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第3話 兎に角、言葉を覚えないと。


 翌日。私は自分の顔を照らす朝日で目が覚めた。

『お早う。アスカ』

「おはよ~。ってあれ?」

 起きると何故か見覚えのない、やけにあったかい毛布が目の前にどん、と存在していた。

「ん。…あれ?これ何?…って、ああ、そうか、私、異世界に来たんだっけ…」

 そうだ。これからのことを考えなくてはならない。



「さて。じゃあ、ええっと…」

 心の中で狐狐言ってたからこいつの名前が…。

『俺の名前はアミルディスだ』

「そう。あみるじす…ってアレ?あみる…あみいディス?」

 あれ?ちゃんと発音出来ない!…そういえば、

「あのさ、あみぃるでぃす。私達って今何語喋ってる?」

『言いにくかったら、ディスでいいぞ。今何語喋ってるか?いや、言語は関係ない。俺はここの言葉で喋ってるし、お前はお前の国の言葉で喋ってるだろう。意思が通じるのは、まあ、人間っぽく言うなら一種の念話みたいなもんだ。って言やあいいか?…そういやあ、お前、あの水精の姿が見えてたなあ。最近の人間は精霊の姿が見えない奴が多いのに。「客人」だからか?』


 なるほど。精霊の意思疎通の仕方ってそうなのか。良く考えたら、物理的な声帯があるわけじゃなし。もしかしたら、気付かなかっただけで、元の世界でもそうだったのかもしれないな。

「そう。ありがと。疑問は解消したわ。で、私があの美人さん達の姿が見えたのは、元々そういうのが見える性質だったから、他の「客人」がどうかはわからないわ」

『ふうん。そうか』

「そう言えば、貴方もよく私が異世界から来たって分かったね」

『妙な匂いのマナを纏ってたからな。あと、じじい共に「客人」の事を聞いたことがあったからな。適当に言ってみたら大当たりだった、って訳だ』

「マナって?」

『マナが分からねえのか!?…いや、魔術士どもでもなけりゃあ、普通の人間も知らねえか。マナっつーのは、何ていうか、世界中にある力の事だ。そこらへんにもあるが、普通の人間じゃあ見えねえか』

「うーん。空気みたいにそこらへんにあるってコト?」

『ああ』

「所謂、「気」ってことかあ」

 それなら分かる。ある程度使えないと、神崎流は名乗れない、と言って良い程うちの流派では気は重要視されている。


『よし。俺が人里まで連れて行ってやる。背に乗ると良い』

 雑談がひと段落したところで、大変有難い申し出をされた。本当に有難い!が、問題が。

「あ、ありがとう…ってちょっと待って!私、この世界の言葉、一種類も知らない!どうしよう!?」

『そうだなあ。よし。じゃあ、言葉の通じる俺と夫婦になるのが「馬鹿言ってると叩っ切る」そうだな。どうするか』

 本当にこりないな。この狐…これがなかったら、素直に良い人…じゃなくて狐だと感謝できるのに。


『おお!そうだ!面白いモンもらってたこと思い出した!とりあえずうちに来い!…いや待て待て!刀をしまえ!下心はねェから!…ああ、そうだ。別にお前を連れて行かなくても大丈夫だった。すぐにとって来るから待っててくれ。危ないから、そこ動くなよ!』

 何故か私が乙女として当然の行動を取ると、そう言って、説明もなしにあっという間に目の前から消えた。


「いや、すぐにって言っても…。もうちょっと説明しようよ」

 いやまあ、最初に変な事言ったからってちょっと脅しすぎたかもしれないけどさ。すぐとは言っても、しばらく掛るだろう。そこら辺を散歩でもしようかな。






『あれ!?アスカ!?どこに行った!?』

 本当にすぐ帰って来たな!?そんなに近かったのだろうか。いや、近づいてみると、かなり息が荒い。本当に急いでくれたのか。

「ここにいるよ。勝手に消えたりしないって。ありがとう。急がせちゃったみたいだね」

『いやいや。惚れた女の為に力を尽くすのは男の甲斐性だ。惚れたか?』

「で、ディス。何を持ってきてくれたの?」

 訳の分からない言葉が聞こえた。本当に訳の分からない寝ぼけた台詞だったので、きっと空耳だろう。

『…泣いて良いか?』

「何を持って来てくれたの?」

『…これだ』

「これ、本?」

『ただの本じゃあない。これは、俺が人間の道具を蒐集するのが趣味の奴から、賭けででぶんどった物なんだが、魔術士の作品でな。実は立派な魔導具…らしい。これを使うと、言葉が分かるようになる…らしい』

「さっきから、らしいが多いわよ」

『仕方ないだろう。もらいものなんだ』

「何で良く分かんない物なんてとったのよ」

『いや、そいつ。これ見つけた時に上機嫌で押し掛けて自慢しに来て、こっちの都合を考えず、三日三晩居座りやがったから腹いせに』

「ちなみに、何の邪魔をされたの?」

『あのときは、滅茶苦茶可愛い木の精口説いてる真っ最中だったんだ!あいつ、あの子の樹の前に居座って話しまくりやがって!おかげで、それにうんざりしたあの子に振られたんだよ!』

「…あんた、さっきからそればっかりよね」

 この短い時間で。一日も経ってないぞ。

『もちろん今は、アスカ一筋だっ!』

「で、この本の使い方は?」

『知らん!…待て待て待って!たぶん表紙に書いてあるのが、使い方だから!今から読むから!』

 私の顔から何かを察知したらしい。ようやく話を進める気になったか。最初からそうすれば良いのに。


『ふむふむ。…うん。どうやら、開いて中を見るだけでいいらしい』

「それだけ?」

『それだけだ。…ああ、封印がしてあるな。解いてやろう』

 本に巻かれていたベルトは、アミルディスがそう言って触っただけで燃え落ちた。折角セットになってたものを燃やしていいんだろうか?…いいんだろう。持ち主はアミルディスなんだし。

「じゃあ、開けまーす…」

 魔法の本で言語学習…ちょっと童心に帰ってときめいてしまう。幼いころから妖怪やら幽霊やら見えていたので、どこかに魔法もあるだろう、と口に出したことはないが、薄ぼんやりと信じていた。こんなところでお目に掛れるとは!パタッっと開けたその中身は…


「なんだ、真っ白じゃない。…これ偽物なんじゃ…」

 そう言って顔を上げようとしたが、顔が上がらない。いや、本から顔をそらせない!視線を外せない!何かが私を縛り付けている!

「何…これ…」

 体の自由が利かない。そして、自分の頭の中からささやき声が聞こえてきた。最初はボソボソとしていたが、だんだん大きくなる。その声は何人の人のものなのか、男なのか女なのか、若いのか老いているのか、何故か全く分からない。ただただ、声は大きく、いや、増えていく。

 異常現象に背筋に冷たい物が走るが、これは魔法的な睡眠学習なのだろうか?と、頭の一部はそんな呑気な感想を吐き出していた。そんな事を考える間にも、不快感は増していく。やがて、不快感だけではなく本当に頭痛もしてきた。頭に声がどんどん詰め込まれて、圧迫されているようだ。痛い本当に痛い!



『アスカ!?大丈夫か!?』

 痛みはどんどん増して行き、私にはアミルディスのその慌てた声も認識出来なかった。そして、私は意識を失った。

 




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