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短編

作者: 朔月 満

少女と白の少年の夢のような遠い昔の話し





彼らが視界消え去ると少女は貼り付けた笑みを消し 無表情でそらを見上げた。


「 」


真っ暗な闇の中 青白く煌煌と輝く満月を見つめながら 無意識のうちに彼女の口から言葉が零れ落ちた。


「彼の物語はもう貴方の物語と重なることは無い… 貴方が望んだことでしょう?」


ふわりと音も無く舞い降りる白い人影はそう言うとピアノに目を向けた。

彼女は驚くことも無く彼を眺めた。

そして ポツリと呟いた。


「…そうこれは僕が望んだことだ。」


ふらふらとピアノの前に腰掛けた。そして目を閉じ 静かに音を紡ぎ始めた───────






ほの暗く物憂い雰囲気の中 彼女はひたすらに奏で続ける。 あの人に唯一教えてもらったその曲を。


甘美で感傷的な旋律が辺り一面に広がり 木々達でさえ お喋りをやめ 静かに聴き入っていた。


彼は 月光に照らされ銀に輝く髪をなびかせ フワフワと漂いながら 真っ赤に熟れた林檎を一つ 木からもぎとり 暫し その香を楽しむ。そして 手持ち無沙汰に掌の上で弄ぶ。


「また規則を破りましたね… さていつもの様に代償を頂きますか」


そう呟くと彼は血のように紅い林檎をクシャリと握りつぶした。

滴り落ちるそれを 眺め 妖艶な笑みを浮かべ 言葉を吐く。


「…貴女が消えてしまうのはいつでしょうね」


彼女は黙ったまま 音を紡ぎ続ける。彼はますます笑みを深め そっと目を閉じ 響き渡る旋律に身を委ねるのだった。




最期の音を引き終わると 一瞬の静寂の後 再び木々達がおしゃべりを始めた。白い影はもう居なかった。





「皆に忘れられても皆を忘れてしまっても 貴方は必ず僕の事を覚えていてくれる。何を言っていても最後には貴女は私の望みを叶えてくれる。





後 もう少し…ね。」



ピアノをひとなですると 彼女は木々達の隙間に消えていった。


月は変わらず煌々と冷たく見ていた。










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