カリカリ
4割実体験です。
カリカリ…カリカリ…
不思議な音がする。少年は目をぱっちりと開け訝しんだ。一体この音はなんなのだろう? 何処から聞こえてくるのだろう? 全ては夜で真っ黒に塗りつぶされて分からない。ベッドから少し遠い場所から聞こえる気がする。窓からだろうか? ドアからだろうか?
カリカリ…カリカリ…
少年は布団を頭からかぶった。もしかしたらお化けかもしれない。そう思った途端に、この部屋に響いている不可思議な音が不気味に感じた。そうすると、少年一人しかいないはずのこの部屋に、他の生き物がいるようで、さらに怖くなった。
カリカリ…カリカリ…
尚も音は響き続ける。何かを引っ掻くような…何かを削るような…そんな音。いつまでも続く音に慣れ、少年はだんだん恐怖よりも興味と、幾何かの苛つきを持ち始めた。なぜならば、安らかな眠りを欲し出したからだ。そしてこんな音を出す奴がなんなのか、暴いてやろうと好奇心がムクムクと出てきたからだ。この音の出所を見つけ、その原因を断ちたくなった。そして恐怖と靄る気持ちから解放され、眠ろうと思い立った。
カリカリ…カリカリ…
少年の気持ちなど露知らずかのように音は出続ける。少年は部屋の明かりを点けた。勢いよく、音を出し続ける存在を威嚇するかのように。
パッと部屋が白色に輝き、少年と部屋を照らした。少年はあまりの眩しさに、まるで狐面のように目を細めた。少年の目は次第に明るい世界に慣れ始め、あたりを見回せるようになった。
カリカリ…カリカリ…
ベッドから見渡せる限り見渡す。音は何処からだろうか? 窓には何もついてなく、夜風に木が震えているだけだ。ドアには何もついてなく、ただがっしりと、しっかりと在るのみだ。
ベッドから降りてすくっと立ち、見渡してみる。本棚、勉強机を見る。
おや?
カリカリ…カリカリ…
勉強机にはやりかけの漢字ドリルがぽいっと置かれている。その隣には筆箱とそこから出されたままの鉛筆と消しゴムがドリルと同じくぽいっと置かれている。その鉛筆の芯の部分に何か黒くテカテカしたものが付いている。宝石だろうか?
カリカリ…カリカリ…
よく見ると、その黒い物体からは髪の毛のように細い毛が二本ぴょんと出ており若干動いており羽の模様もあり六本の足からは小さいトゲトゲがびっしりと生えてゴキブリと分かると同時に少年は
「ワアッ!」
と、大きな声を出して驚いた。
正体を暴かれた犯人は、ようやく自分が気づかれたことを理解した。そして食事を打ち切り、そそくさと勉強机の隅にある隙間へと脱出した。鉛筆には、犯人が残した歯型がくっきりと深く刻まれていた。
少年はドアを勢いよく開け、一〇〇メートル走で一位を狙える速さで、両親の部屋に飛び込んだ。
翌日、少年の部屋にはいくつかゴキブリホイホイが置かれた。それにまんまと引っかかり、少年を怖がらせた罪をその命で償うことになるのは、また別のおはなし。
これからも頑張ります。