新作アップ記念カウントダウンシナリオ3 団員達の結婚斡旋は福利厚生のうち?
この軍オタ短編は、『12月15日(日曜日)』にアップする新作記念カウントダウンシナリオとなっております。新作アップまで後1日(明日昼12時)!
また明日からは、軍オタ本編を12日間(若干増減するかもですが)毎日更新する予定です。
「……団員達への結婚斡旋部門の設立?」
「はい、ご許可頂けばと思います」
新・純潔乙女騎士団本部の団長室として使っている執務室で比喩抜きで山積みになった書類と格闘していると、PEACEMAKERの外交&情報を担当しているラミア族、ミューア・ヘッドが新たな書類を片手に現れた。
オレは現在、ココリ街北部拡張にともなう書類を処理している。
ココリ街北部は私財を投入するならPEACEMAKERの好きにしていいという契約を交わした。
あとは黙って部下に任せれば――とは流石にいかない。
街の一部とはいえ拡張するのだ。
街運営ゲームのようにボタン一つで拡張される訳ではない。
オレはPEACEMAKERトップ、責任者として書類を書いたり、提出したり、関係各者に会ったりなど忙しく立ち回っている。
あまりにも忙しくて軍団の仕事に一切手を付けられないレベルだ。
どれぐらい忙しいかというと……スノーの親友アイナにエル先生、そしてエル先生の子供であるソプラとフォルン、孤児院の子供達が居るホード町の開拓仕事に一切手も口も出せないほどである。
できれば自分が現場に行って確認しつつ、指揮を執りたいが……本当にそちらに回す余裕がないほど忙しい。
一応、シアや商人、貴族出の団員達が任せられる書類を担当してもらっているため、この程度で済んでいるのだが……。
そんな忙しい中、新たにココリ街北部拡張とはまったく関係ない仕事を持ち込んできたミューア対して愚痴の一つでも漏らそうとしたが、ある可能性に気付き瞳を鋭く尖らせる。
「ミューア……なんでこの忙しい時にそんな話を持ってくるんだよ……って、まさかラヤラの一件が拗れたのか?」
ラヤラの一件とは?
獣人種族、タカ族、ラヤラ・ラライラは魔力値は高いが、攻撃魔術が一切使えない。殆ど呪われているレベルだ。
そんな彼女を両親は見限り、旧純潔乙女騎士団へと放り出した。
しかし、現在はPEACEMAKERの下部軍団、新・純潔乙女騎士団団長を任せられている。
この事実を知ったラヤラ両親が、彼女を呼び戻し高値で関係強化を望む貴族の元へと嫁がせようとしたのだ。
最初こそラヤラが穏便に断ったが、両親は彼女の意見を拒絶し強攻策へ出ようとした。
その話がラヤラと仲が良いクリス、ココノの耳に入る。
2人の可愛い嫁から『ラヤラに力を貸して欲しい』と頼まれたら、いくら北部開発仕事で忙しくても関係ない。
喜んで引き受けようとしたが……。
『ひ、ヒフ、く、クリスちゃんやここ、ココノちゃん、団長の気持ちはう、嬉しいけど、だ、団長達が動いたら大事になるから、ここはが、我慢してください、お、お願いします』と涙目で頭を下げられた。
ラヤラの言い分も理解できる。
現在、この異世界でトップの軍団、PEACEMAKERが動いたら大事にならないはずがない。
なので彼女の願い通りオレ、クリス、ココノは一度矛を収めたが、それが拗れて『団員達への結婚斡旋部門の設立』という話になったのか!?
オレの心配に正面に立つミューアが笑顔で否定する。
「ご安心ください、ラヤラさんの一件は相談されたので私が直接、ラヤラさんご両親とお会いして話し合いで解決致しましたから」
「そ、そうか。ミューアが直接会って、は、話し合いで解決したら安心だな!」
震える声を精一杯押さえつつ、笑みを作り同意した。
『ミューアとの話し合い』なんて……想像しただけ胃が痛くなる。
ラヤラ両親も変に欲を掻かなければ、『ミューアとの話し合い』なんて目に遭わずに済んだのに。
オレは一度も会ったことがないラヤラ両親に胸中で同情の念を抱く。
「でもラヤラの結婚問題が解決しているなら、どうして『団員達への結婚斡旋部門の設立』なんて話が出てくるんだ? ミューアも知っている通り、北部拡張工事の手続きで一杯一杯だから、余計な仕事を入れられたくないんだが……」
「団長のお気持ちは痛いほど理解していますが、これは早急におこなわなければならないことだとPEACEMAKERの外交、情報を司る者として意見します」
ミューアがこのクソ忙しい時期にわざわざ新しい仕事を持ってきたのか……理由を語り出す。
切っ掛けは先程も話題に上がった『ラヤラ結婚騒動』らしい。
一度は両親に見捨てられたラヤラだが、現在は勇者で英雄の下部軍団、新・純潔乙女騎士団団長を務めている。
国家、上位軍団、有力者からすれば娶るだけで、勇者で英雄の信頼が篤い部下の夫という地位を得ることが出来るのだ。
それがどれだけ美味しいコネ、パイプか……。
この話はラヤラだけに限ったモノではない。
立場の低い団員でも、PEACEMAKERと新・純潔乙女騎士団と関係が持てる。
運が良ければオレやスノー達など、上位者とコンタクト、ツテを得ることが出来るのだ。
また下級貴族が出世や、大店がオレ達とのコネを得るための道具として団員にモーションをかけてくることが予想される。
むしろ国を挙げて団員達を籠絡するため多数のイケメン達を掻き集めて突撃。次々に団員達を籠絡して結婚し、新・純潔乙女騎士団内部での発言力を高め、PEACEMAKERに影響を与える立場を狙う可能性も0ではない。
ミューアから指摘され、そうなった時のことを想像して頭を抱える。
「確かにありそうな話だな……」
「さすがにそこまで露骨に動かれたら、情報部がすぐに気付きますけどね」
ミューアは品良くクスクスと笑みを零す。
「新・純潔乙女騎士団団員には適齢期の女性が何人もおります。彼女達がそのような罠にかかるとは思えませんが、念には念を入れておくのが肝要かと。それに団長も庇護下に居る者達が騙され、不幸な結婚生活をしいられるのをお望みではありませんよね?」
「当然、そんなつもりはないよ」
オレはすぐさま断言した。
ミューアが満足そうに笑顔で頷く。
「団長ならそう仰って頂けると信じていましたわ。なので『団員達への結婚斡旋部門』を立ち上げ、付け入る隙を与えたくないのです」
つまり軍団を維持するためには、団員達に良縁を見つける役目もトップの務めらしい。
とはいえ、オレに団員達が満足する男性確保のツテなんてないぞ。
クリスの両親であるダン・ゲート・ブラッド伯爵である旦那様、奥様のセラス・ゲート・ブラット様しかぐらいしか頼るツテが無い気がするが……。
そのツテだけで賄えるのか?
オレが悩んでいると、ミューアが再び品良くクスクスと笑みを零す。
「安心してください、団員達に紹介する旦那様候補は私のツテで準備致しますから。結婚を希望する人の人選、引退する場合の引き継ぎなどのマニュアル製作もこちら側で用意いたします。ただ、どうしても多少の書類仕事は増えてしまいますが、受け入れてくださいますよね?」
「……分かったよ。団員達の幸せな結婚のためだ。仕事はもちろん引き受けるよ」
ここまでお膳立てされ『ノー』とは言えない。
ただこれ以上仕事が増えるという現実に、オレはついつい溜息を漏らす。
そんなオレをフォローするようにミューアが声を掛けてくる。
「そこまで不安がらなくても大丈夫ですよ。『団員達への結婚斡旋部門』を立ち上げる許可を頂いても、すぐ団長に仕事が舞い込むことはありませんから。それに実際稼働しても、結婚を希望する人達はそう多くはありませんし、私達側が斡旋しなくてもすでに決まっている相手が居る場合もありますから」
「もう決まっているって……それは大丈夫な相手なのか?」
『団員達の価値が上がり国、貴族、軍団などから狙われている』と聞かされた手前、どうしても疑ってしまう。
この問いにミューアは自信ありげに頷き、胸を張る。
「ご安心ください、既に調査済みで怪しい点はありませんから。うちの団員達は農村や商人、一般家庭の3女、4女が多いですが、だからと言って幼い頃に親が決めた許嫁がいないわけではありません。PEACEMAKER設立前に結ばれた婚姻なら、それほど危険視しなくても問題ありませんよ」
代表的な例としてPEACEMAKERの会計を担当する3つ眼族のバーニー・ブルームフィールドは、幼い頃から親が決めた婚約者が居るらしい。
マジかよ、知らなかった……。
他にも最近の話だと、ケンタウロス族のカレン・ビショップの両親が『そろそろウチの娘の結婚先を……』と考えているとか。
「私の場合は2人と違って団長とクリスちゃんのように自分で決めてお付き合いしている殿方が居るので親からの婚姻話を断っていますが」
「なるほど確かにオレとクリスのように自由恋愛で結ばれるケースもあるか……うん? ミューアがなんだって?」
「団長とクリスちゃんのように自由恋愛で既に将来を誓い合った殿方が居ると言ったのですが……何か問題でも?」
「いえ、まったく問題ありません!」
ミューアが笑顔で聞き返してくる。
オレは思わず丁寧語で返事をしてしまった。
ミューアは非常に可愛らしい笑顔で惚気る。
「団長とも面識のある方で、私達もクリスちゃん達のように女神アスーラ教会の結婚式を考えているのですが、是非その前に団長にご挨拶させてくださいませ。ただ今は忙しいので落ち着いたら紹介するお時間を頂いてもよろしいですか?」
「も、もちろんだよ! むしろ、いつも頑張ってくれているミューアのためなら今日か、明日に紹介してくれてもいいぞ!」
「うふふふ、団長ったらお口がお上手なんですから。褒めても何もでませんよ。とりあえず私も北部拡張や『団員達への結婚斡旋部門』立ち上げで忙しいので、お互いに落ち着いてからでお願いしますね」
『結婚式を開く際は是非、クリスちゃん達と一緒に出席して欲しい』ともお願いされた後、用事を終えたミューアが執務室を出て行く。
オレは退出した後も、仕事に意識が戻らずミューアの発言を考察してしまう。
(あのミューアと結婚を希望する相手がいるとは……。本人曰くオレ&クリスと同じ自由恋愛らしいが……)
あの受付嬢さんほどではないにしろ、相手はあの『ミューア・ヘッド』だ。
そんな彼女と『自由恋愛』できるほどの剛の者って誰だよ!?
(オレとも面識がある? ミューアはPEACEMAKERの外交部門担当だから、人と会うことが仕事だ。彼女の紹介でオレも数え切れないほど人と会っているし……。その中に、彼女と付き合える、結婚できる程の胆力が有りそうなヤツがいたか? ……さすがにここからの特定は無理か)
顔を会わせた人数が多すぎて、印象が殆どない。
……なによりオレの第六感がこれ以上、考察すると碌に目に遭わないと警報を鳴らしている。
オレは頭を振り、『ミューアの結婚相手』について考察するのを振り払う。
「し、しかしまさか団員の結婚相手の事まで考えないといけないとは……。団長仕事も楽じゃないな」
前世の日本、戦国時代なんかは部下達の結婚関係だけではなく、自分の子供も政治道具として関係強化のため嫁いだり、嫁がせたりしていた。
戦国時代ほどはないにしろ、スノー、クリス、リース、ココノ、メイヤから産まれる子供達も政治的、色々なしがらみで結婚させなければならないかもしれない。
(個人的には子供達には好きに生きて欲しいんだが……そういうわけにはいかないんだろうな)
なんと言ってもPEACEMAKERは、この異世界で自他共に認めるトップ軍団である。
政治、しがらみが0など絶対にありえない。
「まさかオレ自身が戦国時代の大名のような問題で頭を悩ませる日が来るとは……。昔だったら考えられないことだよな」
人目が無い所でついつい愚痴ってしまう。
少しの間、仕事を忘れて将来産まれるだろう子供達の進路、結婚について想像の翼を広げたのだった。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
このお話は『明鏡シスイ新作カウントダウンシナリオ』第3弾となります。
ミューアさんの結婚相手は、既に軍オタ本編に登場し、リュート達とも面識&名前のあるキャラクターです。
旦那様やギギさんとかではなないのでご安心を~。
さて、いよいよ明日15日昼12時に、明鏡シスイ新作をアップします!
『ついに新作を明日アップできる所まで来たのか……』と感慨深くもあり、『皆様からどんな反応が来るのか……』と不安&戦々恐々している面もあります。
頑張って書いたので、読んで頂ければ嬉しいです!
最後に改めて新作の宣伝&ご報告などを……。
明鏡シスイ新作を明日の『令和1年12月15日(日曜日) 昼12時』にアップします!
新作は明日15日から、1週間連続で毎日3話ずつアップする予定です。
アップする時間は……明日15日(日曜日)の当時だけは、昼12時に数話を投稿。16~22日は1日3回アップ出来ればと考えております。
また15日には新作だけではなく、記念として軍オタシナリオも12日間(若干増減するかもですが)連続アップするつもりですのでそちらも是非チェックして頂ければと思います。