第464話 軍オタアフター 帯に短したすきに長し
魔術師S級、『獣王武神』タイガ・フウーの特異魔術に『10秒間の封印』と呼ばれるモノがある。
タイガに触れられた者は『10秒間一切の魔術が使用不可になる』というものだ。
一切のとは文字通り肉体強化魔術、治癒魔術、攻撃、防御系魔術も全て使用できなくなる。
10秒の使用不可中に再度触れられても10秒が追加されることはない。
10秒が切れた後、再度触れられればさらに追加で10秒魔術が使用できなくなるが。
この10秒間の封印と『腐敗ノ王』の大剣で、一部だけ復活した魔王の力を一時的に封じた後、現代兵器で倒すという作戦が立てられる。
オレの嫁であるスノー、彼女の師匠である魔術師S級のホワイト、他魔術師を総動員して魔王の左手が城壁外に出ないよう時間稼ぎをしている間に、討伐作戦準備が進められる。
オレが旦那様を連れて、急ぎ倉庫研究所へと駆け込む。
タイガ&『腐敗ノ王』が魔王の力を一時的に封印後、攻撃する現代兵器を取りに来たのだ。
ここで意外と頭を悩ませることになる。
先程、蘇った太古の魔王が城壁外へ出ようとしたので足止めのため『40mm 炸裂火炎魔石榴弾』をぶち込んだ。
榴弾は無事、魔王へと着弾し爆発したのだが――爆炎や破片などが別の物質(金、銀、土、錆びた鉄、変な生物)に変化してしまった。
この地に封印されている魔王は『練金、変質に特化した魔王で、5大魔王の中でも随一の不死性を持つ。彼の大陸に多種多様な魔人種族が存在するのも、この魔王の力のせいだ』とか。
恐らく榴弾の攻撃も魔王に触れた瞬間から別の『ナニカ』に変質させたのだろう。
しかしこのチートスキルは、タイガ&『腐敗ノ王』コンビによって一時的に封じられる。
あくまで『一時的』にだ。
タイガの『10秒間の封印』は、相手の魔力が膨大すぎると10秒を迎える前に解除されてしまう。
以前、『黒毒の魔王』の力を封じた際、数秒で解けてしまった。
今回は『腐敗ノ王』の力があるため、低めに見積もっても5秒は確実に力を封じることができるだろう。
この5秒間――2人が退避する時間も考えて2.5秒~2秒ぐらいしか攻撃が通用する時間が無い。
ほんの僅かな時間しかないため、一息で決着をつける必要がある。
また現在、魔術師の殆どがスノー達のサポートに当たっているため、大規模な攻撃魔術は期待できない。
残るは高火力の現代兵器で倒しきるしかないのだが……さすがに『威力が高いから』とバンカー・バスターを投入する訳にはいかなかった。
昔、『黒毒の魔王』が山に篭もっていた際、旦那様にバンカー・バスターを投擲してもらった。
結果、旦那様の魔力と変な反応をしたためか、山一つ消し飛ぶ惨事が起きたのだ。
リースがおらず『無限収納』が使用できない現状、前回のように旦那様に投擲してもらう必要がある。
つまり前回同様な爆発――具体的には山一つ消す爆発力が起きるのだ。
確実にオレ達ごと封印都市マドネスが消滅するだろう。
とはいえ120mm滑腔砲から発射される装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS―T)は貫通能力は高いが、約20~30mもある魔王の左手を倒し尽くす者ではない。
自動擲弾発射器から発射される『40mm 炸裂火炎魔石榴弾』では威力が低すぎて、倒しきる前にタイムオーバーしてしまう。
ちょうどいい破壊力がある現代兵器がなかった。
まさに『帯に短したすきに長し』状態だ。
ではどうすればいいのか?
ないのなら今すぐ作り出せばいい。
ナパーム弾を開発する際、『どのサイズが一番効率がいいのか?』を確認するため複数の大きさの実験用ナパーム弾を製造した。
その中で一番大きい物で中身の油脂燃料を含めて1発、約300kgの物がある。
オレとメイヤ、ルナの製作チームでこの300kgナパーム弾を対魔王用に改造すればいいのだ。
改造と言っても難しくない。
本体はルナが一度製作済みのため『完全記憶能力』で魔術液体金属から瞬時に作り出すことが出来る。
その本体にゼリー状の燃料と炸薬代わりに『40mm 炸裂火炎魔石榴弾』の魔石をセット。
通常のナパーム弾に比べて格段に威力が増す。
製作時間は約10分だ。
1発の値段が高すぎて、汎用兵器としては失格だが、左手の魔王を倒すには打って付けだろう。
「メイヤ、ルナ、2人とも製作手伝ってくれてありがとうな」
「そんなお礼なんて! 妻として夫を支えるのは当然のことですわ!」
「前に作ったのをまた作っただけだから、たいした労力じゃないよ。それよりリューとん、ルナも左手の魔王や大型ナパーム弾の威力とか見たいんだけど、一緒について行っていい?」
メイヤは両手で頬を押さえて体をくねらせ、ルナは好奇心から瞳を輝かせて同行を願う。
オレは二者二様な態度に、微苦笑を漏らしつつ、
「万が一の可能性があるから同行は却下だ。2人は念のため街の外へ出てくれ。護衛の担当がすでに外で待っているから、彼女達の指示に従ってくれ。旦那様、後は頼みます」
「うむ、任せるがいい!」
この指示にメイヤは素直に従い、ルナは不服そうに頬を膨らませたが切羽詰まっている状況を理解しているため、それ以上我が儘を言わず大人しく引き下がった。
オレは彼女達が外へ出るのを横目で見つつ、旦那様にお願いして出来立てほやほやの大型ナパーム弾を運んでもらう。
『黒毒の魔王』の時同様に、タイガ&『腐敗ノ王』が力を封印した後、旦那様に大型ナパーム弾を投擲してもらう予定だ。
レシプロ機(擬き)に搭載している通常のナパーム弾は鉛筆先端を保護するアルミキャップの形をしているが、この大型ナパーム弾はまるでぶっとい鉄筋のようだった。
旦那様は重さ約300kgを越える大型ナパーム弾をまるで鉛筆を持つ気軽さで肩に担ぎ、外へと運び出す。
しかも肉体強化術を使わずにだ。
一瞬物理法則に疑問を抱きそうになったが『旦那様だしな……』とすぐに納得した。
とりあえず、これで準備は整った。
後は作戦を実行するだけである。
オレと旦那様は時間が惜しく、戦場となっている城壁と急ぎ戻ったのだった。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
『令和1年12月15日(日曜日)』に明鏡シスイの新作をアップさせて頂きました。
タイトルは『軍オタが異世界ヨーロッパ戦線に転生したら、現代兵器で魔王ヒトラー(美少女)を倒す勇者ハーレムを作っちゃいました!?』です。
軍オタ好きの読者様なら楽しめる作品になっているので是非是非チェックして頂ければと思います。
新作は作者欄からも飛べますが、一応URLも張らせていただきます。
以下になります。
https://ncode.syosetu.com/n5526fx/
新作&こちらの軍オタアフター(明日もまたアップします)共々よろしくお願い致します。