第361話 決断
『この世界でご立派な理念を掲げていたけど、君はどっちを選ぶのかな? 理念に従い大切な人達を見捨てるのか? それとも昔、僕を見捨てたように今度は世界の人々全員を見捨てるのか?』
ランスが前世、彼を見捨てた時の様な選択肢を意図的に再び突きつけてくる。
飛行船ノアでエル先生達を助けに向かえば、他大陸に居る人々を救出できない。
さらにランスが居る場所へ辿り着くことが困難になり、彼を倒せばもしかしたら助かる命を見捨てることになる。
だがランスを倒すために向かえば、エル先生達の首を狙う人々や彼が放った怪物達に襲われる。
仮にエル先生達を優先し、その他大勢を見捨てた場合、この異世界に転生し今まで目指してきたPEACEMAKERの理念が根底から崩壊する。
つまり、自分自身を否定することになるということだ。
ならば自身の理念、理想のためにエル先生達を切り捨てるのか?
想像しただけで吐き気がこみ上げてくる。
そんなことできるわけがない!
だったら、どうする!
どうすればいい!
まさに選ぶも地獄、選ばぬも地獄だ。
ランスは選択に悶え苦しむオレが見えているかのように極上の微笑みを浮かべていた。
彼は十分オレの苦しむ様を眺め終えると、始まりの宣言をする。
『話は終わった。それじゃ復讐を始めようか』
映像が途切れる。
新・純潔乙女騎士団正門前に集まっていた人々も、オレ自身や団員達もすぐには動けなかった。
誰も、彼も無言で周囲を見回したり、ギュッと連れ立っていた子供を抱きしめていた。
夢か、集団催眠などにかかっていたと思いたいが、思考停止するわけにはいかない。
現在進行形で自分達PEACEMAKERメンバーやエル先生達、ココリ街など各街に危機が迫っているのだ。
すぐにメンバーを集めて対策を立てなければならない。
「きゃぁぁ!」
「!?」
突然の悲鳴。
振り返ると、魔力が消失したため狩りに行けなくなっていた冒険者達が、腰から下げていた剣を抜いたのだ。
それに気付いた人達が悲鳴をあげたらしい。
彼らは、住人達の対処に困っているオレの姿をストレス発散で見守っていた野次馬達である。
恐らく、ランスの『PEACEMAKER団員・関係者を殺害した場合、魔術師S級にする』という宣言を鵜呑みにしたのだろう。
正門で歩哨に立っていた団員2名が反射的にAK47を相手へと向ける。
他集まっていた団員達5名も無手だが臨戦態勢を取る。
集まっていた住人達はさすがに慌てて左右に散った。
「こ、こいつらを一人でも殺せたら俺も魔術師S級に……ッ」
冒険者男性は目を血走らせ、剣を構える。
AK47――銃器の威力はココリ街を訪れる冒険者であれば知っているはずだ。
にも関わらず剣を抜き挑もうとする。
それだけの価値がこの世界最高峰の魔術師S級にあるのだ。
さすがに住人達が近くにいるのでAKを発砲させるのは怖い。
また魔術が使えない現状、AKの銃弾を受けたら男性の死亡する確率が高い。
相手に情けを掛けている面も否定はしないが、今の状況下で男性を殺害した場合『PEACEMAKERは襲いかかってくる者を問答無用で殺害する』と噂が広まりかねない。
話や噂が広まれば、PEACEMAKERを襲うため貴重になっている魔術道具まで持ち出し、重装備で挑もうとする奴らが必ず出てくる。
その場合、こちらも相手の安全を考えず、全力で殺害するしかない。オレ達側にも死者が出るだろう。
もちろんわざとそういう噂を流すメリットもあるが、現段階ではデメリットの方が大きい。
好戦的な奴らを刺激したくないのと、戦闘理由を与えたくない。
凄惨な事態は絶対に嫌だ。
またオレ達が好戦的になれば住人達も疑心暗鬼になり、いつ自分達に牙を剥けられるか分からず怯えて逃げ出す。
そうならないためにもオレはさっさと男を取り押さえるために、歩み寄る。
「キェエエエェェ!」
冒険者男性は奇声を上げ、剣を振り下ろしてくるが、あまりにも愚直すぎる。
異常事態と『魔術師S級になれる』という興奮から、冷静さを失っているらしい。
オレはあっさりと剣を回避し、腕を掴み、足を払う。
地面に叩きつけ、肺から空気をはき出せ、ついでに手から剣を奪う。
もし彼が冷静であれば、これほど簡単に無力化はできなかっただろう。
オレは左腕で男性の腕をひねりあげ、膝で背中を押さえて動きを止める。
さらに彼の仲間らしき冒険者達も便乗しようとしたので、サブアームのUSPを抜き銃口を向け警告した。
「悪いが簡単に殺されるつもりはないぞ。だいたいオレ達を仮に殺害できても本当にランスが――彼が約束を守るか分からない。よしんば守っても、さっきの映像に映っていたような怪物にされて『はい、力は魔術師S級だよ』なんてオチが待っているかもしれないんだぞ」
オレの指摘に、残りの冒険者は不意に頬をぶたれたような顔をする。
どうやら怪物化される可能性は考慮してなかったようだ。
指摘され気付き、目に見えて彼らの戦意が萎む。
口からの出任せだったが、今のランスなら悪意に満ちた行為をやりそうな空気感がある。
とりあえずUSPをしまい、取り押さえている男の拘束を他団員に任せる。
彼は頭を冷やさせるためにも本部地下牢にでも入れておこう。
「おい、こら! PEACEMAKER団長!」
「!?」
大声に振り返ると、また別の冒険者達が姿を現す。
最悪なことに彼は一人の子供を人質に取っていた。
「このガキを殺されたくなかった、そこを動くなよ!」
まさか人質を取ってくる輩まで出てくるとは思わなかった。
それだけ魔力のない冒険者にとって、『魔術師S級』は特別なのだろう。
新たに現れた冒険者男性は、子供の首筋にナイフを当てながら、右手で別のナイフを取り出す。
魔力があれば肉体強化術で体を補助し、男が子供の喉を裂くより速く肩などを撃ち抜ける自信があるのだが……。
「へ、へへ、これで俺様も魔術師S級の仲間入りだぜ!」
男は狂気的な喜びに舌なめずりし、投擲体勢に入るが――背後からひっそかに忍びよっていたスノー、クリスに両腕を捕まれる。
男が興奮し視野狭窄になっていたため、二人とも簡単に背後を取ることができた。
スノー、クリスが接近しているのに気付いていたため、相手を刺激しないよう無茶な行動はとらなかったのだ。
「ぐぎゃ!?」
彼女達が手首を捻る。
悶絶する痛みに男が悲鳴を上げ、ナイフを手放す。
オレは二人が押さえてくれている間に、男の顎を殴り上げ意識を刈り取った。
男はすぐに他団員に預け本部地下牢へ。
子供も怪我の有無をチェックするが、特に問題は無し。
子供を探していた母親がちょうど現れたので、そのまま引き渡した。
オレは改めて、咄嗟に動きを合わせてくれた二人に礼を告げる。
「ありがとう、スノー、クリス。二人が背後から強襲してくれたお陰で無事確保できたよ」
「タイミングが良かっただけだよ。それより――」
『さっき空に浮かんでいた人! あれって前に戦ったメルティア王国の人ですよね!? しかも皆を襲うよう指示を出すなんて……』
二人とも警邏の当番で、街を見回っていたが、空に映ったランスの姿と宣言を見て、慌てて戻って来たようだ。
そして、ちょうど人質を取る冒険者を目撃。
後は先程の通りだ。
「正直、オレも驚いている。とりあえずこれ以上の面倒事は避けたいから、中へと入ろう。それと今後どうするか緊急の会議を開くから、このまま付いて来てくれ」
「分かったよ、リュートくん!」
『了解しました、お兄ちゃん!』
スノー、クリスは素直に指示に従ってくれる。
正門前に居る住人達には危険だから解散を告げ、団員達も引き連れて一時的に正門を閉めた。
オレ達は緊急会議を開くために、急いで本部へと引き返す。
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本部に戻るとまず警邏に出ている団員達を中断させ、呼び戻すよう指示を出す。
近場に居た者達はすでに戻ってきている。
だが街の端まで行っている者達はまだだ。
異常事態故に戻ってきているとは思うが、警邏を続けている可能性や先程のように冒険者達に絡まれている可能性もある。
そのため本部に残っている団員5人を一組にし、3人にSAIGA12Kと『非致死性装弾』をメインに持たせてる。危険を感じたら躊躇いなく発砲するよう指示を出しておく。
あくまで自分達の無事を優先するように厳命した。
残り2人には短機関銃のMP5Kを持たせる。
街中のためAK47では威力が高すぎて二次被害が出る可能性が高いためだ。
こちらも命の危険を感じたら躊躇わず撃つよう指示を出す。
警邏を呼び戻し、または保護する部隊を出し終えると、ようやく先程上空に映ったランス対策会議を開始する。
部屋にはオレ、スノー、クリス、リース、ココノ、メイヤ、シア――いつものメンバーが集まっていた。
ルナ、ミューア、バーニーは現場警備の責任者を任せていた。
先程の冒険者達のようにこちらを狙って塀を乗り越え、建物内部に侵入しようとする輩が居るかもしれない。
そのため他団員達に装備を手にしてもらい、警備を任せた。
その間に、オレ達はPEACEMAKERとしてどうするのかの話し合いを始める。
「リュートさん、なぜか死んだはずのランスさんが空に姿を現しました。恐らくララお姉様が彼を殺害したのは演技だったのでしょう……私達は誰もあの人が殺害された現場を見ていませんし。魔王の言葉を鵜呑みにしていた訳ではありませんが、まさかこんな事になるとは……」
リースの指摘通り、オレ達はララがランスを殺害した現場を見ていない。
ランスが死んだというのは、あくまでレグロッタリエ――『黒毒の魔王』の証言しかなかったのだ。
「ランスが生きている可能性はあるとは思っていたが、まさか世界中の魔術を奪うとは……。だが起こってしまったことを言ってもしかたない。これからどうすべきだが……」
オレは自然と手を硬く握り締めていた。
これから団長としてPEACEMAKERがどういう決断を下し、行動するのか選択する責任がある。
自分の出した答えが本当に正しいのか分からない。
だから反射的に喉が詰まったように声が出なくなってしまった。
冷たくなるほど硬く握った手を包む温かい感触。
顔を上げると、スノーがいつのまにか側に来てオレの手を握り締めていたのだ。
彼女は笑顔で告げる。
「大丈夫だよ、リュートくん。リュートくんならちゃんと正しい決断ができるよ。それにどんな事があっても皆で一緒にやれば絶対に上手くいくよ!」
「スノー……」
スノーとは反対側の手をクリスが握り締める。
『スノーお姉ちゃんの言う通りです! 皆でやれば絶対に上手くいきます! 私も魔力はありませんが頑張りますから!』
「クリス……」
リースがスノーの隣に座り膝へと手を乗せる。
「私もリュートさんの判断を信じています。またそれ以上に皆さんと一緒ならどんな困難でも乗り越えられると信じています」
「リース……」
ココノがクリスの隣に座り、リースのようにオレの膝へと手を置く。
「わたし自身、たいした力はありませんが、リュートさまや皆さまのために一生懸命頑張ります!」
「ココノ……」
「僭越ながら意見具申させて頂きます。奥様方の仰る通りかと思います」
「シア」
普段、滅多に自身の意見を口にしないシアが、率先して述べる。
最後はもちろん彼女だ。
「天上天下唯我リュート様たるリュート様のご英断が正しくないのなら、この世界に正しさなど存在いたしませんわ! 仮に! 万が一! 億が一! ∞が一! リュート様の体調がたまたま悪くて判断をミスしてしまうことがあっても、皆様が仰る通りわたくし達が全身全霊を持ってお力添えしますわ! そうすればたとえ相手が自称神(笑)とか抜かす傲岸無知な輩でも軽く打倒し、皆様を救うことができますわ! なのでどうかリュート様はお気軽に、ご英断してくださいませ!」
「メイヤ……」
改めて皆の顔を見回す。
彼女達の誰一人、目を逸らさず真っ直ぐオレを見つめてくる。
彼女達の純粋で尊い信頼がストレートに伝わる。
気付けば自然と肩から力が抜けていた。
冷たくなっていた手も温かくなる。
「ありがとう、みんな」
オレは再び彼女達を見回しお礼を口にした。
そして軽く息を吸い、吐く。
オレは改めて決断した答えを口にした。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
4月6日、21時更新予定です!
最近、健康を気にして白米から玄米に切り替えました。
玄米は味が独特とか友人が言っていたので身構えましたが、普通に美味しかったです。
食べやすいし、栄養価も高いのになんでこんなに評価が低いんだろう?
と、言うわけでもう4月!
今月には軍オタ7巻が発売されます!
表紙や発売日など許可を取りしだいアップ・近日中にご報告したいと思います!
また『コミックウォーカー』にて軍オタコミックス1話が無料公開されております。
よかったらご確認くださいませ!
(コミックウォーカー 軍オタ で検索すれば出てくると思います)
(1~5巻購入特典SSは15年8月20日の活動報告を、2巻なろう特典SSは14年10月18日の活動報告、3巻なろう特典SSは15年4月18日の本編をご参照下さい。)




