塩ひとつまみ
初めてお菓子を作った時は、砂糖の量にぞっとしたものです。
製菓に限らず、料理を作ってもらう時、味の加減は人任せなもの。
しかしそれが確実に、食べる人の健康に影響します。
もしも、そこに悪意があったら・・・?
そんな考えを膨らませて書きました。
ご主人の留守中に、奥様が語ります。
美味しいですかぁ?
ありがとうございます。///
味の決め手ですか・・・?
うーん、やっぱ、
愛、かなぁ?
なんてね。///
あ、いえ、
結婚した頃は、そんなに料理、上手くなかったですよー。
あ、本当に、謙遜じゃなくって。///
旦那さんにしょっちゅうご飯、突き返されてました。
あのヒト、ちょっと、うるさいから。
味が悪い、塩が足りないって、怒るんです。
ちょっとしたことで。
いっぱい泣いたなぁ。
でもやっぱり、美味しいご飯食べてもらいたくて。
頑張って練習したんです。///
ええと、
お料理教室行ったり、レシピ見ながら作ったり、ですねぇ。
朝に、昼に、おやつに、夜。
それと、間で試作を何回か。
勿体無いから、ぜんぶ食べてたら、
それでこんなに、太っちゃって。///
あの人も今は、美味しいって言ってくれるから
これも、幸せ太りかなぁ。///
愛する旦那さんの為だもの。
頑張ったんですよー。///
あ、旦那さんですかぁ?
今日は、えっと、いないんです。
ていうか最近、いない事が多くて。
・・・だから今日は嬉しいんです、
一緒に食べてくれる人がいて。
やっぱり、誰かと一緒の方が、美味しいですからねー。///
・・・旦那さん、ね。
お仕事、って言ってるんですけど。
私、わかっちゃってて。
浮気してるんです。
・・・携帯、みちゃって・・・。
やっぱ、駄目かなぁ。
でも気になるんだもの。///
今日なんかもね、
やることが一通り終わって、
次何をしよう・・・とか考えながらぼーっとしてたら、
あのヒトのこと、考えちゃって。
お昼に何食べたかなぁ、
昨日のご飯はシチューにしたなぁ、
今日も寒いから、おでんにしよう、とか。
だからね、
あのヒトが誰か他の誰かとご飯食べに行くなら、
それでもいいと思うんです。
ホントーですよぅ。///
ご飯は美味しい方がいいでしょう?
あのヒトに誰か、一緒に食べたい人がいるなら、
それは仕方ないと、思うんです。
でもちょっと、心配な事があって。
あのヒト、血圧が高いんです。
仕事での付き合いが多くて、
お酒もタバコも飲むでしょう、
それに彼って頑固だから、
やめろって言っても聞かなくて。
せっかく私が体のために
塩を減らして、お酢を使った料理にしても、
食べてくれないんですよねー。
それで、ちょっと、困っちゃって。
今日なんかもね、女の人と、
食べに行ったと思うんですけど、
外食って、塩分きついでしょう?
それだけが私、心配で。
体、だいじょうぶ、なのかなぁ。
彼女が、作ってくれてるかも、しれないですけど。
血圧のこと、ちゃんと、知ってるのかなぁ。
・・・お料理、味、薄いですか?
丁度いいですか、よかったぁ。///
私も、これ位でいいと思います。
まぁそろそろね、飽きる頃だと思うんです。
いつも長くは続かないから。
お前しかいないんだって言って、必ず
私の所へ帰ってきてくれるんですよ。
えへへ。///
この前ね、彼、言ってくれたんです。
私の料理が一番美味しいって。///
そのとき私、いつもより、
ちょっとだけお塩、多めにしたんです。
はっきりした味が好きなあのヒトに
美味しく食べてもらいたくって。
だから彼の美味しいっていう言葉が、
嬉しかったなぁ、すっごく。///
体に悪いのは、知っててもね。
あのヒトの笑顔見てたら、
どうでもよくなっちゃって。///
だから、
今度あのヒトが帰ってきたら、
お塩を少し多めにしてあげるんです。
あのヒトに喜んでもらえるように。
お塩を、そう、ひとつまみだけ。
それで、うまくいくんなら。
それで、早く帰って来てくれるなら。
別にいいと、思うんですよ?
彼がそれで幸せなら、
私もきっと幸せなんです。
だから、ほら、
隠し味はやっぱり、愛、ですね。///
安心ってなんでしょうね。
昨今それがとても難しいことに思えます。
ともあれ、ご飯を美味しく食べたいなら、
作ってくれる人は大事にした方がいいですね。
それではまた、いつの日か。
あなたが次に出会うのが、良い物語でありますように。
お読みいただきありがとうございました。
内野さびねこ