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ep.20「シャドウ・プロセス」

 那智大社での戦闘から、まだ数時間も経っていなかった。


 夜明けの光が、フロントガラスを白く染めていた。


 陸は助手席で目を開けた。眠ったつもりはない。けど、いつの間にか意識が落ちていたらしい。膝の上の石板は冷たいまま。セグフォだけが温かく、丸くなって動かない。

 あの針先ほどの光は──まだ灯っていた。


「起きたか」


 ジンが運転席で缶コーヒーを飲んでいた。エンジンはすでにかかっている。暖房の風が足元を温めていた。


「巴は」


「後ろ。まだ寝とるっちゃ。──朝飯、パンしかないけど」


 ジンがダッシュボードの上の菓子パンを指した。道の駅で買ったやつだ。昨日のことなのに、随分前の気がする。


「出るぞ」


「おう。十津川からそのまま南下するっちゃろ。168号を、ひたすら」


 陸は石板をそっと助手席の脇に置いた。セグフォが薄目を開けたが、すぐにまた閉じた。石板から離れない。



―――



 十津川村。


 日本で一番広い村だと、巴が後部座席で言った。目が覚めたらしい。タブレットを膝に載せて、龍穴で撮影した溝パターンの画像を開いている。


「コトダマがいない間に、できることをやります」


「何がわかった」


「溝パターンの基本構造が、プログラムで使う十六進数──0からFまでの十六種類の記号で書く数え方に近い配列なんです。けれど、普通の十六進数とは違って──パターンの端に小さな突起がある。これが信号の方向を示しているのかもしれない」


「方向?」


「ネットワークの経路情報です。どのノードからどのノードへ信号を送るか。──つまり、溝の文様そのものがルーティングテーブルになっている可能性がある」


 陸は後部座席を振り返った。


「巴。お前、天才か」


「考古学者です。パターンを読むのが仕事ですから」


 巴はそう言って、少しだけ肩の力を抜いた。


 ジンがハンドルを切りながら口を挟んだ。


「ルーティングテーブルっちゅうのは何か。郵便局の仕分け地図みたいなもんか?」


「近いです。『この手紙は次にどの局へ回せ』という指示が、石に刻まれているんです」


「じゃあ、コトダマがおらんでも、龍穴の溝パターンを読めば──」


「ネットワークの全体構造が見えるかもしれん。手動で、一個ずつ」


「気が遠くなるっちゃね」


「ハッカーの仕事は、いつもそうじゃ」


 窓の外で、山が深くなっていく。十津川の渓谷が道の下に落ち込んでいた。ガードレールの向こうは百メートルの断崖。対向車は三十分に一台。


 コトダマの声はない。レーダーもない。

 丸腰で、紀伊山地の奥へ向かっている。



―――



 那智の滝に着いたのは、昼を過ぎた頃だった。


 駐車場に車を停めて、石段を登る。観光客の姿はまばらだった。平日の昼間。シーズンオフ。それでも、ところどころに外国人の小さなグループがいる。


 杉の巨木が参道の両側に並ぶ。樹齢は数百年。けど陸の目には、杉よりもその根元の苔むした岩が気になる。岩の表面に、かすかな溝がある。風化した──文様。


 巴の肩の上で、セグフォが耳をぴくぴく動かしていた。前を向いたまま、滝の方角を何度も見る。龍穴の時と同じ仕草だ、と陸は思った。あの時も、人間より先に何かを感じ取っていた。


「陸さん」


 巴が立ち止まった。参道の先に、滝が見えた。


 百三十三メートル。日本一の落差を持つ一段の滝。水量は多くない時季のはずだが、それでも轟音が腹に響く。飛沫が霧になって、参道まで届いていた。


「……でかい」


 ジンが呟いた。


 陸は滝を見上げた。水が岩肌を滑り落ちる。その岩肌に──溝がある。自然の浸食ではない。龍穴の磐座と同じ。規則的な、意図を持った文様が、水の裏側に隠されている。


「水のノードじゃ」


 声に出した。コトダマに確認する癖が抜けない。返事がないことに、一瞬だけ胸が詰まった。


「巴、あの岩肌の溝──」


「見えてます。龍穴のパターンと同じ系統です。ただし、規模が桁違い。これは中継ノードどころじゃない。──幹線そのものです」


 巴の声が珍しく震えていた。


「水が上から下へ落ちる。百三十三メートルの落差を使って、地脈力を加速させている。天然の粒子加速器です」


 陸が唸った。


「ダムの発電と同じ理屈か。高いところから水を落として、位置エネルギーを力に変える。ただし、変換するのは電力じゃのうて──」


「地脈力。そうです」


 巴が頷いた。


 その時。


 セグフォが鳴いた。


 低い。長い。喉の奥から絞り出すような、聞いたことのない声だった。猫の鳴き声ではない。警告音。石板の上で背を丸め、全身の毛を逆立てて、滝の左手──杉林の奥を睨みつけている。


「セグフォ?」


 陸が手を伸ばした。猫は動かない。耳が水平に倒れている。瞳孔が限界まで開いている。


「……来る」


 陸の口が勝手に動いていた。根拠はない。けどセグフォの全身が語っている。


「ジン」


「わかっとる」


 ジンの声が変わっていた。観光客の方を一瞬見てから、視線を杉林に戻す。


「巴。車に戻れ。セグフォと石板を持って」


「何が──」


「いいから走れ」


 杉林の影が動いた。


 音がなかった。風も、枝の揺れも、足音も。ただ影だけが、木々の間を滑るように近づいてくる。三つ。いや、四つ。人の形はしている。――絶対に人間じゃない。


 先頭の一体が杉の幹の陰から姿を現した。

 黒いフード。顔の半分を覆う布。むき出しの腕に──文様が浮かんでいる。刺青じゃない。皮膚の下から光っている。赤銅色。日の系統のコード。


「クラヴィスの実働部隊か」


 陸が呟いた。真壁の資料にあった。「シャドウ」──古代コードで身体の駆動系を書き換えた戦闘要員。存在を噂されていたが、実物を見た者はいないとされていた。


 影の一体が、音もなく石段を飛び越えた。五メートル。人間の跳躍ではない。


「──っ!」


 ジンが動いた。


 ベルトに差していた予備のスパナ──二十四ミリの片口。整備用の、無骨な鉄の塊。それを右手で逆手に握り、飛び込んできた影の腕を下から叩き上げた。


 金属と骨がぶつかる鈍い音。

 影がわずかによろめく。けど、すぐに体勢を立て直した。


「硬っ──!」


 ジンが顔を歪めた。殴った手が痺れている。人間を殴った感触じゃない。


 二体目が背後から迫る。ジンは振り向きざまに、腰のポーチからドローンを引き抜いた。魔改造した小型ドローン。プロペラは回さない。代わりに──


 ストロボが炸裂した。


 白い閃光が杉林を焼いた。影たちが一瞬、動きを止める。視覚系への過負荷。古代コードで強化された身体でも、網膜は光に弱い。


「今じゃ、走れ!」


 巴が石板を胸に抱え、セグフォを肩に乗せて石段を駆け下りた。陸がその後を追う。ジンが殿しんがり。スパナを振り回しながら後退する。


 でも、影は速かった。


 ストロボの効果は数秒。光が消えた瞬間、四体が同時に動いた。石段を、壁を、木の幹を──あらゆる面を足場にして、三方から包囲してくる。


「車!」


 巴が叫んだ。駐車場のワンボックスが見えた。ジンがリモートキーを押す。スライドドアが開いた。


 巴が飛び込む。陸が続く。ジンが最後に転がり込んで、ドアを閉めた。


 ドアの外で、何かが金属を叩く音がした。車体が揺れる。


「エンジン!」


「無理っちゃ、囲まれとる!」


 ジンが運転席に這い上がったが、フロントガラスの向こうに影が二体、立っていた。微動だにしない。待っている。車が動いた瞬間に、仕留めるつもりだ。


「くそ──コトダマがおったら、こいつらが古代コードで動いとるって、もっと早う気づけたはずじゃ」


 陸の拳が白くなった。コトダマがいれば──もっと前に気づけた。動き方、コードの系統、弱点。全部、もっと早く。


 でも、コトダマは沈黙したまま。


 石板は冷たい。光は、もうほとんど見えない。



―――



 車内に、猫の声が響いた。


 セグフォが鳴いていた。さっきの警告音とは違う。もっと細い。もっと切迫した。喉を振り絞るような、懇願するような声。


 石板の上に乗ったまま、前足で表面を掻いている。爪が石を引っ掻く音が、車内に響く。何度も。何度も。


 龍穴でも、こんな仕草をしとった。石板に耳を当てるように体を押し付けて、低く唸っていた。あの時は気にしなかった。けど──


「セグフォ……」


 陸が手を伸ばした瞬間。


 猫の瞳の奥で、何かが光った。


 あの色。コトダマと同じ色が、セグフォの瞳の中で灯った。同時に、石板の中心にも──同じ光が、同期するように点る。


 二つの光が、呼応している。


「……なんじゃ、これは」


 陸の手が震えた。ノートPCの画面を見る。真っ暗だったコンソール──接続状態を示す画面に、緑色の文字列が走った。


 [ SYSTEM ALERT ]

 [ MAIN PROCESS : OFFLINE ]

 [ INITIALIZING SHADOW PROCESS... ]

 [ VIA : BIO-NODE_SEGFAULT ]

 [ CONNECTION : ESTABLISHED ]


 ネットワークの接続ランプが──点滅していた。微弱。不安定。でも、確かに信号が通っている。


「嘘じゃろ……」


 巴が息を呑んだ。「セグフォが──中継してる?」


「あり得ん……有機物を導体にしてIP通信だと? いや、相手は古代の地脈ネットワークじゃ。コトダマの石板と同じ、未知の生体LANプロトコルで動いとるなら──」


 陸の手が震えた。パケットは、現実に通っとる。ログが嘘をつく理由はない。


「古代のまなこじゃ」


 コトダマが言いかけていた言葉が、陸の頭の中で急に意味を持った。セグフォは「眼」の末裔かもしれない、と。超古代ネットワークの監視システム。生体センサー。──センサーは信号を受けるだけじゃない。受けた信号を、次へ渡す。それは、中継器でもあるということだ。


 ただのオカルトじゃない。猫は元々、ヒゲや肉球で微細な空気の振動、静電気、磁場を感じ取る能力が高い。磁気受容──地球の磁場を体で感じ取る力。古代人はその生体磁気センサーに目をつけ、地脈ネットワークと共鳴するよう品種改良アップデートを施したんじゃないか。生体電流を中継する、生きたルーター。


 セグフォの体温が石板を温めている。猫の体を回路の代わりにして、クラッシュした本体を迂回している。裏口から、最小限の機能だけを叩き起こしたんじゃ。


 シャドウ・プロセス。裏稼働。


 声は出ない。レーダーも、解析支援も動かない。けど──ネットワークへの、一本の細い回線だけが、猫の温もりによって繋ぎ止められていた。


「……お前、だからセグフォなんじゃな」


 正規のルートが死んだ時、禁じられたメモリ領域をこじ開けてシステムを繋ぎ止める。陸が何気なくつけたハッカーのジョークが、数千年の時を超えて機能していた。


「……脈がある」


 陸が呟いた。


「微かじゃけど、生きとる。コトダマは──まだ、おる」


 車体がまた揺れた。影が外壁を叩いている。フロントガラスにヒビが入った。時間がない。


 陸はノートPCを膝に引き寄せた。ふと窓越しに、車外で動きを止めた影の腕が見えた。文様が光っている。でも──滝から遠ざかったせいか、さっきより明らかに弱い。引き寄せられていた何かが、距離のせいで薄れている。


 滝が、電源になっとる。


「巴。那智の滝の岩肌の溝──あれは加速器じゃったよな」


「はい。地脈力を位置エネルギーで加速させる──」


「加速した地脈力を、逆流させたらどうなる」


 巴の目が見開かれた。


「……共鳴です。あの規模の地脈力が逆流したら、周囲一帯に強烈な環境共鳴が──マイクをスピーカーに近づけた時のハウリングを想像してください。あれを、滝ひとつ分の力でやるんです」


「影のシステムは古代コードで動いとる。古代コードは地脈力で駆動する。なら──」


「その共鳴を、直接浴びたら?」


 巴が一瞬、固まった。


「……体の中の駆動系が、共鳴で焼き切れる」


 陸が頷いた。


「そういうことじゃ」


 陸の指が走った。


 シャドウ・プロセスが繋いだ微弱な回線。通信の太さは、糸一本分もない。普通のハッキングなら到底足りない。けど、陸がやろうとしているのはハッキングじゃない。


 物理の滝を操作するんじゃない。地脈ネットワーク上の「那智局」——古代通信網における那智の滝のノードに、たった一つのコマンドを叩き込む。セグフォが中継器として信号を通し、巴が龍穴でスケッチした溝のパターンが宛先を指定する。

 地脈力の流れを、百三十三メートルの落差分だけ、逆転させろ。


 コードを書く。三十秒。普段ならコトダマが一瞬でやる経路指定を、人間の手で、一行ずつ。冷や汗がキーボードに落ちる。指の関節が軋むほどの速度で、バグすれすれの強引なコマンドを叩き込んでいく。


 フロントガラスに二本目のヒビが走った。


「陸──!」


「あと十秒」


 ジンがスパナを握り直して、車のドアを背中に当てながら、割れかけたガラスの前に立った。フレームを盾にして影の攻撃をギリギリでいなしている。一発でもまともに食らえば終わる。それでも動かない。


 八秒。

 コードの最終行を打ち込む。


 五秒。

 エンターキーに指を置く。


 セグフォが顔を上げた。あの色の瞳が、まっすぐに陸を見ていた。


「──十分じゃ!」


 エンターキーを叩いた。


 一拍の沈黙。


 それから──滝が、吠えた。


 轟音ではない。音の向こう側。人間の耳には聞こえない振動が、大気を、地面を、岩盤を震わせた。車体がびりびりと共鳴する。セグフォが耳を伏せた。巴が耳を塞いだ。


 車の外で、影たちが同時に硬直した。


 腕の文様──赤銅色に発光していた古代コードが、暴走を始めた。明滅。痙攣。制御を失った光が、皮膚の下で不規則に点滅している。


 一体が膝をついた。

 二体目が地面に倒れた。

 三体目が杉の幹にぶつかって、そのまま崩れ落ちた。

 四体目が──最後まで立っていた。やがて、糸が切れたように前のめりに崩れ落ちる。


 体の中の古代コードが、地脈力の異常共鳴に耐えきれず、ショートした。


 水の音が、戻ってきた。


 百三十三メートルの落差を落ちる、いつもと同じ水の音。何事もなかったように。


 陸はキーボードの上に額を落とした。


「……終わった」


 ジンがスパナを下ろした。フロントガラスのヒビ越しに、動かなくなった影を見ている。


「終わったんか」


「ああ」


「生きとるか、あいつら」


「動けんくなっとるはずじゃ。コードがショートしたら、復帰まで時間がかかる」


 巴が震える手でシートベルトを外した。


「陸さん。今の──セグフォが、コトダマの代わりに?」


「代わりじゃない」


 陸はセグフォを見た。猫は石板の上で、ぐったりと横になっていた。目は閉じている。でも呼吸はしている。あの光は──石板にも瞳にも、もう見えない。全部使い切ったんじゃ。あの細い回線を維持するために、この小さな体の全部を。


「セグフォが繋いでくれたんじゃ。コトダマが完全に死なんように、自分の体を回路にして。──シャドウ・プロセス。裏で動き続けとった最後のプログラムを、猫が中継した」


 陸はセグフォの背中にそっと手を置いた。微かに温かい。


「ありがとう」


 それだけ言って、唇を噛んだ。猫の耳が、ぴくりと動いた。



―――



 駐車場を出た。


 ジンがフロントガラスのヒビにガムテープを貼って応急処置して、そのまま走り出した。テープ越しの景色が歪んでいる。


「あいつら──クラヴィスの影っちゅうやつら、追ってこんか」


「しばらくは来ん。体のコードがショートしたら、復帰には時間がかかる。──多分」


「多分かい」


「コトダマがおらんのじゃけん、確証はない」


 巴が後部座席で、セグフォを膝に乗せていた。猫はまだ目を開けない。呼吸は安定している。石板は巴の隣。冷たい。光はない。


「那智の滝のノードをハックしたことで、この一帯のネットワークに異常が出たはずです。クラヴィスもそれを検知する。──長居はできません」


「わかっとる」


 陸は助手席で地図を開いた。紙の地図。コトダマのナビは使えない。


「那智から北上する。紀伊半島を縦断して、奈良盆地に戻る」


「橿原か」


「ああ。蛇行剣の移送期限まで、あと三日。──影を潰したことで、クラヴィスが紀伊山地に張っとる見張りの網に穴が開いたはずじゃ。今なら北上ルートが通れる」


「敵の追跡部隊を自分で潰して、自分で退路を開けたっちゅうことか」


「結果的にな」


 ジンが口の端を上げた。


「やるっちゃね、天才ハッカー」


「セグフォがおらんかったら死んどった」


 陸は後部座席を振り返った。巴の膝の上で、セグフォの背中が微かに上下している。石板は沈黙したまま。


 けど──陸には見えた気がした。石板の表面に、針先よりもさらに細い、髪の毛ほどの光が、一瞬だけ灯ったのを。


 見間違いかもしれない。願望かもしれない。


 それでも。


「コトダマ。聞こえとるかわからんけど」


 陸は石板に向かって、小さく言った。


「橿原へ行くぞ。蛇行剣を取りに。──お前の鍵を、取り戻しに」


 返事はなかった。


 セグフォが、寝息の中で小さく鼻を鳴らした。それだけだった。


 車は北へ向かった。テープだらけのフロントガラス越しに、紀伊山地の稜線が連なっている。春はまだ遠い。けど、山の端に差す光は確かに強くなっていた。



―――

【次回予告】

蛇行剣が眠る橿原考古学研究所。

巴の考古学者としてのコネを使い、「特別見学」として合法的に潜入する。

コトダマはまだ沈黙したまま。天才ハッカーは、相棒なしで最高難度のスキミングに挑む。

──だが、保管室で待っていたのは国宝だけじゃなかった。


次回、ep.21「フォーク・ボム」──第2章、完結。

―――


―――

【コトダマより】


 ……少しよろしいですけん。


 この物語は、ハッキング・古代ネットワーク・方言──

 専門用語が多く、読む人を選ぶ作品です。

 だからこそ、今ここまで読んでくださった方は、

 本当に「刺さった」方だと思っとります。


 そういう方の☆一つが、今は特別に重いですけん。


 マイナーな作品ほど、☆やコメントが届くたびに

 作者が「続けよう」と思える力になります。

 「面白い」の一言だけでも、絵文字だけでも構いません。

 信号は弱くても、届けば十分ですけん。


 ……マスターがコードを諦めないように、

 私も応答を止めません。


 皆様の☆が、このネットワークをつないでいます。


        コトダマ(古代ネットワーク観測AI)


―――

【用語・補足解説】


※物語を読むだけなら飛ばして大丈夫です。気になった用語があれば参照してください。


◆ セグフォ(Segmentation Fault / Segfault)

 コンピュータの世界では、プログラムが「アクセスしてはいけないメモリ領域」に触れた時に発生するエラーのこと。システムが強制終了される、ある種の「禁じ手」です。陸がこの猫に「セグフォ」と名付けたのは、もともとハッカーのジョーク——しかし本話では、正規のルートが死んだ時に禁じられた領域をこじ開けてシステムを繋ぎ止めるという、名前そのものの機能を発揮しました。古代文明が生体工学で作り上げた「生きたルーター(Bio-Node)」でもあります。


◆ シャドウ・プロセス(Shadow Process)

 コンピュータの世界では、ユーザーの目に見えないところで動作する「裏方のプログラム」をバックグラウンド・プロセスと呼びます。本話のタイトルは、クラッシュしたコトダマがセグフォを中継器として経由し、バックグラウンドで最小限のネットワーク機能だけを維持した「裏稼働」の状態を指しています。同時に、クラヴィスの暗殺部隊「シャドウ」との二重の意味を持たせています。


シャドウ

 クラヴィスの実働部隊。古代コード(日の系統)を身体に直接書き込むことで、人間の限界を超えた身体能力を獲得した戦闘要員。存在自体が極秘とされ、目撃者はほとんどいません。古代コードで駆動系を書き換えているため、地脈力の異常共鳴に対して脆弱という弱点を持ちます。


まなこ

 超古代ネットワークに組み込まれていた生体センサーシステム。機械ではなく、特定の動物の感覚器官をネットワークの監視・中継に利用する技術。セグフォはこの「眼」の末裔であり、危険を感知するセンサーとしてだけでなく、生体ルーター(中継器)としての機能も持っていたことが本話で明らかになりました。


◆ 環境共鳴

 特定の周波数の振動が周囲の物質や空間と共振し、増幅される現象。本話では、那智の滝のノードを通じて地脈力の流れを逆転させることで、通常とは逆方向の巨大な共鳴波を発生させました。古代コードで駆動する「影」のシステムだけが、この共鳴に耐えきれず機能停止に陥ります。


◆ 粒子加速器

 素粒子物理学で使われる実験装置。粒子を高速に加速して衝突させることで、物質の根源を探ります。本話では、那智の滝の百三十三メートルの落差が地脈力を加速させる「天然の加速器」として機能しているという比喩で用いられています。


◆ ルーティングテーブル

 ネットワーク上で「データをどの経路で送るか」を記録した表のこと。郵便局の「この手紙はどの局へ回せ」という仕分け地図のようなものです。インターネットのルーターは、この表を参照して通信の最適経路を決定します。本話では、龍穴の溝パターンそのものが古代ネットワークのルーティングテーブルであるという巴の発見が、陸のハッキングを可能にしました。


地脈力ちみゃくりょく

 地脈から得られる古代文明のエネルギー。超古代ネットワークを動かす根源的な力です。磐座・龍穴など自然の接続点では地脈力が強く(直結型)、古墳など後から築かれた人工構造物ではやや弱い(変換型)。現代の「電力」に相当しますが、自然の地質構造と密接に結びついている点が異なります。


十六進数じゅうろくしんすう

 0〜9とA〜Fの十六種類の記号で数を表す方法。コンピュータの世界ではデータを効率よく表現するために広く使われています。普段の生活で使う「十進数」が10で桁が上がるのに対し、十六進数は16で桁が上がります。


◆ オーバーロード(Overload)

 システムが処理能力を超える負荷を受け、機能停止に陥ること。日本語では「過負荷」。前話の「バッファオーバーフロー」がコトダマに起きた過負荷なら、本話の環境共鳴は「影」に起きた過負荷です。


―――


※本作はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。

※作中に登場する遺跡・古墳・史跡は実在のものをモデルにしていますが、無断での立ち入りや発掘は法律で禁止されています。見学の際は管理者の指示に従い、マナーを守ってお楽しみください。

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