第1話 生きることは夢なんです。きっと一瞬の夢。
地獄譚
生きることは夢なんです。きっと一瞬の夢。
桃園亭にて
白雲の君が美しい桃の花の咲き乱れる幻想的な淡い桃色の色合いの風景の中を歩いて、桃園の中に建てられている都の名所、桃園亭にやってくると、そこにはよく知っている二人の人物がいた。
暁の君と月鏡の君。
どちらも白雲の君の幼いころからの友人であり、名門の家に生まれたものとして、都での出世を争う宿敵でもあった二人だった。
暁の君と月鏡の君は戦でぼろぼろになってしまったあの美しかったころの真っ白な桃園亭とは違う、刀や槍や弓矢のあとで傷だらけの桃園亭にやってきた白雲の君を見て、にっこりと笑うと「よう」「お久しぶりです」と白雲の君に言った。
「ご無沙汰しています」
白雲の君は二人に挨拶をしてから、空いている席に座った。
「まあ、飲もう」
暁の君がそう言って、白雲の君のために用意されていた赤い盃に赤い酒器で清酒を注いでくれた。
「いただきます」
白雲の君は清酒を飲んだ。
甘くて極上の味のする、めったに飲むことができないような、とても美味しいお酒だった。
思わず、白雲の君は驚いて目を大きくした。
そんな白雲の君を見て、くすくすと暁の君と月鏡の君は楽しそうな顔で笑っていた。
驚かされた白雲の君も笑った。
なんだかとても懐かしい感じがした。まるで学問堂で机を並べて学問を学んでいた、あのころに戻ったみたいな気持ちになった。
地獄譚
消えていく。
幻のような面影を求めて、私は濃い霧の立ち込める夜の森の中を彷徨っている。
そこで私はある人に出会う。
ずっと探していた人に。
ずっと推したいしていたあの人に。
もうずいぶんと前に死んでしまったあの人に出会うのだ。
あの人は私に言う。
どうしたんだ? 久しぶりだな。どうやら君も死んでしまったようだな。私が死んでから都はどうなった? みんなはどうしている? 幸せに暮らしているのか? それとも苦労をしているのか?
いや、それよりも戦はどうなった?
勝ったのか?
それとも負けたのか?
君はわたしと同じように戦で命を落としたのか?
首を切られたのか?
ほら。
こんな風に。
そう言って、あの人は半分くらいに深くざっくりと骨が見えるほどに肉を切られている自分の首を私によく見せるようにした。
そして私が驚いていると、にやっと楽しそうな顔で笑って、地獄にようこそ。どうやらここも戦ばかりをしているらしい。また、よろしくやろう。
と地獄にやってきたばかりの私に言ったのだった。
そんな詩を月鏡の君は歌った。
都ではようやく先の天子さまの起こした大乱がおさまったばかりだった。
あの人、とは先の天子さまのことだろうと白雲の君は思った。