉に近付いていく。
もう勝敗は決している。この魔法を泉に向けて放つだけで、奴は倒せるだろう。
水は電気を流しやすい。泉に沈んだブロンズエイプは、感電してショック死するはず。
なのに、オレは冷や汗が止まらない。
確実に奴を倒せるはずだという思いがあるのに、直感はまだ警鐘を鳴らし続けている。
不思議な感覚がオレを支配していた。浩輝も固唾を呑んで泉の様子を見守っているようだ。
(……撃たないのか?)
常識的に考えれば、水に沈んだ弱った敵をこの魔法で倒せないということはありえない。
この水が普通の水であれば、これほど嫌な予感を覚えることもなかっただろう。
魔水という未知の水であるからこそ、オレはこの感覚を拭えないのだ。
だがいつまでも様子を見守っているわけにはいくまい。オレは意を決して、魔法名を宣言し――
(ディア!!)
「ぐはっ!?」
腹部に衝撃。そのダメージが内蔵にまで届いたような錯覚をもって、オレの意識を奪いにかかる。
その痛みを堪えて、何が起きたのかと自分の腹部に視線を落とす。
泉の中より飛び出したブロンズエイプが、オレの認識を掻い潜って拳を突き出していた。
一体どうやって……! そんな思いが胸中を巡る。
幸いにも奴は一撃を加えて後退していったので追撃を受けることはなかったが、距離を取るということは魔法を使う布石なのでじっとしているわけにもいかない。
衝撃を受け止めて痛む腹を片手で押さえながら、オレも奴から距離を取るため後退する。途端に殺到する魔法は《石の弾丸》。直前までオレがいた場所の地面を穿ち、粉塵を巻き上げる。
「グァアアア!!」
ブロンズエイプの咆哮が響く。
これを合図に、最終ラウンドが始まった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回の更新は02/20(月)の予定です。
一応3月末で2章が終わり、一旦区切りとなる予定です。
3章開始はある程度書き溜めてからになるので、ゴールデンウィーク前後から再開と考えています。
※2017/02/07(火) 表現の一部を修正しました。




