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第461話 軍オタアフター 投下

『腐敗ノ王』を倉庫研究所に案内した翌日。


 城壁上部に全員が顔を覆う防毒マスク(ガスマスク)を被る物々しい一団が並んでいた。

 この一団は殆どが獣人種族らしく多種多様な獣耳&尻尾が防毒マスク(ガスマスク)や服の下からのぞいている。

 異様な光景だった。


 防毒マスク(ガスマスク)で顔を覆った一団が並んでいるからではない。

 現在の封印都市マドネス城壁内部は、太古の魔王の封印が弱まったせいで大量のゾンビ系モンスターが溢れ出ていた。


 そのせいで街全体に腐臭と死臭が溢れ出ていた。


 鼻が良い獣人種族はあまりの臭さに、城壁に近付くことさえ嫌がっていた。

 人種族の者さえ、人によって臭いの酷さにダウンすることさえあった。それぐらい腐臭と死臭が酷いのだ。


 なのに現在、城壁上部には獣人種族が平然と並んでいる。


 これを異様と言わず何と呼べばいいのだろうか。


 獣人種族や臭いでダウンした人種族などがこうして立っていられるのも、防毒マスク(ガスマスク)と――『臭いを吹き飛ばす装置』があるお陰である。


 この2つがあるからこそ、城壁上部に立ち内部に向けて攻撃魔術を放つことができるのだ。


 今まで城壁に近付くことさえ出来なかった魔術師は、封印都市マドネスと他都市間の物資輸送護衛任務に就かせていた。

 それぐらいしかやれることがなかったのだ。


 しかし、この2つを組み合わせることで臭い対策が出来、街と街の間を往復させていた魔術師を実戦に投入することが出来るようになった。

 城壁内部の溢れ出そうなゾンビ系モンスター達を殲滅できるほどではないが、人数が増えたことで人的余裕が生まれ、短期間に突破される可能性が低くなる。


『ナパーム弾』の開発・研究・実戦投入まで期間を十分に確保することが出来たのだった。


 では防毒マスク(ガスマスク)ともかく、今回急遽開発し投入した『臭いを吹き飛ばす装置』とは一体どのようなモノなのか?


 実はそうたいした物ではない。


 前世地球、第2次世界大戦時。

 北アフリカで連合軍とナチスドイツが砂漠を舞台に戦争をしていた。


 この戦いでナチスドイツ側の指揮官――『砂漠のキツネ』と呼ばれた著名な人物エルヴィン・ロンメルンは、砂煙発生装置を完成させ実戦に投入する。


 この砂煙発生装置の製造はハッキリ言って難しくない。


 レシプロ機からエンジンを外し、トラックの荷台に載せただけだ。

 エンジンを動かしプロペラを回すことで風を発生させて、砂漠の砂を上空へと巻き上げたのだ。


 オレは昨日、タイガの『臭いを直接、殴る』という台詞から、このエピソードを思い出し、今回の一件に利用することを閃いたのだ。


 既にあるレシプロ機(擬き)から、エンジンを取り外し城壁上部へと設置。

 プロペラを回して臭いの元となる腐敗&腐臭を強制的に吹き飛ばす。さらに防毒マスク(ガスマスク)を付けることで鼻が良い獣人でもなんとか耐えられるレベルまで臭いを抑えることに成功したのだった。


 プロペラを回す魔石エンジンの燃料となる魔力も、新・純潔乙女騎士団団長のラヤラ・ラライラが補充を担当した。

 彼女は攻撃魔術が体質的(実際は呪われていると錯覚できるレベルだが)に使用できないが、魔力を大量に保有している。

 なので魔力補給を担当してもらうには適任だった。


 お陰でマンパワーが増えて、ナパーム弾完成までの時間を稼ぐことに成功する。


 ちなみに余談だが、なぜエルヴィン・ロンメルンはわざわざ砂漠の砂を巻き上げる砂煙発生装置を作り出したのか?

 これにはちゃんと理由がある。当時、ナチスドイツ側は連合軍と比べて戦力が少なかった。

 なので遠くから砂埃を舞上げることで、敵側に『大軍が攻めてきた!』と錯覚させてようとしたのだ。


 漫画やアニメの軍記物で味方陣営の数が少ないので、旗を複数立てたり、焚き火を増やすことで『人数が多い』と錯覚させる手法と同じだ。




 話を戻す。


 防毒マスク(ガスマスク)+『臭いを吹き飛ばす装置』してから、約8日後。

 多数の魔術師を投入することが出来たお陰で、無事にナパーム弾(試作品)が完成する。


 すぐには量産せず、実際に使用して見て問題がないか確認する必要があった。


 なので早速、飛行船ノアからナパーム弾(試作品)を投下する準備を進める。


「本当はレシプロ機(擬き)から投下できればよかったんだけど、外したエンジンをまた戻すのも面倒だしな……」


 また今回の投下試験で問題がなければ、獣人大陸ココリ街と封印都市マドネスを物資輸送で往復していた飛行船ノアは、ナパーム弾を投下するため手を入れる必要がある。

 リースが居れば『無限収納』にしまって、手を伸ばしてもらい投下してもらえばいいのだが……。


 彼女が居ないだけでここまで苦しくなるとは想定していなかったな。


 オレはぼやきつつ封印都市マドネスの発着場で、飛行船ノアに運び込まれるナパーム弾(試作品)を眺める。

 今回はあくまで試験のため甲板に試作品を数本動かないよう固定するだけだ。


 投下する際は魔術師が肉体強化術で体を補助しながら手作業で落とす予定である。

 これを今回5本用意して投下する予定だ。


 投下用ナパーム弾(試作品)は、旦那様が積み込みを手伝ってくださってお陰で30分かからず積み込みを終える。


 準備を終えると飛行船ノアが離陸する。

 今回試験を見届ける関係者はすぐに城壁上部へと移動した。




 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 城壁上部にはオレ、クリス、メイヤ、ルナ、旦那様、『腐敗ノ王』、他封印都市マドネス上層部数名が集合する。


 城壁内部ではオレ達の準備が終わるまでモンスター退治を任せていたホワイトが、団員達を引き連れて数を減らしていた。

 上空には飛行船ノアがいつもより高度を落として滞空中である。


 城壁内部のホワイト達に合図を送り、一度城壁外へ出るよう指示を出す。

 魔術師S級のホワイトが付いているため万が一はないだろうが、これからナパーム弾を投下するのだ。

 極力安全は確保しておきたい。


 彼女達が城壁外に出たのを確認した後、上空で待機している飛行船ノアへと合図を送る。


 甲板で機具によって固定されているナパーム弾(試作品)が、魔術師の手で縁の柵を越えて投下される。


 ナパーム弾の見た目は、鉛筆先端を保護するアルミキャップのような形をしている。

 外殻は魔術液体金属で製作し、中身は魔術を付与し魔石を練り込んだゼリー状の油脂燃料(魔術製)が詰まっている。


 銀色の外殻が重力に従い落下していく。

 狙いは城塞内部のほぼ中央。

 下手に城壁近くに落下させて、破損させる可能性を極力排除した結果だ。

 またちょうどゾンビ系モンスターが津波のように溢れていたため落とされる。


 信管が予定通り起爆。


 中に詰まっているゼリー状油脂燃料(魔術製)が拡散し、点火する。


 ゾンビ系モンスターに付着したゼリー状油脂燃料(魔術製)が激しく燃え、黒い煙を天に向かって吐き出す。


 飛行船ノアの高度がやや低かったため、黒い煙で視界が塞がれそうになったため、慌てて移動し、残りの4本を次々投下していく。


 残り4本も無事に起爆し、ゾンビ系モンスターを燃やしていった。

 しかもただモンスターを燃やしているだけではない。


 墓地穴から次々にモンスターが吐き出されるが、彼らに意思はなく城壁を破壊して外へ出ようとするだけ。

 なので燃えている仲間のなかへ考え無しに突撃し、勝手に燃えてくれる。


 これが焼夷弾の恐ろしい点だ。


 普通の爆弾と違い可燃物さえあれば勝手に被害が拡大していく。

 今回は5本しか用意していないが、ルナの完全記憶能力で数を用意すれば魔術師が攻撃するより数多い敵を倒すことが出来る。


 ただしナパーム弾を製造しようにも材料がなければ作りようがないし、城壁にまでダメージを与える可能性があるため近くでは使えないなど問題がない訳ではない。


 しかしそれを考慮しても、ゾンビ系モンスターに対して非常に有効だ。

 ナパーム弾(試作品)も予想より問題なく起爆、拡散、点火してくれている。微調整を終えた後、量産していいレベルである。


 城壁内部でキャンプファイヤーを100倍派手にした炎が天を舐めるように伸びる。

 その炎の中で人型ゾンビ達がどんどん燃えていく。最初は抵抗するように踊っていたが、炎の浄化に耐えきれなくなったのか崩れていく。

 だが炎は未だに消えず、その中でゾンビ達が踊り狂い続ける。

 目の前に火炎地獄が誕生した。


「はははははははははっ! 相変わらずリュートが開発する魔術道具は派手だな!」


 旦那様はゾンビ系モンスターが問答無用で燃やされ、黒い煙を吐き出す様を眺めながら豪快に笑い感想を漏らす。

 旦那様の場合、バンカー・バスターのことを例に出して言っているようだが、あれは本来山を砕くほどの性能はない。旦那様の魔力と変な反応して派手に爆発したのだろう。

 なのでアレを例に出されると困るのだが……。


 一方で今回の依頼人である『腐敗ノ王』側はというと、


「こ、こんな魔術道具があるなんて……。材料費を考えたら破格の威力じゃないか」


 美少女顔をめいっぱい驚愕させ、ナパーム弾(試作品)の威力とコストの安さに震えていた。

 他封印都市マドネスのトップ陣達も似たような反応を示していた。


 先程も説明したが、普通の爆弾と違ってナパーム弾は可燃物があればあっただけ被害が無尽蔵に広がる。だから元の世界でも街の密集地帯に投下するのを禁止したのだ。

 そんな所に投下したら、普通の爆弾以上に人、物とわず被害が無尽蔵に広がるからだ。


 今回投下した先に可燃物モンスターが密集し、墓地穴からも湧き出てくるから被害が拡大しているに過ぎない。

 破壊力という点なら、ナパーム弾を越える兵器などPEACEMAKER(ピース・メーカー)には複数ある。


 わざわざ教える必要もないため、聞き流す。

 とりあえず腐敗ノ王側(クライアント)が満足してくれたのと、予想通り今回の敵に対してナパーム弾は非常に有効なのを確認することができた。


 お陰でなんとかこの一件の解決に光明を見ることができ、気付けば自然と口元が笑みを作っていたのだった。

 ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

 感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!


『令和1年12月15日(日曜日)』に明鏡シスイの新作をアップさせて頂きました。


 タイトルは『軍オタが異世界ヨーロッパ戦線に転生したら、現代兵器で魔王ヒトラー(美少女)を倒す勇者ハーレムを作っちゃいました!?』です。

 軍オタ好きの読者様なら楽しめる作品になっているので是非是非チェックして頂ければと思います。


 新作は作者欄からも飛べますが、一応URLも張らせていただきます。

 以下になります。

 https://ncode.syosetu.com/n5526fx/


 新作&こちらの軍オタアフター(明日もまたアップします)共々よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 臭いが篭るなら扇風機で飛ばせばいいじゃない! 風上に立てばなんとかなるレベルにまで抑えられるってすごい… そして、試作品が完成したナパーム弾の投入!! うん。えげつない!!(笑)
[気になる点] 城壁上部に全員が顔を覆う防毒マスクを被るは物々しい一団が並んでいた。 ※「被るは」→「被る」
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