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与えられたのは希望ではなかった  作者: 黒羽 凪
第一章~日常からの旅立ち~
8/24

日常の終焉

 前話、受け入れがたい現実ですが、執筆途中で間違えて投稿してしまいました。執筆が終わったものを1月18日の10時に再投稿させていただきましたので、もしもその時間以前に読んだ方がいましたら、再度読んで頂けると嬉しいです。

 以後、こういう事が無いようにしていきたいと思います。申し訳ありませんでした。


作者  黒羽 凪

「何だか少し前の自分を見ているようで、イライラするんですよね。あの人はたかが左目が見えなくなった程度で、生きがいとまで言っていた野球を辞めたらしいじゃないですか? それがどう足掻いても、サッカーができなくなった僕には許せないんですよ」

「ふむ、君がそう思うのは仕方がないな」

「それにまだ野球はできるのに自ら捨てて、被害者ぶっているあの人は特に……ムカつきます。それはもう、殺したくなるぐらいに」


 童顔の赤坂から放たれる強い視線、それは本物の殺意を確かに含んでいた。思わず足が(すく)みそうになる。だが、それを懸命に我慢する。それは赤坂の顔を見た時に思った疑問、そして僅かな可能性。俺はそれを確かめなければならない。


「赤坂翼。……あんたは一年前に事故で死んだはずじゃ……」

「僕の言葉に何も返してはこないのですね。それは大人を気取っているのですか? 身長が高いからって調子に乗っているんですか? 童顔な僕を見下しているんですか?」

「……はぁ? あんたいきなり何を言っているんだ?」

「赤坂くん、落ち着きなさい」

「っ!? 佐倉総隊長、ありがとうございます。危うくあの人の挑発に、まんまと乗せられるところでした!」

「…………」


 そう口にして、再び殺気に満ちた視線を送ってくる赤坂。だが今のやりとりを見て、再び俺の足が竦みそうになることはなかった。それどころか、こいつは真性のアホなのではないかと疑ってしまっていた。


「……佐倉」

「君は僕のことを無視す――」

「なんだね? 黒羽くん?」

「さ、佐倉総隊ちょ――」

「赤坂翼は一年前に事故で死んだはずじゃないのか?」

「だから僕のは――」

「そうだ。赤坂くんは確かに一年前に死んだ」

「佐く――」

「それは日常(・・)で、か?」


 俺と佐倉は、うるさい赤坂の言葉を遮りながら会話をする。自然に佐倉もそうしているということを見ると、赤坂はいつもこうなのだろう。つまり真性のアホという疑惑は事実であることを、俺は確信した。取りあえず未だにグダグダ言っている赤坂の言葉は無視して、佐倉の言葉にだけ集中することにしよう。


「……君はなかなか賢い。普通の者なら大切な者を失った時、激しく錯乱し、まともな思考ができないものだが……その様子だとすでに気付いているのだろ?」

「あぁ、結愛は生きている。だろ?」

「ふふっ、その通りだ。だが彼女は我々のことを知ってしまった。それはつまり日常へ帰れないことを示す」

「ふざけんな! って言いたいが、なんでだろう。結愛が生きているってわかったら、そんなことどうでもよくなっちゃった。ふぅー」


 俺は大きく息を吐くと、その場に崩れ落ち大の字になる。

 結愛が生きている。それがわかった瞬間、全身の力が抜けてしまったのだ。


「なぁ佐倉、非日常は楽しいところか?」

「いや、とてもとても辛いところだ。だが……日常(ここ)よりはずっと居心地がいいだろう。特に黒羽くん、君にはね」

「そうか。結愛はこの先どうなる?」

「我々の仲間になってもらうが、彼女には黒羽くんと違って力がない。だから裏方に徹してもらつもりだ。安心するといい、悪いようにはしないつもりだ」

「……そうか。結局、結愛を巻き込んだのは俺のせいか。俺があの時、あの女について行かなければ……」


 そう口にするとゆっくりと俺は目を閉じる。全身の筋肉が痛むが、特に左目を酷使し過ぎたのが原因なのか、頭痛が酷かった。


「もう何も考えるな、今はゆっくり休むがいい。君はもう我々の仲間だ。安心したまえ」

「……あぁ……」


 短くそう口にすると、俺の意識はどんどん遠くなっていく。


「赤坂くん、黒羽くんの処理を頼んだよ」

「うっ……佐倉総隊長の命令なら了解です。それでは自殺で処理してきます!」


 軽快な足音が遠ざかっていく。それもものすごい速さで。


「赤坂くん頼んだよ。…………私が必ず止めるからな。そして最後はきっと、私のこの手で……」


 最後に聞いたのは、そんな固い決意を秘めた言葉だった。

 こうして俺の日常は終焉を迎えた。終わりは新たな始まり――。今、非日常が幕を開ける。

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