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第2ヶ条

 美山さんと付き合い始めたその日の夜、俺は自室でスマホを握りしめて悶絶していた。


「俺のスマホの画面に美山さんの名前が…、嬉しいいい。」


 そう、今日まで俺は美山さんのアドレスや電話番号といった彼女の連絡先を一切知らなかった。よく考えれば、こんな状態でよく告白にOKしてくれたと思うが、今は細かいことは気にせずこの幸せをたっぷり噛みしめてやる。


「メール送ってみても大丈夫かな。いや、大丈夫だよな。なんてたって彼氏なんだからな。」


 俺は嬉しさと緊張により微かに震える手で美山さんにメールを送る。ちなみに、彼女はいわゆるガラケーを愛用しているらしく、今日の帰り道に青色で二つ折りの携帯電話を披露してくれた。なんでも、ガラケーのボタンを押すという点に魅力を感じているそうだ。


 そのためか、美山さんは現在の高校生の連絡手段の主流といっても過言ではない某アプリをしておらず、久々にメール機能を使う。


“今日はありがとう。これからよろしくな!”


「よし、送信するぞ。」


 スマホを握りしめ続けて15分、待ち続けた美山さんからの返信でスマホが揺れる。きたきた。


“こちらこそよろしくね。また明日学校で。おやすみなさい。”


 やばい、今俺、美山さんとメールしちゃってるよ。何度この場面を妄想してきたか。俺は思いっきり緩んだ表情をしながら、美山さんから送られてきたメールの文を見直す。そして、気付いた。


「え、おやすみなさい?!もうメール終了?!」


 時計をみるとちょうど10時。どうやら美山さんはもの凄く健康的な生活をしているらしい。それからの俺は嬉しさともっとメールがしたいという物足りなさが心に充満し、しっかりと夜更かしをしてしまった。


*****


 翌朝、俺は教室に入るなり満面の笑みを浮かべた花陽によって教室の後ろ隅に連れ去られた。


「良かったねえ、おめでとうだよ。おめでとう。まさか、成功するとは。」


 美山さんへの告白が成功したことは昨晩には花陽に報告していた。かなり強引だったとはいえ、俺の背中を押してくれたしね。


「まあ、俺にかかればこんなもんだ。」


「すぐ調子に乗る。これまで全くモテなかったくせに。毎年、バレンタインのチョコ2個だけだったじゃん。私と伊笠のお母さんと。」


「だああ。それを今言うな。」


「まあ、とにかく頑張ってよね。」


 そう言って俺の背中をバシッと叩くと、花陽は登校してきた友達のもとへ行ってしまった。全く朝から嵐のようなやつだ。


「朝一からお前の相棒元気だな。」


 俺が1人で溜息をついていると、同じクラスの佐伯が声をかけてきた。佐伯はサッカー部ですでにレギュラーとして活躍していて、成績も優秀で顔も整っているというまさに絵にかいたようなイケメンだ。ただ、すごく気さくなやつで俺も仲良くさせてもらってる。


「本当だよ。っていうか相棒って言うなよ。」


 佐伯は笑いながら「間違っていないだろ」なんていうけど、俺は美山さんと付き合っているんだ。相棒っていうなら、花陽じゃなくて美山さんにしてくれ。なんて、心の中で呟く。


 しかし、美山さん来るの遅いな。時計の針はもうすでに朝のホームルームが始まる5分前を指していた。早く顔を見たい。俺はソワソワしながら美山さんが来るのを待っていたが、一向に来る気配がない。


 すると、教室の前のドアから担任の熊山先生が大きな体を揺らしながら入ってきた。それと、同じタイミングで後ろのドアが開き、美山さんが教室に駆け込んできた。


「美山。遅刻ギリギリじゃないか。早く席に着け。」


 熊山先生の野太い声に美山さんは小さく頭を下げながら席へ座った。


 挨拶するタイミングを逃してしまった。ホームルームが終わってから美山さんの所にいこう。そう思い、1時間目が始まる前の時間に美山さんの席へ向かう。


「おはよう、美山さん。」


 俺は自分が出来る精一杯爽やかな声で美山さんに話かける。


「伊笠君。おはよう。…私トイレに行ってくるから。」


 あれ?今、すごく避けられたような。ずっと俯いてて顔もよく見えなかったし。もしかして、速攻で嫌われたとか。いや、そんなはずは無い。俺はそう自分に言い聞かせて、その後も何度か美山さんに話かけるも、全て俯いてそっけない態度。さすがに放課後には俺の心は折れかかってKO寸前まで追い詰められた。


 席でうなだれている俺の背中を花陽が叩いた。


「付き合って2日目でもう喧嘩したの伊笠。また変なこと言ったんじゃないの。早く仲直りしなさいよ。」


 そう言うと花陽は部活に走って行った。


*****


 その日の夜。昨日とはうって変わって今晩の俺は凄く気持ちがブルーだ。結局、今日は上手く美山さんと話が出来なかった。


 枕に顔をうずめて動けない。昨日はあんなに笑顔だったのに、女の子の心の変化に着いていけないぜ。


 その時、枕元に置いていたスマホが揺れた。


「あー、花陽か?」


 俺はのそりと顔だけ起こしてスマホの画面を見る。そして画面に表示された名前を見て飛び起きた。


“美山美森”


 俺は生唾を飲み込んでメールを開いた。


“今日は態度悪くてごめんなさい。正直に言うと、昨晩あまり寝れなくて目の下のクマが恥ずかし過ぎて。ごめんね。明日はちゃんとするよ。”


 やばい。こんなメールずるいな。何だか今日の美山さんの態度さえも可愛く思えてきて、何度もメールを見返す。そして、きっちり今日も夜更かしをしてしまった。

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