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第404話 ロン・ドラゴンとの顔合わせ

 ロン・ドラゴンから面会許可の手紙が届く。

 すでに準備を終えていたオレ達は、翌日には竜人大陸中心、ドラゴン王国へと出発した。

 移動の際、新型飛行船ノアは使用しない。

 事前に確保していたレンタル飛行船で移動する。


 穏便に話を付けたいとは思っているが、場合によっては荒事になるだろう。

 そうなれば飛行船ノアを停泊所に置いて移動した場合、第三者によって破壊される可能性がある。

 そのため飛行船ノアはリースの『無限収納』にしまっておいてある。いざという場合に全員で脱出する時、そうしておけばいつでも取り出して退避することができる。


 ノアの速力はこの世界のどの飛行船より速いと自負しているからだ。




 出発した翌日、昼。

 眼下にドラゴン王国が見えてくる。

 オレ達はレンタル飛行船甲板から、ドラゴン王国を一望した。


「ここがドラゴン王国か……ちょっと感慨深いな」

「? リュートくん、この国に来たことないよね。なのにどうして感慨深いの?」


 隣に立つスノーが小首を傾げる。

 オレは過去を振り返り、懐かしみながら答えた。


「昔、オレ達がまだ駆け出しの頃、冒険者レベルを上げるためドラゴン王国まで商人を護衛するクエストを受けただろ? 途中で双子魔術師やツインドラゴンと戦って、荷馬車を破壊されたからクエストは失敗。結局、ドラゴン王国まで辿り着けなかったんだよな」

『懐かしいです! ちょうどシアさんが奴隷として加入した頃ですね』


 クリスも思い出し懐かしそうに瞳を細める。

 あの頃はまだリースと出会っておらず、装備品も馬車に入れて持ち運んでいた。弾薬(カートリッジ)に限りがあり、無駄弾を撃たないように気を付けていたな。

 さらに弾薬(カートリッジ)の節約より辛かったのは、ウォッシュトイレが使えないことだ。移動中、ひたすら悶え苦しんだ記憶は生々しく思い出すことができる。


 今では懐かしい思い出だ。


 そんな雑談をしつつ、レンタル飛行船は専用停泊所へと向かう。

 一度、ここでレンタル飛行船は返す手筈になっている。


 荷物を纏め停泊所を出ると、次に向かった先はドラゴン王国にあるメイヤ実家――ではなく、貴族も利用しているという高級宿屋だ。

 メイヤパパことハイライさんは、時間的にまだ竜人大陸へ戻ってきていないだろう。

 だが、主がいなくてもメイヤ実家は敵地と言っても過言ではない。わざわざ、何をされるか分からない場所に泊まる理由はない。


 オレ達は大きめの馬車をレンタルし、宿泊予定の宿屋へと向かう。

 折角なので観光がてら徒歩で移動しながら、色々見て回りたかったが、


「申し訳ありません、リュート様。ドラゴン王国(ここ)ではわたくしの顔が知られ過ぎているため、皆さんと一緒に歩いた場合、人が集まり過ぎてまともに前へ進むことが難しい可能性があって。宿屋に着いた後、皆様のみでなら問題はないかと思います」


 メイヤ・ドラグーン。

 二つ名は『魔石姫』。

 旧国王についで有名で、現国王であるロンの婚約者。

 その人気は『黒毒の魔王』や『魔力消失事件』を解決しさらに高まっているだろう。


 なるほど……だから、馬車が来るまでメイヤはレンタル飛行船内に待っていたのか。

 馬車に乗るときも扇子を広げて顔を隠しながら乗っていた。


 彼女の行動に今更納得する。


「……いや、一時的とはいえ分散するのは止めておこう。ここは敵地のようなものだし。分かれてる途中で、襲われたらたまらないからな」


 メイヤから聞いたロン・ドラゴンの性格的に奇襲をするタイプではないだろうが、彼の家臣達が暴走や功名心から襲ってこないとも限らない。

 観光なら後日、問題が片づいた後にすればいいのだ。


 この意見に皆は納得してくれる。

 宿屋についたら、体を休めるためにも全員部屋で待機が決まった。


「それに馬車の窓から街を見るだけでも十分楽しいですしね」

「リースさまの仰るとおりです。馬車から眺めるだけでも楽しいです」


 リースが観光が潰れたフォローをする。

 彼女の言葉にココノが賛同した。

 オレも彼女たちに倣い、馬車の窓から外を眺める。


 建物や雰囲気は他街とほとんど変わらない。

 注目すべき点は、国民達だ。

 竜人大陸の中心地、ドラゴン王国のお膝元だけあり、行き交う人々はほぼ全員が竜人種族だった。


 皆、竜人種族伝統の衣装に身を包み生活を営んでいる。

 他大陸でも竜人種族は目にするが、その数は他種族に比べると少ない。

 竜人種族は他種族に比べて、他大陸に移動することが少ないのだ。


 メイヤの屋敷がある港街は、港だけあり多種多様な種族が闊歩している。感覚としては竜人種族、その他種族が半々ぐらい居るイメージだ。

 今目の前に広がっている光景のように、ほぼ100%竜人種族というのはこの世界に生まれ変わって初めての光景である。

 この光景だけで十分観光資源になりそうだ。


 宿屋に着くと、再びメイヤは扇子で顔を隠しつつ馬車から室内へとすぐに移動する。

 高級店だけあり、受付を担当していた店主はメイヤを前にしても態度を崩さず――という訳にはならなかった。

 台帳に記す際、メイヤ直々に書いて欲しいと懇願されてしまう。


 彼女は不機嫌そうに顔をしかめながらも、うながすと渋々台帳に名を書く。


 部屋は一番広いのをお願いした。

 合計7人が一緒に泊まれる部屋はないが、最上階のスイートがワンフロアー全部を使っているためスペースに余裕がある。


 本来7人で泊まる部屋ではないが、料金の上乗せとメイヤの威光でやや強引に借りた。


 部屋に入ると、まずは中のチェック。

 怪しい仕掛けが無いか確認後、リースから各自銃器を受け取る。

 すぐに休憩する側と、警戒する側に分かれる。

 本当にただの観光旅行ならとても興味深く、楽しかったのだろうが。


 オレは微苦笑と共に溜息を漏らしながら、最初に警戒する側へと回った。




 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 翌日。


 オレ達は一応、襲撃を警戒して宿屋にもかかわらず、まるで魔物大陸で野宿するように交代で歩哨に立つ。

 食事も折角、ドラゴン王国の高級店に泊まっていたが、宿屋側に断りを入れて全て自炊で済ませた。


 最上階のスイートだけあり、台所も普通に設置されているため料理自体は問題ない。


 オレとシアが朝日が昇る最後の歩哨へと回る。

 これには理由がちゃんとあり、スノー達は起き出すと早速、城へと向かう身支度を始めたのだ。


 今回は城内で襲撃を受けることを考え、迎撃や逃走がし易いよう全員で向かう予定だ。


 つまり、オレと護衛メイドのシアを除く、女性5人が身支度をしなければならないのだ。

 この日のためにあつらえた衣服、貴金属、化粧道具に、靴、アクセサリーなどなど――リースの『無限収納』から絶え間なく出続ける。

 冗談抜きで、スイートの一室が物で埋まってしまう。


 女性の準備には時間がかかるため、オレとシアが最後の歩哨に回っていたのだ。

 歩哨後にオレは一度シャワーを浴びて、軽食を摂ると時間まで仮眠する。

 シアは仮眠もとらずリース達の準備の手伝いへと回った。


 先程まで一緒に歩哨をしていたのに、彼女は8時間寝て起きたような表情で手伝いを喜々としておこなっている。

 マジでタフだな……。




 そして、11時頃に起こされ、オレも着替えを済ませる。

 軽い昼食を終わらせ、待つこと暫し――予定通り、ドラゴン王国側から来た馬車が宿泊している宿屋へと止まる。


 この馬車に乗って国の中心にある城へと向かうのだ。

 その城内にメイヤを嫁にしようとするロン・ドラゴンがいる。

 オレは唇を湿らせ、意識から完全に眠気を取り除き気合いを入れ直した。




 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 馬車から降り、豪華な室内に通され待たされること暫し――。


 案内人に連れられて、オレ達7人はドラゴン王国城内、謁見の間へと通される。


 レッドカーペットを歩き、適切な距離まで歩く。

 左右はこの国の貴族らしき人物達がそこそこの人数揃っていた。

 城も、装飾も職人がプライドと敬意を込めて資金、時間を費やし作られた目の見張るモノで溢れている。しかし他城で今まで見てきたモノと大きく変わっている訳ではない。贅沢な話だが、ようは見慣れてしまったのだ。


 故に今日、城に入って一番驚くモノが目に入る。

 それはロン・ドラゴンが座っている玉座だ。


 背後に目が痛くなるほど細かい黄金色の細工が広がり、5、6段階段上に玉座が置かれている。その階段にも細工が施され、黄金に輝く。

 今まで見てきた玉座は普通に『椅子』の形をしていた。なのに彼が座る玉座はソファーのように横に広がっている。

 一人で横になるには十分な幅があるのだ。この幅広い玉座にもドラゴンを模した黄金の細工などが施されている。

 黄金を多用しているが下品な雰囲気はまったくない。

 神秘的で神々しさが溢れ出ている。


 その特殊な玉座に座るロン・ドラゴンの強者の空気が、辺りに広がりオレ達を圧迫する。

 ランス戦の時は映像越しで一方的に見ていたが、初めて顔を合わす。


 黒く長い髪を三つ編みに。

 竜人種族の男性が着る伝統的なドラゴン・カンフーをよりゆったりとした作りにした衣装に袖を通していた。その衣服には金や銀糸が惜しげもなく使われている刺繍が施されている。


「朕がドラゴン王国、王。ロン・ドラゴンである」


 ソファー玉座中央に足を組み、座ったままで自らの名を名乗る。

 本来であれば、膝を突き平伏すべきなのだろうが、結婚破棄に来た手前服従のような態度を取ることはできない。

 オレとメイヤが並んで前に、後ろにココノを中心に左右にクリス、リース。

 一番後ろにスノー、シアが並んでいる。


 いざと言う時、ココノを守りつつ撤退する布陣だ。


 両端に居る貴族達が、平伏しないオレ達に対してざわめき始めた。中には今にも飛びかかりそうな敵意を向けてくる者達も居る。

 ロン・ドラゴンが軽く手を挙げる。

 それだけでざわめきも、殺意も無かったように静まった。


「そちらは朕の臣ではない。無礼を許そう」


 あくまで上から目線。

 こちらを対等な相手とは見ていない。

 意図して傲慢に振る舞っている感じではなかった。

 あくまでこの態度が彼のフラットらしい。


 メイヤは呆れたように溜息をつく。


「まったく相変わらずなんですから……。本当に変わりませんわね。まぁいいですわ。とにかくわたくしはこちらに御わす天上天下並ぶ者の無い天才魔術道具開発者にして、世界を救った救世主! リュート・ガンスミス様をお慕いしていますわ! だから、ロンとは結婚できません!」


 メイヤは直球で結婚破棄を宣言する。

 両脇に居る貴族達は二人が幼馴染み同士とはいえ、あまりに一方的な宣言に再びざわつき、オレに向けて殺気を飛ばしてくる。

 一方、結婚破棄を告げられた張本人、ロン・ドラゴンは動揺、怒り、悲しみなど一切見せない。

 メイヤに結婚破棄されたが、『王』だからと感情を表に出すのを憚っている風でもない。

 ごく自然な態度で、興味深そうにオレに視線を向けていた。


「そちがあのリュート・ガンスミスか。そちとは一度会ってみたかった」

「それは……どうも」


 返答に困り中途半端な返事をしてしまう。

 ロンは気にせず、ジッとオレを見つめ続ける。


「いい目だ。自身の望みを理解し、迷い無く歩む者の目だ。以前、空に映った小物――ランスとは比ぶべくもない。リュート、彼の者の討伐大儀であった」


 結婚破棄を告げたはずなのに、ロンはオレを褒めてくる。

 どう反応すればいいかさすがに分からず、まごついているとメイヤが再び口を開く。


「ちょっと! わたくしを無視しないでくださいまし! わたくし達は結婚破棄の話をしにきたんですのよ! 本当にロンは昔から人の話を聞かないのですから!」

「メイヤ・ドラグーン。そちも相変わらず騒がしい女だ……。話は聞いている、結婚破棄だな。認めぬぞ。そちは朕と結ばれ、メイヤ・ドラゴンとなれ。これは決定事項だ」


 けんもほろろな態度に、オレは意見するため声をあげる。


「待ってください! 本人の意思を無視して、結婚を決めるなんて間違っています! どうかメイヤの……彼女の気持ちを尊重してください!」

「りゅ、リュート様!」


 彼女を庇うオレの発言に、メイヤ本人が感激した表情を浮かべる。

 一方、ロンはというと、


「リュート・ガンスミス。ドラゴンはどうしてドラゴン同士としか交わらないか知っているか?」

「同種族同士でしか子供ができないからですよ。他に理由なんて無いでしょ」

「違う。ドラゴン(強者)はドラゴン(強者)とだけしか交わらないからだ。優れた者同士がつがう。それが自然なのだ」


 つまり自分より劣るオレが、メイヤと結婚するなど『自然』ではないと言いたいらしい。

 事前にメイヤから聞いてた『ドラゴン主義』という思想が全面に出た返答である。

 ちょっと……いやかなりイラっとする。


 怒りに任せたら負けだ。

 オレは一度、深呼吸してから攻め手を変える。


「確かに優れた者同士が結ばれるのは自然界では普通でしょう。しかし、ここは野生の本能のまま動いていい世界じゃない。法と秩序、理性が働く世界です。メイヤ個人の気持ちを無視していいわけではありません。また彼女だけじゃなくロン――さん自身の気持ちを、人格を無視していいわけではないと思います。どうかご自身の気持ちを無碍に扱わないであげてください。自分自身の心をずさんに扱うなど、野生動物にも劣る行為ですから」


「朕自身の気持ちか……」


 ロンを何と呼べいいかで一瞬迷う。

『陛下』呼びは下手に出すぎなため『さん』付けに留めた。


『メイヤだけではなく、自分自身の気持ちに正直になって欲しい』と変化球を投げる。


 尊大な態度を取り続けていたロンが、初めて体を動かす。

 組んでいた足をほどき、地面に両足を付ける。

 腕が組まれて、片手が口元に当てられた。


 メイヤとの結婚について、自分自身の心に問いかけているらしい。

 暫しの沈黙。

 ロンが答えを出す。


「メイヤ・ドラグーンを后に迎えることは朕自身、問題ないな。メイヤ・ドラグーンはすぐれた結果を出した。朕の隣に座ることを許そう。そちにはその資格がある」

「いや、隣に座ることを許すとかじゃなくて……」

「何の問題がある? 朕としてもメイヤ・ドラグーンを后に迎えることは問題ないと言っているではないか」


 今度はロンが突きつけてくる。


「リュート・ガンスミスよ。己こそ分を弁えよ。自身の尺度が全て正しいわけではないのだ。何よりそちと朕では格、器とも違うのだからな」


 彼の断言に背後に居る嫁達+メイドが怒気を放つ。

 自然な態度でオレを格下認定したことに腹を立てているのだ。

 オレ自身、怒りはしなかったが胸中で諦めの溜息を漏らす。

 予想はしていたが、考え方があまりにも違いすぎて話にならない。


 とりあえず、ここで暴れる訳にもいかず、冷静さを取り戻すためにも一度下がろうとしたが――隣からスノー達以上の怒りの波動を感じる。


「リュート様とは格、器が違う? ありえませんわ。この世界の唯一神にして、最も心が広いリュート様に対してあまりに……あまりに無礼な発言! 絶対に許されるものではありませんわ!」

「め、メイヤ、ちょっと落ち着け。オレは気にしてないから」


 彼女との付き合いはかなり長い。

 こうなったメイヤが何かやらかすと直感が告げる。

 しかし、オレが止めるより早く彼女がロンへと指を突き出し、高々と叫んだ。


「決闘ですわ! ロン・ドラゴン! 結婚を賭けてわたくしは決闘を申し込みますわ!」

「ほぉ……」

「け、決闘!?」


 ロンはどこか嬉しそうに瞳を細める。

 オレや背後に居るスノー達はというと、彼女の独断専行発言に頭を抱えていた。

 決闘宣言を告げたメイヤはというと、すでに勝利を確信した表情をしている。


 直感――ではなく今までの経験則から断言できる。

 メイヤは絶対になにかやらかすと。

 オレは背筋どこから、全身を悪寒で震わせた。


ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

10月11日、21時更新予定です!


久しぶりにロン・ドラゴン登場!

彼の口調は色々面倒なので、書くのに疲れました。

次はいよいよロン・ドラゴン戦です!

どうぞお楽しみに!


(1~5巻購入特典SSは15年8月20日の活動報告を、2巻なろう特典SSは14年10月18日の活動報告、3巻なろう特典SSは15年4月18日の本編をご参照下さい。)


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