新作アップ記念カウントダウンシナリオ2 結婚フィーバー?
この軍オタ短編は、『12月15日(日曜日)』にアップする新作記念カウントダウンシナリオとなっております。新作アップまで後2日!
「いらっしゃいませ! 空いている席へどうぞ!」
酒場に入ると元気なウェイトレスの声が響く。
彼女達、新・純潔乙女騎士団団員、2名が休みを利用し、夜、息抜きのため酒場へと繰り出す。
「お姉さん、いつものお願いしますニャ……」
「私も同じで……」
「は、はい、ありがとうございます!」
ウェイトレスは彼女達の態度に動揺し一瞬、どもりながらも注文を受けると、元気良い返事をする。
団員2名は疲労の濃い顔で席に着くとテーブルに体を預ける。
「疲れたニャ……本当に疲れたニャ……」
「団長達の結婚式も終わって楽になると思っていたのに……全然楽にならないとか……」
語尾に『ニャ』を付けるのは、獣人種族、猫人族のアリーシャ。
猫人族というだけあり、猫の獣人で猫耳と尻尾が特徴である。
彼女の向かい側の席に座ったのが、人種族のミラだ。
ミラは同世代に比べて背が低い。童顔で胸も小さく、栗毛の髪をお下げに結んでいるためか、見た目以上に若く見られる。
2人は純潔乙女騎士団へ同時期に入団した。
いわゆる同期である。
性格、波長も合うため軍団でも特に仲が良い。
ミラがさらに愚痴る。
「街の拡張や団長の故郷の開発、他にもクエストをこなしつつ、街の見回りもしないといけないとか……仕事が多すぎるでしょ」
獣人大陸にココリ街と呼ばれる都市がある。
元々、ココリ街は獣人大陸の港街から入った物資を奥の街々へ輸送する際、中間地点の一つして栄えていた都市だった。
しかし、魔王を倒し、世界の危機を救った英雄であるPEACEMAKERトップ陣達が、この街で結婚式を挙げたことで一変する。
勇者で英雄達の結婚式を一目見ようと人が集まり、さらに終わった後も帰らず留まる人々が多くいた。
結果、ココリ街が許容できる人口をあっさり突破。
そのため前からあったココリ街の拡張計画が実行されることになる。
新・純潔乙女騎士団本部がある北部を自費投入でPEACEMAKERが任されたのはいい。
問題があるとすれば……拡張、広がった分、ココリ街の治安を預かる新・純潔乙女騎士団(PEACEMAKERの下部組織)の見まわる範囲も当然広がったことだ。
新・純潔乙女騎士団も仕事は街の治安維持、見回りだけではない。
新しく雇った人種族と、スノーの魔法学院時代の親友である妖精種族エルフ族のハーフで魔術師Bマイナスのアイナ主導で、リュート&スノーの故郷であるホード町の開拓などの領地経営を手伝うために人員がごっそりと引き抜かれた。
団員数が減った状態で冒険者斡旋組合からクエスト依頼、本部の維持、練度を下げないための訓練、他雑務などなど――やることが多い。
「お待たせしました!」
ウェイトレスが注文品を運び、テーブルへと並べる。
「…………」
「…………」
ミラ、アリーシャは無言で唐揚げにたっぷりとマヨネーズを付けて頬張り酒精で流し込む。
如実に2人が疲労しているのが理解できた。
2人とも一息でジョッキの半分も飲んでしまう。
口元について汚れをハンカチで拭きつつ、2人は愚痴を再開した。
「広がった街の見回りや団長の故郷開拓手伝いも別にいいのよ。見回りは今までやって来た仕事だし、範囲が広がっただけだから。開拓手伝いは実際に現地に行っていないから関係ないし。でも部下を持たせて、クエスト依頼を任せるのは勘弁して欲しいんだけど」
「分かるニャ、分かるニャ」
ミラの言葉に、アリーシャが深く頷く。
「今まではスノー隊長とか、クリス隊長、リース隊長が一緒に来てくれて指示を出してくれていたのに……。今は人手が足りないからって私達古参に部下を預けて、現場トップに据えてクエスト依頼をさせるとか……プレッシャーでお腹が痛くなるんですけど!」
「ミラの気持ち、心底理解できるニャ。そりゃ危険度の低いクエストだけど、最悪にゃー達の指示間違い、判断ミスで部下が死ぬかもしれないと考えただけで……ッ」
その光景を想像しただけで、アリーシャは顔色を青くし、寒くもないのに震え上がる。
彼女の姿を目の前にしながら、ミラは何度も頷いた。
「分かる。本当に想像しただけで怖くなるわよね。むしろリュート団長やスノー隊長達はよく今までやってこれたわよ」
「本当ニャ。前のように指示を聞いている方が気楽で良いニャ」
とはいえ現在はトップ陣は非常に忙しい。
街の拡張でリュートは責任者との会議、ホード開拓の進捗などの確認。
リースは『無限収納』で街拡張の資材調達や運搬を。シアはその補佐を担当している。
危険度の高いクエストをスノー、クリスが担当している。
メイヤは技術者で、ココノは体調の問題で前線に立つわけにはいかない。
クリスの幼馴染みで団員のケンタウロス族、カレン・ビショップはココリ街守備責任者として動かす訳にはいかない。
よって旧純潔乙女騎士団から居るミラ、アリーシャのような古参達に部下をつけ、危険度の低いクエストを任せているのが現状である。
ぐびり、とミラが自棄酒を煽る。
「もう誰かと結婚して、退職して、主婦生活したいわ。部下の命を預からなくて済むから」
別に本気でミラは結婚して新・純潔乙女騎士団を止めたい訳ではない。
ただの愚痴である。
しかし『結婚して~』というフレーズはここ最近、よく団員達の口から上がる愚痴でもあった。
理由としてリュート達が結婚パレードをおこない、女神アスーラ教会で『ブーケ投げ』をおこない、皆から祝福されている姿を目の前で見ている。
女性として結婚を意識するのは必然だ。
また元々、新・純潔乙女騎士団は女性で構成されている。
当然、適齢期を迎えている団員は何人もいる。
結婚を意識してもおかしくはない。
「結婚といえば……ラヤラ団長が結婚をもうしこまれたって話は知っているかニャ?」
「えっ!? 知らない。それいつの話? 相手は誰?」
「つい最近の話ニャ。相手はラヤラ団長の両親が持ち込んだから詳しくは知らないニャ」
「ラヤラ団長の両親って……旧純潔乙女騎士団にラヤラを捨てた本人達じゃない……」
獣人種族、タカ族、ラヤラ・ラライラは当時、旧純潔乙女騎士団で副団長を務めていた。
彼女の実家は多数の魔術師を排出している獣人大陸でも名が知られている貴族だ。そんな家にラヤラは産まれ、魔力値だけならS級レベル。
実家からも将来を嘱望されたが……彼女には致命的な欠点があった。攻撃魔術が一切使えなかったのだ。
ラヤラはこの欠点のせいで魔術師学校を退学、失望した両親は体面を気にして多額の寄付を支払い旧純潔乙女騎士団に彼女を投げ捨てたのだ。
だがしばらく経って、ラヤラの両親は『家の恥』と切り捨てた娘が、勇者で世界を救った英雄の下部組織である新・純潔乙女騎士団のトップに立ち、リュート達からも信頼を寄せられていると知る。
「親からすれば見限った娘が、突然、超優良物件に早変わりしていたのニャ。勇者で英雄の信頼も篤い軍団団長なんて売るなら一番高値で売れるタイミングを貴族が見逃すはず無いのニャ」
「言いたいことは分かるけど……それって不味くない?」
「……不味いニャ」
2人とも声量を落とし話し合う。
「ラヤラ団長も今は忙しい時期で、ほぼ縁を切られた両親から『軍団を辞めて自分達が指定する貴族の家に嫁げ』って手紙が届いたから、断ったらしいニャ。けど、両親はすでに相手方に話をしたからメンツ的に引き下がれず、強引に話を進めようとしたのニャ」
「貴族がメンツを気にするのは理解できるけど……リュート団長達に喧嘩を売って勝てるわけないじゃない!」
ミラは大声で悲鳴のような声をあげそうになるが、なんとか小声までに落とし込む。
アリーシャは酒精をちびちび舐めながら、話を続ける。
「強引に話を進めようとしたのを知ったリュート団長とクリス隊長、ミューアさんが笑顔でラヤラ団長の実家に話を付けに行くって言い出して、ラヤラ団長が涙目で止めていたニャ。ラヤラ団長が頼み込んだお陰で、なるべく穏便に話を納める方向に動いたのニャ」
この時の騒ぎが団員達に漏れて、話が一部に広がったようだ。
ミラは他人事ながら頭を抱える。
「お貴族様なら、今のPEACEMAKERに喧嘩を売るのがどれだけ危険なことか理解できるはずでしょ。なのにどうして危ないマネをしようとするのよ。ラヤラ団長が止めなかったら、下手したらお家断絶とか十分ありえたんじゃない?」
「小さな場所でもトップを張って、傅かれることに慣れると危機感が薄くなるんじゃないかニャ? ペットが野生の本能を失うようなものニャ」
『それに』とアリーシャが声量を落とし続ける。
「むしろお家断絶程度で済めば御の字なのニャ……」
「まぁ確かに……」
ミラ、アリーシャはPEACEMAKERを敵に回す想像をして心底、震え上がる。
楽しげな謙遜が響く酒場で2人の空間だけ思い沈黙が暫し続く。
この沈黙を破るため、ミラはなるべく明るい声音で口を開いた。
「で、でも捨てられた両親にコマ扱いされるのはともかく、結婚自体はやっぱり憧れるわよね」
「そ、そうにゃ。憧れるにゃ~」
「さっきは愚痴っぽく言っちゃったけど、私もいつかはちゃんと結婚したいな……」
「それはにゃーも同じニャ」
2人は再び黙り込み酒精に口を付ける。
先程の沈黙は鉛のように重かったが、今回は哲学者が真理を探究するようなピンとした緊張感に満ちていた。
ミラ達は最初こそ『部下達の命を預かって胃を痛めるなら、結婚して引退したい』と愚痴っていたが、あれは酒の席での愚痴だ。
結婚する相手がいるなら結婚後、団員として働き続けたいのが本音である。
問題は彼女達の結婚相手だ。
2人は貧しい農家の出だ。
結婚の相手のツテなどあるはずがない。
しかも新・純潔乙女騎士団団員と結婚すると勇者で英雄のリュート・ガンスミスと繋がりを作ることが出来てしまう。
下手な下級貴族の娘と婚姻を結ぶより余程有益である。
一般人からすれば自分とは釣り合わない高嶺の花で、結婚を意識するのは難しい。
(もしかして私達の結婚って不味い?)
(このまま何もせずぼんやりしていたら、危険で危ないのニャ……)
今さらながら、ぼんやりしていたら最後まで売れ残る可能性に気付く。
2人は酒を口にしながら暫し将来について真剣に考え込んでしまったのだ。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
昨日の投稿について、読んで頂き、また感想を書いてくださり誠にありがとうございます!
やはり皆様に読んで頂き、反応があるとテンションがあがりますね!
まさにこれこそ『小説家になろう』の醍醐味じゃないかと思います。
さて、このお話は『明鏡シスイ新作カウントダウンシナリオ』第2弾となります。
今回の酒屋話はラヤラの評価――ではなく、団員達の結婚事情についてピックアップしてみました。
リュート達はともかく『勇者で英雄がトップの軍団団員の結婚ってどうなるんだ?』とつい気になって書いてみました。明日のシナリオではさらにつっこんだだ団員達の結婚事情&ラヤラ結婚騒動の結末などをアップさせて頂ければと思います。
では改めてお知らせを――明鏡シスイ新作を2日後の『令和1年12月15日(日曜日)』にアップします!
新作は15日から、1週間連続で毎日3話ずつアップする予定です。
1週間経った後も、続けられる限りは毎日更新を頑張ります!
アップする時間は……15日(日曜日)は、昼12時に数話を投稿。16~22日は1日3回アップ出来ればと考えております。
また15日には新作だけではなく、記念として軍オタシナリオも12日間(若干増減するかもですが)連続アップするつもりですのでそちらも是非チェックして頂ければと思います。
それでは明日もカウントダウンシナリオをアップするので、読んで頂けると幸いです。
新作共々軍オタ連続更新をよろしくお願い致します!