どんどん甘くなる魔法の紅茶
「じゃじゃーん!俺の研究の結晶の紅茶!どうよ!?」
双子の弟であるカタンが久しぶりに研究室から帰ってきたと思ったら、謎の缶を持ち上げていた。
「どうと言われても、普通の紅茶缶にしか見えないけど…」
家の跡継ぎなのに、実験ばっかりしていないでもう少し家のこともしてもらいたいのだけれど。
私だって、もうすぐこの家を出て嫁ぐのだし。
まあ、そんなお小言を言っても右から左だろう。
両親も最悪まだ12歳のしっかり者の弟に継がせればいいと思っているし、その方が平和的解決のような気もする。
だから、私の片割れは一生魔法研究に没頭していそうだ。
そんな双子の弟カタンは、自慢げに近づいてくる。
「これねっ、一緒に飲む相手で味の変わる紅茶なんだよ!」
相当な自信作のようで、いつも以上に前のめりだ。
顔が近い、声が大きい。
仕方がないから、頬同士がくっつきそうなほど近いカタンの顔をグッと押した。
夢中になると、周りが見えなくなるのは、子どもの頃から変わらない。
だから、私が対照的に育ったのだろうなぁ…。
「メイジー、言ってただろ?婚約者が無表情で何を考えているかわからないって!」
「ああ、あなたに弱音を零しちゃったこともあったわね」
「メイジー、酒弱いもんね!」
ケタケタ笑いながら、カタンは私に紅茶缶を握らせた。
「これを婚約者と一緒に飲めば、相手がどう思っているかわかるよっ!」
「また変わったものを作ったわね…」
「目の前にいる人の感情がそのまま感じる味になるから、婚約者と一緒にお茶にすれば一発で解決だよっ!」
ニコニコ笑顔で、カタンは紅茶の説明をしていく。
基本的には、1対1で飲むのが推奨らしい。
相手の感情が自分の紅茶に反映されるんだそう。
好意的に思われていたら甘くなったり、フレンドリーに思われていたらフルーティーになったりするんだとか。
反対に嫌われていたら、渋くなっていくらしい。
楽しげに話すカタンに、私の顔は紅茶を飲む前に渋くなっていく。
「カタン、それ販売するの?」
「んー?とりあえずメイジー用に作っただけだよ?」
「そう…。なんだか勝手に相手の心を探るみたいで嫌なのだけれど」
「ええっ!?そんなこと言ってたら、無口の婚約者から何も聞けないじゃんか!」
「それは、結婚生活の何十年とかけて、私が頑張ることだわ」
「ええ〜〜〜〜、心配だよ〜〜」
カタンが不満げに口を尖らすのを見て、笑いそうになってしまう。
変わり者の弟だけれど、私のことを大切に思ってくれる可愛い弟でもある。
だから、憎めないのよね。
「気持ちだけもらうわ、ありがとうねカタン」
「むう、メイジーの真面目ぇ…」
この時は断ったけれど、これと決めたら一直線の実験馬鹿弟の行動力を私は甘く見ていたのだった。
「今日もお越しくださってありがとうございます、フラン様」
「…ああ」
婚約者のフラン様との定期的なお茶会のため、今日は我が家に訪問してくれていた。
相変わらず会話は長続きしないけれど、それに気まずさを覚えてはいない。
婚約してからはずっとこんな感じなので慣れたのもあるし、フラン様は無表情で口数が少ないだけで、無愛想というわけではない。
高いヒールを履いた日にはさりげなく手を繋いでエスコートしてくれたり、お酒の場で酒に弱い私に代わって飲んでくれたりと、優しい人なのだ。
ただ、自分のことは多くは語らないから、知らないことがいっぱいあるだけというだけで。
カタンに言うんじゃなかったなぁ…。
そんなことを思いながら、家の者が用意してくれたお茶に口をつけると、いつもと違った味で吹き出しそうになった。
「……っ!?」
何これ、甘すぎる…!!
砂糖の瓶を丸ごとひっくり返したのかと思うほど、甘い。
こんなの飲めない…、一体どうして。
と思った時に、身に覚えがあって、私は扉の方に視線を向けた。
ドアの隙間からカタンが覗いていて、にっこり笑顔で親指を立てていた。
カ〜〜〜タ〜〜〜ン〜〜〜〜!!!!!
今すぐ説教しに行きたかったけれど、そんなわけにもいかない。
それに、カタンのあの説明を思い出す。
「相手が好きって思ってたら、甘〜くなるよ!ケーキぐらい甘くなるかもっ!」
…これは、ケーキ以上だ。
「メイジー嬢」
フラン様がカップから口を離して、私の方を見た。
「は、はいっ!」
「この紅茶の銘柄を教えていただけたりしますか?」
「へっ、ど、どうかしましたか?」
「いえ、ほんのり甘くて美味しいなと思いまして」
無表情で言うフラン様が言う『甘い』の理由がわかって、顔が赤くなる。
ドアの向こうのカタンが、声を出さずにキャーキャー騒いでいるのが見えた。
「メイジー嬢?」
フラン様の真っ直ぐな目が居た堪れない。
ううう、どうやってフラン様に説明しよう。
私がこの紅茶の説明をできたのは、それから30分後だった。
あんなに固まったフラン様は、はじめて見た…。
その場が生温かい空気に包まれたのは、言うまでもない。
もう〜〜、カタン〜っ!!
了
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