第460話 軍オタアフター 研究中
12月15日(日曜日)に、明鏡シスイ新作 『軍オタが異世界ヨーロッパ戦線に転生したら、現代兵器で魔王ヒトラー(美少女)を倒す勇者ハーレムを作っちゃいました!?』 をアップしました!
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PEACEMAKERが封印都市マドネスに駆けつけて、3日目を迎える。
城壁内部の攻防は一進一退といったところだ。
良くもなく、悪くもない。
そんな状況で獣人種族、虎族、魔術師S級、獣王武神、タイガ・フウーが駆けつけてくれた。
彼女の話を聞くと、魔人大陸のとある街にある冒険者斡旋組合掲示板に緊急クエストの依頼が張られていたらしい。
路銀に問題はなかったが人助けのためと、魔王封印――というフレーズに彼女なりに共感を覚えたらしい。
なぜならタイガは現在エル先生の妹である邪神(?)アルを封印する旅に出ているからだ。
その方法を探しに魔人大陸にたまたま来ていて、掲示板の緊急クエストに気付いたのである。
本来であれば、あの魔術師S級、獣王武神参戦は心強いのだが……今回の現場がタイガにとってあまりにアウェー過ぎた。
結果、PEACEMAKERが封印都市マドネスに来ていることを知り、オレ達に顔を出すところまで臭いは我慢できたが、予想通りそこで力尽きてしまったのだった。
「本当に酷い臭いね(シュー、コォー)。ギギさんとの戦いで悪臭液を吹きかけられた経験と、この防毒マスクがなかったら(シュー、コォー)、とてもじゃ無いけど耐えられないでしょうね(シュー、コォー)」
タイガと初めて出会った時、彼女は男装をして性別を偽っていた。
エル先生とギギさんの結婚を知った彼女が、妨害するため1対1の勝負を挑む。
その勝負でギギさんはタイガを倒すため、風船蛙の濃縮悪臭を霧状にした物を吹きかけたのだ。
お陰でギギさんはなんとかギリギリ勝つことが出来たのである。
タイガはそんな経験があるため、他獣人種族に比べてどうやら悪臭耐性があるようだ。
城壁から離れた研究所に使わせてもらっている倉庫近くに居るとはいえ、防毒マスク有りで封印都市マドネス内に居ることが出来るのはある種の快挙である。
スノーや他獣人系団員は飛行船ノアのピストン輸送要員か、街を出て物資輸送の任務についている。
封印都市マドネス内部に出来れば一歩たりとも入りたくないとか。
問題があるとすれば……防毒マスク+旅マント&フードを被っているため見た目が非常に妖しいことだろう。
外見だけなら、完全に悪役である。
「タイガ、やっぱり防毒マスクのまま城壁上部に上がることは難しいか?」
「リュート・ガンスミスは僕の嗅覚を殺したいのか(シュー、コォー)?」
一応、尋ねてみるが、悪臭耐性のあるタイガでもやはり無理か。
「ところで僕達はいつまでここに立っていればいいんだ(シュー、コォー)。リュート・ガンスミスは、この倉庫のなかにある研究に用事があるんじゃなかったのかい(シュー、コォー)?」
「用事があるのもそうだが、今日は『腐敗ノ王』が研究の進捗を確認したいというから案内するため待って居るんだ。それにタイガはまだ挨拶していないだろ?」
タイガは昨日、建物に顔を出したがいいが、結局臭いでダウン。
そのまま今朝まで目を覚まさなかった。
ジオさん、『腐敗ノ王』は部下達を連れて夜勤――ほぼ一晩中、墓地穴から溢れ出てくるゾンビ系モンスター退治に出向いた。
2つの名の元になっている魔王の一部を使った剣を使用せず、1魔術師として戦っている。
彼曰く『協力してくださっているPEACEMAKERが頑張ってくださっているのだから、ぼくたちも頑張らないといけませんから』と自ら一番キツイ役目を率先してこなしている。
『腐敗ノ王』達が日の出まで戦った後、旦那様と魔術師S級『氷結の魔女』ホワイト・グラスベルが彼等の後を引き継ぐ。
積み上がって残るゾンビ系モンスターの死骸をホワイトの魔術で一掃。
旦那様も手を貸し、ほぼ2人で午前中の戦いを持たせる。
オレを含めたPEACEMAKERや他団員達は、旦那様達の後を引き継ぎ午後いっぱい、日が沈む夕方まで戦うことになる。
気付くといつのまにかそんなサイクルが出来ていた。
なのでもうすぐ夜通し戦っていた『腐敗ノ王』が就寝前に、研究の進捗確認に来ると連絡を受けたのだが……。
「すみません、お待たせしちゃって――!?」
「…………」
がしゃがしゃと城壁方向から、背丈より長い大剣を背中に刺した髑髏を模した甲冑が駆け寄ってくるが、途中で足が止まる。
オレの隣に居る顔を覆う防毒マスクに、旅マント&フードを被った如何にも妖しい姿のタイガが立っていたからだ。
タイガがもタイガで、髑髏を模した甲冑が駆け寄ってくる事にあからさまな警戒心を露わにする。
オレは彼女の警戒心に気付かない振りをして、『腐敗ノ王』へと声をかける。
「お疲れ様です。全然待っていないので気にしないでください。むしろ夜通しの城壁内部処理ご苦労様です」
「い、いえ、頑張ってくださっている勇者にして英雄殿達のためにも、これぐらいキメラ一族がやらなくては心苦しいですから。それでそちらの方は……」
「変な格好をしていますが、妖しいヤツじゃないんです。彼女は昨日、ご連絡した獣人種族、虎族、魔術師S級、獣王武神、タイガ・フウーです」
紹介するとタイガは、黙って小さく一礼する。
別に人見知りする性格でも無いのに、相手が同じ魔術師S級ということで微妙に警戒しているのだろうか?
オレの紹介に『腐敗ノ王』は面頬兜を外し、男には見えない美少女笑顔で挨拶する。
「あなたが噂に名高い獣王武神殿ですか! ぼくは魔人種族、キメラ族、魔術師S級、『腐敗ノ王』、ジオ・クライネルです。名は一族の掟で封印中なので、どうぞ『腐敗ノ王』とお呼びください」
タイガにはキメラ一族の掟について説明済みのため、彼の名前が『腐敗ノ王』という名でも疑問を抱かない。
互いの自己紹介を終えると早速、研究所として貸してくれた倉庫へとうながす。
「『腐敗ノ王』殿もお疲れのようなので、早速倉庫へと行きましょう」
「あはは、お気遣い頂きありがとうございます、勇者にして英雄殿」
気遣われたのが嬉しかったのが嬉しそうに笑うが、実際彼の目の下には徹夜&疲労で出来たクマがある。
さっさと用事を終わらせて、休息を取らせるのがベストだ。
倉庫内部へと入る。
倉庫の広さは体育館ほどの広さはあったのだが、今はココリ街から念のため持ち込んだ各種兵器(8.8cm対空砲、バンカー・バスターなど)や研究資料、材料などによって手狭になっていた。
倉庫中央とその手前に別れて机が置かれている。
それぞれの机でメイヤとルナが役割を分けて、今回必要になる新型兵器『ナパーム弾』開発をおこなっていた。
「これは……あの、何と言ったらいいか……」
「…………」
初めて見る大型現代兵器などに『腐敗ノ王』は、分かり易いほど驚いていた。
一方タイガは、ココリ街にある本部で生活していたこともあり、今更彼のように驚いたりはしない。
直ぐ側で防毒マスクの『シュー、コォー』という呼吸音だけが聞こえてくる。
「リュート様、お疲れ様ですわ!」
「つかれー」
オレ達に気付いた研究者2人、メイヤは作業の手を止めて瞳を輝かせて挨拶をしてくる。
反対にルナは一瞥もせず、机に広げた紙に記録を書き込む作業の手を止めず軽い調子で声だけを出す。
また2人ともタイガが封印都市マドネスに来ていること、『腐敗ノ王』が進捗状況をッ確認しに来ることを既に知っているため驚きはしない。
ちなみにオレも午前中と城壁内部の戦いが終わった夜、この倉庫研究所に足を運び2人と意見を交わしたり、開発の手伝いやアドバイスをしていたりする。
なので彼女達が『今何をしているのか?』を説明するのも難しくないのだ。
オレは興味深そうに室内を見回す『腐敗ノ王』をうながし、入り口から一番近い人物――メイヤへと歩み寄る。
彼女は作業の手を止めると、椅子から立ち上がり丁寧に挨拶をする。
「お初にお目にかかりますわ、『腐敗ノ王』様。わたくし、リュート・ガンスミスの妻、竜人種族、魔術師Bマイナス級、メイヤ・ガンスミスですわ。以後、お見知りおきを」
封印都市マドネスに来てから彼女達は、挨拶より倉庫研究所に篭もり研究を優先してもらった。そのため話は聞いていたが、まだ『腐敗ノ王』とは顔を合わせていなかったのだ。
メイヤは『リュート・ガンスミスの妻』や『ガンスミス』を無駄に強調し、ドヤ顔で挨拶をする。
未だに彼女はオレの嫁になったことが嬉しく、ことあるごとに『妻』や『ガンスミス』を強調するようになる。
気持ちは分かるが……いい加減、落ち着いてもいいんじゃないだろうか。
『腐敗ノ王』はとくにメイヤの発言を気にせず、挨拶を返す。
早速、メイヤが取り組んでいる作業の説明をした。
「彼女には『ナパーム弾』の外殻と発火の研究を任せているんだ」
「外殻は分かりますが、発火……燃料に火を付ける研究をするのですか?」
『腐敗ノ王』は疑問に首を傾げる。
彼的には『どうして燃料に火を付けるのに研究が必要なのか?』と疑問を抱いているのだろう。『ガソリンにどうやって火を付ければいいのか?』と首を傾げているようなものだ。
無駄な時間と判断されるより早く説明を入れる。
「『燃料に火を付ける研究』とだけ聞くと、意味がないと思うけど実際必要なことなんだ」
前世のアメリカで実際にあったナパーム弾開発実験があった。
その際、なぜか上手く火がつかない中途半端なナパーム弾がいくつかあった。
原因を調べた結果、ナパーム弾が爆発し燃料を周囲に拡散するのに失敗したり、散らばったはいいが広がり過ぎて発火させる火種が届かなかったりしたらしい。
折角開発し投下したナパーム弾が、上手く爆破しなかったら労力の無駄だ。
そうならないためメイヤには『ちゃんと燃料が拡散する外殻』と『燃料にちゃんと火を付ける方法』を研究してもらっているのだ。
一通り説明すると『腐敗ノ王』は深く頷く。
彼が納得したのを確認して、さらに奥へと進む。
倉庫研究所の奥ではルナが机に所狭しと並べた小瓶を並べ『魔石』と『各種油』、『魔力』の配合率について事細かにメモを取っていた。
その数は軽く100近くあるだろう。
『腐敗ノ王』は今まで見てきた人種とは明らかに違う人物を前にし、困惑しつつ尋ねてくる。
「あ、あの彼女は一体何をしているのですか?」
「ルナはナパーム弾に詰める燃料の開発をおこなっているんですよ。単純に材料や魔石、魔力を入れてソレっぽく作っても中途半端に燃えるか、まったく火がつかない可能性があります。なのでちゃんと燃えるように最適な燃料の配分や材料が無いのか手当たり次第確認しているんですよ」
「なるほど……先程の研究といい、このようにPEACEMAKERは新しい魔術道具を開発しているんですね……。凄く大変そうです。さすがトップ軍団。他とは違いますね」
「と言ってもリューとんがある程度、割合の目安を教えてくれたからそう手間でもないんだけどねー」
『腐敗ノ王』の感想にルナが気負いもなく、顔も向けず返事をする。
ルナが集中して作業していたため、返事をもらえるとは想定しておらず『腐敗ノ王』の方がびくりと恐縮し、肩を振るわせる。
これではまるでどちらが魔術師S級の実力者なのか分かったものではない。
オレは彼の反応に微苦笑を盛らしそうになるのを堪えつつ、ルナへと問う。
「調子はどうだ?」
「今のところ順調だよ。さっきも言ったけど、リューとんが教えてくれた割合である程度候補を絞ることができるから。けど、いくつか実際に発火させたけど、『1発OK』とはいかないね。このままじゃ中途半端に燃えてお終いになるっぽい」
オレの質問にルナは顔を上げて、ノートを付きだし実験結果を見せてくる。
彼女の言葉通り、燃焼結果を見る限り実用にはまだまだというレベルだ。
「けど予想通り技術的には開発できそうだな……」
「ルナ達、今まで色々作ってきたしね。これだけの蓄積があるなら、この新しい兵器『ナパーム弾』ぐらいは開発できるよ。問題はやっぱり時間だね」
ルナが嘆息しつつ愚痴るように告げる。
現在の開発進行状況は3割程度だ。
まだまだ時間が足りない。
逆に城壁内部で戦える人材は、時間が経つに連れて消耗していく。このまま手をこまねいていればじり貧。最後は城壁が破壊される未来しかない。
「……どうにかしてあの臭いをなんとか出来ればいいのですが」
『腐敗ノ王』が肩を落とし弱気を漏らす。
彼の気持ちはよく理解できる。
あの臭いさえなければ、人材を投入し10日なら楽に持ち堪えることができるのに……。
悪臭兵器のお陰で何度もピンチを乗り越えてきたが、『ここまで厄介なのか!』と改めて驚愕してしまう。
(とはいえ防毒マスクをこれ以上強化するのは現実的ではないし、酸素ボンベを開発する訳にもいかないしな……。いくらオレでも酸素ボンベの製造方法など知らないぞ)
アレはただ酸素を入れればいいという訳ではないからな……。
オレと『腐敗ノ王』が肩を並べて臭い対策で頭を悩ませていると、タイガがぽつりと独り言を漏らす。
「臭いは厄介だね……直接殴られるならどうにでも出来るんだけど……(シュー、コォー)」
近接戦闘なら魔術師S級最強らしい台詞だ。
そんな彼女の独り言が耳に残る。
(臭いを直接、殴る……臭いを直接、殴るか………………ッ!?)
脳内を電撃が走り抜ける。
「そうだよ! 臭いを直接殴ればいいんじゃないか!」
「ど、どうしたんです突然!?」
オレが突然叫び越えをあげたため、『腐敗ノ王』を含めたその場に居る皆が驚きで体をびくりと震わせる。
オレはそんな彼らに対して謝罪もせず、興奮気味に思いついた臭い対策について説明を開始する。
上手くすればスノーやタイガなど鼻が敏感な魔術師を大量に投下することが可能だ。
オレは興奮気味にその場にいる皆に身振り手振りを交えて思いついたアイデアの話をしたのだった。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
『令和1年12月15日(日曜日)』に明鏡シスイの新作をアップさせて頂きました。
タイトルは『軍オタが異世界ヨーロッパ戦線に転生したら、現代兵器で魔王ヒトラー(美少女)を倒す勇者ハーレムを作っちゃいました!?』です。
軍オタ好きの読者様なら楽しめる作品になっているので是非是非チェックして頂ければと思います。
新作は作者欄からも飛べますが、一応URLも張らせていただきます。
以下になります。
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新作&こちらの軍オタアフター(明日もまたアップします)共々よろしくお願い致します。