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寄り道

震災復興応援企画「希望の超短編」参加作です。

 

 

 

『何でも売ります。何でも揃います』


 信号も街灯も消えたひとけの無い街角、こんなふざけた張り紙を見つけてしまった俺は、迷わずその店の扉を引き開けていた。

 勿論、買い物するためじゃない。そこらの店が軒並み陳列棚をカラにしてしまっている状況において、こんなみすぼらしい店舗に何かを期待するほど俺はバカじゃない。

 一言、文句を言ってやるためだ。

 いいや、冗談にしてはふざけすぎている。場合によっては一発殴ってやるつもりで、俺は店の中に足を踏み入れた。


「いらっしゃいませ」


 昔懐かしい駄菓子屋に似た店内には、小柄な中年のオヤジが、ポツンと佇んでいた。


「あの、……表の張り紙って、本当なんだろうな」

「ええ。ただし、お一人様一つずつでお願いします。あと、お持ち帰りできるもので」


 とても自然な言いざまに、俺はますます激昂した。


「じゃあ、『希望』をくれよ。『明るい未来』でもいい。何でも揃うんだろ? え?」


 俺がそう怒鳴ると、オヤジは少し困ったように眉根を寄せた。


「それは……、ちょっとお売りしかねます」

「何だよ、何でも売るんじゃなかったのかよ! ふざけた張り紙してんじゃねーよ!」

「ですが……」


 そこでオヤジは、こっちがドキリとするほど満面の笑みを浮かべた。


「ですが、『希望』も『明るい未来』も、既にあなた様は両手に一杯抱えていらっしゃるではありませんか」


 


 気がついた時には、俺は真っ暗な街角で、冷たい風に吹かれて立っていた。

 ごくり、と唾を飲み込んだその瞬間、風が止んだ。そして、まばたきをするようにして街灯に灯が入った。

 俺は、緩みそうになる口元を必死で引き結んで、再び家路を急ぎ始めた。

 

 

 

    〈 了 〉


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