SCENE Ⅳ -ペルラ【真珠】 と アヴォーリオ【象牙】 -
長めです。
SCENE Ⅳ ― ペルラ【真珠】 と アヴォーリオ【象牙】 ―
―――西暦2074年 『マルモの都』 スラム街。
あの嵐の日、ジヤーダが死に、親友を送った後、メーナ(林檎)の袋をかかえたまま、すぐにアヴォーリオはスラムの倉庫に向かった。
当惑している部下がたくさんいるはずだったからだ。
『俺にもしもの時があったら、幹部に従え』
というジヤーダの言葉通り、ファルファラが裏切った今、自分にはその使命があると思った。
今、組織を統轄する人間がいなくなれば、組織の体制が崩壊する。そういう危機感が胸の中で強くうずていた。
アヴォーリオは思った。自分なら・・・・・・、いやむしろ、自分だからこそジヤーダの後を継ぐことができる。
幹部としてのアヴォーリオにかけるジヤーダの言葉は、いつも、アヴォーリオを褒め称えるものだった。
・・・・・・幹部として、参謀として、相棒として。今や周囲の信頼は、ジヤーダや、ファルファラ以上にあるはずだ。
あの『ヒル』という鷲鼻の男に連れて行かれた親友のティムも、自分がどれだけ組織に必要な人間かを、他の子どもたちの評判を通して教えてくれた。
その自信がゆらぐことはなかった。
ゆらぐ根拠も一つもなかった。
それだけ組織に貢献してきたつもりだったのだ。
だからこそ、信じられなかった。目の前に広がるっている光景が。
全ての倉庫の武器や食料が持ち去られ、もぬけのからだったのだ。そこには誰の姿もなかった。初めて、その倉庫が広かったことを知った。
ふと、背後から足音がして、振り返る。子どもではない。大人の男たちだ。中には娼婦らしき女も見えた。楽しそうに喋っている。たくさんの荷物をかかえていた。おそらく、嵐の都で得た戦利品だろう・・・・・・。
そんなことを考えていると、その中の一人が声を出した。それが自分に向けられたものだということにしばらく気づかなかった。
彼らは口々にアヴォーリオのことを喋った。
「あれ?? おぃ、見ろよ、まだガキが残ってるぞ」
「なに?」
「一人くらい、ほっとけよ、勝手にどっか行くだろ」
「あらぁ~? ほんと。けっこうカワイイ子じゃない」
「お前、ちゃんとあの生意気なガキに話したのかよ」
「話したよ。だからここに、なんもないんだろう? もし残ってる奴がいたら煮るなり焼くなり好きにしろって、そいつ言ってた」
「ふぅ・・・・・・ いいとこじゃないか。広いし、雨も凌げるし、最高の隠れ家だな」
「生意気なだけに、生意気なとこ占領しやがって、子どもの癖に」
「しかしよくこのガキどもが解散したよな、信じられるか? 一〇年だぜ、一〇年」
「今度の頭が無能だったんじゃないのか。えっと、ジヤーダだっけ?? だいたい、簡単に仲間に裏切られるような組織が長続きするはずない。たとえ子どもでもな」
「むしろ子どもだからこそ・・・・・・、だと思うが」
「それは同意見だ。スラムの大人なんて下劣で信用ならないからな」
「おまえ、それギャグで言ってるのか??」
笑いながら、大人たちは、倉庫の中で、各々の生活スペースを確保していく。
アヴォーリオは、かつてそこを陣取っていた仲間たちの姿を想像し、やるせない気持ちになった。
外から雨音がきこえる。
―――そうだ・・・・・・、もうここは、自分たちの居場所ではない。ファルファラのやったことは、もう戻れない死の契約だったのだ。
組織は終焉を見る。まだ、本来、継ぐべき立場だったはずの自分を取り残して。
僕は間違いを犯したわけではない。そもそも裏切ったのはファルファラである。周囲に認められていたのは自分のはずだ。
ただ、見くびっていたのだ。彼を。あの幹部を・・・・・・。
ずる賢い男だった。それはわかっていた。彼はたくさんの利益を組織にもたらした。正直なところ、嫉妬もあった。確かに自分は信頼されていたし、ジヤーダの信用も肌で感じていた。僕は組織で最高の幹部だった。
しかしなぜ僕は不満だったのか。・・・・・・理由はかんたんだ。奴は、あのジヤーダに、恐れられていたのだ。絶対に敵に回したくない参謀だった。それは彼に実力があったからだ。逆に言えば、自分には奴ほどの実力はなかった。
僕が恐くて手を出せないことにも、奴は平然と手を出した。それができたのだ。組織に、『最悪』を持って『最善』をもたらした。
そういう意味では、僕もジヤーダも、保守的だった。そして甘かった。ゆえに、奴の考えはいつまでたっても理解不能だった。
こうなることは、ジヤーダは想定していたのだろうか?
考えてみると、ファルファラに対する警戒は、ジヤーダによって吹き込まれたと言ってもいい。彼が本心を出していたのは、他ならぬ僕に対してだけだったのだから。
急に首もとに強い力が加わる。突然のことで驚き、もがいたが、気づいた時には身体は宙に浮き、泥土の中に叩きつけられていた。
頭に衝撃が走った。だが痛みは感じなかった。
そこは倉庫の外だった。後ろから襟首を掴まれて放り投げられていたらしい。
―――わかった・・・・・・、そうだ、そうなのだ。
手に泥を握り締め、地面を殴って上半身を起こす。何度も咳き込み、土を吐いた。どしゃぶりの雨が全身を濡らし、とめどなく溢れる涙を洗い流した。
情けなかった。
倉庫の中から、笑い声が聞こえる。今夜は戦利品で宴会でもする気だろうか。
服が重い。
突然、誰かに脇を蹴られて転がった。
「邪魔だ」という声が聞こえた。また大人だ。この広い家の、新しい住人らしい。
なぜみんな、僕らの居場所を奪うのか・・・・・・。
アヴォーリオは、蹴られた脇を手で押さえながら、ゆっくり立ち上がった。暗く湿ったモノクロの空間に、点々と不自然なくらいの赤い色が落ちていた。ほとんど無意識にメーナの袋を拾う。
あてもなく歩く。
とにかく、どこか雨のあたらない場所に行きたい。
ふと、ティムの家を思い出した。あそこなら、身体を休めることができるかもしれない。・・・・・・もっとも、雨で水没していなければの話だが。
目的地ができたことで、ちょっとだけ希望が見えた。なぜか組織の仲間を捜そうとは思わなかった。おそらく、心のなかで、仲間たちは自分を見捨てるだろうという考えがあったからだ。
なぜ彼らを自分が信用できないのか不思議だった。まだ仲間たちが僕を拒絶すると決まったわけではないのに。
考えてみれば不自然なことだ。僕は彼らにとっての幹部の一人ではあるが、今は同じ被害者の一人でもある。幹部であり、被害者であることが、何かいけないことなのだろうか?
何を僕は悩んでいる。僕はまだ、だれにも裏切られてはいないはずだろう?
歩きながら、過去のジヤーダとの会話が、頭の中によみがえってきた。
そうなのだ。さっき気づいたことは、これなのだ。
―――ファルファラを監視すること・・・・・・。
もう、後戻りのできない失敗。その原因をつくったのは―――。
原因をつくったのは・・・・・・??
『この辺りのはずだ、ティムのテントは』、そう思って周囲を見渡してみる。だが、どこにもそれらしい家は見当たらなかった。
それどころか、他の住人たちの姿もない。
目の前には、泥水に沈んだ家具の残骸があるだけだった。
―――いや、間違いない、ここであっている。
よく見ると、それがティムのテントだった。浸水して、テントの姿を保っていなかったために分からなかったのだ。
そりゃそうだろう。
ここに歩いてくる間に気づくはずだった。いや実際は気づいていた。テントが無事なはずがないということを。そもそも、すでに河の中を歩いていると思うほど水かさが増していたのだから。
だが、アヴォーリオの頭には、すでにその考えは意図的に消去されてしまっていた。なぜなら、彼の思考が、目的を失うことを強く拒絶していたからだ。
彼は戻りたくなかった。
自信がなかった。
おそらく、自分にはジヤーダの代わりはできないだろう。・・・・・・そう理性が判断していた。
ジヤーダのようになれないなら、ファルファラのようになることはできるのか?
それは絶対に不可能なことだ。彼の判断は、自分とはほとんど全て真逆といってもいい。それが今の自分の心境から推測することができた。
ファルファラは誰一人として仲間を信頼しなかった。あの純朴なティムでさえ、自分の『駒』として使い捨てができるほどの男なのだから・・・・・・。
彼のことをファルファラは気に入っていた。それは誰が見てもあきらかなほどだった。
そしてティムは、純粋にあの男を尊敬する。
どれだけ自分自身が蔑まれようと、態度が悪かろうと。やっていることが卑劣であろうと。ちょうど、以前、たまたま、街のゴミ捨て場で拾って読んだ、『カラマーゾフの兄弟』という本に出てくる、アリョーシャのような人間だ。
彼は憎むということを知らない。というよりも、それを本能的に避けているようにも見える。
それでも、ファルファラが信用を置くほどの存在ではなかった。彼はいつでも一人だった。
僕はどうだろうか? 一人だったか?
一人ではない。仲間がいたのだ。仲間に頼っていた。しかし、それが今回の失敗を招いた。ファルファラに裏切るチャンスを与えてしまったのは、他ならぬ僕だったのだ。
そう、原因をつくったのが誰だったのか?
もし、ジヤーダが僕を信頼していたのだとしたら・・・・・・。
考えたくもないことだった。残念ながら買いかぶりだ。だがジヤーダを責めることはできない。なぜなら僕は、僕自身を買いかぶっていたのだから。
ジヤーダを騙していたのは僕の方なのか。
ティムはどうだろう?
果たして僕に、僕を騙し、倉庫の外へ連れ出したあの純朴な少年を、責めることができただろうか。
僕は決して彼を許してはいなかった。許していなかったからこそ、直前までジヤーダを止めることができなかったのだ。
『ヒル』という男が助けなければ、彼は死んでいただろう。
僕はジヤーダを止めた。最低限の言い訳を用意しておくために・・・・・・。
だが、どうだろう。僕はそれほどに悪人だったろうか。それほどまでに、責任を問われるべき立場にいたということなのか。
仲間を恐怖で従わせるジヤーダ。仲間を仲間とみなさず、蔑視しながらも、共同生活の中に身を置いて、組織に利益をもたらすファルファラ。
僕には、組織を支えることはできても、背負って立つことはできないようだ。
―――そんな事実を、僕に突きつけないでくれ・・・・・・。
疲れがアヴォーリオのからだを泥の中へと引きずり込む。
全身から力が抜け落ち、もうここで、すべてが終わってしまってもかまわないと思った。
これでいい・・・・・・。
「もしも、報いを受けなくてはならないのなら、ティム、僕は君の代わりに、ここで生命を絶つ・・・・・」
もう限界だった。どちらにせよ、もう行き場がなかった。目を閉じ、うつ伏せに倒れる。
闇がアヴォーリオの視界を覆いつくした。
迷いはなかった。
ジヤーダは僕を許してくれるだろうか。
彼は許さないだろう。
ティムが起こした失態も、僕の油断も、すべては自分で招いたことだ。
意識が遠のいていく。水に浸かった耳に、心臓の鼓動だけがかすかに聞こえる。
闇の中に、かつての仲間が、自分の名を呼ぶ声が聞こえてくる。過去の記憶の数々が、走馬灯のように脳裏を駆け回り、僕の死が近いことを告げる。
―――アヴォーリオ、お前にだけは教えてやる。本当は、『マルモの都』は、貧しい街でもなんでもない。国家の利益の半分以上を、『機関』の連中が食い物にしてやがるんだ。だから俺たちは、本来ならもっとマシな生活ができるはずだったんだよ・・・・・・。
―――アヴォーリオ、ありがとう。スラムの中に、こんな立派なところがあるなんて思わなかったよ。母さんが元気になったのも、全部アヴォーリオのおかげだ。
―――アヴォーリオ、俺、あんたについて行くよ。上のやつらの中じゃ、アンタが一番まともそうだしな。
ん? 初めの二つの言葉はジヤーダとティムだ。でも最後のやつは誰だっただろう。思い出せない。
だれか二人が会話をしている。一人はティム、と、この子もだれだろう?
―――アヴォーリオさんって、素敵な人ですね。
―――うん。ぼくと母さんの命の恩人なんだ。ぼくより三つ年上だったかな。アヴォーリオは、世の中のこと何でも知ってるんだよ。わからないことは、アヴォーリオが全部教えてくれるんだ。
―――うん、でも、私はティムくんもすごい知識があると思う。
―――そんなことないよ~。あ、それと、ここでは僕のことは、ネーヴェ(雪)って呼ぶんだよ。
―――えぇえ~・・・・・・、ティムくんでいいじゃん。
―――だめだめ、コードネームなんだから。
―――・・・・・・こーどねーむ??
―――そ、カッコいいだろ!? アヴォーリオが付けてくれたんだ。組織の仲間うちで本名を使ってたら、感じ悪いって思われるからね。
―――そうなの??
―――うん! ここの人たちは、名前がない人が多いんだって。
―――そうなんだ。
―――ぼくは『ネーヴェ』って名前、けっこう気に入ってるんだ。なんか、ほんとに組織の一員になったって感じがするからね。
―――・・・・・・でも、・・・・・・でも私は、ティムくんって呼ぶよ。
「アヴォーリオ!!」
突然、暗闇に光が差し込む。
さっきの声の一人が怒鳴っていた。
乱暴に身体が持ち上げられ、視界に薄っすらと、どこかで見たことのある顔が現れる。
「しっかりしろ、アヴォーリオ!! おぃチェロ(空)、何ボケっとつっ立って見てんだ。手伝え!! 」
チェロと呼ばれた男に足をつかまれ、そのままさっきの男に背負われる。身体の大きい男だった。
「フォルミカ(蟻)さん、ど、どうするんですか、この後」
「話はしてある、お前は俺の後についてこい」
「は、はい。・・・・・・、ちょ、ちょっとフォルミカさん、アヴォーリオさん、かなりヤバいっスよ。頭からめっちゃ血が出てます」
「んなことはわかってる!! 死んではないんだ。放っとくわけにはいかないだろう」
アヴォーリオは夢を見ているようだった。自分が頭を打っていたことは忘れていた。思い出すと、頭痛が始まり、安堵感と共に、だんだん意識が薄れていった。
どうやら僕は、助かったらしい・・・・・・。
★
―――狭いテントの中で、ランプの明かりが静かに点っていた。
柔らかい布の感触が心地よい。
アヴォーリオは、自分が助かったことが信じられない気持ちだった。外はもう夜だった。
頭がズキズキと痛んだ。額に触れると、包帯が丁寧に巻かれていた。
ふと、隣で座っている黒髪の女の子がいることに気がついた。
ナイフでメーナの皮を剥いていた。見たことのある顔だったが、名前は思い出せなかった。
「目が覚めましたか?? 」
驚いた。この子は、記憶のなかで、ティムと一緒にいた子だ。
「みんな、心配してましたよ。このまま目覚めないんじゃないかって」
「君は、確か・・・・・・、えっと」
「ペルラです。びっくりしましたよ、ジヤーダさんが死んじゃって、アヴォーリオさんまで重症だって言うんですから」
アヴォーリオは恥ずかしくなった。自分が『重症』だなんて・・・・・・。
「そ、そんなことより、他の連中は―――」
ガバっと、身体を起こすと、頭に激痛が走り、叫び声を上げてしまう。
「むりしないでください」
肩に手をかけられ、アヴォーリオはまた横になった。
「ありがとう、ペルラさん。あの、組織の仲間たちは、いまどこに?」
ペルラは少し考え込むしぐさをして、口に手を当て、視線を逸らす。アヴォーリオは、聞くべきではなかったのかと思った。
彼女は、決心したように、姿勢を正し、ジっとアヴォーリオの目を見詰めた。
「・・・・・・あの、他の人たち、みんなどこに行ったのか分からないんです。荷物がなくなってましたから。もしかしたら、街の外へ行ったのかも知れないって、フォルミカさんたちが言ってました」
「そう、です、か」
「あ、でも、チェロ(空)さんやフォルミカ(蟻)さん、それに、マンティーデ(かまきり)さんは、まだ近くにいるんですよ。他の人も、もしかしたら、誰かのテントに―――」
「うん、わかった。ありがとう」
予想と大きく外れたわけではなかったが、残った人間がいたことが少し嬉しかった。それが、組織のために残ったという意味でなくとも。
アヴォーリオは、薄い記憶の糸をたぐりよせ、彼女がティム・マルクといつも一緒にいたことを思い出した。
ペルラは彼のことを、年の近い兄のように慕っていた。おそらく、仲間うちでは一番信頼の置ける存在だったに違いない。
胸に切ない気持ちが込み上げてきた。
彼女は、ティムが連れ去られたことを知っているのだろうか?
「あの、アヴォーリオさん」
「は、はい、なんでしょうか??」
ひどく動揺して見えたのか、彼女は可笑しそうに、クスッと笑った。
「このメーラ、チェロさんが持ってきてくれたんですよ。アヴォーリオさんを捜していた時に、たまたま見つけたらしくって、たぶん、大人の人が、街から盗んできたものじゃないかって言ってました。ラッキーですよね・・・・・・、食べますか?」
アヴォーリオは苦笑して頷くと、ペルラは左腕で彼の身体を起こし、右手にメーラを一切れ持って彼の口に運んだ。
彼女の身体が密着して急に気恥ずかしくなる。
「い、いいよ、自分で食べるから」
彼女の右手からメーラを奪い取ると一口で食べた。焦っていたからか、喉につまり、慌ててペルラが水を持ってきてくれる。
水を飲むと、命拾いしたと思った。せっかく奇跡的に助けてもらったというのに、ここでメーラに喉を詰まらせて死んだとなると、フォルミカたちに申し訳がたたない。
ペルラは隣で楽しそうに笑っている。
アヴォーリオはまた情けなくなった。彼女のような仲間たちを、僕は守っていくと心に決めていたというのに、ジヤーダがいなくなったというだけでこうも環境が変わってしまうとは・・・・・・。
「・・・・・・でも、ふしぎですね」
彼女は笑うのをやめ、アヴォーリオの目を見た。
「何が??」
「アヴォーリオさんって、ずっと、コワい人だっていうイメージがあったんです」
頭のなかにクエスチョンマークが浮かんだ。
「僕が、・・・・・・恐い??」
「はい。近づきがたいっていうか、孤高の人っていうか、・・・・・・優しくしてるように見えて、本当は、私たちのこと、疎んでるんじゃないかとか思ってたんです」
「ハハっ、・・・・・・まさか」
アヴォーリオは力なく笑った。
「すっごい色々なこと知ってて、頼りになって、みんな平等にって言って、誰かをヒイキにしたりしなくって、大きい人たちのケンカの仲裁とかもできて。みんなの相談役で・・・・・・クールっていうか、本当は、組織の仲間仲間っていいながら、心のなかで、こんなとこ出て行って、外国でお金持ちになりたいとか思ってるんじゃないかとか・・・・・・、そんなこと――」
「思ってるわけないだろ!!」
アヴォーリオは怒鳴っていた。
ほとんど無意識だった。言った後すぐに後悔した。
「ごめんなさい、・・・・・・わたし、勝手なこと―――」
ペルラが立とうとした。反射的にアヴォーリオが彼女の肩を押さえる。膝にコップが当たり、水がこぼれた。
「思ってない。それに、今怒鳴ったのは、怒ったからじゃないんだ」
彼女はまた座りなおす。怯えているように見えた。かすかに震えている。
「いいかい、僕は外国に行きたいとも、きみたちが疎ましいとも思っていない。そんなこと、当たり前じゃないか」
「どうしてですか?」
「どうしてって・・・・・・、君は、僕のことを何か誤解してるんじゃないか」
「・・・・・・、言ってたんです。今日、ジヤーダさんが死んじゃって、帰ってきた人たちが」
「なんて?」
「あの・・・・・・、お気に障ったら、すいません、ほんとは、言いたくないことなんですが」
「かまわない、話してくれ。僕は真実が知りたい」
「じゃあ、あの、言います。えっと、言ってたんです。アヴォーリオさんは、組織の中ではとっても優しい人だけど、心の中では、みんなを軽蔑してるんじゃないかって・・・・・・。だって、アヴォーリオさんがやってたことは、正統派っていうか、盗みとか、あんまりやらないし、無理矢理じゃなくて、街で大人の人に混ざって働いていたりしてたから。
・・・・・・それに、私たちみたいな、汚い子じゃなくて、マルモの、綺麗な女の人と一緒だったのを見た、とか言ってる人もいて、自分たちとは、住む世界が違ってるんじゃないかとか、そういう話になったんです。その気になれば、外国行って、まともな暮らしができるんじゃないかって。
・・・・・・だから、もしかしたら、ジヤーダさんがいなくなったら、こんなところ捨てて、逃げ出すんじゃないかって・・・・・・、私、そんなはずないって、言ったんですけど、みんな、そう言ってた人に乗せられちゃって、『そうだ! きっとそうだ!』とか、『アイツは信用できない』とか、『腹の底じゃ、ぜったい俺たちのことバカにしてる!』とか言って盛り上がっちゃったんです。
それで、そのまま、組織は解散って話になったんです。なんか、もともと仲の悪かった人たちが、別々に新しいリーダーも作って、スラムの外に出て行っちゃったから、他の人もつられて、そのまま―――」
「じゃあ、君たちは、どうして、ここに」
ペルラは顔を赤らめ、恥ずかしそうに言った。
「・・・・・・え、えっと、それはですね。私たちは、アヴォーリオさんに、リーダーになってもらいたかったからなんですよ」
ドキっとした。別にそれが意外な答えだったためではない。しかしアヴォーリオは、自分を信用してくれている仲間が『いた』という事実に、信じられないくらいの深い感動を覚えた。過去の自分ならきっと、ありえないほどの感情だった。
「僕が、リーダーに・・・・・・」
アヴォーリオの感情がそのまま伝わったのか、ペルラは嬉しそうにした。
「はい! 私、他の人に誘われたんですが、ずっと、アヴォーリオさんを信じますって言ってたんです。次のリーダーは、アヴォーリオさんしかいないって! そしたら、フォルミカさんたちが応援してくれて。『そうだ! アイツは俺たちを見捨てたりしない』ってドーンと私の代わりにカッコよく言ってくれたんです!」
ペルラは両手を挙げて、無邪気に笑って話している。身振り手振りも大きくなっている。
その子供らしいしぐさから、アヴォーリオは、彼女がまだ11歳だったことを思い出した。
そうだ、自分もまだ子どもだが、彼女はさらに子どもなのだ。
それが、さっきまで、成熟した女性のように見えていたというのは、今求めていたものが、自分を包み込んでくれる母のような存在だったからだろう。
余計な気を遣わせてしまったようだ。こんなことではリーダー失格だ。
彼女のおかげで、本来の自分を取り戻せる気がした。そうだ、ここで何もかもが終わってしまうわけがない。僕は何を偉そうに彼らを値踏みしていたというのだろう。
本当に必要なのは、彼らに僕を信用してもらうことではなく、この『僕』自身が、彼らを信用することなのだ。
あたりまえのことが、ひどく特別なことに思えた。
どうやら僕は、彼らを心から信頼していなかったようだ。
「うるさいぞコラ、隣のテントで寝てんだよ」
「あ! フォルミカさん、アヴォーリオさんが、起きたんです!」
フォルミカはもう大人の体格で、態度も大人のそれと変わりなかった。彼は大人との交渉の際に、よくジヤーダが連れて歩いていたことを思い出した。
「ぉお、アヴォーリオ、起きたのか。起きたのはいいが、あんまり騒ぐなよ。嵐の後なんだ。怪しまれるぞ。俺は寝る」
出て行こうとするのをアヴォーリオは呼び止めた。
「フォルミカ!」
「あん??」
「ありがとう」
フォルミカは、肩の力が抜けたようにフッと笑うと「いいっていいって、気にすんな」と手を振りながら自分のテントに戻っていった。
翌朝。アヴォーリオはフォルミカのテントに呼ばれた。
そこには、昨日、自分を助けてくれた、長身で痩せたチェロ(空)と、背の低い、頼りなさげな笑みを浮かべるマンティーデ(かまきり)がいた。
巨体のフォルミカ(蟻)はアヴォーリオを奥に座らせ、彼も隣であぐらをかいて座った。
ペルラはまだテントで眠っている。
チェロとマンティーデは、そわそわして落ち着かない様子だった。無理もないだろう。まさか嵐の来る前と去った後で、これほど状況が一変してしまうとは、誰が予想しえただろう。もし、自分が彼らの立場だったなら、困惑して、これからどうやって生きていけばいいのかさえ分からないかもしれない。
アヴォーリオも不安だった。今の僕に、彼らの期待に応えてやることができるのだろうか。
沈黙の中、フォルミカが口を切った。
「昨日の今日で、まだ実感が湧かないって奴もいるだろうが、ジヤーダは死んだ。俺は殺される瞬間をこの目でしっかりと見たんだからな。ついでにネーヴェ、ティム・マルクも連れて行かれた。そのジヤーダを撃った男にだ。悔しいが、俺も銃に歯向かえるほど、向こう見ずな性格じゃないんでな。問題なのは、なぜあの男がジヤーダを殺し、ティム・マルク少年を連れて行く必要があったのか、そこだ。
そもそも、あの男の目的は、組織を解散させることだったのか? 確かにそれならジヤーダを殺すのは同義だろうよ。リーダーを殺せば、組織は動きにくくなる。だが、それならアヴォーリオも殺しておくべきだ。なぜなら、知恵が回るという意味では、ジヤーダよりもコイツを優先して殺すほうが賢い判断だからな。単に『知らなかっただけ』という見方もできるが。まぁそいつは置いとこう。
そこでだ、別の視点が出てくる。ジヤーダを殺したのは、過失だったという意見だ。初めから目的は、ティム・マルク少年一人で、たまたまジヤーダに殺されそうになっていたところを救出した。という理屈だ。これだったら、簡単に合点がいく、ファルファラがティム・マルクを利用する代わりに、彼も一緒に連れて行ってやると、あらかじめ決めていたというわけだ。要するに共犯説だ。
しかし、俺にはどうにも、あの男がファルファラと繋がっていたとは思えないんだ。コイツは俺の勘なんだがな、あの男は、機関の回し者なんじゃないかって思うんだ。ティム・マルクが、何か重要な情報を掴んでいるとか―――」
「なんだよ、重要な情報って」
マンティーデが口を挟んだ。ちょっとケンカ腰だ。不機嫌そうにも見える。
「俺にも、そこはわからないんだが・・・・・・」
「ちょっと適当過ぎないか? 当て推量でうまくいけば、だれも苦労しないよ。俺はファルファラのことはよく知らないけど、正直たいした奴だとは思えないんだよね。その、なんて言ったっけ、『ヒル』だっけ?? もし本当に機関の人間だったんなら、スラムの子どもなんか相手にしないだろ? それにティムってけっこう乗せられやすい方だと思うんだ。軽いっていうかさ。騙されたんじゃないの~? ファルファラに。なんか薄情そうじゃん、アイツの顔って」
見た目に反して、ずいぶん切り捨てる男だとアヴォーリオは思った。それでも、このマンティーデという男は、どこか信用できそうに思えた。ケンカ腰なのは、根が正直者だということだろう。
「じゃあ、マンティーデ、お前は俺と同意見、てことだな」
「・・・・・・そうは言ってないだろ」
「だが、ファルファラがティムを保護するはずがない、という意味では同じだろ」
「ニュアンスの問題だよ、感覚、感覚」
「俺も、ティムが騙されたというのは間違いないと思う。というか、嵌められた、だな。助けたのは、ファルファラの差し金じゃあない、その、『ヒル』って男の判断だ。それがヤツ個人の独断によるものなのか、それとも背後の団体か何かの要請かは知らないがな」
アヴォーリオは驚いた。自分でなくとも、ティムのことをここまで把握しているとは。いやむしろ、ティムのことを正確に分析できていなかったのは、自分の方だったのかもしれない。
「おぃフォルミカ、お前『ヒル』って名前、覚えてなかっただろ??」マンティーデが笑いながら言った。
「ん、んなことどうでもいいんだよ」
「偉そうに喋ってるけど、たんに整理してるだけじゃないのか?」
「状況把握のための整理は大事なんだよ!」
「頭がわるいんだろ??」
「うるせえ!! お前はフォルミカ派だろ! リーダーの言うことは素直に聞いとけ」
「知らねぇな、俺は最初からアヴォーリオ派だ。いつからお前の子分になった?」
アヴォーリオには彼らの心情はわからない。だが、今のマンティーデの発言がフォルミカの怒りの琴線に触れたということだけはわかった。
彼はこぶしを震わせながら立ち上がった。
「上等だコラ、昨日は充分俺を立てておいて、アヴォーリオが戻ってきたとなると態度ひるがえしやがって・・・・・・ 俺はお前みたいな卑怯な奴が大嫌いなんだよ!!」
「卑怯? 笑っちゃうな。あいにく俺も、すぐに頭に血が上るような単細胞な人間はきらいでね。何を勘違いしたか知らないけど、殴って言うこと聞かせようなんてのは、前からアンタの嫌ってた、ジヤーダのやり方と同じなんじゃないの??」
マンティーデも立ち上がり、腕を組み、嘲笑しながらフォルミカを下からにらみつける。
「マンティーデ、だいたいお前は、なんで他の奴らとスラムを出て行かなかったんだ。ペルラがいたからか?」
「だから俺は初めからアヴォーリオ派だっつってるだろ!? すぐに女の話に持って行こうとするところが、もうすでに単純なんだよ。
確かに彼女の存在は重要さ。そこは否定しない。でもな、よくよく考えてみろ。ガキの俺らが今までやってこれたのは、個人の実力だけじゃない、組織全体の力だ。
言うなりゃ、数の暴力ってやつだ。しかもマルモの都っていう、ろくに警察も動いちゃいない、資源だけがバカに豊富な未開の犯罪都市だからこそ生きてこれたに過ぎない。それくらい分かってるだろう。
周辺の国に向かったところで、国境で追い返されるか、たとえ入れたとしても、すぐに捕まって刑務所送りだ。マルモの孤児だなんて分かった日にゃ、殺されて埋められるのがオチだね」
フォルミカは一瞬だけ視線をそらし、考えるそぶりをした。
「ほぉ、なるほど、だからここに残ったと・・・・・・。俺と違ってずいぶんお利口さんな判断じゃねぇか。じゃあ聞くが、ファルファラやジヤーダの兄貴は、どうやって国外に逃亡したっていうんだよ。あいつらもここのスラム出身じゃないのか? 確か、あのヒルとかいう男もそうなんだろう? お前の話と違うじゃないか。あの男が生きてたってことは、少なくともマルモの外で成功してるって証拠だよな? 決め付けるのも大概にしろよ」
マンティーデはぐっと、口元を歪ませるが、ひるんだ様子もない。
「決め付けてるんじゃない、可能性を言っているだけさ。だいたい、ニノ・ルーチェは大人に連れて行かれただけじゃないか。どこに行ったか知らないけど、たとえ殺されてはいなくとも、あいつに自由はないさ。ったく、そういうところはちゃんと覚えてるんだな。都合の良いアタマだよ」
「単細胞な分だけ、お前より前向きな性格なんでな」
見下すようにフォルミカがマンティーデに近づくと、チェロがおたおたして止めに入った。
「ま、待ってよ、喧嘩しないでよ。仲良くしようよ。せっかくアヴォーリオさんが生きてたんだしさぁ・・・・・・」
アヴォーリオは二人に圧倒されて身動きが取れなかった。
なるほど、彼らにも彼らなりの考えがあったようだ。仲間の間で、ジヤーダがどのように思われていたのかを初めて知ったような気がした。
チェロの言葉を受け、フォルミカが笑みを浮かべる。和解の意味がこもった微笑だった。
マンティーデは納得いかないような表情のまま、ふてくされたように座った。
フォルミカは咳払いをした。
「ま、それもそうだ。新リーダーがここにいるにもかかわらず、出しゃばったことを言ってしまった。さっきの発言はナシだ、すまんな、マンティーデ」
マンティーデは応えない。
フォルミカは頭を掻いた。
「んじゃまぁ、本題に入ろうか、アヴォーリオ、状況は、さっき言ったように、俺たちを残して、みんなスラムの外へ出て行ってしまったんだ。こうなった以上、できるなら、これからは何もかも一蓮托生ってことで頼む」
アヴォーリオが頷きかけると、フォルミカが止めて、言葉を続けた。
「・・・・・・と、言いたいとこなんだが、まぁ、こういう状況だ。今まで通りってわけにもいかなくなってきている。腹を割って話しができることが、何よりも重要なことだ。俺たちはお前の意思を最大限に尊重したいと思っている。もし、個人的な考えがあって、それを実行に移すのに、俺たちが邪魔なんだとしたら、正直に言ってほしい。お前を無理に仲間に引き入れたりはしない。あくまでこれは提案だと思ってくれ」
「ぇえ! そ、そんな、ぼくら、これからどうやって・・・・・・」
チェロが慌てている。
「お前は黙ってろ!!」フォルミカがチェロに怒鳴った。
アヴォーリオには、選択肢はなかった。自分が一番大事にしてきた、組織の仲間たちを助けずして、自分の今までやってきたことに意味を見出せない。ここで彼の言葉に甘えれば、本当に全てが虚構の中に沈んでしまうのだ。それだけは許せなかった。彼らを邪魔に思う以前に、むしろ、再びチャンスが廻ってきたと思った。
他にも、ティム・マルクの行方をつきとめ、ペルラに会わせてやりたいという願いもあった。
そもそも、命を助けてもらった恩もあり、なんとかして恩に報いたいという気持ちが何よりも大きかった。
それと皮肉なことに、これくらいの人数なら、マルモの都に働き口を見つけてやることができるかもしれなかった。大人数なら無理でも、二、三人だけなら、自分の責任で面倒を見ることができる。
これがうまくいけば、少なくとも、彼らがこれからスラムの生活に戻るよりはマシな暮らしができるだろう。
かすかな希望が見えた。ぼくはまだ、組織の一員だ。
「アヴォーリオ、どうする?? 協力してくれるか? 考える時間が欲しいなら、そう言ってくれてもいいんだぞ」
フォルミカが不安な表情でアヴォーリオを見た。
アヴォーリオはチェロやマンティーデに視線を向ける。
―――これでいいんだ。
「・・・・・・フォルミカ、僕はずっと前から、君たちの幹部だ。そしてこれからも同じだ。何一つ変わらない。あたりまえじゃないか。僕は、『アヴォーリオ(象牙)』なんだから」
フォルミカがフッと笑った。安堵の表情だ。
その顔を見て安心した。彼はまだ、僕を必要としてくれていたようだ。
パチ、パチ、パチ、と、後ろで拍手する音が聞こえてフォルミカが振り返った。
後ろに立っていたのは、ペルラだった。
嬉しそうに顔をほころばせ、アヴォーリオの方を見詰めていた。
「ペルラ・・・・・・、起きていたのか」フォルミカが気の抜けたような声で言った。
「アヴォーリオさん、・・・・・・えっと、こういう時は、こう言うんですよね。リーダー、ご就任おめでとうございます。これからも、よろしくお願いしますね」
ペルラの言葉の後、マンティーデも手を叩いた。
「ナイスだ、アヴォーリオ。俺は初めからお前を信じていたからな。フォルミカなんぞがリーダーにならなくて良かったよ」
「なんだと!? 俺だって組織を引っ張ることくらいできる」
「ムリムリ、それなら俺の方がマシさ」
「調子こいてんじゃねぇぞコラ」
フォルミカがマンティーデに掴みかかり、そのまま取っ組み合いのケンカになった。
チェロはあいかわらず、おたおたしながら止めに入っていたが、ペルラはにこにこしながら彼らを眺めていた。
アヴォーリオは、あの三人は、もしかすると昔からそういう関係なのかもしれないと思った。ペルラも、二人のケンカを深刻なものとは捉えていないようだ。
こうして彼らに快く迎えてもらったからには、何とか恩を返さなくては、と気を引き締めていると、横に座ったペルラが僕に耳打ちした。
「アヴォーリオさん・・・・・・、恩返ししようとか、考えてませんか?」
「え?」
「いいんですよ、そんなに気を遣わなくても・・・・・・。フォルミカさんも、マンティーデさんも、実は、とっても頼りになるんですから。アヴォーリオさんも、頼ってあげてくださいね。その方が、あの人たちも喜びます。チェロさんも、あんなですが、優しい人です。ふふっ」
ペルラが笑って彼らを見る。
アヴォーリオは、これからのことで頭がいっぱいで、不安ばかりが先行していたが、彼らを見ていると、なんだか、どうにでもなるような気がしてきた。
ペルラの言う通り、あまり重く受け止めるのはやめよう。
彼らはもとより、お互いを組織の仲間、というような堅苦しい関係ではなく、家族のような関係を築いているように思えた。
自分に足りなかったものがやっと見えてきた気がした。
そして、ペルラが好かれている理由も、ちょっとだけ分かった気がした。
その後、アヴォーリオが、彼女に対し、恋心を抱くようになるまで、さほど時間はかからなかった。そのことが、彼の運命を大きく変えることになる。