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霊能者との対話と後悔

リリィの件が片付き、俺はひさしぶりの休暇を楽しんでいた。

ちょうど祭りだ。

俺は酒を少し飲み、ぶらぶらと広場を歩いていた。


ふと屋台の端に陣取る怪しげな老婆と目があった。


なぜか引き寄せられるように、俺は老婆の前にたった。


「あんた。こっちの世界の人じゃないね」

老婆は俺を見るなり、そういった。


こいつただものではないな。

まるで蛇に睨まれたカエルのように、俺はその場に立ち尽くした。


こいつ一瞬にして、俺を制圧しやがった。


老婆は、ふっとため息をつき、視線を下に落とす。


「ふぅ。厄介な奴と関わってしまったようだ」

老婆はそう言った。


「厄介……。

そりゃどういう意味だよ」


「お前わかっていないのかい?」


「なんだよ。わかるわけねぇじゃないか」


老婆の顔が少し緩んだ。


「お前、こっちに来る時、なにか持ってこなかったか?」


俺はお守りのことを思い出した。


「あぁこれのことだな」


俺がお守りを取り出そうとすると、


「いい。しまっておけ。それはこの世界に取っては異物じゃ」

と老婆に拒否されてしまった。


「異物……」

俺にはまったく意味がわからなかった。

転生した時、神様が厄介と言っていた事とリンクして、若干不安な気持ちにもなった。


「それで、娘のことが知りたいんだな。ましろというのか」

唐突な老婆の言葉に俺はうろたえた。


「わかるのか?」


「あぁわかる。だが、聞けばお前運命は変わるぞ」


「教えてくれ」


「じゃあ。金をよこせ」


「いくらだ」


「今回のお前の稼ぎの半分じゃ。1000G。あるじゃろ」


「なんで、そこまで知っている」


「知っているのではない。視えるだけじゃ」


「視えるって霊能力者みたいなものか?」


「そうだよ。たいして珍しくもないだろ。どこの街でも1人くらいいるだろ」


「……」

俺は何も答えなかった。知らなかったからだ。


「ここでお金を受け渡しをするのも問題だ。ここに住所を書いておいたから、視てもらいたくなったら来い」


「おぅ」

そういって俺は老婆と別れた。


俺は3日考えて、老婆の元に行った。1000Gを持って。

ちなみにこの国の1000Gは、日本の貨幣価値に換算して1000万円くらいだ。

どう考えても髙い。


老婆は俺が家にくるなり、

その袋を渡せと言ってきた。


俺は素直に渡した。


老婆はお金の入った袋を祭壇にのせた。


老婆はテーブルに俺を案内する。


なにかいい香りのするお香を焚き、

なにか呪文のようなものを唱えだす。


「……時の神……を、さまたげに、乗り移り、いかめしい狼煙をあげる。

なんじの名は……。草原に降り立つ。3つの息吹を……。

……の名において、盟約をはたせ」


しばらく経つと、水晶がひかりだした。

そこには、ましろの姿が映っている。

病院のベッドに横たわる俺を見守るましろ。

顔に酸素吸入用のマスクと、

腕には点滴のようなものがつけられていた。


俺まだ生きているのか?


あっましろが事務所の所長と話をしている。


「君のことは推したい。でも、わかるよね、現実ってやつ」


「君、賢い子だろ?」


「他の子はみんなやっているよ」


社長は、指で名刺を叩いている。

あれはA社広報部部長のものだ。


そういえば、ましろと食事をさせろなど、やたらしつこかったな。

何度か食事をしたが、もしかして、それ以上の関係を……。



「あんた。鈍感だね。ようやく気が付いたのかい。

ずいぶん彼女はお前にそれとなく伝えていたと思うけど」

と老婆は、哀れむような目で俺をみた。


「伝えていた?」


俺は思い出していた。


ましろは男を知らなかった。


なんどか誘われた事がある。


当時は試されているのかとか、からかわれているのかと思ったが、違ったのかもしれない。


初めてを買われるように奪われるより、少しは信頼できる男に託したかったのだろう。


なのに俺は「自分を大切にしろ」そう言ってしまった。


彼女なりの大切にした結果が、あの行動だったのかもしれない。


「誘われたのは、そういう事だったのか?」

俺は老婆に聞いた。


老婆はうなづく。


「なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんで気づけなかった。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ。なんだ」


俺は気が狂いそうになった。

俺がスカウトしたピュアな少女が、

俺の知らない所で汚されそうになっている。

俺がスカウトさえしなければ……。


俺は老婆に頭を下げた。


「頼む。元の世界に戻してくれ」

俺は老婆に土下座をした。


老婆は土下座をする俺の頭に、黒い異臭のする液体をかけた。


我慢だ。

どうにか戻りたい。


老婆は、それでも土下座を続ける俺の頭を踏みつける。

靴からは土のニオイに混じって、馬糞の臭いがした。

3分くらい、頭を踏みつけられた。


老婆は俺の手を取った。


「これでお前のこの世界への執着は消えた。

すまなかったな。

お前はこちらの世界で栄光を手に入れた。

その栄光は、お前をこちらの世界に縛りつける。

しかし私が侮辱と屈辱を与えたことで、

お前はこちらの世界への執着を断ち切れた。

あとはしばらくすると戻れる。

突然な。ただ……また痛いぞ」


老婆は俺にタオルを渡し、井戸で顔と頭を洗って帰るようにいった。


ふと祭壇を見ると、たっぷりお金が入った袋が空になっていた。


「あの金はどこに隠した」

と俺は言った。


「あの金は神への貢ぎ物じゃ」


「あんたの分はないのか?」


「あるよ」

老婆は袋から2Gを取り出した。


「今日は2Gだね」


「998Gは神様の取り分で、2Gがあんたの分か」


「あぁそうだよ」


俺は強欲な老婆だと思った自分を恥じた。


そのことを知ると、

変な液体をかけられ、頭を馬糞のついた靴で踏まれたが、

不思議と悪い気はしなかった。


俺は財布から30Gを取り出し、

「これは礼だ」

と老婆に渡した。


「どうせ。元の世界に戻るからな。これで美味いものでも食ってくれ」

そういうと、老婆は少女のような笑みをした。


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