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第3話 魔術練習、見学

 リュート、3歳。


 歩いて、話を聞いて、理解できるようになりこの孤児院の状況も大分把握できた。

 この孤児院は獣人種族(じゅうじんしゅぞく)(兎)のエル先生が、個人的に開いている。

 彼女がなぜ孤児院を開いたのかは分からない。


 今、孤児院で暮らしている子供達は、自分を入れて18人。

 毎年2~4人のペースで増えている。


 自分が生まれる前に起きた戦争時は、多い時に年10人程度増えたこともあったらしい。


 孤児院というと毎日の食事にも事欠き、子供達の表情は暗いイメージがある。だが、ここの経済状況は裕福ではないが、決して貧しくはなかった。

 理由はエル先生が優秀な魔術師だからだ。


 小さな町のため医者がいない。

 代わりにエル先生が魔術で町の人達に治療をおこなっている。


 また子供達を集めて読み書き、算数、歴史、一般常識などの学校――というより、私塾を開いている。

 さらに魔術師として才能のある子供達に、基礎を教えたりもしている。


 町人達からの受けはよく、女性陣がボランティアで孤児院の手伝いも率先してしてくれるほど良好な関係を築いている。

 彼女のお陰で上記の収入や寄付金などで、孤児達が食べるのに困ることはなかった。


 だからといって子供達が何もしないわけではない。

 4歳は下の子の面倒を見るのが仕事で、5~6歳は日中、文字書きや算数、歴史、一般教養の勉強。終わったら、掃除洗濯――料理以外の雑用を担当する。

 7歳になると町の人々から簡単な仕事を受ける。

 畑の雑草取り、収穫の手伝い、麦の運び、孔雀鶏の面倒、店の掃除などなど。

 そのお金は一部引いて残りは孤児院へと入れている。


 才覚のある者は、7歳の時点で孤児院を出る。

 行く先は商人の丁稚や職人の弟子、富裕層のメイド見習いなどだ。

 10歳までには孤児院を出て、仕事に就くのが暗黙の了解になっている。


 オレは『魔術の才能なし』と早々に判断を下された。だが、別に悲観はしていない。

『せっかくの異世界なのに、派手な魔術をぶっ放すチャンスがないのは残念だな』程度だ。


 それに、魔術道具である魔術液体金属を使えばこの世界でも銃――ハンドガンを作れる可能性がある。だから、魔術液体金属でハンドガンを作り出せる程度には魔術を勉強するつもりだ。


 オレは文字書き等の授業と同じように、魔術の基礎授業にも遠慮なく参加するようになった。


 本来、授業を受けられるようになる年齢は7歳。

 一般的にそれ以下の年齢で訓練をしても、まだ体ができあがっていないため負担にしかならない――と考えられている。


 文字書き等の授業は午前。

 昼を挟んで、午後から魔術師基礎授業が孤児院の裏庭でおこなわれる。


 オレは午後、裏庭の隅に移動して授業の様子を眺めた。

 エル先生がいたたまれない表情をしたが文字書き等の授業と同じで、騒がず静かにしているぶんには見逃してもらえる。


 エル先生の前に、魔術の基礎を学ぶ生徒達が並ぶ。

 孤児院出身の子が1人、町の子が2人――計3人。


 上の世代が孤児院を出て魔術を正式に習う魔術学校へ進学したり、才能を持つ者が稀なため授業人数は少ない。


 エル先生のかけ声のもと、まずは準備体操。

 建物の周りを走るランニング。

 筋トレ。

 休憩の後、格闘技の訓練。


 この世界の格闘技は打撃、投げ有り。

 レスリング+キックボクシングのような格闘技を教えている。


 休憩の後、次は剣術。

 木刀を持ち、ひたすら素振り。

 その後、生徒同士やエル先生を相手に乱取りをする。


 先生曰く、才能のある魔術師ほど剣術、格闘技も一流。

 この訓練をちゃんとしておかないと、魔術師相手に魔術も使われず素手や剣で倒される可能性もあるらしい。

 どうやら魔術師は意外と肉体派のようだ。


 再び、休憩。

 その後、いよいよ魔術の練習だ。


 まず最初は補助魔術である『肉体強化術』。

 魔力で体を覆い身体能力を向上させる魔術だ。


 肉体強化術が終わると、次は相手の攻撃魔術を防ぐ唯一の防御方法――抵抗陣を作る練習。


 このふたつが魔術師としての必須技術。

 特に抵抗陣は危険だと本能が感じ取ったら、瞬時に展開できないと実戦レベルでは使い物にならない。

 命がかかっている防御魔術のため、生徒達もみんな一生懸命練習する。


 最後はいよいよ攻撃魔術。

 見学のオレが見つめている中、先生の指示に従い生徒達は初心者用の基礎攻撃魔術の練習を始める。


「我が手に灯れ炎の槍! 炎槍(フレイム・ランス!)


 生徒のかけ声と共に、1メートルほどの炎の槍が生まれて虚空へと放たれる。

 数もひとつで、発現速度、速力、威力、大きさなどまだまだらしい。

 全員が魔力限界まで攻撃の練習をする。


 さらに来年からは、無詠唱魔術の練習が始まる。


 やりかたは――どういった攻撃・形・威力にするかを明確に想像して、通常の魔力の約2倍を使って攻撃したい相手に強い感情をむければ発動する。


 無詠唱魔術は通常の魔術方法に比べて出も遅ければ、威力も落ちて、魔力の消費も多い。

 デメリットが満載の技術だ。しかし普通の魔術が使えない場面――例えば魔物から隠れていて声が出せない状況などは多々ある。

 その時、無詠唱魔術を使えるかどうかで生死が分かれる。

 だからこれも必須科目になっている。


 これが魔術師基礎訓練の内容だ。

 裏庭の隅で講義を聞き、やり方を眺めていたお陰でだいたいの流れは掴んだ。

 門前の小僧習わぬ経を読む――ではないが。


 授業中、さっそく自分自身で練習を開始する。

 まずは抵抗陣から。


(エル先生曰く、『魔力で壁を作るイメージ。相手の攻撃を拒絶、抵抗する感情を込めると上手く作れる』だっけ?)


 つまり、AT○ィールドですね、分かります。


「すっー、はぁー、すっー、はぁー」


 呼吸を繰り返し、目を閉じる。

 意識を集中して、エヴァン○リオン劇場版を思い出しイメージを固める。

 まぶたを開き、叫んだ!


「AT○ィールド、全開!」


 目の前に薄く光り輝く菱形に広がる抵抗陣が出現する。


「おぉ! やった! できたぁぁ~~~ぁぁッ」


 死神に魂を引っこ抜かれたような虚脱感。

 喜びの声は後半、間延びしてかすれて消える。

 イジメ主犯格に殺された時のように、意識は底なしの暗い穴へ落ちていった。


 次に目を覚ましたら、子供部屋の布団で寝かされていた。

 幼なじみの銀髪少女、スノーから聞いた話では、オレが見よう見まねで抵抗陣を作成。

 しかし加減も分からず一気に体内にある魔力を消費したせいで脱糞し、白目で気絶してしまった。

 異変に気が付いたエル先生が、授業を中断し慌てて駆けつけてくれた。

 汚れた下着やお尻などは、ボランティアのおばちゃん達が洗い、着替えさせ布団に寝かせてもらったらしい。

 幼なじみにも怒られてしまう。


「だめでしょ、リュートくん先生にめいわくかけちゃ!」

「ごめん、ごめん。次は気を付けるよ」


 すでに対抗策は思いついている。

 こんな過ちは二度と起こさない。


 オレが目を覚ましたと知ったエル先生に呼び出され、やんわりとした口調で叱られた。




▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 失敗、失敗☆

 中身は大人だが、外側は子供だから失敗しても許されるよね!


 オレは叱られても懲りずに魔術師基礎授業に参加した。

 エル先生や生徒達は、難しい顔をしたが相手はまだ3歳児。

 目くじらを立てて追い払うのも憚れる。


 もちろんオレだって何の対策も取らず参加しているわけではない。

 前回の失敗を踏まえ、すでにトイレで腸の中身をからっぽにしてきた。

 例え魔術に失敗しても、これで漏らさない。

 完璧だ。

 オレは決め顔を作りながら、再び特訓に参加する。


 肉体強化術をおこなう練習を眺める。

 町人の2人は、授業参加1年目同士。

 肉体強化術を行いながら、軽く手合わせをしている。

 エル先生は、今年から初参加の孤児院の子にかかりっきりになっていた。


「もっと全身を満遍なく均一に魔力でおおってください。偏りがあると無駄に消費して、すぐに魔力切れをおこしますよ」

「は、はい。頑張ります」


 初心者の生徒は、エル先生の指示に応えようと努力する。


 オレは2人のやりとりを眺めながら、エル先生のアドバイスを参考に今度は肉体強化術を試してみる。


(えっと……『全身を満遍なく均一に魔力で包む』だったな)


 つまり、ハ○ター×ハン○ーの念○力ですね、分かります。


「すっー、はぁー、すっー、はぁー」


 呼吸を繰り返し、目を閉じる。

 意識を集中して、主人公が念○力に目覚めたマンガ回を思い出しイメージを固める。

 まぶたを開き、叫んだ!


「はぁッ!」


 全身から沸騰した湯気のように魔力が溢れ出す。

 軽くジャンプしてみると、楽に身長の倍以上飛んだ。


「おぉ! これが肉体強化術の力か! 本当に体が強化されるんだなぁぁ~~~ぁぁッ!?」


 再び死神に魂を引っこ抜かれたような虚脱感。

 喜びの声は後半、間延びしてかすれて消える。

 足に力が入らず、そのまま仰向けに倒れてしまった。


 次に目を覚ましたら、子供部屋の布団で寝かされていた。

 幼なじみの銀髪少女、スノーから聞いた話では、オレが見よう見まねで肉体強化術を実行。

 しかし加減も分からず一気に体内にある魔力を消費したせいで気絶、後ろに転倒、地面に埋まっていた石に後頭部をぶつけて派手に出血、失禁、寝ゲロして喉を詰まらせ酸欠に陥っていたとのことだ。


 エル先生が異変に気付いて、慌てて駆け寄り救護しなければ死んでいたらしい。


 オレが目を覚ましたと知ったエル先生に呼び出され、ウサギ耳をピンと立たせた先生に大声で叱られる。

 初めて見るエル先生の本気の激怒。


 中身は30歳を過ぎているのに、オレは恐怖で震え上がってしまった。

 これが普段、大人しい人を怒らせると怖いという原理か……。


 二度目の妨害で、エル先生直々に魔術師基礎授業の参加不可を言い渡された。

 さすがに二度も邪魔してしまったのはまずかった。

 読み書き等の授業だって邪魔をせず大人しくしているから参加を許されていたのに……。


 魔術師の勉強は暗礁に乗り上げてしまう。


ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明日、11月26日、21時更新予定です。

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― 新着の感想 ―
体に纏わり付かせる前に気絶するならよっぽど全力だったんだろうな・・・
[良い点] 『ATフィールド全開っ』と念の『発っ』ですね? 大変よくわかります。手に取るようにわかります。小説なのに目に浮かびます。 もうね・・・・この小説 面白い予感しかないです。
[一言] あのさリュート、アンタバカァw
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