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空へ

小惑星探査機はやぶさ帰還一周年記念。迎える人々。

 

 

 

 帰宅ラッシュも落ち着きつつある、乗り換え駅のホーム。

 あくびを押し殺しながら、鞄からスマートフォンを出し、ツイッタに繋ぐ。画面を素早くタップして、『今から帰宅ー』と入力。これが彼の日課の一つだ。


 ――早く帰ってこい? って、お前、誰?


 自分宛のメッセージかと思いきや、どうやらそうではないようだった。『あと三時間』『頑張れ』『待ってる』そういった発言が、画面を次々と流れてゆく。どうやら、何人もの人間が、誰かの帰りを待ちわびているらしい。

 皆、一体誰を待っているんだろう。彼は不思議に思って、関係有りそうなアドレスをタップした。


 


 


 子供を寝かしつけ終わって、一息ついて、夫の帰宅までネットサーフィン。と、上機嫌で行きつけのサイトを回っていた彼女の手が、止まった。


「誰が七年ぶりに帰ってくるんですって?」


 ためしにリンクをクリックすると、理系アレルギーを発症しそうなページに行き着いてしまった。慌ててページを戻ろうとするが、ふと、可愛らしいイラストが目に止まって、彼女は少し落ち着きを取り戻す。


「子供向けのページがあるのかしら」


 つい先日、幼児教育の話でママ友と盛り上がったところだった。何か良い情報があれば皆に教えてあげられるかも、と、彼女はおそるおそる『冒険日誌』の画像をクリックした。


 


 


 いよいよ、だなあ。高鳴る胸をそっと手で押さえ、彼女はパソコンの前に座った。

 もう小学生は寝る時間だ。先生が代わりに最後まで見ておくから、皆はきちんと早寝早起きだよ、と約束したものの、何人かの顔は、夜更かしする気まんまんに見えた。「あいつらだけズルイ」と他の生徒から文句が出ないよう、せめてその瞬間をプリントアウトして、明日学校に持って行こう。

 春の遠足で科学館に行って以来、教室の後ろに掲げられていたカウントダウンの数字。それがとうとう今日、ゼロになった。


 ――テレビで中継してくれたら、楽だったのに。


 唇を尖らせながら、彼女は画像ソフトの準備を始めた。


 


 


 ケータイの画面に表示された名前に、彼は首をかしげもって、しぶしぶゲーム機を置いた。電話嫌いの父親が、こんな夜更けに一体何の用だ、と。


「もしもし」

『ネット見ろ、ネット。中継やってるぞ』

「野球?」

『野球なわけあるか。和大だ、和大』

「話題?」

『和歌山大学だ。ああ、もうこんなことしている場合じゃない。切るぞ』

「はぁ?」


 明日は午後まで授業がないから、このゲーム一気にクリアするつもりだったのに。文句を垂れつつも、彼は律儀にパソコンの電源を入れた。


 


 


 


 読む。

 知る。

 辿る。

 追う。

 待つ。

 待つ。

 見つめる。

 見上げる。

 目を凝らす。

 祈る。

 祈る。

 見守る。

 祈る。

 待つ。

 祈る。

 祈る。

 祈る……。


 


 


 暗闇にぽつんと現れたひかりは、みるみる輝きを増して夜空を翔ける。

 二〇一〇年六月一三日、まばゆいきらめきとともに、はやぶさは故郷の大気へと還っていった。

 

 

 

    〈 了 〉


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