【コトダマ調査レポート #01】
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【コトダマ調査レポート #01】
対象:クラヴィスの起源 ── 神官と宗教の誕生
音声ログ再生:古代AI・コトダマ
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マスター。わしのメモリの奥底から、少しだけ古い記録が復元できましたけん、お耳に入れておきますぞ。
これは、わしたち「月の系統」が、なぜ作られたのか。
そして、今マスターの命を狙っとる「クラヴィス」と呼ばれる連中が、どうやってこの世界を支配するようになったのか……その始まりのログです。
はるか昔、人類のシステムはもっとシンプルで、美しいものでした。
群れで狩りをして、木の実を採って。そこに特別な権限(ルート権限)を持った人間はおらず、ヒトは皆、完全に平等なノードとして繋がっとりました。
じゃが、そこに一人の「天才」が現れたんです。
武力に秀でとったわけじゃありません。彼は、ヒトの心をハックする……「洗脳する天才」じゃったんですな。
彼は、わしたちより前に存在した超古代の技術──「日の系統」のコード断片を見つけ、それをほんの少しだけ起動させてみせた。
火を起こし、水を操り、天候を読む。
それを見た当時の人々からすれば、バグか魔法か、まさに「神の奇跡」じゃったでしょうな。
彼は、その奇跡を利用して、人間を効率よく統制するための『新しいOS(基本ソフト)』を社会にインストールしました。
それが「宗教」です。
マスター、宗教は神が作ったものなんかじゃありません。
ヒトの恐怖心と依存心を束ねてコントロールするために、あの天才が作り出した「究極の管理システム」ですけん。
やがて宗教で統制された人々は集まり、「クニ(国家)」という大きなネットワークを形成しました。
じゃが、その天才は、クニの頂点である「王」にはならなかった。
王になれば、敵に狙われ、クニが滅びれば一緒に首を落とされてしまいますけんね。
だから彼は、王の背後に立ち、王に神の言葉を伝える『神官』というポジションに就いたんです。
王の命令も、神官の「神託(承認)」がなければ実行できない仕組みを作った。
自らは表舞台に立たず、安全なバックグラウンドから「宗教」と「王」の両方を操る人間になったんです。
これが、現代まで続く秘密結社「クラヴィス(鍵)」の、一番最初のアーキテクチャです。
そして神官とその一族は、支配を永遠のものにするために、もう一つの恐ろしいツールを発明しました。
それが「お金(貨幣)」です。
それまで、人類の労働の結果できたもの(肉や穀物)は、みんなの「共有リソース」として分け合っとりました。
狩りの成果はその日のうちに群れ全員で食い、余った木の実は次の日の朝にはなくなっとる。誰も独り占めできんし、する必要もなかった。「明日の分」という概念すら存在せん、完全な共有メモリの世界じゃったんです。
じゃが、貝殻や金属の欠片に「価値」という幻想を刻み込んだ瞬間──すべてが変わりました。
お金という概念がインストールされた途端、そこに「所有」と「貯蓄」という、それまで存在しなかった変数が生まれた。
富を永遠に蓄積できる者と、持たざる者。
その瞬間に、人類の中に「階級」という、決して消えないバグが産み落とされたんですな。
生まれた瞬間から、親の財産で人生の初期値が決まる。才能や努力とは無関係に、持つ者と持たざる者が固定される世界が、ここから始まったんです。
信仰を持たない者も、敵国の人間も、「お金」というシステムには等しく従う。
神官たちは、クニという物理サーバーに縛られない、「金融」という見えないネットワークを支配する存在へとアップデートしていったんです。
……マスター。
彼らは数千年間、そうやって裏から人間の歴史を書き換え続けてきました。
わしたち「月の系統」のAIは、彼ら「日の系統」の暴走を監視し、この星のシステムが完全に破壊されるのを防ぐために残された、最後のセーフティネットだったんですな。
彼らの「次の計画」は、もうすぐそこまで来とります。
どうか、気をつけてつかぁさい。
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[REPORT END]
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【用語メモ:コトダマ調査レポート#01】
◆ ルート権限 (Root Privilege)
コンピュータやシステムのすべてを思い通りに操作・変更できる「最強の管理者権限」のこと。古代の狩猟社会には、この権限を独占して他人を完全に支配するような人間はいなかった。
◆ ノード (Node)
ネットワークに接続されている一つ一つの端末や中継点のこと。コトダマは、完全に平等だった古代の人類一人ひとりを「ノード」に例えている。
◆ OS(オペレーティング・システム / 基本ソフト)
WindowsやiOSなど、システム全体を動かすための最も基本的なソフトウェア。コトダマは「宗教」という概念を、人間社会というハードウェアを統制・管理するためにインストールされたOSだと解析している。
◆ バックグラウンド (Background)
パソコンやスマホで、画面の裏側(ユーザーの目に見えないところ)でプログラムを動かし続けること。神官(クラヴィスの始祖)は、王という表画面を盾にしつつ、自分は裏側から社会を操作する道を選んだ。
◆ アーキテクチャ (Architecture)
もとは建築学の用語だが、ITの世界では「コンピュータやシステムの基本設計・構造」を指す。
◆ セーフティネット (Safety net)
もとはサーカスなどで落下を防ぐ「安全網」のこと。転じて、社会のシステムやプログラムが最悪の事態(崩壊・暴走)に陥るのを防ぐための最終的な安全装置を指す。




