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異世界歌姫の教育事情

俺はリリィを売り出す為の計画を考えた。


それには、まず敵を知り、己を知ることから始めることが重要だった。

俺はリリィの使用人を使い、状況を調査した。

ライバルは総勢100人。

そのうち、優勝候補と目されているのが10人。

記念に出るだけと思われるのが30人。

リリィの想定順位は現在78位。


リリィの家柄は中級……。

これは特に悪くはない

優勝候補はそれぞれ

・上級貴族5人

・中級貴族2人

・下級貴族3人

という具合だ。

下級貴族から3人、

優勝候補が出ているという事から、中級貴族だからムリということはない。


そして

優勝候補の容姿も調べてみた。

・美女5人

・可愛い系3人

・地味系2人

という具合だった。

リリィは地味系だった。

キャラクター的に美女や可愛い系にするのは、ムリがある。

地味系だから、ムリということはない。


最後に歌唱力を調べてみた。

・超上手い1人

・上手い5人

・普通3人

・下手1人

だった。

歌唱力をどうにか上げることが重要になってくるだろう。


ただ歌唱力を上げるには、少し課題もあった。

まず歌唱指導できる先生が慢性的に不足している。

そして先生が複数の候補者を掛け持ちで教えているため、指導が平準化してしまい。

差別化が難しいということだった。


つまり……。

現状歌唱力を上げるのは、現実的ではあるが、限界があるということだった。


俺は指定曲10曲を調べてみた。

この国の楽曲は吟遊詩人が作ったものが多かった。

英雄譚が3曲

王を称えるものが2曲

農民の喜びと悲しみをうたったものが1曲

祭りの喜びをうたったものが1曲

恋の歌が3曲

だった。


俺はふと一つの仮説にたどり着いた。

仮に農民であれば、王を称えるものを上手く歌える歌姫よりも、

農民の喜びと悲しみをうたったものを上手く歌える歌姫のほうが、

票を入れたくなるのではと。


そこで、使用人を使い、調査をしてみた。


すると

英雄譚 冒険者や兵士

王を称えるもの 王侯貴族

農民の喜びと悲しみをうたったもの 農民

祭りの喜びをうたったもの 商工業従事者

恋の歌 女性 


という具合に、偏りがあることがわかった。


それで俺は決意した。

10曲それぞれを平均的に上手くするよりも、

優先的に上手くする楽曲を決めようと。


優先順位は

①農民の喜びと悲しみをうたったもの

②祭りの喜びをうたったもの

③恋の歌


とした。

これが上手くいけば、かなり上の順位に食い込める。

そう思った。


そういえば、ましろとカバーについて話し合ったことがあったよな。

そんな事を思い出していた。


……


当時ましろは、事務所でボイストレーニングを受けていた。

歌は確実に上手くなっているが、ましろ専用の歌の数が少なかった。

作曲家先生に依頼するにも、コストがかかるからだ。

ましてや、歌が少し上手いだけでアイドル性のあまり髙くない駆け出しアイドルに、

好き好んで楽曲提供してくれる先生もいなかった。


それで結局、名曲のカバーをするという所で落ち着いた。


その日は、ましろの家で打ち合わせをしていた。

あぁ誤解するな。

ましろの母も当然いる。変な関係じゃない。

事務所もあんまり使わせてもらえないんだ。


ましろの母に、そうめんをごちそうになり、

俺たちは打ち合わせを始めた。


「カバーとかどうやったら良い?」

ましろはそう聞いてきた。



「そうだなぁ。

カバーでもいろいろいるよな」

俺はそう答えた。


ましろは不思議そうな顔をしている。

まるでカバーはカバーで一つしかないだろって顔をしている。


「どういう意味?」



「例えば、原曲そのまま完コピを目指す奴、

原曲の節回しとか完全に無視して、自分の持ち歌のように歌う奴。

ただ上手く歌う奴」


俺がそういうと、ましろは動画配信サイトで歌ってみた動画をチェックし始める。


「あぁそうだね。柏木がいうとおりだよ。へぇ、こうやって比べると面白いね」

すこし状況がつかめたようだ。


「じゃあ。完コピの奴ってどう思われると思う?」


ましろは少し考えている。

「もしかして、歌ウマいねで終わる?」


「そうだな。歌ウマいねで終わることも多いかもな。100%じゃないだろうけどな」


ましろは考え込んでいる。

「完コピってのも、考えものだね」


「そうだな。じゃあ自分の持ち歌のように歌う奴は?」


ましろはじっと黙って考えている。


「母さん。最中のチーズのせ作って」

と母親に変な注文をしだした。


「なんだ。その最中のチーズのせって?」

そう聞くと


「母さん。柏木の分も」

と注文してくれた。


俺は台所に行き、様子を見る。

最中をクッキングシートの上にのせ、とけるタイプのスライスチーズを上にのせる。

そしてレンジにかける。

時間は2~30秒くらいでいいらしい。

スライスチーズが多少溶けて、最中にコーティングされたら出来上がり。

見た目はマカロンのようだ。


俺は恐る恐る食べる。

「うまっ」


思わず声をあげた。


「でしょ。これ母さんの発明なんだ。チーズのしょっぱさとアンコの甘さで、なんかちょっとあんバタートーストっぽい風味もありつつ、最中のパサパサ感がなくなって、美味しいでしょ」


「これめちゃくちゃ美味い」

俺は一瞬にして完食した。


「さっきのさぁ。自分の持ち歌のように歌う奴は評価がわかれるんじゃないかな。

まぁ原曲ファンからは嫌われる事も多いかも」

とましろは言った。

少し自信がなさげた。


「そうだな。俺もそう思う。じゃあ上手く歌う奴は?」


「まぁ聴かれる、じゃないかな……」

ましろは黙って考えている。


「カバーって結構難しいね」


「そうだよな。原曲ファンが多ければ多いほど、難しいところはあるな」


ましろは、頭をかきだした。

そろそろヒントがいるな。


「たまにさ……。

別に特に上手いって訳じゃないんだけど、どうも魂に刺さる歌い方をする奴がいる。

どういうのかな……

歌を聴いていると、

情景が浮かんでくるみたいな、

そういう歌い手がいるんだよ。

そういうのが俺はいいなと思う」


「ハードル高そうだね」

ましろは力なく言った。


「ハードルが高いって言うより、アプローチを変えなきゃいけねぇんだろうなぁ」


「アプローチ?」

ましろは身をのりだした。なぜか母親のほうも興味しんしんの様子だ。


「あぁ、例えばレゲエってのは陽気なリズムだからハッピーな曲ってイメージがあったりするじゃまいか…」


「ジャマイカ?」


「あぁごめん。まちがった。

じゃねいかな。

ハッピーなイメージがあったりするけど、実際は貧困問題があったりするんだよ。

レゲエの神様ボブ・マーリーもスラム出身だそうだからな。

それを聞いたら、ただハッピーに歌うのがリアルか?」


「うん……そうだね。ハッピー感の後ろに、少し影を入れたり、哀愁を入れたりする方がいいかもしれない」


「だろ。

そう考えてうまく表現すると、彼女はボブ・マーリーの背景まで表現しようとしている。そう評価されるかもしれない」


「それはあるかもしれないね」

ましろの目に力が戻ってくるのがわかった。


「コピーはできる。

でも魂とか、熱量ってのはコピーは難しい。

定量化できないしな。

差ができるとしたら、そこは大きいな。

今は歌が上手い素人なんて山ほどいるからな」


「そうだね。

関係ないけどさ……。

さっきのジャマイカってワザとだよね……。

ちょい面白かった。

今度使って良い?ライブで」

ましろは笑顔で言った。


「好きにしな」

面白かったと言う言葉に俺はまんざらでもなかった。


「サンキュ」


俺たちのなかで少し方向性が決まった。



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