09 『月刊討伐人第12号』
月刊討伐人をご覧のみなさん、いつも皇領辺境域の魔物討伐状況を徒然と語る "皇領討伐記"を書かせていただいている、辺境放浪記者リフレイです。
前回、クルトーの運河工事事業の様子と周辺の魔物事情について記事を書かせて頂きましたが、実は、その時にたまたまカロンという小さな町に滞在したのですが、ちょっとそこで凄い体験をしたので皆さんに紹介させて頂こうと思います。
カロンの町は人口数百人程の小さな町で、周りに広がる畑からの農作物によって成り立っています。
ですが、最近魔物の出現率が上がり、農作物への被害も出始めその対策に頭を悩ませていたそうです。
なかなか世の中はわからないもので、今では討伐人の間ではちょっとホットな討伐スポットとして人気なんだそうです。
…… ちょっとホットな討伐スポット。
なんか語呂がいいかも。
閑話休題。
私は町に一つだけの宿に泊まったのですが、そこである討伐隊の方々と出会いました。彼ら、実は魔物観測局から依頼を受けてカロンに来たらしいんです。
観測局の依頼というのも珍しいんで、内容を聞いてみると、魔物が集中的に発生している"カロン遺跡"の調査だったんです。
これはもうついて行くしかないでしょ。 なんとか交渉したところ、討伐隊の中に私の記事を読んでくれていた方がいまして、その方のご好意で…… まあ、ぶっちゃけると、無理矢理同行の許可をいただきました。
いやー、年甲斐も無くワクワクしてなかなか寝付けませんでしたよ。小さい頃は冒険者に憧れまして、フィニッツの『暗黒大陸大冒険』やら、トウイ・アラモスの『都の護り人』なんかを読んで、近所の山に秘密基地を作ったものです。
カロンの町から半日、早朝に町を出て、昼過ぎに、討伐地として有名な"西の森"に辿りつきました。
そこから更にグネグネと地面を這う根っこを乗り越え、草を掻き分けて、途中、ちょこちょこっと魔物なんか討伐して、やっと到着しました。
最初に見えたのは、森に飲み込まれたような段差のついた三角形の建物でした。
遠くから見ると、小石で出来た小さな山みたいだったのですが、これ、近寄ってみると、両手を伸ばしても足りないくらいの巨大な岩を積み上げて出来ていたんですよ。
その岩もただ単に積んだのではなく、複雑に切れ込みが入っていて、それらが紙切れ一枚入らないくらいビシーと合わさっているんです。
いやー、もうほんとに凄い技術ですよコレ。
クルトーの運河工事も凄い技術が使われていましたが、これはもう人間わざとは思えないんですよ。
あんまりにはしゃぐ私を見て引いていた討伐人の方達も、次第にその凄さに気づいたみたいでしたね。
同行した観測局の方が軽く調査し、次に向かった場所は、小さな川が流れる渓谷でした、
小石がゴロゴロ転がる川を上っていくと、目の前にとんでもないないものが見えました。
あわてて駆け寄ると、そこには、石を積み上げて作られたアーチ橋があったんです。
絡まりまくった蔦でよく見えなかったのですが、これも巨大な岩を巧妙に積み上げて作られていたんです。
いやー、これには驚きましたよ。
生い茂る森の奥深くにこんな建造物が眠っていたなんて。
討伐人の方に手伝ってもらって川から橋の上に登った私は、また驚きました。このアーチ橋、上は水路になっていたんです。しかも今でも水が流れていました。
水一滴漏れることなく、川の上に水路を通すなんて、今でもかなり難しい技術なんじゃないかな思うんです。
でね、このアーチ橋がまた可愛らしいフォルムをしてるんです。
横から見ると、まるで真ん丸眼鏡。
私、おもわず「かわいい!」って叫んじゃいました。
これにはさすがの討伐人達もドン引きでした。反省はしてますが、後悔はしていません。心が動かされたことは事実ですからね。
もうね、眼鏡アーチ橋のグッズがあれば買い占めますよ。
アーチ橋型の眼鏡なんかもいいかもしんない。私は普段眼鏡してませんが。もしこの眼鏡が売り出されたら、レンズ取っ払って付けちゃいます。
何度も上に昇ったり、アーチの下から詰まれた岩を眺めたり。
このアーチの下からの眺めがまた素晴らしい。
詰まれた岩が、螺旋状にならんでバランスを保っているんです。
「こ、これは、ほんとに凄い。どうして崩れないのかな」
同行した女性討伐人の方も随分興味を持たれたようです。
「でしょ、でしょ、これ螺旋に岩を組んでるんですよ。かわいくないですか」
「え? いや、かわいいとまでは…… ずっと見てると目が回りそう」
少し引かれちゃいました。自重。自重。
で、そのアーチ橋の側で遅めの昼食を食べて、更に川を遡っていきました。
実はここに来るまでに、スカイウルフを四匹、ランドスネイク二匹、ウェアタムザ一匹をサクッと討伐しています。
観測局直属の討伐隊ではないらしいですが、なかなか統制が取れたいい討伐隊でした。
中でも女隊長さんが、以外と遺跡に興味を持ってくれたみたいで。
是非また連れて行ってもらいたいです。
ということで、いよいよ"カロン遺跡"の中心、大ドームに到着しました。
* * *
ドームについて書く前に、観測局の方から聞いた、カロン遺跡について少し書きます。
カロン遺跡が発見されたのは、今から十数年前。森に入った討伐人が偶然見つけたようです。
その後、三度に渡り大規模な調査隊が組まれ、出土品などから約二千年程昔に栄えた、レムルカント文明の中心都市だったと推定されているそうです。
レムルカント文明とは、魔術革命以前の文明であり、分類としては、非魔術先史代西カロン1-0033期巨石遺跡となるそうです。
特に有名なのは、遺跡中央に存在する第一大ドームとそれに付属する七つの人工ピラミッドで、ドーム内の壁面にはレムルカント時代の文字で描かれた、最古の叙事詩『シュメル・ギール叙事詩』が発見されています。魔法技術が無かった頃、彼らがどのような暮らしをしていたのかを知る第一級の歴史資料です。
さて、件のドームが見えて来ました。
現代で言うところの、とてつも無く巨大な穀物倉庫といった感じでしょうか。とてもこれが二千年前の建造物とは思えないですね。
円筒形に組み上げられた巨石の石壁は、マーカス競技のグラウンドが一つゆうゆうと入る程の広さ。
ドーム型をした天井は、屋内に侵入した木々や、雨風のため三分の一程しか残ってませんが、その代わり、枝を広げたシュロムの木が天井を覆い隠しています。 かつては石壁にそって螺旋状に階段がつけられていたようですが、今では完全に吹き抜け状態です。
床には石レンガのくずが草の間に転がっていて、薄暗い空間もあいまい、歩くのが大変ですね。
そして、『シュメル・ギール叙事詩』が刻まれたレリーフが見えてきます。
ちょっと感動です。
教科書や、博物館でレプリカは見たことがありましが、本物の持つ迫力にはかないません。
簡単な記号のような文字で編まれた壁一面のレリーフ。見ているだけで引き込まれるようです。文字らしきものはまだ完全には解読されていないそうです。
特に、叙事詩内の固有名詞の解読が難しい、と観測局の方が言ってました。叙事詩と言うくらいですから、なんか壮大な物語が描かれていそう。
生きてる内に読んでみたいですね。
観測局の方の話によると、不思議なことにこのドーム内には魔物が入って来ないそうですね。
これは一般人にはあまり知られていない事らしいですが、討伐人の間では常識らしく、魔物に追われた討伐人が遺跡に逃げ込んで助かった話は、結構あるみたいですね。
でもどうしてなんでしょうか。
教団が使用する結界の様な物がある、魔物が嫌がる何かが遺跡から発せられているのでは、など、まだまだ研究段階だそうで。
この技術が実用化されれば、かなり助かりそうなんで研究者の方には頑張っていただきたい所ですね。
まあ、私や討伐人さんは仕事あぶれちゃうかもですがね。
ドーム内の確認を終え、外に出ると、付近は夕日に包まれていました。
夜になると森は魔物が活発に動き始めます。
急いで帰り支度をして、出発となった時でした。
私、何気なく遺跡ドームを振り返ったんです。
言葉を失いました。
木々の間を抜けた夕日の光を受けたドームは、まるでドームその物が光を放っているかのように輝いていたのです。
立ち尽くす私を見て、討伐人達や、観測局の方々もドームを振り返りました。
「なんて美しい」
討伐隊長さんが思わず言葉をもらしていました。
そうなんです。美しいという言葉しか思い浮かびませんでした。
討伐人、観測局員、教団司教、そしてしがない雑誌記者。立場も違えば、考え方も違う人々がみな、気持ちを共有する不思議な感覚。
魔物に心があるのか。私達には分かりませんが、もしそれに近いものがあるならば、それが彼らがこのドームに近寄らない理由かもしれませんね。
うーん。古代遺跡、愛でちゃうかもしれない。
もし共感して下さる方がいれば、特集なんかも提案してみようかと考えています。感想、励ましのお手紙待ってます。
* * *
今回の討伐結果
○スカイウルフ 七匹
○ランドスネイク 二匹
○ウェアタムザ 二匹
討伐場所
○カロン西の森
○カロン遺跡
食べた物
○討伐宿『カロンの灯』特製お弁当。
交通手段等
○クルトーからカロンまでは、ウロス定期便で半日、スタック便をチャーターすれば、その半分。カロンから西の森までは徒歩で半日程度。
○討伐人宿『カロンの灯』最大収容人数十五名。
一泊1ゲント(翌日特製弁当3クルプ)、討伐人専用ウロス有り。
※注意事項※
カロン西の森での討伐は可能ですが、カロン遺跡周辺は観測局による観測重点区域に設定されています。魔物討伐に当たっては観測局、及びクルトー大教会討伐受付の許可が必要です。また、不測の事態を想定し、最低一人は銀輪以上の討伐参加が義務付けられています。
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