第4話
白雲の君は黙っている。
はい。幼きころからの友である暁の君とともに歩みます。
と言わなかった。
白雲の君は死を覚悟している。
僕はここで死ぬのだと思った。
そう思うと、なんだか子供のころに暁の君と出会い、ここで自分が暁の君の手によって死ぬことがもうずっと前から(輝くような思い出である、暁の君と出会ったあのときから)決まっていたことのように思えた。
ずっと憧れていた暁の君の手によって死を与えられる。
それはなかなか悪い死にかたではないような気持ちになった。
どこかで鳥の鳴く声が聞こえた。
暁の君はじっと白雲の君を見ている。桃の花びらが赤い盃の中に落ちる。優しい風が桃園の中に吹いている。少しの時間が流れる。暁の君は、ふっと表情を柔らかくして笑うと、「白雲の君。きみは龍を見たことがあるか?」と、甘い清酒を飲み干してから、にやっと笑って暁の君は言った。
「……、ありません。龍は幻想の生き物であり、この世界には本当には生きてはいませんから」
白雲の君は言った。
「本当にそうかな?」
と楽しそうな顔をしながら暁の君は言う。
「はい。龍は人の心の中に生きています。人の語り継ぐ物語の中に生きているのです」
白雲の君はそう言ってから、まるで空を飛んでいる龍を探すようにして、空を見上げた。
青色の空の中には、白い雲が浮かんでいる。大きな雲だった。その雲の形がどことなく龍に見える。大きな龍に。
「君は龍だよ。白雲の君」
暁の君は言った。
白雲の君は空を見ることをやめて、暁の君を見る。
「私はもう少ししたら、東方に遠征に出る。もう天子さまにはこの願いを伝えて、お許しをもらっている。東方の地を征服して、天子さまに献上する。その手柄を持って、都の中心に座る。東方の地も褒美として私が貰い受けることになるだろう」
自分の軍を手に入れる。と言うことなのだろう。
もしかしたら、暁の君はそのまま東方の地を拠点として、都を武力を持って手に入れるつもりなのかもしれない。
「白雲の君。君はどうする?」
暁の君は言う。
「暁の君。あなたが乱を起こす前に、『友として僕があなたの首を切ります』」
白雲の君はじっと強い目をして、暁の君を見ながらはっきりと言った。
「なるほど。楽しみだ」
と本当に楽しそうな顔をして笑って、暁の君は言った。




