第3話 アビリティとスキル
その後、オレはキンバリーとオリヒメに《鋭利化》と《頑丈化》の魔法式を教えた。
オリヒメにはその場で魔法式を組み、《頑丈化》の実演もしてみせた。
それぞれ15項程度の簡単な魔法だったが、二人は大変喜んでくれたようだ。
もちろん、その対価に今後は2割引きで商品を売ってもらえるように取り付けることも忘れていない。
ただし、その魔法のことは口外しないように、とだけ注意しておいた。
二人もこの2つの魔法が自分たちに大きなアドバンテージを生むと考えているようで、大きく頷いてくれた。
最後に、二人とはフレンド登録をすることにした。
これでいつでも連絡をとることが可能になったというわけだ。
そういえば、ブルブルには魔法のことを口外するなと言っていなかったが……まあ、問題ないだろう。
むしろ魔法式自体は広めてくれるとありがたい。
なぜなら必要魔力を変数とする方法がわかればどんな魔法にも転用できるからだ。
例えば、注いだ魔力の分だけ複数の《火の矢》のような魔法を放つようにすることもできる。
プレイヤーの数だけ創意工夫が生まれるならば、このゲームはよりおもしろいことになるだろうな。
(でもさ、その場合はベルゼの名前も広がっちゃうと思うけど、それはいいの?)
……た、多少のリスクは想定済みだ、うん。
(忘れてたなら今のうちにブルブルに連絡とっておきなって。間に合わなかったら大変だよ?)
うん、そうしよう……。
二人と別れ、オレはまた街の外に向けて歩き出した。
近場で手頃なモンスターを相手に短剣の使い勝手を確認することにしたからだ。
歩きながら、ブルブルに向けたメッセージを作成する。フレンドに登録した人物宛なら簡易メッセージを送れるのだ。
ただし、オレ自身は日本語をまだ完全に習得できていないので、浩輝に教えてもらいながら四苦八苦してしまったが。
送った内容は「教えた魔法式の作成者に関する情報は可能な限り伏せてくれ」というお願いだ。それに加え、「魔法式自体は任意で広めて構わない」という注釈も付けておく。
浩輝が言うには、もしあの魔法式が広まれば、明日には誰もがあの魔法を使えるようになっているだろうとのこと。
インターネットを介して情報が拡散し、「掲示板」と呼ばれるプレイヤー同士の交流を目的とした場所で誰もがそれを目にすることができるのだとか。
全く便利な世界だと感心するしかない。
間もなくブルブルからも返信があり、「了解」と一言だけ書かれていた。
オレも人のことは言えないが、もう少し何か書いたらどうだと言いたい。
再びストラウト平原に到着。
先程はマンドラゴラばかり狙っていたので、次は別のモンスターを相手にしたいと考えている。
【剣】のアビリティを確認することが目的なのだから、派手な魔法は控えよう。精々【付与魔法】で『麻痺』の状態異常にかけるくらいにしておくか。
(普通、状態異常誘発系の魔法って序盤は使えないものなんだけどな)
そうなのか? まあ、良いではないか。どうせ護身術以上の剣術はオレにはできないのだから、多少ハンデがあって然るべきだろう。
(魔法使いだからね)
この辺りで遭遇するとすれば、犬型モンスターのワイルドドッグか、鳥型モンスターのウィードピジョンだろうか。
できれば単体のワイルドドッグを探すのがベストだろう。いくらオレのステータスが普通のプレイヤーより高いと言っても、オレ自身は剣の扱いに慣れていない。
多少の心得はあるが、複数のワイルドドッグを相手にするには些か危険だ。
(そうかな? ベルゼのステータスは初期値としては破格だから、多少モンスターの攻撃を受けた所でダメージなんてほとんど無いと思うけど)
それでも、あえて危険を犯す必要はないだろう。
浩輝の感覚ではこの世界はゲームでしかないのかもしれないが、オレにとって、ここは元いた世界に酷似し過ぎている。ここがゲームの世界だとわかってはいるが、自らを死に招くような危険はできれば回避していきたい。
それに、デスペナルティ、だったか? それになると、一定時間が経過するまではステータスが下がるのだろう?
万が一そうなった場合、ゲームを思い切り楽しめなくなるぞ。
(それは大変だ! いのちをだいじに、だね!)
変わり身が早過ぎるぞ、浩輝……。
平原を歩き、モンスターを探す。平原のモンスターは、ワイルドドッグやウィードピジョン、マンドラゴラだ。
今はマンドラゴラは無視していいだろう。もちろん、襲いかかって来たならば倒すだけだが。
装備している初心者の杖には、麻痺の状態異常を誘発する魔法、《麻痺付与》を入力してある。
モンスターを見つけた時、あるいは襲いかかられた時は、まずはこの魔法で攻撃する作戦だ。《麻痺付与》自体にはダメージを与えるほどの威力はないが、麻痺の状態異常になると一時的に行動できなくなるはずなので、あとは装備した短剣で攻撃して倒す。
さっき浩輝に話したように、ワイルドドッグの群れを見つけた場合は逃げ出すことも視野に入れている。
ここに来た目的は、あくまで短剣の性能の確認だけだからな。
というわけで、早速ワイルドドッグを発見した。運良く、1匹だけでいるようだ。
オレの接近に気付き、ワイルドドッグは低い唸り声をあげて威嚇してきた。
今にもオレに飛びかかりそうな姿勢を維持しているそいつに、オレはじりじりと近付いていく。
そのまま左手に持った杖に魔力を流し、右手は腰に差した短剣の柄に添える。
魔法を発現させる準備ができたら、あとは魔法を放つだけだ!
「《麻痺付与》!」
【付与魔法】の発現は、見た目はものすごく地味だ。
感覚的には、杖の先端から光線を放ち、放った光線がヒットしたら相手は麻痺になる、といった具合だ。
しかし、実際には光線なんてものは見えないし、魔法が発現したことさえ魔力を感じることができなければ無理だろう。
ワイルドドッグは魔法に敏感ではなかったらしく、オレの放った《麻痺付与》を受け、そのまま全身を弛緩させて動かなくなった。
オレはすぐに短剣が当たる距離までワイルドドッグに近付き、腰に差したままだった短剣を抜き放つ。
動かない的に当てることのいかに簡単なことか、ワイルドドッグは身動きできないままオレの短剣を受けた。
傍から見れば動物虐待にも見えるかもしれないが、ワイルドドッグは歴とした害獣である。気にすることはあるまい。
短剣の一撃を受けたワイルドドッグは、短い悲鳴を上げて光の粒子となって消えていった。
(あっさり勝ったね。この辺の敵だと、ベルゼには温すぎるんじゃないかな)
まあ、そうかもしれない。
浩輝が言うには、ここはゲームを始めたばかりのプレイヤーが己の実力を測るための場所ということだ。初心者用の狩場、熟練度上げの練習場、そんな場所になっているらしい。
ブルブルに見せてもらったステータスから考えれば、この辺りのモンスターのステータスもほぼ同程度のはず。
そんな中で、ステータスの平均値が4000を超えるオレ――ベルゼは、まさに別格と言っていいだろう。
あっさり勝てても何ら不思議ではない。
(もう少し狩りを続けようか。ウィードピジョンとかいうモンスターも一度相手にした方がいいだろうし、短剣での攻撃に慣れておくのも必要だよね)
そうだな。魔法も《麻痺付与》だけじゃなくて、いろいろ試してみるとしようか。
(それはいいね。僕もディアがどんな魔法を使えるのか、興味があるし!)
とは言え、初心者の杖には1つの魔法式しか入力できない。魔法式を複数入力できれば、狩りの効率もぐんと高くなるんだが……。
街に戻ったら、何か方法を考えるとしよう。
ウィードピジョンは、主に雑草を主食とするモンスターだ。アマナ草など他の薬草の類を食べないので、農家では2、3羽のウィードピジョンを飼い慣らしていると聞く。
だが生命力が逞しく、滅多なことでは衰弱せず繁殖しやすいため、決して雄と雌が番とならないように徹底管理する必要がある。
その管理から外れた番が産んだ卵は、孵化するまでに焼却処分されるのが普通だが、偶に処分される前に孵化してしまい、野生のウィードピジョンとして草原や平原に出没するのだ。
こいつのように。
「くるっぽー!」
空からウィードピジョンに襲われること、既に数回。
あれからワイルドドッグを見つけられずにウィードピジョンとばかり戦闘している。
幸いにして、ウィードピジョンの攻撃力は高くない。攻撃の手段も体当たりと嘴で突くくらいだ。
空を飛んでいるために回避は上手いが、逆に言えばそれだけだ。《麻痺付与》を当てられれば、麻痺して地面に落ちるので、難なく倒すことができる。
「《麻痺付与》」
「ぽー……っぽ……」
こんな感じに。
(なんだか、見てて逆に可哀想に思えてきたよ……。見た目は現実にいる普通の土鳩だもんな)
そうか? だが、こいつらは繁殖力が高いから、1羽見つけたなら周囲にあと10羽はいるぞ。
(うへえ、台所のGみたいだな。Gと違って生理的嫌悪感がないだけマシだけど)
話している間に、地に落ちたウィードピジョンを短剣で攻撃して倒してしまう。
ワイルドドッグは一撃で倒せたが、ウィードピジョンは2回攻撃しないと倒せない。まったく、無駄に生命力の高い鳩だ。
<アビリティ【剣】の熟練度が5になりました>
<【剣】のスキル〈壱の型・面割り〉を獲得しました>
と、ここでシステムメッセージが響いた。
内容は【剣】の熟練度が5になったことと、新たなスキルを獲得したことみたいだが……。
(とりあえず、ステータス画面で確認してみようよ)
それもそうだな。
「ステータス・オープン」
ステータス画面からアビリティ一覧に移動し、【剣】を選択する。
すると、先程まではなかったはずのスキル一覧に〈壱の型・面割り〉が表示された。
浩輝、説明を頼む。
(あ、そうか。ディアはまだ日本語読めなかったんだったね。えっと……?)
浩輝の説明によると、剣を振り上げてから振り下ろすまでの最適な動作を実行するスキルらしい。また、熟練度が1上がるごとに威力が1%上昇するそうだ。
(でも多分、どこかで上限にはなると思うけどね。際限なく威力が上がるなら強すぎるし)
だろうな。
じゃあ、この新たに覚えたスキルを試したら街へ戻ろうか。なんだかんだで1時間以上も狩りを続けていたようだし。
(そうだね。あ、ならさ、《麻痺付与》以外の魔法も見せてよ。動けなくするんだったら、例えば……気絶とか睡眠とか)
結局ワイルドドッグが最初の一匹だけだったから他の魔法を試せていなかったな。
ならば要望通り、見せてやろう。
とは言え、動けなくするだけなら、実は《麻痺付与》みたいな状態異常誘発魔法は必要ない。
相手を拘束してしまえばいいだけなのだから、魔力を具現化して捕縛すればそれで済む。
エディタを開き、ポチポチと操作して魔法式を作成する。
オレの記憶にある数万以上の項の組み合わせから、シンプルでありながら強力な魔法式を選択した。
早速、作成した魔法式を初心者の杖に入力する。後は、モンスターを求めて再び歩き出すだけだ。
そしてすぐに獲物を発見した。
タイミングのいいことに、それは2匹のワイルドドッグだ。
この魔法は性質上、複数の敵を相手にする際にも有効だ。先程の《麻痺付与》ならば、一度に1体までしか効果をかけられないため、麻痺にならなかったもう1体にダメージを負わせられていたかもしれない。
オレの接近に気付いた2匹のワイルドドッグは、警戒心を剥き出しにしている。
番なのだろうか? オスと思しきワイルドドッグが前に出て牽制のようにガウガウと吠えていた。
「お前たちに恨みはないが、実験台になってくれ」
(その言葉だけ聞くと、とんだ悪人に思えるね)
うるさいぞ、浩輝。
オレにだって多少の罪悪感はあるが、こうして番になっている以上、いずれ繁殖して別の旅人や行商人なんかが襲われるかもしれない。
そうなってしまったら、それはそれで後悔が生まれるだろう?
(わかってるよ。冗談だ)
「いくぞ、《魔力拘束》」
杖をワイルドドッグ2匹に向けて、魔法を放つ。
《魔力拘束》は、自身の魔力をロープのようなものに変換して一瞬で相手を拘束する魔法だ。
ただ、力が強い相手などは縛り上げても自分で千切ってしまうので、そういう場合は逆に《麻痺付与》なんかの魔法が有効だろう。
魔力のロープにより前後の足を封じられた2匹が、キャイン! と驚いたような声を上げて地面を転がる。
ワイルドドッグはそれほど力が強いモンスターではないから、自分で拘束を破ることはできない。
すぐに短剣を抜いて、1匹のワイルドドッグに対して先ほど獲得したばかりのスキルを発動させた。
「〈壱の型・面割り〉!」
システムに促される形で、自分の身体が勝手に動き出す。
説明にあったとおり、その速度はもはや芸術の域だ。
もしアバターの筋肉の動きがわかったとしても、それを一朝一夕で身に付けることはできないだろう。
軌跡を描いて振り下ろされた短剣が、ワイルドドッグを斬りつける。
一瞬だけ、自分の攻撃だが自分の身体ではない感覚があった。これがシステムアシストなのだろう。
斬りつけられたワイルドドッグはすぐに光の粒子となって消えた。
残るもう一体も、さっさと始末してしまおう。
(さすが魔王さまだね、考えることが常人とは違うや!)
それは、褒めているのか貶しているのかどっちなんだ……?
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回の更新は11/14(月)の予定です。
※2016/12/29(木) 表現の一部を修正しました。




