第1話 戦闘職と生産職
お待たせしました。
不定期になりそうですが更新を再開します。
更新は前と同じで月曜日、ただし間隔は未定。
しばらくはストックがあるので更新できそうですが……予定は未定ということで。
チュートリアルを終えて街に戻ってきたところから再開です。
チュートリアルクエストをクリアし、【空間魔法】の《転移》を使って風の街へと帰還したオレは、浩輝に街を案内すべく街で一番大きなメインストリートを歩いていた。
《転移》の魔法を使ってから「しまった」と思ったのだが、魔法で帰還した所を誰にも見られなかったのは僥倖だったと思う。
こんな便利な魔法、見つかれば質問攻めに合うのは目に見えているからな。
風の街は、1年を通して比較的穏やかな気候の街だ。
メインストリートに並ぶ店舗は、武器屋や防具屋、雑貨屋から、八百屋、肉屋まで幅広く揃っている。変わったところだと、革靴屋、材木屋などもあった。
人の行き来が激しく、立ち止まっていると邪魔だとばかりに背中を押されてしまうほど。珍しい物や気になる物を見つけたら、なるべく足を止めずにすぐに店舗の前に移動する必要があった。
往来の人々は大半がNPCだが、中にはオレたちのようなプレイヤーの姿も見える。さまざまな見た目をしているが、それがプレイヤーだとわかるのは頭上に逆向きの円錐があるからだ。薄いグリーンの逆円錐はプレイヤーの証であり、逆にそれがない人々はNPCなのだそうだ。
現在、オレはほとんど目的もなく街を歩いているわけだが、それは先程も言ったように浩輝に街を案内することが目的の一つだからだ。
風の丘――オレがこの世界に降り立った場所であり、国立公園の名称だ――から街の外へ出るまでにも通ったのだが、チュートリアルクエストを優先したために街中を見ている暇はなかった。
今はそのクエストも終わったので、浩輝の言葉に従ってあっちへ行ったりこっちへ行ったりを繰り返している。
その度に浩輝がこれは何だ、あれは何だと聞いてくるが、正直に言おう。
予想外に楽しい。
態度では面倒くさそうに装ってはいるものの、こうして人と長く会話をするのは久しぶりなせいもあり、とても楽しいと感じている自分がいた。
そしてメインストリートを抜け、オレはとある飲食店へと入ることにした。
それは単純に歩き疲れたからというのもあるが、アバターの満腹度が半分を下回り始めたからでもあった。つまり、腹が減った(気がする)ということだ。
「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」
店のウェイトレスは、妖精族の娘だった。
特徴的な長い耳と薄い緑の髪。一目で美人とわかる、綺麗な顔だった。細い体をしているが、ウェイトレスとして見事と言う他無い流麗な所作で、オレを席まで案内してくれた。
(美人さんだったね。妖精族はみんなそうなのか?)
まあ、大体そうだな。偶に例外もあるが。
彼らは魔法に対する天性の才能というか、素質があるみたいでな。魔力が高く、ほぼすべての魔法属性に適性がある。
その代わり、武器、防具はかなり限られたものしか装備できないが……おっと、そんなことより何か注文しよう。
(メニューは、と。……へぇ、割りと品揃えが豊富だね。もっとシンプルなものしか無いと思ってたよ)
それでも、日本のそれには劣るだろう。
浩輝が働いていたコンビニには、これよりも更に豊富な種類の食料、飲料があったじゃないか。
(あはは、そりゃあね。日本人の食に関するこだわりは純日本人の僕ですらもすごいと思うことがあるから。……生産職の人たちもこのゲームはやりがいがあるだろうなあ)
生産職? それはなんだ?
(えっと、僕たちは魔法を使ってクエストをこなしたり冒険したり、っていういわゆる戦闘職なわけだけど、中には武器とか防具とか回復薬とか、そういうものを作ることを目的にプレイする人たちもいるんだよ。そういうアイテムを生産する人たちを、生産職って呼ぶんだ。昨今はだいたいどんなゲームでもこうやって戦闘職と生産職に分かれて楽しめるようになっているんだよ)
ふむ。生産職か。浩輝はやってみたいと思わないのか?
(僕? 僕はあんまりそういうのはやらないかなあ。でもこのゲームは本当に魔法で何でもできそうだから、試しにやってみるくらいはいいかもね)
そうか。なら、オレも浩輝の要望に応えられるように、何か考えておくとしよう。
(本当? さすがディア、わかってるね)
そんな雑談を脳内で交わしながら、オレは注文を取りに来たウェイトレスにオムライスとコーヒーを注文した。もちろん、コーヒーはブラックだ。
しばらくして運ばれてきたオムライスを食べると、ちゃんと味まで再現されていることがよくわかった。
(ゲームの中でオムライスが食べられるとは思わなかったな。味も意外と美味しいし)
浩輝にも味がわかったのか?
(ん? ああ、そういえば、不思議だね。ハックギアを装着しているのは僕の肉体とはいえ、今の表面上の意識はディアだもんね。また謎が増えた)
今は気にしても仕方がないな。
ところで、マンドラゴラの討伐中にも思ったのだが、やはり使える魔法が一つだけというのは些か心許ないな。
しかし魔道具は総じて高価な物だから、せめて杖以外の武器を買おうと思うのだが、どうだろう?
(ああ、いいんじゃないかな。確か【剣】のアビリティがあったよね。他の魔法系のアビリティと比べて熟練度は低かったけど)
そういえば、子どもの頃に剣の訓練を受けていたことがあったな。それの影響だろう。
なら、これを食べ終えたら武器屋に行って剣を買うことにしようか。
(剣といってもいろいろあると思うけど。短剣、片手剣、長剣、大剣……、どれにする?)
子どもの頃にやった訓練では片手剣を使っていたな。
いや、待てよ。片手で杖を扱うことも考えると短剣でもいいかもしれん。両手を使う長剣や大剣は無理だな。
(あ、そうだね。じゃあやっぱり短剣かな。片手剣でもいいけど、小回りが利いた方が何かと都合がいいだろうし、戦闘に関しては僕も考えていることがあるから)
ほう、それは楽しみだ。じゃあ、このコーヒーを飲み終わったら、武器屋へ行こう。
いい武器が見つかるといいんだが。
武器屋を目指して通りを歩く。
あの飲食店の料理はなかなか美味だった。満腹度を回復するという目的も達成できたし、ウェイトレスの妖精族娘も美人だったからな。これからも頻繁に通うことしよう。
(へえ、ディアもやっぱり美人には弱いんだ?)
む、そういう浩輝は興味が無いのか?
男なら誰だって美人には惹かれるし、胸は大きい方が好きだろう。もちろん小さいのがダメだとは言わんが。
(ま、否定はしないけどね。でも僕は、やっぱりリアルで女の子と仲良くなりたいよ。僕と一緒に冒険してくれるかわいい女の子なら文句はないね!)
浩輝のリアルが現実の日本のことを言うのなら、オレにとってのリアルはこの世界だ。
浩輝と一緒に現実の日本で暮らすのも悪くはないが、やはり自分の身体を操作できるのはこのゲームでだけだからな。
四六時中ログインしているわけにはいかないとは思うが……なるべく、この世界に長くいたい。
オレの夢を実現できる可能性があるのは、やはりこの世界だけだから。
(……それ、わかる気がするな)
うん? そうなのか?
(僕にとってのリアルは日本のことを言うけれど、僕の夢は日本では叶えられない。だって、日本には魔法がないからね。魔法を使っていろんなことに挑戦する、人助けをする。それが僕の夢なんだ。……ディアの夢は?)
オレの夢か?
オレは……冒険がしたい。難易度の高いダンジョンに潜ったり、強大な敵と戦ったりしてみたい。
子どもの頃に親が読んでくれた異界の冒険譚に憧れていた。大人になってしまった今でも……いや、今だからこそ、あの頃思い描いていた夢が実現できると考えている。
子どもっぽいだろうか?
(いいや。それを言うなら僕だってそうだ。ディアのことを笑う資格なんて僕にはないし、だいたい、このゲームを遊んでいる人たちは、大なり小なり似たような夢を抱えているさ。なんたって、世界初のフルダイブVRMMORPGだからね)
そうか。
それを聞いて、安心した。
オレと似たようなことを考えている奴もいるんだということがすごく嬉しい。
お前と会えて良かったと思う、浩輝。
「ねえ~、そこの人~」
オレと浩輝の間の会話が途切れたそのとき、オレの視界に突然女性が入り込んできた。
頭上に見える薄緑色の逆円錐から、どうやらプレイヤーのようだが、どうしたんだろうか。
「もしかして、武器屋に行こうとしてる~?」
「あ、ああ。そうだが……なぜわかった?」
女性はそこでくるりと回って、「なぜでしょう~?」などと言いながら道化っぽく笑った。
女性にしては高めの身長で、さっきの店のウェイトレス並に細い体をしている。腰のあたりまで伸びている長い髪が、彼女の魅力を何倍にも引き上げているように感じた。
その薄い金色の髪から覗く特徴的な長い耳からして彼女が妖精族だということはわかるが、何のためにオレに声をかけてきたのかは想像できなかった。
「まあいい。用がないなら、オレはもう行くぞ」
「ちょっと待ってってば~。わたし、あなたに用があるのよ~。武器屋に行くなら、ちょ~っと、わたしの店も見ていかな~い?」
この独特な口調、なんだか妙にやる気を削がれるんだよな。
早く立ち去りたいのだが、彼女が言った一言がオレは気になった。
「お前の店だと?」
(ディア、この人、生産職だよ、きっと。たぶん鍛冶職人だね、武器を作る人)
む、鍛冶職人か。だが、ゲームが始まって間もないというのに、そんなにすぐに自分の店を構えることができるものなのか?
(ああ、たぶん露天でやってるんだろうね。道端にシートか何かを広げて、その上に直接商品を並べるんだ。MMORPGでは定番だね)
そういうものか。
で、どうする? 今もこっちを手招きして、ウィンクなんか飛ばしてきてるぞ。
(行きたいなら行けばいいんじゃない? どっちにしろ武器屋には行くつもりだったんだし、こういうプレイヤー同士の繋がりもMMORPGの醍醐味だよ)
「ねえ、どうするの~? わたしもあんまり長くお店空けられないから~、嫌なら嫌って、言って欲しいんだけど~?」
「ああ、わかった、行くよ。だからその間延びした口調をもう少しどうにかしてくれ……」
「それは無理よ~。ふふふ、一名様、ごあんな~い! なんちゃって~」
そうやって悪戯っぽく笑い、オレに顔を向けてくる。
こうしているのが心底楽しい、そんな表情で彼女はオレに笑いかける。
確かに美人ではあるのだが、やはり彼女の口調がどうにも性に合わない。
軽く店を見せてもらったら、すぐにお暇しようと心に決めて、彼女の後をついていった。
「あ、そうそう。自己紹介、まだだったわよね~? わたし、キンバリーっていうのよ~、よろしくね~」
彼女、キンバリーはそう言ってオレに握手を求めてきた。
女性に触れるのは、随分久しぶりな気がする……と思ったが、そういえば向こうの世界で使用人たちに別れを告げる際に手を握られたり抱きつかれたりしていたな。
「そうか、よろしく頼む。オレはベルゼだ」
もう、間違えて自分の本名を名乗るりそうになることもない。
オレは学習する男なのだ。
握手を交わした後は、また彼女の店に向かうために歩き出す。
足を動かしながらも、彼女はオレに話しかけてくる。
「一応言っておくと、わたしは鍛冶職人ね~。まだ駆け出しだけど~」
「ほう? なんでまた鍛冶なんてやろうと? このゲームは魔法を売りにしているだけに、様々な魔法が使えるんだぞ。魔法使いになりたいとは思わなかったのか?」
「だからこそ、なのよ~。魔法で作った武器なんて、す~っごく、強そうじゃな~い?」
「ふむ、一理あるか。ということは、今店に置いているのも、魔法で作ったということか?」
「あ~、それ、訊いちゃう~? まだまだ、そんな魔法使えないわよ~」
「そ、そうか。それはすまなかった」
(ねえディア、実際、そういう鍛冶のための魔法なんてあるの?)
まあ、ないことはないな。
【創成魔法】や【合成魔法】なんかがそれに当たるな。あとは【火魔法】もそうか? 炉の温度を上げるために使ったりするし。
「私が鍛冶職人になったのは~、ゲームを始めたとき~、『今までの経験をアバターの能力値に反映』とかあったじゃな~い? あれの影響なのか~、アビリティに【鍛冶】があったからなの~」
なるほど、そういう理由か。
確かに、初期からあるアビリティを伸ばすというのもこのゲームの楽しみ方の一つではあるのだろう。
オレには、そういう生産職向きのアビリティはなかった。
まあ、仮にあったとしてもオレは迷わず魔法使いになることを選んだだろうが。
「さ~て、着いたわよ~。ようこそ、“妖精の紡ぎ車”へ~」
そうして到着した露天の店には、武器ではなく、この世界で一般的に着られているような服が多数並んでいた。
次回の更新は10/31(月)の予定です。
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ブックマークありがとうございます。読んでくださる皆様のためにも、少しずつ物語を進めようと思います。
これからもよろしくお願いいたします。
※2016/11/02(水) 一部の「VR」を「フルダイブVR」に修正しました。
※2016/12/29(木) 表現の一部を修正しました。




