第2話 鍛冶屋と仕立屋
人物描写難しいです(^q^)
自らを鍛冶職人と名乗る金髪スレンダーな妖精族の美女、キンバリーに誘われてやってきた露天には、武器ではなくチュニックや麻の服など、この世界の住人が着るような普通の服が数多く並んでいた。
武器屋をやっていると言いながら服を売るとはどういうことだと思っていると、店番をしているらしいまた別の女性がいることに気付いた。
「あ、キンバリーさん。お客さんは見つかりましたか?」
「ええ、見つかったわよ~。けっこうな上玉よ~」
「もう、お客さんのことそんな風に言っちゃダメですよ」
キンバリーと親しげに話すその女性は、焦げ茶色の髪をしたかわいらしい人だった。
キンバリーの間延びした口調を気にすることなく、嗜めるように諭している。いい人だ。
「あ、ごめんなさい。そして、いらっしゃいませ、ようこそ、妖精の紡ぎ車へ」
眩しい笑顔だった。
美人というよりは可愛らしい印象だ。どちらかといえば童顔、けれど出るとことは出ていて、引っ込むところは程よく引っ込んでいる。
絶妙なアンバランスさが介在しており、間違いなく誰が見ても好印象を抱くだろう。営業スマイルも完璧だしな。
「私、キンバリーさんと一緒にお店をしている、オリヒメと申します。見ての通り、仕立屋をしています。どうぞよろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む。オレはベルゼだ。キンバリーに声をかけられ、店を見ていかないかと誘われてな」
「そうなんですか。お時間は大丈夫でしたか? キンバリーさん、ちょっと強引なところがあるから……」
「ああ、問題ない。元々、武器屋に行こうとしていたところだったから」
「それはよかったです。じゃあ、キンバリーさんの作った武器、見ていかれますよね?」
「そうだな、頼む」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
オリヒメはキンバリーとは違い、ものすごく丁寧な物腰だ。
きっと、現実の方でも接客業を生業にしているに違いない。
(アパレルショップの店員なのかもね、仕立屋になるくらいなんだし。キンバリーさんは美人で、オリヒメさんはかわいい系か。いいお店だね)
だが、なぜ武器屋と仕立屋で同じ店を、と思わないでもないな。いっそ聞いてみるか。
「おい、キンバリー」
そう声をかけると、店の方に引っ込んでいたらしいキンバリーが顔を見せた。
武器を見せる準備もできたのか、オリヒメも後ろにいる。
「はい~? どうしたの~?」
「“妖精の紡ぎ車”といったか。さっきお前は自分の店だと言ったが、どう見てもオリヒメが店主っぽいぞ」
「違うわ、ちゃ~んと、私の店よ~。同時に、オリヒメちゃんのお店でもあるけど~」
「ベルゼさん、すみません。このお店のこと、ちゃんと説明しますね」
別にちょっと気になっただけなんだが、と思わないでもなかったが、説明してくれるというなら話を聞こう。
「あ、ああ。頼むよ」
「私、このゲームは服の勉強をしようと思って始めたんです。このゲームはフルダイブVRで、現実じゃない完全な別の世界だから、いい勉強になると思って。でもいざ服を売ろうにも、この露天アイテム、『露天商の敷き布』っていうんですけど、けっこういい値段がするんですよ。まだ始めたばっかりでろくなお金もなくて困ってたところに、キンバリーさんが声をかけてくださって」
「おろおろしてるオリヒメちゃん、かわいかったわよ~」
「もう、言わないでください……。あ、それでですね。私が仕立屋を出そうとしていることを話したら、自分も店を出そうとしているから、よかったら一緒にどうか、と言ってくださって。それで二人でお金を出し合って、露天商の敷き布を買ったから、二人で一つのお店になったんです」
「まだせま~い露天だから、二人も店番は要らないってことで~、オリヒメちゃんにお店を任せて、わたしは呼び込みをしていたってわけ~」
「あ、ちなみに、お店の名前はキンバリーさんが付けてくれたんですよ」
ほう、そうだったのか。
なかなかいいところもあるじゃないか、キンバリーの奴。まあ、思うだけで言いはしないけどな。
「なるほどな。事情はわかった」
(まあ、何も問題がないわけじゃないけど、二人が納得してるなら改めて言うことでもないよね)
「そんなことより~、私の武器、見てみてね~」
そんなことって……と一瞬思ったが、キンバリーの耳が赤くなってるし、照れてるだけか。
「そうだな。じゃあ……剣を見せてくれ」
「は~い。どんなのを探してるの~?」
「短剣が見たい。素人でも扱いやすいものはないか?」
「そうね~、短剣だと、これくらいしかないわ~」
そう言ってキンバリーが取り出したのは、無骨な印象のシンプルな鞘入りの短剣だった。
まるで頑丈さだけを考えて作りましたと言わんばかりの一品。キンバリーからそれを受け取り鞘から抜いてみるが、刃は鈍く光るばかりで正直粗悪品の域を出ない。
アイテム名は『鉄の短剣』となっている。そのまんまだな。
「あ、ダメだコレ、って顔してるわね~? でも残念でした~、この近辺の武器屋なら~、どこに行ってもだいたい似たような出来の物しか置いてないわよ~。なんだったら~、今わたしが渡した物の方がマシだと思える品質の物さえあるわね~」
オレの微妙な表情を読み取ったのか、キンバリーは衝撃の事実を告げてくる。
もしもこれが本当なら、キンバリーの武器屋にやってきて正解だったと言わざるをえないが……。
(最初の街だしね、ある程度はゲーム的に調整をしてるんだと思うよ。考えてもごらんよ、もしも最初の街に最強の剣があって、買えば誰でも装備できるとしたら、ゲームバランスが崩れちゃうよ)
確かにそうだ。
まだあまり納得はできないが、妥協はできる。そういうものだと思うことにしよう。
それに、切れ味が悪いのであれば、切れ味を良くすればいいだけの話であるのだし。
(え?)
浩輝が驚いたような声を脳内で響かせているが、オレはそれを無視してキンバリーに告げる。
「わかった、これをもらおう。いくら払えばいい?」
「そうね~、適性価格は400ユルドってところなんだけど~、あなたには今後も贔屓にしてもらいたいから~、オマケして350ユルドにしてあげるわ~」
「そういうのは普通、言わないものじゃないのか?」
「別にいいのよ~、わたしが好きでしているんだしね~」
「キンバリーがいいならオレも気にしないが……。じゃあ、コレで350ユルドだ」
念じるだけで手の上に350ユルド分の硬貨が出現する。
それをキンバリーに渡しつつ、オレはインベントリから杖を取り出した。
「は~い、毎度あり~……って、杖なんか取り出してどうしたの~?」
「ベルゼさん?」
いきなり杖を取り出したオレに気付き、キンバリーとオリヒメは首を傾げている。何をするのかと訝しんでいるようだ。
そんな二人に構うことなく、オレはエディタを起動して魔法式を作成し始めた。
オレがポチポチとエディタを操作する様子を、女性二人は我も忘れた様子で見守っている。
「よし」
しばらくして作成を終え、初心者の杖に魔法式を入力した。
「ねえ~、ベルゼ? なにをしようとしているの~?」
「ん? ああ、魔法を使ってこの『鉄の短剣』を強化しようと思ってな」
「はい……?」
今までの丁寧な物腰からは想像できない間の抜けた声がオリヒメから零れた。
それを横目に、オレは固まっている二人から半歩離れて、杖を構える。もう片方のオレの手には、しっかりと今買ったばかりの『鉄の短剣』が握られていた。
そしてオレは杖に魔力を注ぎ、とある魔法を発現させる。
「《鋭利化》」
オレが魔法名を口にすると同時、片手に握っていた短剣の刃が淡い白の光に包まれた。
だがそれも一瞬のこと。すぐに光は消えてしまう。
「これは……?」
声を漏らしたのは、キンバリーか、オリヒメか。どちらにしろ、目の前で起きた現象に対する疑問の声だろう。
正直、説明するのは面倒なのだが、彼女らとは今後も良い関係を続けていきたいので説明することにした。なんせ美人だしな。
「今使ったのは【無属性魔法】の一つで、武器の刃を鋭くする効果がある魔法だ。刃がない武器には意味が無い魔法だが……、って、どうした?」
いつの間にか、キンバリーがオレの手を握っていたのである。それはもう、がっしりと力強く。
女性に手を握られて嬉しくないはずがないが、相手がキンバリーだということとその迫力に押されてドギマギする暇もない。
「ベルゼ、さっき払ってもらったお金、全額返済するわ。いいえ、それだけじゃ足りないわね。これから先、わたしからあなたが必要とする武器を買う場合、1割……いえ、2割引きで売ってあげる。だから、その魔法をわたしにも教えてちょうだい!」
今までの間延びした口調は何だったのかと思わずにはいられない、しっかりはっきりとした口調でキンバリーが言う。
「その魔法式の出処も、秘密にしたいならわたしも誰にも口外しないわ。今あなたが見せてくれた魔法には、それだけの価値があるから。ねえ、お願い!」
「わかった、わかったから落ち着け! 近い、近すぎる!?」
それはもう興奮冷めやらぬ様でキンバリーが身を寄せてきていたのだ。口調はアレだが美人なせいで、オレの理性が危ない。
キンバリーの豹変ともいうべき様子に驚いていたオリヒメも、やっと我に返ったのか加勢してくれて、やっとのことでキンバリーをオレから引き離したのは、それから数分後の事だった。
「……あの、本当によろしかったのですか? そんな貴重な情報を……」
そう心配げな様子でオレの顔色を伺っているのはオリヒメだ。
キンバリーは、オレから少し離れた場所いて、チラチラとこっちの様子を窺う素振りを見せている。さっきまでの興奮は自分でもみっともないと思ったのか、今はもう落ち着いているようだ。
オリヒメの心配ももっともだが、キンバリーの言った対価はオレにとってもありがたい。ブルブルに魔法式を教えたときと同じで、数多の魔法式を知るオレにはデメリットはほとんどないからだ。
「かまわないさ。すべての情報を開示するわけではないからな」
「ベルゼって~、お人好しよね~」
キンバリーが何か言っているが、無視だ。
近づいてきたキンバリーが手を差し出す。さっきの短剣の購入代金を返金してくれるつもりなのか、とも思ったが開かれた手のひらには何も載っていない。
「は~い、じゃあその魔法式、さっさと寄越しなさ~い」
「もう、キンバリーさん! 迷惑かけたんですから、ちゃんと謝らないとダメですよ!」
お人好し、という言葉はオレじゃなく、オリヒメみたいな人のことを言う気がするな。
(まったくだね)
「わかったわよ~。ベルゼ、ごめんね~?」
「いや、それはもういいが……。ふむ、そうだな」
(ディア、何企んでるの?)
企むとは人聞きの悪い。オレはこれから、商売の話をしようとしているのだぞ。
キンバリーが鍛冶で武器を作るのに対し、オリヒメは裁縫で衣服を作るのだろう。なら、キンバリーだけに便利な魔法を教えるのは、不公平ではないかと思ってな。
(でも、鍛冶はなんとなくわかるけど、裁縫に向いた魔法なんてあるの?)
なければ、こんな提案は思い浮かばないさ。
「ちょっといいか。キンバリーに対して魔法式を教えるのに、オレに依存はない。かなりの対価を提示してもらったしな。そこでどうだろう? オリヒメも、同様に魔法を教わってみる気はないだろうか?」
言われて、きょとんとするオリヒメ。
童顔なためか、そんな表情もかわいく見えて悪くない。
「え? それは……、仕立てとか裁縫とかに関係する魔法を、ということですか?」
「いや、すまないが、仕立てや裁縫に直接関係はない。だが、衣服ということは防具だろう? 防具関連で便利な魔法がある」
「ち、ちなみに、どんな魔法なんですか……?」
オリヒメも、魔法を教えてもらえると聞いて好奇心を隠せないようだ。
背が低いため、オレを見上げるような形になり、上目遣いのような感じになっている。かわいい。
「効果自体は似たようなものだ。《鋭利化》が刃の鋭さを上げるのに対し、この魔法は防具の頑丈さを向上させる。要は防御力の上乗せだな」
その魔法名は、《頑丈化》という。属性は【付与魔法】に該当し、どんな物に対しても効果を見込める汎用的な魔法だ。
「対価はキンバリーと同じでいい。これから先、オレがオリヒメの店で服や防具を買おうとするときに少しだけ割引してくれるだけで、な」
「は、はい! ありがとう、ございます……!」
これで契約成立だ。
(もしかしてディア、こうなることを予想して二人の前で魔法を使って見せた?)
……それについてはノーコメントで。
次回の更新は11/07(月)の予定です。
※2016/11/02(水) オリヒメが出店の経緯を説明するセリフを一部修正しました。
「このゲームはフルダイブ型VRで、現実じゃない別の世界だから、」
→「このゲームはフルダイブVRで、現実じゃない完全な別の世界だから、」
※2016/12/29(木) 表現の一部を修正しました。




