受け入れがたい現実
――死んでしまった? 一体、誰が?
「…………」
地面に横たわっているのは、俺の幼馴染みの白川結愛。
俺の妹のような存在であり、家族のような存在――。
この日常での唯一の俺の味方――。
「……う……そだ……」
その結愛が死んだ?
あんな玩具みたいなモノで? あんなにも簡単に?
そんな馬鹿な!
「…………」
でも俺は身をもって知っている。あの玩具の威力を。化け物である俺が動けなくなるほどの威力を、確かにあの玩具は所有している――それを、俺は身をもって知っている。
それを一般人が受けたらどうなる?
「――っ!?」
ショック死する――あの男が言っていた。
それはつまり……。
「ゆ……あ……? おぃ? 結愛? 返事をしろよ……?」
「…………」
「なぁ結愛!? おい!! 頼むから返事をしてくれ!!」
「…………」
いくら俺が呼びかけても結愛は返事をしない。その姿はまるで、糸の切れた人形のように停止していた。
「速やかに処理したまえ」
「佐倉総隊長、了解しました。事故死で処理しておきます」
「おぃ! ちょっと待てよ!? 結愛をどうするつもりだ!?」
「構うな。行け」
「はい、佐倉総隊長」
黒服の一人は軽々と結愛を抱きかかえると、その場を速やかに離れていく。その光景を見て、俺は両眼が熱くなるのを感じた。特に左目が燃えるように熱い。
「……結愛を返せよ」
俺は泣いていた。涙を流したのは何年振りだろう? そんなことすら考えられないほど、俺の頭には一つの言葉で埋め尽くされていた。
――佐倉英雄……奴を殺す!! 殺す、殺す、殺す!!
気付けば、あれほど痺れて動かなかった体で俺は立っていた。確かな殺意を持って。
「ん? ふむ。あれを受けて立つか。これは予想外だな。なぁ黒羽くん、私が憎いかね?」
「当たり前のことを聞いてんじゃねぇぇぇぇ!!」
俺は手頃な石を手にしていた。それを佐倉の頭へ向けて放つ。それも至近距離で。
野球で鍛えたコントロールとスピードを持った石は、佐倉の頭を砕く――ことはなかった。
「なっ……!?」
なぜなら、一人の少年が俺の放った石を蹴り落としたのだから。
この至近距離で石を蹴り落とす反射神経。そして何より深々と地面に突き刺さっている石からは、少年の蹴りが相当な破壊力を秘めていることが見て取れた。
「佐倉総隊長、ここは僕にやらせてください」
「赤坂 翼くんか」
赤坂翼。この名前には聞き覚えがあった。二年前に脚を怪我して、選手生命を絶たれた天才サッカー少年だったはずだ。風になびくサラサラの金髪に童顔で小柄な体型、それはテレビなどで見た容姿と一致する。だけど――赤坂は確か、交通事故で死んだはずだが……。