第3話
「私は乱を起こそうと思う」
暁の君はいつもと同じ美しい顔でそんなようやく閉じた地獄の蓋をもう一度開けるような、恐ろしいことを(まるでなんでもないことのようにして)言った。
その言葉を聞いて、ぴたっと白雲の君の清酒を飲む手が止まった。白雲の君はやっぱりそうなのかと思った。
暁の君。君は修羅の道を歩くつもりなのかと思った。
白雲の君の赤い盃を持つ手はかすかに震えている。
暁の君は、その暁という名前の通りに夜と朝の間で輝く光のような美貌を持っていた。
才があり、学問もできたし、礼儀をよく知り、名門の家に生まれて洗礼された礼節を学び、遊びや、武門にも精通していた。白雲の君は学問堂では一番を取り、(学問だけが白雲の君の取り柄だった)暁の君よりも高い評価を得たが、それ以外のことではまったく暁の君にはかなわなかった。
暁の君の一番の魅力はその生まれ持った美貌と花だった。
暁の君は誰よりも美しい美貌を持っていた。
そして人を惹きつける花があった。
……、そして、おそらくは(人の心の中を覗き込めるわけではないのだから、本当のところはわからないけど)とても大きな野心も持っていたのだと思う。
その生まれ持った才と(あるいは運命と)似合うだけの、大きな、大きな(きっとこの国と同じくらいの大きさの)……、押さえきれない激しい激情のような野心を。
「ようやく、一つの大きな大乱がおさまったばかりですよ」
白雲の君は言った。
「私が乱を起こさなくても、乱はいずれ必ず起こるさ。鳳凰帝が亡くなるときにな。乱が起こるのが早いから遅いかな違いでしかないよ」
優雅にくつろぎながら暁の君は言った。
月鏡の君を見ると、月鏡の君は動じることなく、暁の君と同じように優雅に桃の花を見ながら美味しい酒を楽しんでいる。
どうやら月鏡の君は暁の君と同じ道を歩くつもりのようだった。
「白雲の君。君に私の乱に加わってもらいたい。この国で一番の天才と言われる君の知恵と知識が必要なんだ。一緒に新しい世を始めよう」
と暁の君はじっと白雲の君の瞳を見ながらそう言った。
断れば、きっと今、ここで僕は死ぬのだろうと真面目な顔をしながら、白雲の君は思った。




