9、懐かしい気持ち
用もないのにスーパーまで着いてきてしまいました。
「…何も買わないの?」
「えッ…あっ…か、買うよ?!」
「ふーん。」
なんだか……私の目の前にいるのは龍ちゃんじゃないような気がしてきた。
だって私の顔見ても、名前聞いても知らん振りだし…
10年前のことだから忘れてるとか?
それはそれでショックだな…
私にとってはあれが初恋だったのに……
「ちょっと…なにさっきからボーッとしてんの?着いて来るのか来ないのかハッキリしろよ。周りちょこまかされても迷惑。」
「あぁ、ごめん!……本城君いっぱい買い物するんだね?おつかい頼まれてたの?」
「…俺、一人暮らししてるから。スーパーまで来たしついでに。」
「へぇ〜!一人暮らししてるんだぁー!ってことは自炊してるの!?」
「まぁ…。」
「すごいなぁ〜!私なんか料理まったくダメだよ。」
本城君、最初の頃に比べたら少しは話してくれるようになったなぁ。
そろそろ、それとなく質問を投げ掛けないと…!
「本城君は…小さい頃どんな子だったの?」
「なに?いきなり。」
「ちょっと聞いてみただけ!」
「…別に。普通じゃない?」
「普通…かぁ…。真澄君や祥一君とは、いつ友達になったの?」
「高校入ってから。…さっきから何なの?」
「…ちょっとね!」
「アンタはさぁ、あの日、なんで合コンに参加したの?」
「えっと…実は恥ずかしながら生まれてから1度も彼氏ができたことなくて…今後の高校生活をエンジョイするためにも彼氏を作ろうと…」
「思ったけど、危うく学にお持ち帰りされそうになったわけだ。」
「………はい。」
「彼氏がいればそれで良いの?」
「いや……なんてゆうか……」
「そんなことばっかり考えてっと、本当に大切なもの見逃すぞ。」
「………。」
なんか意外…。
こんなこと言う人だったんだ。
「…本城君にとって、大切なものって何なの?」
「……さぁ?わかんね。」
「わ、分かんないならそんなこと言わないでよッ!」
「それよりあんたさぁ、買い物しないの?もぅ俺帰るよ?」
「あぁ〜もぅいいや!」
「はぁ!?」
「帰ろ帰ろ。」
「何なんだよ…。」
私にとって大切なものって何なんだろ?
家族?友達?将来…?
「荷物半分持とうか?」
「いい。」
「自転車のカゴにのせるよ?」
「いいって!ってか、いつまで俺についてくるわけ?」
「いいじゃん。帰る方向一緒なんだしさ!」
「…どーでもいいけど。」
うぇ〜んッ…グスッ……
「あ、女の子が泣いてる。どうしたのかな?私ちょっと言ってくるね!」
「おい…!」
「こんにちわぁ。どうしたのかな?大丈夫?」
「めっ…めいの…ボールがなくなっちゃった…」
「そっかぁ。もぅ泣かないで。お姉ちゃんも一緒に探すから。ね?」
「う…ぅ、うん。」
「おい、どうしたんだ?」
「この子のボールがなくなっちゃったんだって!だから私、一緒に探すねー!本城君は先に行ってて!」
「おせっかいめ…」
「どんなボール?」
「黄色の。パパに買ってもらったやつ…」
「黄色のボールかぁ…。どのへんでなくしたのか分かる?」
「あっち…。」
「よし!じゃあお姉ちゃん見てきてあげるからここで待っててね!」
「うん。」
黄色のボール…
どこいったかなぁー…
「あッ!あった!」
プップー!キイィィィ!
「菜々実!!!!」
「キャッ…!」
私の名前を呼んだ彼の声を聞いて、私は懐かしい気持ちになった。
しかし私が目を向けた先には仰向けになって倒れている彼の姿があった。