第2話
「海の向こうにある広大な大陸のどこかには、不老不死の薬があるらしい。そんな話を大陸からやってきた仙人のような老師から聞いたよ」
清酒を飲みながら暁の君は言った。
「不老不死の薬はありません。それは幻であり、おとぎ話です。人はどんな人でも必ず死を迎えます。この国でも、大陸でも同じです」
白雲の君は言った。
「そうだな。君の言う通りだ。人はいずれ必ず死ぬ。どこに生まれても。どこで生きていても。たとえばそれが殿上人である『皇帝や天子であっとしても、民と同じように、死ぬ』。お隠れになるわけではなく、ちゃんと死ぬ。死から逃れられる人はいない。人の一生とは、死が訪れるのが早いか遅いかの違いでしかない。そういう意味では、人は平等であると言えるな」
にっこりと笑って暁の君は言った。
白雲の君は皇帝や天子と暁の君が言ったときにぴくっと(動揺しないつもりだったのに)動きを止めて、動揺してしまった。(暁の君はそんな白雲の君のことをとっても面白そうに笑いをこらえて見ていた)
暁の君が鳳凰帝のことを言っているだと、わかったからだ。
若くして天子さまとなった聡明でお優しい鳳凰帝。
鳳凰帝は天子さまとして稀に見るくらいに理想的なお方だったが、とても体が弱くて病弱であった。
(神様はなにもかもを与えてくれるわけではないようだった)
「青龍帝は武を持って混沌たしている世を統治しました。恐怖と力によって、民を土地に縛り付け、身分と格差によって、支配をしました。そしてその恐ろしい政治はついに民の反乱を呼び、鳳凰帝を担ぎ上げた名族や貴族たちによって大乱の果てに青龍帝は討ち取られ、古い青龍暦の世は終わり、新しい鳳凰暦の世が始まりました」
月鏡の君が白雲の君を見ながら言った。
今は鳳凰暦元年。
まさに真っ暗な夜が明けて、太陽の光の中で、新しい世が始まったばかりのときだった。




