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第366話 戦いの決着

 リースは弾倉がないSAIGA12Kを手に、実姉ララを軸に半円状を描きながら引鉄(トリガー)を絞る。


 弾倉が無いにもかかわらず非致死性装弾であるビーバック弾や木製のウッド弾が、ララを目掛けて襲いかかる。

 リースはSAIGA12Kからわざと弾倉を外し、その部分に左手で押さえていた。

 弾倉を外し、左手で押さえることで精霊の加護である『無限収納』から直接好きな装弾を薬室(チェンバー)に送り込んでいるのだ。


「…………」


 ララは自身に向かってくる非致死性装弾を前に一歩も動かず、手を向け抵抗陣であっさりと弾く。

 彼女は呆れた様子でリースに向き直ると、攻撃魔術を放つ。


「我が手に絡まれ風の鞭。風鞭(ウィンド・ウィプ)」

「きゃぁ!?」


 風の鞭がリースが進もうとしていた未来位置を破壊。

 彼女はその衝撃に吹き飛び、SAIGA12Kを手放し地面を転がる。


「リース!」


 オレは反射的に飛び出しそうになるが、リース自身が手を突き出しその足を止めた。


「大丈夫です。攻撃魔術は当たっていませんから」


 いくら銃器が使えるからと言っても、やはり魔力の有無は大きい。

 魔力がなければ肉体強化術で体を補助できず、抵抗陣で初級の攻撃魔術すら防ぐことができない。圧倒的不利な状況だ。


 一方、ララはあからさまに落胆の溜息をつく。


「『無限収納』を弾倉代わりに複数の装弾を好きなだけ発砲するアイデアはいいけど、それ意外は前に戦った時とまるで変わらない。本当に貴女は成長しないわね」


 前の戦いとは、女魔王アスーラ復活を争った時のリースvsララ戦のことだろう。

 戦った内容はリースから聞いている。

 戦いはララが一方的に圧倒し、リースが惨敗した。そのため次の戦いの際は、ララを無事に捕らえられるよう新しい非致死性装弾製作を彼女から依頼されたのだ。


「前の質問に答えてあげる。今、この戦いが手紙に記した姉妹同士の戦いよ。でも未だに非致死性の弾を使っているなんて。リース、貴女は本気で私と戦うつもりがないのかしら?」

「本気で戦う……それはこちらの台詞です」


 リースは戦闘服に付いた汚れも気にせず立ち上がり、実姉を真っ直ぐ見つめる。


「姉様はいったい何がしたいのですか」

「どういう意味かしら?」


 ララは質問の意図が分からず疑問で眉根を寄せる。

 リースはそんな姉に指摘する。


「リュートさんを心底本気で憎んでいるのは姉様の態度から分かりました。ならなぜこの地に近付いた飛行船ごと魔術で撃ち落とさなかったのですか? 魔力がない今の私達ならあの高さから落ちればまず助かりません」

「…………」

「今の戦いだってそうです。邪魔な私を殺すなんて、本気なら造作もないはず。前の戦いも最後まで手加減してましたよね。最初、私を侮っているのかと思っていましたが、飛行船と今の戦いで確信しました。姉様はなぜか分かりませんが、手心を加えていると」


 リースが続ける。


「姉様が妹である私に対して手加減しているというのもあるでしょう。ですが、それだけが理由だと到底思えないのです。ならば考えられるのは一つ――姉様、一体『予知夢者』で何を視たのですか?」

「…………」


 実妹の指摘に、ララは押し黙る。

 彼女から昇る気配からは、オレでも分かるほど動揺を感じ取ることができた。


「……貴女は昔からドジで、失敗ばかりする子だけど、変に勘が鋭いのよね」


 ララは短く溜息をつき、髪を掻き上げる


「確かにリースの指摘通り私は手心を加えていたわ。もちろんそこに居るリュートをこの手でくびり殺したいけど……でも、どうせこの後、この世界の皆が、死ぬのだから。もちろん、私を含めてね。一応、妹の夫だし、世界が滅ぶぐらいまでは生かしておいてあげようと思っただけよ」

『!?』


 ララの言葉にその場に居る全員が驚愕する。

 この異世界が滅ぶ!?

 なんで突然、そんな話になるんだ!

 驚愕しているオレ達へ、ララが視線を向ける。


「なぜ驚くのかしら? 少し、考えれば分かることでしょ。むしろ、リュートがまだ気付いていないことに驚くのだけど」


 ララは見下した侮蔑の瞳を向け、鼻で笑う。


「天神の力を使い、こことは違う別の世界への扉を開こうとしているのよ? 天神の力を持ってすれば確かに可能でしょう。でも大量の魔力の殆ど全てを消費して異界の扉を強引に開いたら、この世界はどうなると思う? まさか何事もなく『無事でした』なんてことになると本当に思っているのかしら?」


 そういうことか!?

 ララに指摘されてようやく気付く。

 確かにそんな膨大な魔力を消費して、こちらの異世界が無事で済む道理はない。

 たとえば異界の扉を開くために、海水の8~9割を消費したとしよう。

『では、その世界は無事で済むのか?』ということだ。

 よくて人類絶滅。悪くて生物が一切住めない死の惑星になるだろう。


「姉様はその事実に気付いて、ランスさんを止めようとはしなかったのですか?」

「しなかった……と言えば嘘になるわ。でも無駄だから、黙っていた。それにランス様はその事実を最後まで教えてはくださらなかった。あの人がこの世界が滅んでも事をなしたいと願うなら、私はそれに従うだけよ……」


 ランスはララにもその事実を隠していた訳か……。

 ならなぜ彼女はその事実を知ることができたんだ?

 ララはオレの表情を読んだのか、気付いた理由を告げる。


「ある日を境に『予知夢者』で未来を視ることができなくなったわ。ランス様が異界の扉を開いた以降、未来が真っ暗で視えなくなることに気付いたの。後は少し考えれば分かることよ」


『予知夢者』でランスが異界へと向かう。

 それ以降の未来が視えないのは世界が崩壊しているからだと、ララは判断したらしい。

 ララは姉としてリースへと助言をする。


「『予知夢者』は絶対。未来はもう決定しているの。だからせめて、世界が終わるまで愛しい人の側にいなさい」

「なるほど、ではなおさらランスさんを止めるため向かわないといけませんね」


 姉が世界の崩壊を知り、せめてその日まで妹の穏やかな日常を願っていた。

 しかし妹であるリースはその話を聞いて、姉の助言を無視して是が非でもランスを止めに行こうと決意を新たにする。


「リース……貴女、話を聞いていた? この世界はもう滅ぶのが決定しているのよ」

「姉様……未来が分からず姉様が不安になる気持ちは分かります。ですが、それで良いんですよ。だって本来、未来なんて分からないのが普通なんですから」


 リースは、穏やかにララへと語りかける。


「それに私達は今までも似たような困難を乗り越えてきましたから。だから今回も皆さんと一緒に困難を乗り越えてみせます」


 彼女の言葉通り、リースとの出会いから考えれば結界石(けっかいせき)破壊後、バジリスク、竜騎兵との戦い。北大陸では巨人族、静音暗殺者(サイレント・ワーカー)戦、ダン・ゲート・ブラッド伯爵戦、始原(01)も相手にした。

 黒毒(こくどく)の魔王とも戦ったりした。

 どの戦いも『世界崩壊』とは規模が違うが、決して生半可な戦いではなかった。


「それに私達、PEACEMAKER(ピース・メーカー)の理念は『困っている人、救いを求める人を助ける』です。世界崩壊を知って何もせず、このまま黙って見ているなどできません。何より、夫を支えるのが妻の勤めですから。最も苦しい今を支えずして、いつ支えるというのですか」


 リースがどこか誇らしげな微笑みを浮かべて断言する。

 彼女の言葉を聞いて、オレの胸がジンと熱くなった。

 正反対にララは、リースの言葉を聞いて不快そうに眉根を寄せる。


「『予知夢者』は絶対。未来は確定していると言ってるでしょ? なのにどうして無駄に足掻こうとするの。言っておくけど、ランス様の邪魔をするなら世界が終わる前に本当に叩き潰すわよ?」

「構いません。長年知りたかった姉様の真意を知ることもできましたから。知った上で、姉様が私達の前に立ちはだかるというなら、今度こそ本気で倒させて頂きます!」


 リースは決意をあらたに、再び『無限収納』からわざと弾倉を外したSAIGA12Kを取り出す。

 その瞳には確かな決意が宿っていた。

 オレは瞳の光に気付き震え上がる。

 彼女が本気でララを倒す決意をしたからだ。本気になったということはあの装弾を実姉に使うつもりだと気付いてしまったのだ。


「行きます! 姉様、お覚悟を!」


 リースは新しく取り出したSAIGA12Kの銃口を姉へと向ける。

 左手を添え、『無限収納』からあの装弾を薬室に装填したのだろう。

 彼女は迷い無く引鉄(トリガー)を絞る!


「何かと思えばまた変わり映えのしない非致死性装弾を使うなんて、所詮は口だけ――ッ!!!?」


 ララは微動だにせず、抵抗陣を展開し自身に向けられた装弾を防いだ。

 通常ならそれでお終いだが、リースが放った極悪な装弾は当然それだけでは終わらない。

 ララが突然の悪臭に鼻といわず、口も含めて押さえる。


「な、なんのこれ!? く、臭!?」


 非致死性装弾、非致死性兵器は文字通り、相手を殺害しない前提で作られた装弾や兵器である。

 そのため多々種類が存在する。

 逆にいえば相手を殺害しなければ何をしてもいい――と考えることもできる。

 結果、とても質が悪い非致死性兵器が誕生した。

 それが腐臭、悪臭兵器である『SKUNK』だ。


『SKUNK』は毒性のないモノで作られた悪臭兵器で、モノにつくと最大数年は臭いが取れない。

 オレは過去、対獣王武神(じゅうおうぶしん)用として、風船蛙(バルーン・フロック)の悪臭液を採取し、非致死性兵器として流用した。


 リースに非致死性装弾の依頼を受けた後、使用するかもしれないと『SKUNK』を一応準備した。

 だが、まさか本当に悪臭液入り装弾を実姉に向かって発砲するとは……。


 風船蛙(バルーン・フロック)の悪臭液は、人であるオレですら涙が出るほど臭い。

 クリスを溺愛するギギさんですら、臭いを纏った彼女が近付くと逃げ出すレベルだ。

 そんな悪臭装弾をリースはさらにララへ向けて連続で発砲する。


「ちょ! ま、待ちなさい!」


 ララは悪臭装弾を必死に抵抗陣で防ぐ。

 だが臭いまでは防げず、鼻、口をハンカチで押さえてしのぐしかない。

 魔術で臭いを散らそうにも悪臭が酷すぎて、意識を集中することができずにいる。

 想像して欲しい……前世、地球で最も臭いとされる『シュールストレミング』レベル、それ以上の液体を浴びせられ続けるのだ。


 たしか『シュールストレミング』は缶詰内部で発酵させるため(通常の缶詰は菌を入れないようにしているが、シュールストレミングは缶の内部で発酵し続けるようにするため、菌が内部に大量に封入されている)、発酵によって発生したガスによって爆発する恐れがある。多数の人が存在する中で爆発した場合、精神的・物体的に多大な被害が出ることが想像され、最悪死人が出る可能性がある云々と聞いた覚えがある。

 だいたい、発酵したガスで内側から爆発する可能性があるため空輸できないはずだ。

 基本、船便でしか取り寄せられない、はずだった。

 そんな危険物級の汁を浴びせられ、意識を集中させるなど不可能である。


 ララを背に乗せていたドラゴンですら、あまりの臭さに慌てて主から距離を取り、そのまま上空へと逃走してしまう。


 一方、リースはやりたい放題だ。


 通常、ショットガンは装弾が大きすぎて、7、8発、多くても『MPS AA―12』で20発ぐらいが限界だった。

 なのに彼女は『無限収納』から、SAIGA12Kの薬室へ途切れなく悪臭装弾を装填し続けることができる。

 まるで悪臭液のシャワーを浴びせるように姉へと撃ち続けることが可能になったのだ。


 抵抗陣で全ての悪臭液を防ぐことはできず、一部顔や手、頭から浴びてしまう。


「うぉぉえぇぇ……ッ!」


 あまりの悪臭にララが吐く。

 ランスの右腕で、ミステリアス系美人のララが悪臭に耐えきれず蹲って吐いてしまう。

 なのにリースは手を弛めない。


 ここぞとばかりに悪臭装弾を発砲する。

 抵抗陣をわざと外し、ララの周りにも着弾。

 砕け散った装弾から飛び散る悪臭液を、ララへ容赦なく浴びせるためだ。

 容赦無さ過ぎだろう……。


 正直、どちらが悪の片棒を担いでる人物か分からない。


「うげぇぇッ! い、いい加減に、ううぅ、じなさい……ッ!」


 胃液まで吐き出し、鼻が慣れたせいか怒りにまかせて攻撃魔術をリースへと放つ。

 魔力を失っているリースに攻撃魔術を防ぐ手段はない――と思われたが、一瞬で巨石が姿をあらわす。


 これにはララも驚愕の表情を作った。

 リースを狙った攻撃魔術が虚しく巨石の表面を砕く。


「昔、ラヤラさんと協力して巨石を落とす作戦を立てたのですが、結局流れてしまったんですよ。その時から仕舞ったままの巨石を、盾代わり兼足場にさせて頂きました」

「!?」


 5mほどの巨石の上にリースが立ちSAIGA12Kを構えていた。

 銃口から新たな装弾が発砲される。


 次に発砲された装弾は、煙幕弾だった。


「相変わらずドジね! 前も言ったでしょ! 『千里眼』を持つ私に目つぶしなんて効果あるわけ――げほ! ごほっ!」


 ララが煙を吸い込み激しく咳き込む。

 リースが使用したのはただの煙幕弾ではない。

 コショウや唐辛子、刺激物を混ぜ込んだ特製煙幕弾である。


 悪臭装弾のせいで鼻が馬鹿になっていたララは、匂いで気付かず吸い込んでしまったのだ。

 ララが激しく咳き込んでいる間に、リースは装弾を入れ替える。


「ぎゃぁ!?」


 煙越しにララの悲鳴が聞こえてきた。


 リースがとどめに使ったのはワイヤーがついてない、ワイヤレスタイプのスタンガンだ。

 装弾内部に2本の針が入っており、刺さると電流が流れる仕組みである。

 もちろん魔石を利用している異世界版だ。

 たとえ大男でも体に電流が流れると、筋肉が麻痺して動くことができなくなる。


 リースは煙に向かって躊躇なく撃ち続ける。


 風に流され煙が晴れると――ハイエルフ王国エノール、元第一王女ララ・エノール・メメアが電気ショックで気絶し、悪臭液&自身の吐いた吐瀉物に倒れていた。


 こうして姉妹の戦いは終わりを告げた。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

5月3日、21時更新予定です!


リースが登場したハイエルフ王国編から、約二年以上経ってようやくララとの姉妹対決が終わりました!

……正直、当初はもっと格好良く、手に汗握るバトルを書く予定でした。

だって相手はリースの実姉のララで、ランスの右腕ポジ、ナンバー2のキャラクターとの因縁の対決ですから。


けど、魔術無し、銃器のみで相手を殺害せず倒そうとした場合、手を抜かず全力を尽くそうとしたら――使いますよね『SKUNK』のような悪臭兵器を。

どうしても全力で戦った場合、リースが悪臭装弾を使わない選択肢はありませんでした。あまりに有効すぎて。

結果、気付けばこんな風な戦いに……。

ま、まぁでも勝てば官軍、勝てば官軍ですよね!


(1~5巻購入特典SSは15年8月20日の活動報告を、2巻なろう特典SSは14年10月18日の活動報告、3巻なろう特典SSは15年4月18日の本編をご参照下さい。)

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あのポンコツお姫様がこんなに頼もしく。。
[良い点] む、ムゴいwww
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